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ステンレスの発注で指定すること——鋼種・仕上げ・証明書の確かめ方

この記事のポイント(結論先出し)
ステンレスの発注は、鋼種記号だけでは決まらない。形状で引く JIS が変わり(棒・熱延板・冷延板)、表面仕上げ、検査文書の種類まで書いて初めて相手が同じものを用意できる。鋼種は用途で選び分ける。溶接で加熱される部分が腐食環境に置かれるなら炭素を下げた L 材、塩化物の環境ならモリブデンを含む 316 系が候補になる[1]。受入では、証明書の鋼種記号だけでなく、L 材なら炭素、316 系ならモリブデンの値を見る。316L に対応する欧州の鋼種は 1 つではなく、モリブデンとニッケルの範囲が違う[3][4]。
目次
「SUS304」と書いただけでは、発注は決まらない
図面の材質欄に「SUS304」と書いてあれば、仕入先はステンレスの 304 を用意する。ただ、それだけでは何の形の、どの仕上げの、どの証明を付けた材料を用意すればよいかが決まらない。
鋼材の一般受渡し条件を定める JIS G 0404 の改正原案は、注文書に示す情報として、数量、製品形状、寸法とその許容差、鋼の種類の記号、注文者が指定する製造方法(熱処理・表面処理など)、表面品質や内質の特別な要求、製品規格に規定がない場合の検査文書の種類と検査・試験の要求、表示・包装などを挙げている[5]。鋼種記号はその一項目にすぎない。
形状によって引く規格も違う。日本産業標準調査会の JIS の一覧では、ステンレスの棒は JIS G 4303、熱間圧延の板と帯は JIS G 4304、冷間圧延の板と帯は JIS G 4305、線材と線はそれぞれ JIS G 4308・G 4309 になっている[8]。同じ SUS304 でも、どの規格で注文したかによって、寸法許容差や仕上げの定めが変わる。発注書には鋼種記号と並べて規格番号を書く。
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鋼種は、用途の腐食と加工で選び分ける
304・304L・316・316L の違いは、主に炭素の上限とモリブデンの有無にある。どれを選ぶかは、部品がどんな環境に置かれ、どんな加工を受けるかで決まる。
溶接で加熱される部分があるなら、炭素を見る
ステンレス協会の解説によると、粒界腐食は結晶の境目に沿って進む局部的な腐食で、溶接の熱影響部や熱処理・高温での使用で、おおよそ 550〜900℃に加熱された部分でクロムと炭素が結び付くこと(鋭敏化)によって起きる[1]。対策として、クロムの炭化物ができない熱の履歴にするか、できない場合は固溶化熱処理を行うこと、材料の面からは炭素量を下げた低炭素鋼(SUS304L など)や、炭素と結び付きやすいチタン・ニオブを加えた安定化ステンレス鋼を採用することが有効とされている[1]。
溶接したあと腐食環境に置かれる部品で、溶接後に固溶化熱処理をしないなら、L 材を指定する理由がある。逆に、溶接しない部品や腐食の心配が小さい用途まで一律に L 材にする必要はない。溶接の指定そのものは溶接を含む部品の発注で指定することで扱う。
塩化物の環境なら、モリブデンを見る
同じ解説は、孔食とすき間腐食は塩素イオンなどハロゲンのイオンを含む環境で、不動態皮膜が局部的に壊れることで進むとし、対策の一つにクロムやモリブデンを多く含む材料の選定を挙げている。耐孔食性の指標としては、孔食指数 PI = Cr(%)+ 3.3 Mo(%)の式がよく使われる[1]。モリブデンを含む 316 系が海水や塩分のある環境で候補になるのはこのためである。
次の表は、ISO 15510 の表 1(溶鋼分析に適用する値)から、ステンレス協会の対照表で各 JIS 鋼種に対応づけられている ISO の鋼種の成分を抜き出したものである[3][4]。JIS の規格値そのものではないので、JIS で発注する場合は JIS の製品規格で確かめる。
| JIS 鋼種 | 対応する ISO の鋼種(欧州番号) | C 上限 | Cr | Ni | Mo |
|---|---|---|---|---|---|
| SUS304 | X5CrNi18-10(1.4301) | 0.07 | 17.5〜19.5 | 8.0〜10.5 | 規定なし |
| SUS304L ① | X2CrNi18-9(1.4307) | 0.030 | 17.5〜19.5 | 8.0〜10.5 | 規定なし |
| SUS304L ② | X2CrNi19-11(1.4306) | 0.030 | 18.0〜20.0 | 10.0〜12.0 | 規定なし |
| SUS316 | X5CrNiMo17-12-2(1.4401) | 0.08 | 16.0〜18.0 | 10.0〜13.0 | 2.00〜3.00 |
| SUS316L ① | X2CrNiMo17-12-2(1.4404) | 0.030 | 16.5〜18.5 | 10.0〜13.0 | 2.00〜3.00 |
| SUS316L ② | X2CrNiMo17-12-3(1.4432) | 0.030 | 16.5〜18.5 | 10.5〜13.0 | 2.50〜3.00 |
| SUS316L ③ | X2CrNiMo18-14-3(1.4435) | 0.030 | 17.0〜19.0 | 12.5〜15.0 | 2.50〜3.00 |
単位はいずれも質量%。304 と 304L ①(1.4307)を見比べると、違うのは炭素の上限だけである。316 と 316L ① では、炭素の上限が下がるのに加えて、クロムの範囲が 0.5% 高い側にずれている[3]。304L と 316L の行が複数あるのは、ステンレス協会の対照表で一つの JIS 鋼種に複数の欧州の鋼種が対応づけられているからである(SUS304L にはもう一つ 1.4650 も対応づけられているが、この表には入れていない)[4]。
「316L」は一つではない
304L の 2 行を比べると、1.4306 はクロムもニッケルも 1.4307 より高い範囲にある。316L の 3 行は、モリブデンの下限が 2.00% と 2.50% に分かれ、ニッケルの範囲も 10.0〜13.0% から 12.5〜15.0% まで開きがある[3]。欧州の仕入先から「316L」で材料が届いた場合、それがどの欧州番号の鋼種なのかで、成分の範囲が違う。孔食指数の式でモリブデンに 3.3 の係数が掛かることを考えると、モリブデンの下限 0.5% の差は小さくない[1]。
ステンレス協会は、対照表は規格間の読み替えや同等性を保証するものではなく、鋼種名が同じでも化学組成や機械的性質、試験方法などが異なる場合があると明記している[4]。ISO 15510 も、似た鋼種を比べるときは置き換える前に元素を一つずつ確かめる必要があるとしている[3]。海外の規格の材料で受ける場合の承認の進め方は、同等材の指定と承認にまとめた。
モリブデンの下限まで要求したい用途なら、鋼種記号に加えて「Mo 2.50% 以上」のように成分の条件を発注書に書く。これは規格の要求ではなく、発注側が上乗せする指定である。
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表面仕上げは、名前と用途で指定する
ステンレスは表面をそのまま使うことが多いので、仕上げの指定が外観と費用に効く。ステンレス協会は主な表面仕上げを次のように整理している[2]。
| 名称 | 状態 | 仕上げの方法 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| No.1 | 銀白色で光沢がない | 熱間圧延後、焼鈍・酸洗 | 表面光沢を必要としない用途 |
| No.2B | 2D よりなめらかで、やや光沢がある | 2D 材に軽い冷間圧延(スキンパス) | 一般用材・建材(市販品の大部分) |
| BA | 一般に光沢がある | 冷間圧延後、光輝焼鈍(無酸化焼鈍) | 自動車部品・家電・厨房用品・装飾 |
| No.4 | 光沢のある細かい目 | P150〜P180 番のベルトで研磨 | 建材・厨房用品・車両・医療器具・食品設備 |
| HL(ヘアライン) | 長く連続した研磨目 | 通常 P150〜P240 番の砥粒研磨ベルト | 建材 |
| No.8(鏡面) | 鏡に近い、研磨目なし | 最終研磨は鏡面用バフ | 建材・装飾・反射鏡 |
研磨で付ける仕上げは、ベルトの番手に幅がある。HL は P150 から P240 まで含むので[2]、「HL」とだけ書くと、研磨目の細かさが仕入先の標準に任されることになる。同協会のページは、会員各社の表面仕上げの紹介にもつながっている[2]。外観が製品の品質に入る部品では、名称に加えて限度見本を取り交わすのが確実である。合否基準の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱う。
研磨目のある仕上げを部品に使う場合は、研磨目の向きを図面に書く。向きの指定がないと、板から部品を取る向きが仕入先の都合で決まる。これも規格の要求ではなく、発注側の指定として書く項目である。
受入で証明書の何を見るか
JIS G 0404 の改正原案は、製品規格に規定がない場合、引合いと注文には要求する検査文書の種類(検査証明書 3.1 など)を含めなければならないとしている[5]。検査文書の種類ごとの違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。商社経由の取引で 3.1 の証明書を出す体制が仕入先にあるかどうかは、ミルシート Type 3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くで扱った。ここでは、ステンレスの受入で特に見る値を挙げる。
1. 鋼種記号と規格番号
注文した規格(たとえば JIS G 4305 の SUS316L)と一致しているか。外国規格の記号が書かれていれば、承認した組み合わせか。
2. L 材なら炭素の値
L 材を指定した理由は炭素の上限にあるので、炭素の分析値が上限以下であることを数字で確かめる。
3. 316 系ならモリブデンの値
モリブデンの値が書かれているか、上乗せで指定した下限を満たしているか。
4. 分析の種類
同じ原案は、化学成分の要求は明確に製品分析と規定しない限り溶鋼分析によるとしている[5]。検査証明書 3.1 であっても、証明書の値は通常その溶鋼(ヒート)で溶鋼分析をした値で、届いた個々の材料を製品分析した値ではない。
5. 板厚・寸法と単位
米国の規格の材料では単位系も確かめる。ASTM のステンレス鋼板の一般要求事項は、注文で「M」付きの SI 単位の規格を指定しない限りインチ・ポンド単位で供給されるとしている[7]。
届いた材料そのものの成分を確かめたいときは、製品分析を注文時に要求する。製品分析は注文者の要求がある場合に行い、規格値に対する許容変動値は各規格の規定による、規定が無ければ JIS G 0321 の表番号を協定で指定する、というのが JIS G 0404 の改正原案の定めである[5]。JIS G 0321 の改正原案は、スパーク放電発光分光分析と蛍光 X 線分析を「機器分析」と呼び、製品分析の方法の一つとして扱っている[6]。受入で分析をするなら、どの方法で、どの許容変動値で判定するかを先に決めておく。
海外の規格で注文する場合
ASTM で注文する場合、ステンレス鋼板の一般要求事項(ASTM A480/A480M)は、注文書の要求が製品規格より厳しい場合は注文書が優先する一方、試験の要求を省いたり緩めたりする形で規格に反する場合は優先しないとしている[7]。足りない条件は、モリブデンの下限のように上乗せする形で書く。
溶接や熱処理を仕入先の側で行う場合は、材料の指定とは別に、その工程の条件と記録を指定する。熱処理の指定は熱処理を図面でどう指定するかで扱う。
よくある質問
304 を 304L に置き換えてよいかと聞かれました
どの鋼種で届くかで答えが変わる。ISO 15510 の 1.4307 なら、1.4301 から炭素の上限が下がるだけで、クロムとニッケルの範囲は同じである。一方、同じく SUS304L に対応づけられている 1.4306 は、クロムとニッケルがどちらも高い側にずれる[3][4]。置き換えを受けるなら、どの鋼種の材料で届くのかを証明書で確かめる。外国規格の材料で受けるときの承認は同等材の指定と承認で扱う。ただし機械的性質の規格値は鋼種ごとに定められているので、図面に強度の要求がある部品では、JIS の製品規格で両鋼種の機械的性質の規定を並べて比べてから決める。
316 と 316L は、どちらを指定すればよいですか
溶接で加熱される部分が腐食環境に置かれ、溶接後に固溶化熱処理をしないなら L 材を検討する[1]。溶接しない部品では、粒界腐食の対策として L 材を選ぶ理由は小さくなる。どちらでもよい用途で迷うなら、図面に「316 または 316L」と書くのではなく、どちらかに決める。両方を認めると、受入で何を確かめるかがあいまいになる。
証明書の成分が規格に入っていれば、受入で何もしなくてよいですか
証明書の値はその溶鋼(ヒート)の溶鋼分析の値なので[5]、取り違えや異材の混入までは保証しない。重要な部品では、現品と証明書の結び付き(溶鋼番号や識別表示)を確かめ、必要なら製品分析を注文時に要求しておく。
まとめ
ステンレスの発注では、鋼種記号に加えて、形状に応じた規格番号、表面仕上げ、検査文書の種類を書く。鋼種は、溶接後の粒界腐食が心配なら炭素を下げた L 材、塩化物の環境ならモリブデンを含む 316 系を軸に選ぶ。316L は対応する欧州の鋼種が複数あり、モリブデンとニッケルの範囲が違うので、必要なら成分の条件を上乗せで指定する。仕上げは名称だけでは研磨目の細かさが決まらないので、外観が品質に入るなら限度見本を取り交わす。受入では、L 材なら炭素、316 系ならモリブデンの値を証明書で確かめ、それが溶鋼分析の値であることを踏まえて、必要なら製品分析を要求する。
出典・参考資料
- ステンレスの耐食性と腐食現象について(Q&A)(一般社団法人ステンレス協会)
- ステンレスの主な表面仕上げ(一般社団法人ステンレス協会)
- ISO 15510:2014 Stainless steels — Chemical composition(国際標準化機構(ISO)/2014 年 5 月発行・2025 年確認)
- 外国規格との比較(JIS と対応外国規格との比較表について)(一般社団法人ステンレス協会)
- 鋼材規格三者委員会 資料 2(JIS G 0404 鋼材の一般受渡し条件 改正原案)(一般社団法人日本鉄鋼連盟/2022 年度 第 2 回)
- 鋼材規格三者委員会 資料(JIS G 0321 鋼材の製品分析方法及びその許容変動値 改正原案)(一般社団法人日本鉄鋼連盟/2025 年度 第 1 回)
- ASTM A480/A480M-25b General Requirements for Flat-Rolled Stainless and Heat-Resisting Steel Plate, Sheet, and Strip(ASTM International)
- JIS リスト(規格番号 G430 の検索結果)(日本産業標準調査会)
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