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投稿日:2026年10月1日

アルミは合金番号と質別で指定する——質別を書き落とすと何が起きるか

この記事のポイント(結論先出し)

アルミの材質は、合金番号・形状・質別記号の三つがそろって初めて一つに決まる。機械的性質の規格値は合金と質別と製品形状の組み合わせごとに決まっているので[4]、質別を書き落とすと、受入で強度を照らし合わせる基準そのものが無くなる。熱処理で強さを出す合金は、質別によって焼なましの軟らかい状態から時効硬化した状態まで変わる。発注書には「A5052P-H34」「A6061P-T6」のように質別まで書き、海外の規格で受けるときは質別記号の体系が完全には一致しないことを前提に、承認してから受ける[4]。溶接などで熱が入る部品は、届いたときの質別が完成品の強度を保証しないことも押さえておく[7]。

アルミの材質は「合金番号・形状・質別」で一つに決まる

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鉄鋼では鋼種記号を書けば成分と強度の目安がおおよそ決まるが、アルミニウムでは合金番号だけでは強度が決まらない。同じ合金でも、冷間加工の程度や熱処理によって性質を大きく変えられるからである。

日本アルミニウム協会の解説は、JIS ではアルミ合金の記号を、合金の種類・材料の形状・質別がひと目でわかるように付けているとし、例として A5052P-H34 を挙げている[1]。A に続く 4 けたの数字が合金、その後ろの文字が形状、ハイフンの後ろが質別である。形状によって引く JIS も分かれていて、日本産業標準調査会の一覧では、板と条は JIS H 4000、棒と線は JIS H 4040、継目無管は JIS H 4080 になっている[2]。

4 けたの合金番号は国際的な登録の仕組みに乗っている。米国アルミニウム協会が管理する登録表は、4 けたの番号の 1 けた目が主な合金元素の系統を表し、登録された番号は登録と同一の成分範囲を持つ合金にだけ使うべきだとしている。日本アルミニウム協会もこの登録の取り決めに署名している[3]。一方で、日本アルミニウム協会の解説には、わが国で開発された 7N01 のような合金も挙がっている[1]。番号の付け方が国際登録と同じ形でも、JIS 独自の記号があることは覚えておきたい。

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質別記号が表すもの

アルミニウムの熱処理についての解説は、冷間加工・焼入れ・焼もどし・焼なましなどで所定の性質を得ることを調質といい、調質の種類を質別と呼ぶと説明している[5]。展伸材(圧延や押出で作る材料)は、加工硬化で強さを出す非熱処理型(1000・3000・4000・5000 系)と、焼入れ・焼もどしで強さを出す熱処理型(2000・6000・7000 系)に分かれる[5]。

基本の質別は F・O・H・W・T の 5 つの文字で表す。欧州アルミニウム協会の解説(2002 年版)は、それぞれを次のように説明している[4]。

記号 意味 発注で起きやすいこと
F 製造のまま。機械的性質の限度は規定されない 強度の規格値が無いので、受入で照らし合わせる値が無い
O 焼なまし。最も強さの低い状態を得る 最も強さの低い状態なので、強度を期待した部品に入ると足りない
H 加工硬化。冷間加工、または部分焼なまし・安定化と組み合わせる H のあとの数字(H14・H24・H34 など)で性質が変わる
W 溶体化処理。不安定な状態で、室温での時効の時間を付けて示す 室温で時効が進む不安定な状態なので、時間を付けずに書くと状態が決まらない
T F・O・H 以外の安定した状態を得る熱処理。溶体化処理と時効の組み合わせ T のあとの数字ごとに、熱処理の組み合わせの順序が違う

H の後ろの数字について、日本アルミニウム協会は、H1n は冷間加工で加工硬化したもの、H2n は加工硬化させたものに適度な軟化処理をしたもの、H3n は冷間加工のあと安定化処理をしたもので、n は加工硬化の程度を 1〜9 の数字で示すと説明している[1]。

質別を書き落とすと、何が起きるか

受入で照らし合わせる強度の基準が無くなる

欧州アルミニウム協会の解説は、機械的性質や物理的性質の限度は、個々の合金・質別・製品の組み合わせに適用されると書いている[4]。合金番号だけの注文では、どの質別の規格値で強度を確かめればよいかが決まらない。仕入先は手持ちの在庫や扱いやすい質別で用意し、証明書にはその質別の値が載ってくる。受入でそれを不合格にする根拠は、注文書の側に無い。

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同じ解説は、同じ合金・同じ質別でも、半製品の種類や寸法によって性質が変わりうるとしている[4]。板で確かめた値を、棒や押出材にそのまま当てはめない。形状の記号まで書くのはこのためである。

同じ強さに見えても、加工のしやすさが違う

非熱処理型の合金では、H の数字の 1 けた目が違うだけで性質が変わる。日本アルミニウム協会は、同じ合金で H14 と H24 では引張強さはほぼ同じだが、H24 は耐力がやや低く伸びが大きく、成形性は一般に H24 が優れていると説明している[1]。引張強さだけを見て「同じだから」と質別を入れ替えると、曲げや絞りの工程で割れや戻りの出方が変わる。

また、3000 系と 5000 系の合金は、冷間加工したままの H1n の状態で長く置くと耐力がわずかに下がり伸びが増える。この経時変化を防ぐため、冷間加工後に 130〜170℃で加熱する処理を安定化処理といい、この処理をした材料の質別を H3n で表す[1]。在庫期間の長い材料を使う部品では、H1n と H3n の違いが効くことがある。

熱処理型の合金では、差がさらに大きい

6000 系などの熱処理型の合金は、溶体化処理と時効の組み合わせで強さを出す。熱処理の解説は、溶体化温度が規定の最低値より低いと溶体化が不完全になって最高の機械的性質が得られず、最高温度を超えると共晶溶融などの危険があるとしている[5]。同じ合金番号でも、O と T6 では別の材料と考えたほうがよい。

T6 と T651 は同じではない

T の後ろに数字が続く質別もある。熱処理の解説によると、T×51 は焼入れ後に 1〜3% の永久ひずみを与える引張矯正によって残留応力を除いたもの、T×52 は 1〜5% の永久ひずみを圧縮矯正で与えたもので鍛造材に多く用いられる、T×53 は急激な温度変化で残留応力を除いたものである[5][6]。

この違いは削り出しの部品で効く。精密加工の立場から書かれた解説は、溶体化処理(急冷)で生じる残留応力は一般に表面で圧縮・内部で引張りとなり、材料の一部を除去すると応力が釣り合い直して変形が生じるため、精密加工にとって厄介な存在だとしている[6]。厚い板から大きく削り込む部品を「T6」で発注するか「T651」で発注するかは、加工後の反りに関わる判断になる。どちらにするかは図面の責任者が決め、発注書には決めたほうを書く。

溶接や加熱が入る部品では、届いたときの質別が完成品を保証しない

質別は、材料が届いたときの状態を表す。その後に熱が入る工程があれば、完成品の強度は質別どおりとは限らない。社会基盤構造物向けのアルミ合金を扱った研究は、熱処理型の 6000 系では MIG 溶接部と摩擦攪拌接合部が軟化するため、それらの部分の応力とひずみの関係は母材と異なるとしている[7]。

溶接する部品で強度の要求がある場合、図面には「材料の質別」と「溶接部を含む完成品の要求」を分けて書く必要がある。材料を T6 で指定しても、溶接部の強度はそれで決まらない。溶接の条件と検査の指定は溶接を含む部品の発注で指定すること、熱処理を外注する場合の指定は熱処理を図面でどう指定するかで扱う。

海外の規格で受けるときは、質別の体系の違いを前提にする

質別記号は国際的に似た形をしているが、同じではない。欧州アルミニウム協会の解説は、欧州の質別の規格(EN 515)と米国の規格(ANSI H35.1)は完全には互換でないと注記している[4]。米国の質別と合金番号の規格は米国アルミニウム協会が管理しており、2024 年版が現行の版として案内されている[8]。日本の熱処理の解説(1980 年)にも、JIS では用いないが米国で用いられ、日本でも便宜的に使われることのある質別が挙がっている[5]。

合金番号についても、番号の末尾に文字が付くだけで別の登録になることがある[3]。規格の違う材料で受けるときの承認の進め方は、同等材の指定と承認にまとめた。質別についても同じで、記号の見た目が同じというだけで読み替えず、規格値と試験の条件を比べてから承認する。

発注書に書くことと、証明書で確かめること

発注書には、少なくとも次の項目を書く。合金番号、形状、質別、規格番号、寸法と許容差、検査文書の種類である。書き方の例を示す(これは規格の書式ではなく、発注側の書き方の提案である)。

「材質:A6061P-T651(JIS H 4000)。質別の変更および他規格材への置き換えは事前承認を要する。検査文書は EN 10204:2004 の検査証明書 3.1 とし、合金番号・質別・機械的性質(引張強さ・耐力・伸び)を記載すること。」

受入で証明書を見るときは、次の順で確かめる。

  1. 合金番号・質別・形状が注文と一致しているか。質別の欄が空欄や「F」になっていないか
  2. 機械的性質の値が、その合金・質別・形状の組み合わせの規格値に入っているか
  3. 化学成分が、その合金番号の登録の範囲に入っているか
  4. 規格名と版が注文と一致しているか。外国規格の記号なら、承認した組み合わせか

検査文書の種類ごとの違いはEN 10204 のミルシート区分にまとめた。証明書を出す体制を仕入先が持っているかの確かめ方は、ミルシート Type 3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くで扱っている。

よくある質問

図面に「A5052」としか書いていない場合、どう発注すればよいですか

図面の責任者に質別を確かめてから発注する。曲げ加工がある部品か、強度が要る部品かで適した質別が変わる[1]。購買の判断で「いつもの質別」を補うと、その判断が記録に残らない。決まった質別は図面にも反映してもらう。

仕入先から「T6 の在庫が無いので T651 でよいか」と聞かれました

T651 は T6 に引張矯正で残留応力の除去を加えたものなので[5]、削り込みの多い部品では、残留応力の点から検討に値する。ただし、規格値や製品の形状が同じかは確かめる。置き換えを認めるなら、承認として記録する。

証明書の質別は合っているのに、加工後に強度が足りません

加工の途中で熱が入っていないかを確かめる。溶接部は、熱処理型の合金では母材より軟らかくなることが報告されている[7]。材料の質別と、完成品の要求を分けて指定していたかを見直す。

まとめ

アルミの材質は、合金番号・形状・質別の三つで一つに決まる。機械的性質の規格値はこの組み合わせごとに決まっているので、質別を書き落とすと受入で強度を照らし合わせる基準が無くなる。非熱処理型では H の数字の違いが成形性や経時変化に効き、熱処理型では T の数字が強度と残留応力に効く。削り込む部品では T6 と T651 を区別して指定する。溶接などで熱が入る部品は、材料の質別と完成品の要求を分けて書く。海外の規格で受けるときは、質別の体系が完全には互換でないことを前提に、比べてから承認する。

出典・参考資料

  1. 2. 板材の区分(分野別ページ 建築・土木)(一般社団法人日本アルミニウム協会)
  2. JIS リスト(規格番号 H40 の検索結果)(日本産業標準調査会)
  3. International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys(米国アルミニウム協会/2018 年 8 月改訂)
  4. Materials – Designation system(The Aluminium Automotive Manual)(欧州アルミニウム協会/2002 年版)
  5. 軽金属技術講座 9 アルミニウムの熱処理(馬場義雄/軽金属 30 巻 9 号/1980 年)
  6. アルミニウム合金の熱処理(市川正・永井善和/精密機械 46 巻 10 号/1980 年)
  7. 構造用アルミニウム合金の応力-ひずみ関係および接合によって発生する残留応力の定式化(大倉一郎ほか/土木学会論文集 A 64 巻 4 号/2008 年)
  8. ANSI H35.1/H35.1M American National Standard Alloy and Temper Designation Systems for Aluminum(米国アルミニウム協会)

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