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樹脂のグレード指定と代替グレードの承認——試験方法をそろえて比べる

この記事のポイント(結論先出し)
樹脂の材質欄に「PP」「PA66」とだけ書くと、選ぶ権限が仕入先に移る。図面や購買仕様書には、樹脂の種類に加えて、材料メーカーとグレード(銘柄)、色、充填材、再生材の可否まで書き、「同等品可」とするなら何をもって同等とするかを決めておく。代替グレードを提案されたら、データシートの数字を並べる前に試験方法がそろっているかを見る。同じ名前の試験でも規格が違えば数字は比べられないことがある[3][4]。そのうえで、ペレットの物性ではなく成形した部品で評価して承認し、切り替えたロットを識別できるようにする。
目次
「PP」と書いただけでは、材料は決まらない
樹脂の材質は、金属のように規格の記号一つで成分と性質が決まる仕組みになっていない。同じポリプロピレンでも、材料メーカーごとに数多くのグレードがあり、流動性、剛性、耐衝撃性、添加剤、充填材の量が違う。図面の材質欄に「PP」とだけ書けば、どのグレードを使うかは仕入先が決めることになる。
JIS には、樹脂の種類ごとに材料を表す決まりがある。日本産業標準調査会の一覧を見ると、ポリアミド(PA)・ポリプロピレン(PP)・ポリエチレン(PE)・ポリスチレン(PS)などについて、「成形用及び押出用材料」の第 1 部として呼び方のシステム及び仕様表記の基礎、第 2 部として試験片の作製方法及び特性の求め方が定められている[2]。材料を言葉で指定するには、名前だけでなく、どう試験片を作り、どう特性を測ったかまでがそろっている必要がある、という構造が規格の並びに表れている。
実務で多いのは、次の 2 通りの書き方である。
| 書き方 | 例 | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| メーカーとグレードで指定 | 「〇〇社 グレード△△、色番号□□」 | 評価した材料そのものに固定できる | 廃番・供給停止・海外調達で置き換えが必要になる |
| 要求特性で指定 | 「PP。引張強さ〇以上(試験方法を明記)、難燃性の要求…」 | 複数の材料から選べる | 書いていない特性(添加剤・色・成形性)が変わっても止められない |
どちらを選ぶかは部品の重要度で決める。機能や安全に関わる部品はメーカーとグレードで固定し、置き換えは承認制にする。外装の小物のように要求の幅が広い部品は、要求特性で指定して選択の余地を残す。後者でも、試験方法を書かない特性値は比べようがない。
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書いていない仕様は、変えられても止められない
製品評価技術基盤機構(NITE)は、契約で決めていない仕様を仕入先が変えても、無断変更を禁じる条文がなければ契約違反にならないと整理している[6]。樹脂でこの「決めていない仕様」に入りやすいのが、難燃剤などの添加剤と配合である。
樹脂は、同じ樹脂の種類のまま添加剤だけが変わる余地が大きい。グレードで固定しない部品では、少なくとも「材料・添加剤・配合・製造場所を変える場合は事前に承諾を得る」という条文を契約か購買仕様書に入れておく。仕入先の側で起きる変更の拾い方は変化点管理を DRBFM につなぐで、難燃剤の切り替えを含む無断変更の事例はサイレントチェンジの典型事例で扱っている。
代替グレードの提案は、試験方法をそろえてから比べる
材料の供給停止や海外での現地調達を理由に、仕入先から別のグレードを提案されることがある。このとき最初にするのは、データシートの数字の比較ではなく、数字の測り方がそろっているかの確認である。
樹脂の物性値は、測り方の条件に左右される。ASTM の引張試験の規格は、前処理・温度・湿度・試験機の速度を定めた条件のもとで試験するとし、規定の試験速度が材料に特有の重要な影響を覆い隠すことがあるとも注記している[3]。国際規格の ISO 10350-1 は、成形材料について比較可能なデータを取得し提示するための試験手順を定めている[1]。日本では同じ題名の JIS K 7140-1(比較可能なシングルポイントデータの取得及び提示-第 1 部:成形材料)がある[7]。わざわざ「比較可能な」データの規格が用意されていること自体、方法をそろえなければ材料同士の数字は比べられないことを示している。
米国と国際規格の試験方法も同じではない。ASTM の引張試験の規格(D638)は、ISO 527-1 と同じ事柄を扱うが技術的な内容は異なると自ら注記している[3]。米国の材料メーカーのデータシートと日本や欧州のデータシートで、同じ「引張強さ」の欄を並べても、同じ条件の数字とは限らない。
試験方法の違いがどれほど数字に出るかを示した古い研究がある。硬質塩化ビニル板 10 種類を、当時の JIS・ISO・ASTM のシャルピー衝撃試験で測ったところ、JIS の方法では 2.3〜8.4 kg・cm/cm² と板によって大きく分かれたのに対し、ISO の方法では押出板 1 種類を除いておおむね 2.5 kg・cm/cm² で一定だった。違いの主な原因は切欠き(ノッチ)の深さの差とされている[4]。
| 試験方法(1966 年の研究当時) | 10 種類の板の衝撃値 | 読み取れること |
|---|---|---|
| JIS のシャルピー衝撃試験 | 2.3〜8.4 kg・cm/cm² | 材料の違いが大きく現れる |
| ISO のシャルピー衝撃試験 | 押出板 1 種類を除き、おおむね 2.5 kg・cm/cm² | 同じ板でも方法によって差が見えなくなる |
| ASTM のシャルピー・アイゾット衝撃試験 | 延性の群と脆性の群に分かれた | 方法ごとに数字の並び方が変わる |
この研究は 1966 年のもので、各規格の試験方法はその後改正されている。現在の規格で同じ差が出るという意味ではない。読み取るべきなのは、同じ「衝撃強さ」でも方法が違えば数字の意味が変わるという点である[4]。代替グレードのデータシートを受け取ったら、各特性の欄の試験規格と条件が元のグレードのデータと同じかを確かめ、違えば同じ方法で測った値を出してもらう。
ペレットの物性が同じでも、成形品が同じとは限らない
試験方法をそろえて数字が合っても、それで承認してよいとは限らない。樹脂の性質は、材料だけでなく成形の履歴でも変わるからである。
プラスチックの再生材を研究した報告では、バージンのポリプロピレンと、射出成形のランナーなどから作った再生ポリプロピレンを比べたところ、分子量・分子量分布・密度はほぼ同じで化学的な劣化はしていないのに、同じ条件で作った薄膜の引張試験では、再生材のほうが著しく脆かった。成形の条件を変えると延性が戻ったことから、物性の低下の主な原因は成形履歴による内部構造の変化だとしている[5]。
発注側にとっての意味は二つある。一つは、成分や分子量のような材料の値だけで「同等」と判断せず、実際の金型と成形条件で作った部品で評価すること。もう一つは、再生材を混ぜてよいか、混ぜるならどの由来でどの比率までかを購買仕様書に書くことである。書いていなければ、ランナーなどの粉砕材を戻して使うかどうかは仕入先の判断になる。
代替グレードの承認の手順
提案を受けてから量産に切り替えるまでを、次の順で進めると記録が残る。これは規格の手順ではなく、発注側の実務としての提案である。
- 提案の理由(廃番・供給・価格・現地調達)と、切り替えたい時期・対象の品番を書面で出してもらう
- 元のグレードと代替グレードのデータシートを、試験規格と条件をそろえて並べる。そろわない項目は同じ方法での測定値を求める
- 難燃性の認証、含有化学物質の調査結果など、材料に付いている証明が代替グレードにもあるかを確かめる
- 実際の金型と成形条件で部品を作り、寸法・外観・組み付け・機能を元のグレードの部品と比べる
- 承認の範囲(品番・グレード・色・再生材の扱い・切り替え時期)を記録し、図面または購買仕様書を改訂する
- 切り替えたロットを識別できるようにし、切り替え直後のロットを重点的に確かめる
手順 3 の化学物質の調査は、代替グレードで添加剤が変わると結果が変わりうるので、元のグレードの回答を流用しない。調査の依頼の仕方はREACH などの含有化学物質の調査を仕入先に依頼するときで扱う。難燃性の等級の考え方そのものはUL 94 難燃性評価の考え方と注意点に譲り、ここでは「代替グレードにも同じ等級の認証が付いているか」を確かめる項目として扱う。
手順 4 と 6 は、量産前の承認と重なる。量産を始める前に仕入先に何を出させて承認するかは量産前に仕入先に何を出させて承認するかにまとめる。材料を海外の規格のもので受ける場合の一般的な承認の考え方は同等材の指定と承認にある。
受入で続けて見るもの
承認した後も、材料が黙って変わっていないかを見る仕組みが要る。NITE は、特性値の変動を簡易な試験でもよいので定期的に検査すること、仕入先から出される品質データは偽造されることもあるので鵜呑みにせず自社でも検査することを勧めている。資料ではロットごとの比重を規格の上下限と並べて追う例が示されている[6]。
樹脂部品なら、比重や質量、色、成形品の寸法のように、受入で手早く測れる値をロットごとに記録しておくと、変化に気づきやすい。どの値を何ロットおきに測るかは、部品の重要度に合わせて決める。
よくある質問
「〇〇社 △△ または同等品」と書くのは避けるべきですか
「同等品」の中身を決めずに書くのは避けたほうがよい。どの特性を、どの試験方法で、どの範囲に収めれば同等とみなすのか、誰が承認するのかを購買仕様書に書けば、「同等品可」でも運用できる。書けないなら、置き換えは都度承認とする。
色を合わせるための着色材の変更も、承認の対象ですか
対象にしておくほうがよい。難燃剤の切り替えが発火事故につながった事例(NITE が公表している)のように、添加成分の変更が性質に効くことがあるからである[6]。色番号だけでなく、着色の方法(着色済みの材料か、成形時に着色材を混ぜるか)も購買仕様書に書いておく。
代替グレードの評価で、どこまで試験すればよいですか
部品の機能と、元のグレードを選んだ理由によって決まる。元のグレードを選んだ理由が耐熱性なら耐熱性の評価が要り、外観なら外観の評価が要る。選んだ理由が記録に残っていないと、何を評価すればよいかも決められない。グレードを図面に書くときに、選んだ理由も設計の記録に残しておく。
まとめ
樹脂の材質欄に樹脂の種類だけを書くと、グレードの選択が仕入先に移る。重要な部品はメーカーとグレードで固定し、置き換えは承認制にする。書いていない仕様の変更は、無断変更を禁じる条文がなければ契約違反にならないので、添加剤や配合を含めた変更の事前承諾を契約に入れる。代替グレードのデータシートは、試験方法と条件をそろえてから比べる。同じ名前の試験でも、規格が違えば数字の意味が変わる。材料の値が同じでも成形品の性質は成形履歴で変わるので、実際の金型で作った部品で評価して承認し、再生材の扱いも書いておく。承認後は、受入で手早く測れる値をロットごとに追う。
出典・参考資料
- ISO 10350-1:2025 Plastics — Acquisition and presentation of comparable single-point data — Part 1: Moulding materials(国際標準化機構(ISO)/2025 年 1 月発行)
- JIS リスト(規格番号 K692 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- ASTM D638-22 Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics(ASTM International)
- 硬質塩ビ板の各種規格(JIS, ISO, ASTM)の試験片形状による衝撃値間の関係(植村幸生ほか/材料 15 巻 156 号/1966 年)
- プラスチックマテリアルリサイクルに関する新しい技術展開(八尾滋・冨永亜矢/廃棄物資源循環学会誌 29 巻 2 号/2018 年)
- 身近に潜むサイレントチェンジ問題について(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全センター)
- JIS リスト(規格番号 K7140 の検索結果)(日本産業標準調査会)
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