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含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき——REACHとchemSHERPA

この記事のポイント(結論先出し)
含有化学物質の調査を仕入先に頼むときは、先にどの規制のどの義務に答えるための調査かを決める。REACH 規則で成形品について求められるのは、候補リストの高懸念物質(SVHC)が 0.1% を超えて含まれる場合の情報伝達で[1]、その 0.1% は組み込まれた部品の一つひとつについて判断する[2]。依頼には品番と版、使う様式、判断に使う物質リストの版、判断の単位を書く。化学品(混合物)の SDS と、部品・材料の含有情報は別の書類で、互いの代わりにならない[4]。業界共通の様式である chemSHERPA は、化学品向けと成形品向けに分かれている[7]。回答は受け取って終わりにせず、対象の取り違え・リストの版・構成と質量の整合・判断の単位を確かめる。
目次
まず「何に答えるための調査か」を決める
顧客から「含有化学物質の調査票を出してほしい」と言われ、そのまま仕入先へ転送する。購買の現場でよく見る流れだが、これだと仕入先は何を基準に答えればよいのかわからない。規制ごとに、誰が・何を・どの濃度から伝える義務を負うのかが違うからだ。
EU の REACH 規則は、化学物質の登録・評価・認可・制限の仕組みだが、部品や製品のような「成形品」にも義務がかかる。成形品とは、製造の過程で特別な形状・表面・デザインを与えられ、それが化学組成よりも大きく機能を決めている物体をいう[1]。主な義務は次のとおりである。
| 義務 | 誰に | 条件 | 何をするか |
|---|---|---|---|
| REACH 第 33 条第 1 項 | 成形品の供給者 | 候補リストの物質が 0.1%(重量)を超えて含まれる | 受け手に、安全な使用のための情報を伝える(最低限、物質名) |
| REACH 第 33 条第 2 項 | 成形品の供給者 | 同上で、消費者から求めがあったとき | 45 日以内に無料で情報を出す |
| REACH 第 7 条第 2 項 | 成形品の生産者・輸入者 | 候補リストの物質が年 1 トンを超え、かつ 0.1% を超える。ただし、通常の使用と廃棄で人や環境への暴露を排除できる場合(受け手に適切な指示を渡す)と、その用途で既に登録されている物質は除く(第 7 条第 3 項・第 6 項) | 欧州化学品庁に届け出る |
| 廃棄物枠組み指令の改正(SCIP) | 成形品の供給者 | 第 33 条第 1 項の情報がある成形品 | 2021 年 1 月 5 日から、その情報を欧州化学品庁に提供する |
表の REACH の三行は規則の条文[1]、最後の行は 2018 年の廃棄物枠組み指令の改正による[3]。改正指令は、欧州化学品庁がこの情報を受けるデータベースを作り、廃棄物処理業者に、また求めに応じて消費者にも公開すると定めている[3]。
これらの義務を直接負うのは EU 域内の事業者だが、それで日本の仕入先が無関係になるわけではない。REACH 規則・RoHS 指令は EU 域内にしか適用されないが、サプライチェーンがグローバル化した現在では、ほとんどの事業者に対応が求められ、輸出先での規制違反は原材料・部品の供給メーカーにとっても経営上の大きなリスクだと、業界団体の解説は述べている[4]。成形品の供給者の情報伝達義務は、日本の成形品メーカーが最も対応に苦慮している義務だとする解説もある[5]。
ここで電気・電子機器の RoHS 指令と混同しないこと。RoHS は対象物質を「使ってはならない」規制で、判断の単位は均質材料である。REACH の第 33 条は「含まれていたら伝えよ」という情報伝達の義務で、判断の単位は成形品である。RoHS の確かめ方は RoHS への適合を仕入先からどう確かめるか で扱った。
0.1% の分母は「組み込まれた部品の一つひとつ」
0.1% を何の重量で割るのかについて、かつては解釈が割れていた。複数の部品を組み合わせた製品全体で割るのか、構成部品ごとに割るのか、という問題である。2015 年の時点の解説は、ベルト全体では 0.1% 以下だが金属のバックルの中では超えている、という例でこの食い違いを説明している[5]。
EU 司法裁判所は 2015 年 9 月 10 日の判決で、第 33 条について、製品を構成する一つ以上の成形品が、その成形品の重量に対して 0.1% を超えて高懸念物質を含む場合に、その製品の供給者が受け手に物質の存在を知らせる、と解釈を示した[2]。調査を頼むときに「製品全体での濃度」を聞くと、この判断に使えない回答が返ってくる。構成部品ごとの情報で答えてもらう必要がある。
候補リストは更新される
REACH 規則は、欧州化学品庁が候補リストを公表し、物質を加える決定があれば遅滞なく更新することを定めている[1]。解説は、SVHC が半年ごとに追加され、製品の含有調査が求められることに日本の成形品メーカーが苦慮している、と書いている[5]。調査の回答は「いつの時点のリストで判断したか」とひも付けて持たないと、あとで役に立たなくなる。
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SDS と含有情報は別の書類
化学物質の情報というと、まず SDS(安全データシート)を思い浮かべる人が多い。日本では、化学品を譲渡・提供するときに成分などの情報を伝えるよう定めた法令として、化学物質排出把握管理促進法、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法があり、いずれも伝えるべき物質がリスト化されている[6]。これらは主に化学品(物質や混合物)を対象にした制度である。
一方、部品や材料に何が含まれているかを伝える書類は、別の仕組みで流れている。めっき工程の管理を解説した業界団体の資料は、当時の化学品向けの含有情報の様式について、それは管理対象物質の含有だけを伝えるもので、化学品の組成や危険有害性・取扱い方法を記した SDS の代わりにはならず、常に両方を入手する必要があると注意している[4]。
購買の書類の取り方に置き換えると、こうなる。塗料・接着剤・めっき液のような化学品を買うときは、SDS と含有情報の両方を求める。部品や成形品を買うときに求めるのは含有情報である。SDS の制度は主に化学品を対象にしているので、この区別がないまま「SDS を出してください」と部品の仕入先に頼むと、的外れな書類が届くか、何も届かない。
chemSHERPA の位置づけ
日本で広く使われている共通の様式が chemSHERPA である。運営団体は、製品に含まれる化学物質を適正に管理し、拡大する規制に継続的に対応するには、サプライチェーンでの情報伝達が必要であり、chemSHERPA はそのためのサプライチェーン全体で使える共通の仕組みだと説明している[8]。2022 年の論文は、chemSHERPA は経済産業省の主導で開発され、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)が管理・運用している情報伝達の仕組みだと紹介している[6]。現在の運用は CMP コンソーシアムが担っている[8]。
様式は、化学品向けの chemSHERPA-CI と、成形品向けの chemSHERPA-AI に分かれる。化学品向けは成分情報を、成形品向けは成分情報に加えて、製品分野ごとに求められる遵法判断の情報を伝える[7][8]。化学品が川中の工程で化学的・物理的に変化して成形品になると、使う様式も CI から AI に切り替わる[7]。
伝える物質の範囲は「管理対象物質」として決められている。2022 年の論文の時点では、国内外の 8 つの法令と 2 つの業界基準のリストからなり、化審法の第一種特定化学物質、RoHS 指令の附属書 II、REACH 規則の候補リスト・認可対象物質・制限対象物質などが含まれていた[6]。範囲はその後も見直されうるので、調査ではリストの版を指定する。
購買にとっての利点は、規制ごとに別々の調査票を出さずに済むことだ。材料ごとの含有情報が一度そろえば、RoHS の判断にも REACH の判断にも同じデータを使える。逆に、仕入先が chemSHERPA を使っていないからといって、それだけで取引をやめる理由にはならない。必要な情報が別の形で出せるなら、それで足りる場面も多い。
依頼の出し方——依頼書に書く 7 項目
調査の依頼は、受け取った側が迷わず答えられる形にする。次の 7 項目を依頼書に書く。
1. 対象の品番と版
図面の改訂記号まで書く。版が違えば材料が違う可能性がある。
2. 使ってほしい様式
化学品なら chemSHERPA-CI と SDS、成形品なら chemSHERPA-AI。別の様式を認めるなら、その条件も書く。
3. 判断に使う物質リストの版
管理対象物質リストや候補リストの、どの時点の版で答えるか。
4. 判断の単位
成形品は構成部品ごと、RoHS の判断が要るなら均質材料ごと。
5. 報告の範囲
めっき工程の解説は、成形品の質量に対して 0.1%(SVHC の場合)またはそれぞれの法令の閾値を超える物質は報告すべきものとして記載し、0.1% 以下でも可能な限り情報を提供すること、を記載のポイントに挙げている[4]。依頼書でも、閾値を超えるものは必須、それ以下は任意、と分けて書くと答えやすい。
6. 期限と回答責任者
仕入先の上流まで聞く必要がある品目は、期限に余裕を持たせる。
7. 情報の扱い
受け取った情報を誰に開示するか(顧客に転送するのか、社内だけで使うのか)。後で述べる企業秘密の問題に効く。
見積の段階からこの情報が必要なら、見積依頼書の付帯書類として書いておく。発注後に初めて求めると、それを受入の条件にすることが後出しの基準になりかねない。見積依頼書の記載項目は 見積依頼書の記載項目 にまとめている。
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回答のどこを確かめるか
回答を受け取ったら、中身を見ずに綴じるのではなく、少なくとも次の点を確かめる。
| 確かめる点 | よくある食い違い | どう直すか |
|---|---|---|
| 対象の品番と版 | 類似品番の回答が流用されている | 品番・版を回答書の中で明記させる |
| 物質リストの版 | 古いリストで判断している | 指定した版で作り直してもらう |
| 構成と質量 | 部品の合計が製品の質量と合わない、めっきや塗装の層が抜けている | 図面・部品表と突き合わせる |
| 判断の単位 | 製品全体で割って 0.1% 以下と判断している | 構成部品ごとに判断し直す[2] |
| 工程で変わる成分 | めっき液の成分をそのままめっき膜の成分として書いている | 膜の仕様に基づく値で書き直す[4] |
| 情報の出どころ | 商社が上流の情報なしに自社判断で書いている | 製造元と根拠資料を示してもらう |
「工程で変わる成分」は、めっき・塗装・熱処理のような変換工程で起きる。めっき工程では、めっき中の化学反応で生成する成分、洗浄で失われる成分、乾燥で失われたり濃縮されたりする成分があり、薬品の含有情報からめっき膜の含有情報を単純には決められない、と業界団体の解説は述べている[4]。同じ解説は、めっき膜の情報を出すときは、管理対象物質について工程管理で得られるべき最大値を使うこと、膜厚は仕様値を使うことなどを記載のポイントに挙げている[4]。回答の数値がこの考え方で作られているかを見れば、仕入先が自分の工程を把握しているかの目安にもなる。
答えられない・答えたくない仕入先への対応
調査が止まる原因の多くは、仕入先が答えないことではなく、答えられないことである。成形品メーカーは材料の配合を知らず、材料メーカーは配合を企業秘密として出したがらない。
2022 年の論文は、製品含有化学物質の情報は多くの場合企業秘密で、すべてを開示することは企業の存続を脅かしうると指摘している。そのうえで、ライフサイクルを通じてばく露し健康や環境に悪影響を及ぼしうる成分は危険有害性情報を開示すべきだが、そうでないものは開示の必要はなく、物質名まで開示すべき場合とそうでない場合がある、と整理している[6]。
実務では、これを依頼の側に織り込む。次の順で考えるとよい。
- 規制の判断に要るのは「管理対象物質が含まれるか、どれだけか」であって、全組成ではないことを明示する
- 秘密保持の取り決めを結び、受け取った情報の開示先を限定する
- 物質名を出せない場合は、該当する規制の項目と濃度の範囲で答えてもらう
- それでも出せない場合は、上流の材料メーカーから直接、発注側に提出してもらう
- どれも難しい品目は、分析で補うか、代替材・代替の仕入先を検討する
答えなかった・答えられなかった経緯は記録に残す。顧客から問われたときに、どこまで調べ、なぜそこで止まったのかを説明できることが、「調べていない」との違いになる。仕入先の評価にこの記録を使うときの考え方は サプライヤー評価の項目と点数化 を参照してほしい。
取り直しのきっかけ
候補リストが更新されるたびに全品目を取り直すのは現実的ではない。更新のたびに追加物質を見て、自社の品目の材料に関係しそうなものから当たりを付ける。2015 年の解説は、更新の前に公表される情報を使えば、対応に時間の余裕が生まれると書いている[5]。
取り直しのきっかけは、規制の側の変化(リストの追加)と、仕入先の側の変化(材料・工法・製造場所・上流の仕入先の変更)の二つに分けて持つ。後者は、4M 変更の連絡の中に含有情報の確認を組み込んでおくと漏れにくい。
同じ時期に来ることの多い調査
顧客からの調査は、含有化学物質と紛争鉱物が同じ時期に来ることが多い。紛争鉱物は、含有化学物質とは様式も聞く相手(最終的には製錬業者)も違う。依頼の出し方と回答の確かめ方は 紛争鉱物の調査(CMRT)を仕入先に依頼するとき にまとめた。食品に触れる部品の調達では、REACH とは別に食品衛生法の情報伝達がある。こちらは 食品に触れる部品・容器・包材を調達するとき で扱う。
まとめ
含有化学物質の調査は、答えるべき規制と義務を先に決めてから頼む。REACH の成形品の情報伝達は、候補リストの物質が構成部品ごとに 0.1% を超えるかで判断する。SDS と含有情報は別の書類で、化学品なら両方、部品なら含有情報を求める。chemSHERPA は化学品向けと成形品向けに分かれた共通の様式で、一度そろえた情報を複数の規制の判断に使える。依頼書には品番と版、様式、物質リストの版、判断の単位、報告の範囲、期限、情報の扱いを書き、回答は版・構成・単位・工程での変化・出どころを確かめる。答えられない仕入先には、必要な情報の範囲を絞り、秘密保持と提出経路を工夫して対応する。
出典・参考資料
- Regulation (EC) No 1907/2006 concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH)(Corrigendum)(欧州議会・理事会/2006 年 12 月 18 日、正誤版は EU 官報 L 136・2007 年 5 月 29 日)
- Judgment of the Court (Third Chamber) of 10 September 2015, Case C-106/14(EU 司法裁判所/2015 年 9 月 10 日)
- Directive (EU) 2018/851 amending Directive 2008/98/EC on waste(欧州議会・理事会/2018 年 5 月 30 日)
- 製品中の含有化学物質の管理と情報伝達(JAMP 管理ガイドライン作成技術委員会/表面技術 Vol.66 No.5、2015 年)
- REACH 規則と SVHC(高懸念物質)リストの動向(松浦徹也/表面技術 Vol.66 No.5、2015 年)
- サプライチェーンにおける製品含有化学物質の情報伝達の課題と対応(鈴木亨/日本産業保健法学会誌 第 1 巻第 1 号、2022 年 7 月)
- chemSHERPA 入門ガイド(アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)/2022 年 5 月 9 日改版)
- chemSHERPA について(CMP コンソーシアム)
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