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投稿日:2026年10月1日

紛争鉱物調査(CMRT)を仕入先に依頼する——範囲と回答の確かめ方

この記事のポイント(結論先出し)

紛争鉱物の調査票(CMRT)は、錫・タンタル・タングステン・金(3TG)について、サプライチェーンをさかのぼって製錬業者を特定するための共通様式である[4]。開示の義務を負うのは米国の上場企業などだが、その部品を作る会社にも調査が回ってくる[3]。依頼するときは、申告の範囲(会社全体・製品・独自の範囲)と対象製品を決め、仕入先とどの鉱物を、いつまでに答えるかを事前に話し合う[4]。回答を受け取ったら、質問の答えの組み合わせに矛盾がないか、製錬業者の一覧に商社や重複が混じっていないかを確かめる[5]。答えない仕入先には、対象外の仕入先を分母から外したうえで、回答率 100% を目指して調査を続け、記録を残す[5]。

なぜ自社に調査が回ってくるのか

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紛争鉱物の調査は、米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)の 1502 条を起点にしている[6]。この条文を受けた米国証券取引委員会の規則は、取引所法に基づいて報告書を出している登録企業のうち、自社が製造する製品、または製造を委託した製品の機能や生産に紛争鉱物が必要な企業に、所定の様式(Form SD)で報告を出すことを求めている[1]。

この開示義務そのものは米国上場企業以外には適用されない。ただし、自社の部品や材料が最終的に米国上場企業に使われている場合や、米国上場企業から製造を受託している場合はデュー・ディリジェンス(調達先に問題がないかを確かめ、問題があれば是正する継続的な活動)の対象になるため、上流の仕入先にも調査を依頼することになる、と電子情報技術産業協会(JEITA)の資料は説明している[3]。同じ資料は、米国上場企業は毎年調査を行い、その結果を翌年 5 月末までに開示する義務がある、とも書いている[3]。

EU にも 2017 年の紛争鉱物規則がある。こちらは、錫・タンタル・タングステン・金の鉱物や金属を EU に輸入する事業者に、サプライチェーンのデュー・ディリジェンスを義務付けるもので、主要な義務は 2021 年 1 月 1 日から適用されている。年間の輸入量が附属書の閾値を下回る輸入者や、リサイクルされた金属には原則として適用されない[2]。

EU の規則が直接かかるのは鉱物や地金の輸入者で、部品メーカーではない。それでも顧客から調査が来るのは、調査票が複数の規制に答えるための共通の道具になっているからだ。調査票を作る責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)は、CMRT が米国のドッド・フランク法 1502 条と EU 紛争鉱物規則への対応を支えるものだと説明している[4]。

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CMRT とは何を書く様式か

RMI は、鉱物の原産国と、使っている製錬業者の情報をサプライチェーンの中で受け渡すために、無料で標準化された報告様式を提供している。対象の鉱物ごとに様式が分かれている[4]。

様式 対象の鉱物 位置づけ
CMRT(紛争鉱物報告テンプレート) 錫・タンタル・タングステン・金の 4 鉱物 米国 1502 条と EU 紛争鉱物規則への対応を支える
EMRT(拡張鉱物報告テンプレート) コバルト・銅・天然黒鉛・リチウム・天然マイカ・ニッケルの 6 鉱物 EU 電池規則などへの対応を支える
AMRT(追加鉱物報告テンプレート) 使う側が決める(最大 10 鉱物) 上の 2 つの対象外の鉱物を調べる

表は RMI の説明による[4]。RMI は、機能に変更を加えた最新版の CMRT・EMRT・AMRT を 2026 年 4 月 17 日に公開したとしている[4]。JEITA が日本語で解説している版は CMRT Rev.6.6 で、表示言語を選べ、8 枚のシートからなる表計算ファイルである。このうち記入するのは、申告(Declaration)、製錬業者一覧(Smelter List)、製品一覧(Product List)の 3 枚だ[5]。

この調査が「製錬業者」を軸にしているのには理由がある。鉱山から最終製品までの長いサプライチェーンを、数の比較的少ない製錬業者の上下で二つに分け、製錬業者から上流は監査で鉱物の起源を確かめ、下流は調査票を統一して効率よく調べる、という仕組みになっているからだ[6]。下流の企業の調査は、一次仕入先に依頼し、仕入先がさらに二次、三次と依頼をたどって製錬業者まで届け、回答は逆の順に集計されながら戻ってくる[5][6]。購買が仕入先に頼むのは、この連鎖の一つの段である。

依頼の前に決めること

どの製品・部材を対象にするか

何でも調べればよいわけではない。JEITA の FAQ は、対象になるかどうかの基準を、3TG が製品に意図的に使われ、最終的に製品に含まれているかどうかだとしている。不純物として混入したものは対象にならないと解釈されており、一方で含有量の下限(閾値)はなく、微量でも含まれていれば対象になると解釈されている[3]。

対象になるもの 対象外とされるもの
製品に意図的に加えられ、製品に残っている 3TG(量の下限なし) 不純物として混入したもの(仕様にない錫を含む鋼材など)
製造工程で使い、最終製品に残る触媒など 工程で使っても最終製品に残らない触媒
組立のみを行う場合の製品 自社製品を作るための生産設備
保守や修繕で使う部品 包装材料、間接的に使う機器
— サンプル・試作品・試用品、研究用の機器や材料

表は JEITA の FAQ の回答をまとめたものである[3]。同じ FAQ は、明らかに 3TG を含まないと判断する手順として、部品表で構成部材がそろっているかを確かめる、仕様書や成分表で各部材の材質が明確で 3TG を含まないことを確かめる、製造工程で触媒を使っていないかを確かめる、使っている場合は最終製品に残っていないかを確かめる、という流れを示している。樹脂のような有機物でも微量の有機錫が添加されている場合があるので、原則として購入先に確認する必要がある、とも注意している[3]。

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購買の段取りに直すと、まず部品表から 3TG を使っていそうな部材を絞り込み、その仕入先に依頼を集中させる。ねじや板金のように材質が明確な部品まで一律に CMRT を求めると、仕入先の負担に比べて得られる情報が少ない。逆に、はんだ・めっき・電子部品・合金を使う部材は優先して聞く。

申告の範囲をそろえる

CMRT の申告シートでは、申告の範囲を「会社全体」「製品(または製品一覧)」「独自に定めた範囲」の三つから選ぶ。範囲は回答する側が決められるが、依頼する側が指定してくることもある。「製品」を選んだ場合は、製品一覧のシートに、顧客と仕入先が互いに認識できる番号(取り交わした仕様書にある番号など)と製品名を書く[5]。

依頼書で範囲を決めておかないと、ある仕入先は会社全体で、別の仕入先は該当製品だけで答えてきて、集計のときに比べられない。自社が顧客から求められている範囲に合わせて、仕入先に求める範囲を指定する。

どの鉱物を、いつまでに答えるか

RMI は、回答の期待値を設定するのは調査をする企業の側であり、RMI 自身は期待値を定めていないとしている。依頼する鉱物について回答できるかどうか、いつ回答できるかを、仕入先と事前に十分話し合って合意しておくことを推奨している[4]。

依頼書には、少なくとも次を書く。

  • 使う様式と版(CMRT か EMRT か、その改訂番号)
  • 申告の範囲と、対象製品の番号
  • 回答の期限と、二次以降の仕入先への依頼にかかる時間の見込み
  • 回答に疑問があったときの問い合わせ先
  • 受け取った回答を誰に開示するか(顧客に転送するかどうか)

最後の項目には理由がある。JEITA の解説は、仕入先の申告シートを顧客に転送する場合、シートにある個人の連絡先を共有することが個人情報保護法のある国で法に違反する場合があるため、仕入先の許可を得るなど事前の措置を講じるよう注意している[5]。

回答のどこを確かめるか

CMRT は、質問の答え方に順序と条件がある。これを知っていると、回答の矛盾がすぐ見つかる。

確かめる点 解説が示すルール 矛盾の例
質問 1・2(意図的な使用・残留) 1 が「いいえ」なら 2 以降は不要。2 が「はい」なら製錬業者一覧の記入が必須 2 が「はい」なのに製錬業者一覧が空
質問 3・4(対象国・紛争地域等の原産) 「はい」なら備考に製錬業者名や識別番号など裏付けを書く 「はい」で備考が空欄
質問 6(回答した仕入先の割合) 100%・90%超・75%超・50%超・50%以下・なし から選ぶ —
質問 7(製錬業者をすべて特定したか) 自社の質問 6 が 100% で、受け取った全回答の質問 6 が 100%、質問 7 と 8 が「はい」のときだけ「はい」 質問 6 が 100% 未満なのに質問 7 が「はい」
製錬業者一覧 識別番号で重複を除き、明らかに製錬業者でない商社などを除く 商社名や同じ製錬業者が並んでいる

表のルールは JEITA の記入要領による[5]。質問 3・4 は、受け取った回答の中に一社でも「はい」があれば「はい」になり、すべての回答が「いいえ」でも自社が製錬業者をすべて特定できていなければ「不明」になる、とされている[5]。仕入先が「いいえ」とだけ書いて質問 7 も「いいえ」なら、その「いいえ」は確定した答えではない。

製錬業者一覧の読み方

製錬業者一覧には、RMI が製錬業者の可能性がある企業に付けた識別番号(CID)を書く。ただし、識別番号があることは製錬業者であることの証明ではなく、RMI が調査の結果「製錬業者である」と判断した一覧(標準製錬業者名)に載っていることも、監査に適合したこととは別だと解説は注意している。監査に合格した製錬業者は、別の一覧(適合施設リスト)で確かめる[5]。

また、原料がすべてリサイクルやスクラップ由来でも、製錬業者の情報は報告する必要があるとされている[5]。仕入先が「リサイクル材なので製錬業者は不明」と書いてきたら、製錬業者の情報を求め直す。

答えない・答えられない仕入先への対応

調査が最も止まりやすいのは、二次以降の仕入先から回答が戻らないところである。解説は、回答の受領率が 100% になるまで調査を続ける必要があると書いている[5]。一方で、調査の対象外になる仕入先として、設備・工具・消耗品のような調査対象外のものの仕入先と、3TG を含まないことが明らかな部品・材料の仕入先を挙げている[5]。分母からこれらを外しておくと、追いかけるべき仕入先がはっきりする。

対応は段階を分けて考える。

1. 依頼の仕方を見直す
範囲や期限が仕入先にとって無理なものでないかを確かめる。RMI は、依頼された鉱物と仕入先の選んだ鉱物が違う場合、仕入先が優先づけの考え方を依頼元に説明することを推奨している[4]。話し合いで範囲を合わせれば答えられることも多い。

2. 含まないことの根拠を出してもらう
3TG を使っていない部材なら、CMRT の代わりに、部品構成表・成分表・設計書など、材料と製造工程で使っていないことを示す資料を保管し、調査の手順を説明できるようにしておくことを JEITA は勧めている[3]。仕入先にもこの形で根拠を出してもらう。

3. 是正を求める
解説は、是正措置の例として、方針を定めていない仕入先に策定を促すこと、製錬業者一覧に監査未取得の製錬業者がある場合はサプライチェーンをさかのぼって監査の受審を促すこと、評価の低い仕入先に改善を求めることを挙げている[5]。

4. 記録を残す
いつ誰に依頼し、何度催促し、どこで止まったか。顧客に回答するときに、回答率と未回答の理由を説明する材料になる。仕入先の評価に反映するなら、評価の項目と点数の付け方は サプライヤー評価の項目と点数化 を参照してほしい。

調査への協力を求め続けるなら、何を・どの様式で・どれくらいの期限で出してもらうかを、発注の前に取り決めの中で合意しておくほうが話が早い。取り決めに入れる条項の考え方は 外注契約書に入れる条項 で扱った。

報告の対象年と、製造委託の扱い

JEITA の FAQ は、報告対象年は製品を完成させた時点に基づき、製造委託(OEM)の場合は委託先で完成した時点で報告対象になる、としている[3]。生産を外部に委託している製品も調査の対象から外れない。委託先から CMRT を受け取り、その内容を自社の回答に集計する。

含有化学物質の調査との違い

紛争鉱物の調査と含有化学物質の調査は、同じ時期に、同じ仕入先へ来ることが多い。しかし、聞いていることは違う。含有化学物質の調査は「この部品に何がどれだけ含まれるか」を聞き、紛争鉱物の調査は「含まれている 3TG がどの製錬業者を通ってきたか」を聞く。様式も別で、片方の回答でもう片方の代わりにはならない。含有化学物質の調査の進め方は REACH などの含有化学物質の調査を仕入先に依頼するとき に、RoHS への適合の確かめ方は RoHS への適合を仕入先からどう確かめるか にまとめた。

まとめ

紛争鉱物の調査は、開示義務を負う企業の要請がサプライチェーンをさかのぼって届くものである。依頼の前に、部品表から 3TG を使う部材を絞り込み、申告の範囲と対象製品を決め、どの鉱物をいつまでに答えるかを仕入先と話し合う。回答は質問の組み合わせの矛盾と、製錬業者一覧の重複・商社の混入を確かめる。答えない仕入先には、範囲の見直し、含まないことの根拠の提出、是正の要請、記録の順で対応し、調査への協力は発注前の取り決めで合意しておく。

出典・参考資料

  1. 17 CFR 240.13p-1 Requirement of report regarding disclosure of registrant’s supply chain information regarding conflict minerals(米国連邦規則集 eCFR/77 FR 56362、2012 年 9 月 12 日)
  2. Regulation (EU) 2017/821 laying down supply chain due diligence obligations for Union importers of tin, tantalum and tungsten, their ores, and gold(欧州議会・理事会/2017 年 5 月 17 日)
  3. FAQ(JEITA 責任ある鉱物調達)(電子情報技術産業協会 責任ある鉱物調達検討会)
  4. MRT Introduction(Responsible Minerals Initiative)
  5. 紛争鉱物調査における統一フォーマット「CMRT」の書き方(CMRT Rev.6.6)(電子情報技術産業協会 責任ある鉱物調達検討会/2026 年 6 月)
  6. 責任ある鉱物調達とは(電子情報技術産業協会 責任ある鉱物調達検討会)

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