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金めっき JIS H 8620 の指定——金含有率と硬さ、下地ニッケル、膜厚と接点・はんだ付け

この記事のポイント(結論先出し)
接点・端子などの機能部品に付ける金めっきは JIS H 8620(工業用金及び金合金めっき)で、時計・装身具向けの JIS H 8622 とは別の規格である[1][2]。JIS H 8620 は、金含有率 99.9 % 以上を「金めっき」(一般に軟質)、58.5 % 以上 99.9 % 未満を「金合金めっき」(一般に硬い)と定義しており、「硬質金」「軟質金」という区分名は持っていない[1]。めっきの厚さは等級ではなく受渡当事者間の協定で決めるので、注文書に最小厚さを数値で書き、金含有率と合金元素、下地めっきの種類と厚さを付記事項として書く[1]。はんだぬれ性・有孔度・耐食性・硬さは「指定されている場合」に試験する品質なので、使い方に合うものを選んで指定する[1]。
目次
この記事の範囲
この記事は、工業用の金めっき(金メッキと書かれることも多い)を、部品を発注する側の目線で扱う。アクセサリーや装飾品の金めっきの話ではない。電子部品の接点、コネクタの端子、基板の接触部、はんだ付けする電極など、金の皮膜の電気的・化学的な性質を使う部品が対象である。
めっきの発注で共通に決める項目(めっきの記号、有効面、膜厚の測り方、密着性の試験方法、外観の限度見本)はめっきの発注で指定することで扱った。表面処理の種類を目的から選ぶ段階の話は表面処理の種類と図面の記号にある。ここでは、金めっきに特有の金含有率、厚さの決め方、下地めっき、はんだぬれ性・有孔度・耐食性に絞る。金の下地によく使うニッケルめっきそのものの指定は、同じ束のニッケルめっき(JIS H 8617)の指定で扱う。
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工業用か装飾用かで、規格と記号が分かれる
JIS H 8620 の適用範囲は、金属及び非金属素地上に工業用の目的で行った、有効面の厚さ 0.2 μm 以上の金及び金合金電気めっきである[1]。ここでいう工業用の目的とは、電気、電子、機械、その他の機能的部品などに用いることを目的とし、それぞれ特殊な性能が要求されるめっきをいう、と注で説明されている[1]。成形された部品にだけ適用するという備考もあり、めっきした条や板から後で打ち抜く場合は、この規格の想定の外になる[1]。
一方、JIS H 8622(装飾用金及び金合金めっき)は、主に時計、装身具、身辺雑貨などを対象に、外観や耐磨耗性が重視される有効面の厚さ 0.3 μm 以上のめっきを規定している[2]。記号も分かれていて、工業用は元素記号 Au の前に E を付けて「E-Au」、装飾用は D を付けて「D-Au」と表し、そのほかは JIS H 0404 の表示方法による[1][2]。JIS H 0404 には、工業用金めっき 2 μm 以上を表す例として「E-Au2」が載っている[3]。
図面に「金めっき」とだけ書かれた部品を海外や新しい仕入先に出すと、装飾用の考え方で外観中心に仕上げてくることがある。機能部品なら、図面か注文書に「JIS H 8620 による工業用金めっき」と書いて、どちらの規格の話をしているかを最初に固定する。
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| 項目 | JIS H 8620(工業用) | JIS H 8622(装飾用) |
|---|---|---|
| 対象の目的 | 電気・電子・機械などの機能的部品 | 時計・装身具・身辺雑貨など |
| 適用する有効面の厚さ | 0.2 μm 以上 | 0.3 μm 以上 |
| 記号 | E-Au | D-Au |
| 最小厚さの分類(参考) | 0.2/0.5/1.0/2.0/3.0/5.0/10.0 μm | 0.3〜40.0 μm の 10 段階 |
| 最新改正 | 1998 年(2023 年確認) | 1993 年(2023 年確認) |
数値は JIS H 8620 の適用範囲・参考表 1 と、JIS H 8622 の適用範囲・参考表 1 による[1][2]。最小厚さの分類はどちらも「参考」で、規格の要求値ではない。
「硬質金」と書く前に、金含有率と合金元素を決める
JIS H 8620 の定義では、金含有率が 99.9 % 以上の電気めっきが「金めっき」で、一般に軟質めっきである[1]。金含有率が 58.5 % 以上 99.9 % 未満の電気めっきは「金合金めっき」で、めっきの硬さは金めっきに比べて一般に高い、とされている[1]。めっきの呼び方の例には、黄銅素地やステンレス鋼素地のほかに「金・コバルト合金めっき」の例が挙がっている[1]。
現場で言う「硬質金」は多くの場合この金合金めっきを、「軟質金」は純度の高い金めっきを指しているが、規格の区分名ではないので、注文書の言葉としては足りない。JIS H 8620 は発注者が書く付記事項の 1 番目に「金含有率及び合金添加元素」を挙げており[1]、ここが空欄のままだと、仕入先の標準の浴で決まる。金含有率が指定されている場合には、10.4 の試験(ISO 4524-4 の灰吹き試験方法、分光分析、原子吸光分析など)で確かめ、質量百分率で小数点以下 1 桁まで表示する[1]。
硬さを数値で求めるなら、それも別に書く。めっきの硬さは「指定されている場合には」試験するもので、JIS Z 2244(ビッカース)または JIS Z 2251(ヌープ)の方法を使い、0.098 07 N 以上の試験荷重で、めっきの断面か表面で測る[1]。薄い皮膜の硬さは、どの試料で、どの試験力で測ったかによって値が変わりやすい。試験力の選び方は図面の硬さ指定で、HV と HRC などを換算して判定しないことは硬さの換算の扱いで扱っている。
厚さは協定で決まる。だから数値で書く
めっきの厚さは、受渡当事者間の協定によって指定する、と JIS H 8620 の 5.2 は定めている[1]。電気亜鉛めっきやニッケルめっきのように、規格の中に等級の表があって記号で選べる作りではない。そのうえで、厚さは有効面上のいかなる場所においても指定された厚さを満足しなくてはならない、とされている[1]。つまり指定するのは最小厚さで、平均ではない。厚さは μm 単位で、小数点以下 1 桁まで表示する[1]。
発注側が書くのは、最小厚さの数値と、それを保証する有効面の範囲である。コネクタの端子のように、接触する部分だけ厚く付けてほかは薄くしたい部品では、厚さの指定を面ごとに分ける。部分めっきの場合、めっきを行った面と行わない面との境界に生じるにじみの程度は受渡当事者間の協定による、と外観の備考にある[1]。境界の位置の許容差とにじみの許容範囲は、図面に書いておかないと受入で判定できない。有効面に通電用の接点を取ることが避けられない場合、その箇所の指定も協定による[1]。
厚さ試験の方法は、JIS H 8501 に規定する顕微鏡断面、電解式、蛍光 X 線式、β 線式、多重干渉式、走査電子顕微鏡、触針走査、付着量試験のいずれかによるか、協定により ISO 4524-1 の分光分析試験方法を使ってもよいとされている[1]。JIS H 8501 自体には磁力式や渦電流式も含まれているが[4]、JIS H 8620 の列挙には入っていない。サブミクロンの金は測り方による差が出やすいので、日常の検査に使う方法と、値が合わないときに判定に使う方法を分けて書いておく。
下地めっきは、素地の材料から決める
めっきの外観、耐食性、密着性などの向上を目的に下地めっきを行う場合、その種類と厚さは受渡当事者間の協定による[1]。JIS H 8620 は、対応国際規格に参考として載っている下地めっきの種類と最小厚さを附属書 2(参考)として示している[1]。
| 素地材料 | 下地めっきの種類 | 下地めっきの最小厚さ |
|---|---|---|
| 銅 | 不要 | - |
| 銅合金(特に鉛を含む快削黄銅) | ニッケル、銅又はすず-ニッケル合金 | 1.25 μm |
| 鉄鋼(オーステナイト系ステンレス鋼を除く) | ニッケル/銅+ニッケル | 10 μm/Cu 10 μm+Ni 5 μm |
| オーステナイト系ステンレス鋼 | 通常は酸性ニッケルストライク又は酸性金ストライクが必要 | 薄いめっき |
| 亜鉛及び亜鉛合金 | 銅+ニッケル | Cu 8 μm+Ni 10 μm |
| アルミニウム及びアルミニウム合金 | ニッケル | 20 μm |
数値は JIS H 8620 附属書 2(参考)表 1 による[1]。「参考」であり、規格の要求値ではない。
この表から読めるのは、下地の要否と厚さが素地で大きく変わることである。快削黄銅には 1.25 μm、アルミには 20 μm と、桁が違う。発注書に「金めっき 0.5 μm」とだけ書いて素地の材料を伝えていなければ、仕入先は下地を自社の慣行で選ぶ。JIS H 8620 は、素地の状態がめっきの品質に重大な影響を及ぼすので、素地材料を発注者が供給する場合は加工仕様書などに素地材料の情報を示さなくてはならない、としている[1]。支給材にめっきだけを頼むときは、材料記号と質別、加工の履歴まで渡す。
表の「銅は不要」は参考表の記載で、用途によって下地を求める場合はある。プリント基板の差し込み接点では、規定がなければニッケルの上に硬質金を付ける扱いがあることをプリント基板の発注で指定することで紹介した。下地を付けるかどうかと厚さは、注文書の付記事項「下地めっきの種類,厚さ」に数値で書く[1]。
「指定されている場合」に試験する品質を選ぶ
JIS H 8620 の品質の規定は、外観と密着性はどの場合も満たすべきものとし、それ以外の多くを「指定されている場合」の品質にしている[1]。使い方に合わせて選んで指定しないと、試験自体が行われない前提で読む。
1. はんだぬれ性
はんだ付けする電極なら指定する。浸せき試験では、非腐食性のフラックスを塗った試験片を、JIS Z 3282 の H60A、H63A またはこれと同等の共晶組成のはんだ浴に 250±5 ℃ で 3 秒浸せきし、浸せきした部分が均一にぬれ、はんだの表面が平たんでこぶがないことを見る[1]。JIS C 0050 または協定で有効と認めた方法でもよい[1]。試験の後に曲げ試験を行い、はんだがうろこ状にとんだりはく離したりしないことも求めている[1]。
2. 有孔度
薄い金のピンホールから下地が腐食すると接触抵抗が上がる。指定する場合は、附属書 1(規定)の硝酸ばっ気試験(約 23 ℃ で 1 時間、硝酸蒸気の中に置く)か、ISO 4524 の二酸化硫黄暴露試験・電解発像試験で調べ、1 cm2 当たりの腐食点数として表す[1]。許容する点数は注文書に書く。
3. 耐食性
JIS H 8502 の中性塩水噴霧、キャス、二酸化硫黄ガス、硫化水素ガス、混合ガスの各試験から選ぶ[1]。ガス試験は 40±1 ℃・相対湿度 80±5 % を主な条件とし、240 時間連続で行う[1]。JIS H 8620 は、この温湿度の条件を日本を含む東南アジアの高温多湿の環境に合わせたものとし、それ以外の地域向けには 25±2 ℃・75 % を用いてもよいとしている[1]。
4. 電気的性質
試験項目と方法は、必要なら協定で有効と認めた方法による[1]。接触抵抗を合否に使うなら、測り方(荷重、電流、測定点)まで書く。
5. 残留塩
めっき液の塩の残りによる汚れが問題になる場合に、協定により ISO 4524-6 で測る[1]。
密着性は、JIS H 8504 のへらしごき、テープ、熱、曲げ、巻付けの試験方法のいずれかで調べ、曲げ試験の曲げ回数は 3 回とされている[1]。JIS H 8504 には研削、押出し、引きはがしなど多くの方法が並んでいるので[5]、注文書の基本事項「検査方法(用いられる密着性試験方法など)」で名指しする[1]。
注文書に書くこと
JIS H 8620 の箇条 14 は、発注者が発注書または加工仕様書に記載しなければならない事項を、基本事項 6 つと付記事項 7 つとして挙げている[1]。基本事項は、素地材料(性質・状態・仕上がり)、めっきの記号、有効面、外観、許容できる表面欠陥(種類・大きさ・範囲・場所)、検査方法である[1]。付記事項は、金含有率と合金添加元素、下地めっきの種類と厚さ、多層めっきの各層の金含有率と厚さ、熱処理、求めるめっき品質とその試験方法、部品の特別な包装、そのほかの前後処理と制限である[1]。付記事項は協定で省略してよいとされているが、金めっきでは付記事項の側に性能を決める項目が集まっている。
包装も見落としやすい。規格は付記事項に「めっきされた部品に対する特別な包装の必要条件」を入れている[1]。接点面の汚れを嫌う部品で、手袋での取り扱いや袋の材質、仕切りの有無を求めるなら、口頭ではなくこの欄に書く。
鉄鋼素地の部品について水素ぜい性除去が指定されていれば、めっきの後 4 時間以内に熱処理を始め、その条件は受渡当事者間で決める[1]。附属書 4(参考)は、引張強さ 1 050 MPa までは不要、1 051〜1 450 MPa は 190〜220 ℃・8 時間以上、1 451〜1 800 MPa は 18 時間以上、1 800 MPa を超えると 24 時間以上という条件を示している[1]。ばねや高強度の鋼の部品に金めっきを付けるなら、素地の強度を伝えたうえで要否を書く。
受入で確かめること
送り状などには、めっきの記号、加工年月日、加工業者名、発注書や加工仕様書に記載されためっき品質の試験結果を表示する、とされている[1]。発注書に書かなかった品質の試験結果は出てこないので、成績書が届いたら、指定した品質(厚さ、金含有率、有孔度など)がすべて載っているかを見る。検査のための試験片の数、抜取方法、検査順序、検査対象箇所、試験片の代替使用は協定による[1]。試験片は原則として製品から作り、製品そのものを使えない場合の代替試験片は、可能な限り同じ材質の素地を用い、同じめっき条件で作る[1]。
電子部品の場合、金めっきの品質は部品メーカーの変更通知と結び付けて管理することになる。コネクタの材料・めっき・製造場所の変更の通知の取り決めはコネクタを調達するときで扱った。すずめっきの端子と金めっきの端子を同じ製品で使い分けるときの、すず側の指定は同じ束のすずめっき(JIS H 8619)の指定にまとめる。
よくある質問
Q. 「金フラッシュ」と言われました。厚さはどのくらいですか。
JIS H 0400 は、フラッシュめっきを短時間に行う薄いめっき方法とし、この用語は最終被覆だけに使うとよいとしている[6]。厚さの数値は定義されていない。JIS H 8620 の適用範囲は 0.2 μm 以上なので[1]、それより薄い皮膜を求める会話なら、規格の外の話になる。必要な最小厚さを数値で聞き、注文書に書く。
Q. 金めっきの部品は、塩水噴霧試験で評価すればよいですか。
JIS H 8620 は塩水噴霧のほかに二酸化硫黄・硫化水素・混合ガスの試験を挙げている[1]。どれを使うかは部品の使われる環境で決める。塩水噴霧の条件の決め方は塩水噴霧試験を仕様に入れるときを参照してほしい。
Q. 合金めっきの成分を変えると連絡はもらえますか。
規格には変更の通知の規定はない。金含有率と合金添加元素を注文書の付記事項に書き[1]、変更するときは事前に連絡することを別に取り決める。
まとめ
工業用の金めっきは JIS H 8620(記号 E-Au)で、装飾用の JIS H 8622(D-Au)とは別の規格である[1][2][3]。金含有率で「金めっき」と「金合金めっき」を分けるが、硬質・軟質という区分名は無いので、金含有率と合金元素を付記事項に書く[1]。厚さは協定で指定する最小厚さで、測り方を決めて初めて判定できる[1][4]。下地めっきは素地で要否と厚さが変わり、はんだぬれ性・有孔度・耐食性は指定したときだけ試験される[1][5]。
出典・参考資料
- JIS H 8620:1998 工業用金及び金合金めっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 8622:1993 装飾用金及び金合金めっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1993 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 0404:1988 電気めっきの記号による表示方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1988 年 3 月改正・2025 年 10 月確認)
- JIS H 8501:1999 めっきの厚さ試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 8504:1999 めっきの密着性試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 0400:1998 電気めっき及び関連処理用語(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
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