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プリント基板の発注で指定すること——規格の版・クラス・板厚の定義・データの渡し方

この記事のポイント(結論先出し)
プリント基板(部品を載せる前の配線板)の発注で「クラス 2 相当」とだけ書くと、仕入先はどの規格のどの版のクラスかを自分で選ぶことになる。JIS の多層プリント配線板の規格は、外形・板厚・めっき厚などの項目ごとに等級を選んで使う作りで、等級を変えると許容差が動き、その幅は項目によって違う。外形寸法ではクラス I と III で 4 倍の差があり、板厚のように 2 倍に届かない項目もある[1]。発注書に書くべきなのは、規格の名称・版・クラス、板厚が何を含む厚さか、基材と表面処理、それにどの版のデータ一式で作るかである。データについては、基板データの事実上の標準である Gerber 形式の仕様が、層の役割を示す属性・外形の専用ファイル・めっき後の穴径・図面とデータの分離を求めている[3]。仕上げ・板厚・材料のように図面と文章でばらばらに渡されがちな情報は、別の「ジョブファイル」にまとめて渡せる[4]。
目次
「IPC クラス 2」と書くだけでは決まらないこと
プリント基板の品質の指定でよく使われるのが、米国の業界団体 IPC の規格(IPC-6012 や IPC-A-600 など)のクラス 1・2・3 である。基板の製造データを機械で受け渡すための仕様にも、「IPC-600-Class」として 1・2・3・NA を書き込む欄と、準拠する規格(MIL、JSS、IPC6012B など)を書き込む欄が並んでいる[4]。つまり、クラスと規格名は別々の情報として扱われている。
IPC の規格は有償で、この記事では本文の数値を読んでいない。だから「クラス 2 なら何 µm」といった数値は書かない。ここで言いたいのは、クラスの数字だけでは規格と版が特定できないという点である。日本にも多層プリント配線板の JIS(JIS C 5014、1994 年制定)があり、こちらにもクラス I・II・III がある。JIS C 5014 はクラスを「通常のレベル」「高いレベル」「特に高いレベル」と定義したうえで、これらの等級は規定する個々の項目ごとに必要な等級を選択して使用するとしている[1]。基板全体を一つのクラスに揃える前提ではない。
同じ「クラス 2」「クラス II」でも、IPC と JIS では別の規格の別の区分である。仕入先が中国・台湾の工場なら、そもそも社内の標準が IPC 準拠のこともあれば、自社基準のこともある。発注書には少なくとも次の三つを書く。
- 準拠する規格の番号と版(改訂記号や年)。版を書かないと、仕入先は手元の版で作る
- クラス(等級)。項目ごとに変えるなら、その項目と等級を表にする
- 規格と図面が食い違ったときにどちらを優先するか
最後の点は、実装(部品を載せる工程)の JIS が考え方を示している。JIS C 61191-1 は、規格と購入者が承認した実装図面が食い違う場合は図面を優先し、承認していない図面との違いには購入者の承認が要るとしている[5]。基板単体の発注でも、同じ取り決めを書いておくと揉めにくい。
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クラスで何が変わるか――JIS C 5014 の例
等級の違いがどの程度かを、JIS C 5014 の表から 4 項目だけ抜き出して示す[1]。これは規格の数値の一部であり、自社の基板にそのまま当てはめるための表ではない。読み取ってほしいのは、同じ規格の中でも、等級によって許容差が項目によっては倍以上動くことである(外形寸法はクラス I とクラス III で 4 倍、板厚は 2 倍に届かない)。
| 項目(JIS C 5014) | クラス I | クラス II | クラス III |
|---|---|---|---|
| 外形寸法の許容差(100 mm 以下) | ±0.4 mm | ±0.2 mm | ±0.1 mm |
| 全板厚 1.6 mm の許容差 | ±0.25 mm | ±0.19 mm | ±0.15 mm |
| 基準穴からの部品穴の位置(長手 400 mm 以下) | 0.25 mm | 0.15 mm | 0.10 mm |
| スルーホール穴壁の銅めっきの最小厚さ(板厚 1.0 mm 超) | 12 µm | 15 µm | 20 µm |
めっき厚の行には、測り方の注記が付いている。穴壁の銅めっきの厚さは垂直マイクロセクション(基板を切断して断面を観察する方法)で測る[1]。つまり壊さないと測れない。受入で全数を確かめることはできないので、仕入先が製品と同時に作るテスト用の切片(クーポン)で測った結果をロットごとに出してもらう、といった取り決めが要る。何枚に一回、どの位置の穴を測るかまで決めておかないと、成績書の数字が何を代表しているのか分からない。
なお JIS C 5014 は対応国際規格を IEC 326-3(1991 年)と IEC 326-6(1980 年)としており、多層フレキシブル配線板・フレックスリジッド配線板・メタルコア配線板には適用しないと明記している[1]。発注する基板がこれらに当たるなら、この規格を準拠先に書いても中身が当たらない。
「板厚 1.6 mm」は何の厚さか
板厚は、図面に一つの数字で書かれることが多いが、何を含む厚さかで値が変わる。JIS C 5014 の「全板厚」は、めっき、ソルダレジスト(はんだを付けない部分を覆う樹脂の膜)、シンボルマーク(部品番号などの印字)を含む厚さとして定義され、その許容差が表で決められている[1]。
一方、材料である銅張積層板(ガラス布にエポキシ樹脂などを含ませて銅はくを張った板)の JIS C 6480 では、積層板の厚さは銅はくを含む厚さとし、ただしガラス布基材の一部の種類で 0.8 mm 未満のものは銅はくを除去した厚さとする、と定めている[2]。材料の厚さと仕上がりの厚さは、定義が違う。
実務では、次のように書き分けておくと誤解が減る。
- 仕上がり板厚(めっき・レジスト・印字を含む)と、その許容差
- 測る位置(導体の上か、導体のない部分か)。ソルダレジストや印字の有無で厚さが変わるため
- コネクタの差し込み部(エッジコネクタ)など、厚さが機能に直結する部分があれば、その部分の厚さを別に指定する
基板データ一式を機械で受け渡す仕様でも、板厚の欄は「基材とその上に付けた全ての導電材料を合わせた全体の厚さ」と定義されている[4]。データの欄と図面の数字の定義をそろえておく。
基材は「記号」と「特性」の両方で指定する
銅張積層板には、JIS C 6480 が形名の付け方を決めている。プリント配線板用は FCL、多層用は TCL という記号で始まり、基材と樹脂の組み合わせを英字で表す(例: GE=ガラス布基材エポキシ樹脂、GI=ガラス布基材ポリイミド樹脂、GT=ガラス布基材ビスマレイミド/トリアジン/エポキシ樹脂)。燃えにくいものは特性の記号の後に F を付ける[2]。銅はくの厚さは記号 18・35・70 がそれぞれ 0.018 mm・0.035 mm・0.070 mm を表す[2]。
同じ規格は、ガラス転移温度(Tg。樹脂が硬い状態から柔らかい状態に変わる温度)、はんだ耐熱性、反り率、耐燃性などを個別規格で規定するとしている[2]。つまり、通則の記号だけでは耐熱の水準まで決まらない。発注では次のどちらかを選ぶ。
- 材料メーカーと品番で指定する。品質の再現性は高いが、仕入先が別の材料に替えるには承認が要ることを明記する
- 特性で指定する(例: 基材の種類、Tg の下限、耐燃性の等級)。仕入先は手持ちの材料で対応しやすいが、どの材料を使ったかを成績書に書かせる
データ受け渡しの仕様にも、基材の種類(FR4、ポリイミド、PTFE など)、ガラス転移温度の下限、銅はくの種類、ハロゲンフリーかどうかを書く欄がある[4]。材料を別規格の同等品に置き換える場合の承認の考え方は、同等材の指定と承認の記事と同じで、誰が同等と判断したかを記録に残す。
表面処理は名前を一つ選び、例外の場所を書く
はんだ付けする銅の表面をどう仕上げるかは、実装の条件と合わせて決める項目である。基板データの仕様が挙げている選択肢は、はんだレベラー(有鉛・無鉛)、置換すず、置換銀、無電解ニッケル置換金(ENIG)、無電解ニッケルパラジウム金(ENEPIG)、硬質金めっき、プリフラックス(OSP)などである[4]。同じ仕様には、硬質金を付ける面積、エッジコネクタの面取りの有無、RoHS 対応かどうかを書く欄もある[4]。
発注では、基板全体の表面処理を一つ選び、例外になる場所(コネクタの接点部だけ硬質金、など)を図面で示す。JIS C 5014 も、差し込み接点(プリントコンタクト)のめっきは、規定がなければニッケルめっきの上に硬質金めっきを行うとし、金の厚さを等級ごとに決めている[1]。接点のめっきを指定しないと、この既定の扱いになるか、仕入先の標準になるかが曖昧になる。めっきの厚さの指定と測り方の一般的な考え方はめっきの指定の記事で扱った。RoHS の確かめ方はRoHS 適合の確認の記事に譲る。
製造データの渡し方――Gerber 仕様が求めていること
基板の製造データは、Gerber 形式(層ごとの図形を表すファイル形式)で渡すのが一般的である。仕様を管理する Ucamco 社の Gerber 仕様(2026 年 5 月版)は、製造データについて次のことを求めている[3]。
- 製造データは Gerber ファイルと、必要なら PDF などの汎用形式のファイルの組で、フォルダか zip にまとめる。rar や 7z などほかの圧縮形式は認めない
- 各ファイルが基板の何層目の何の図形かを示す属性(.FileFunction)、図形の極性(.FilePolarity)、全ファイルが同じ座標系であること(.SameCoordinates)を必ず付ける
- 全てのファイルの位置合わせをそろえ、ずらしや鏡像をせず、上から見た向き・原寸で作る
- 基板の外形は別ファイルにし、機械で読める閉じた輪郭で描く。大まかな外形線や角のマークでは足りない
- 穴あけのファイルは、めっき後の仕上がり穴径を表す。めっきする穴としない穴は別ファイルに分ける
- 人が見る図面(穴の位置図、製作図、実装図)とデータを混ぜない。図面の要素を銅箔の層に描き込むと、機械で読めなくなる
穴径の定義は、発注の現場でよく食い違う。図面の穴径が「ドリルの径」なのか「めっき後の径」なのかで、仕上がりの穴径が変わる。Gerber 仕様は穴のデータを仕上がり径として扱うので、図面の注記もそれにそろえる。穴径の許容差は、データの中に属性として持たせることもできる[3]。
板厚・表面処理・材料・レジストの色のように基板全体にかかる情報は、図面や文章で別々に伝えられ、手作業で拾われていることが多い。Gerber のジョブファイル仕様(2020 年 8 月版)は、これを機械で読める一つのファイルにまとめる形式で、全体仕様(外形、層数、板厚、IPC のクラス、表面処理、材料、電気検査の要否など)、層構成、設計ルール、各ファイルの役割を書く[4]。
同じ仕様には、プロジェクトの識別子と改訂番号を書く欄があり、その目的は「全てのファイルが同じ改訂のものかを確かめるため」と説明されている[4]。図面の版とデータの版が食い違ったまま製造されるのは、基板の発注でいちばん多い取り違えの一つである。図面の版を発注書でどう指定するかは、図面の版の管理の記事で詳しく扱う。
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受入で確かめること
受け取った基板で確かめられることと、仕入先の記録で確かめることを分けておく。
表示と包装
JIS C 5014 は、製品には品名または製品番号と製造業者名を、包装にはプリント板を表す記号 P、品名または製品番号、包装内数量、製造年月、製造業者名を表示するとしている[1]。包装は傷が付かず湿気を避けるようにし、保管も湿気を避ける場所で行う[1]。製造年月が分からないと、受け取った基板をいつまでに実装するかの管理ができない。発注書で、基板と包装の表示項目と防湿包装の要否を指定する。
外観
同じ規格は、導体表面に膨れ・しわ・き裂・はがれがないこと、めっきやコーティングをした導体に下地の銅が露出していないこと、積層板の中に層間はく離・膨れ・積層ボイド(空洞)がないことなどを求め、ミーズリング・クレイジング(ガラス繊維と樹脂の界面に生じる白い点や網目)の許容範囲を等級ごとに定めている[1]。外観の限度を写真や限度見本で合わせる手順は、外観の合否基準の記事と同じである。
電気検査と成績書
配線のつながりと絶縁を全数で検査するかどうかは、ジョブファイルにも欄がある項目で[4]、指定しなければ省かれることがある。発注書に「全数の導通・絶縁検査を行い、その結果をロットごとに提出する」と書く。めっき厚のような破壊試験の結果は、前に述べたとおり頻度と位置を決めて出させる。
検査の基準は発注の時点で渡す。発注後に基準を厳しくして不合格にすると、取適法の受領拒否ややり直しの問題になりうる。受領拒否・返品・やり直しの扱いは受領拒否・返品・やり直しの記事にまとめてある。
実装まで任せる場合――基板の要求は下流へ流れるか
部品の実装まで一括で外注する場合、基板を買うのは実装業者になる。実装の JIS C 61191-1 は、部品と素材を実装業者に保証する者を「供給業者」と呼び、その部品にプリント配線板を含めている[5]。そのうえで、実装業者や供給業者が出す下請の契約と購入注文の全てに、この規格の要求を課すよう求め、購入者の承認なしに要求を変えることを禁じている[5]。
実務に置き換えると、実装業者に「基板の仕様(規格・版・クラス・材料・表面処理)をそのまま基板メーカーへの注文に書くこと」「基板メーカーを変えるときは事前に知らせること」を求めることになる。実装の品質の指定は、基板実装の品質基準の記事で扱う。
指定項目の一覧
| 区分 | 発注書・図面に書くこと | 書かないと起きること |
|---|---|---|
| 規格 | 規格番号・版・クラス(項目ごとに変えるなら表で)、図面との優先順位 | 仕入先が手元の版・社内基準で作る |
| 寸法 | 仕上がり板厚とその定義・測る位置、外形公差、穴径(仕上がり径)と公差 | 厚さ・穴径の基準がずれ、組み付けやコネクタの差し込みで不具合 |
| 材料 | 基材の種類と特性(Tg・耐燃性など)または品番、銅はく厚、ハロゲンフリーの要否 | 耐熱の足りない材料で作られ、実装の加熱で反り・はく離 |
| 表面処理 | 処理の名称、例外の場所(接点部の硬質金など)、RoHS の要否 | 実装の条件に合わない処理で作られる |
| データ | データ一式の改訂番号、属性付きの Gerber、外形の専用ファイル、ジョブファイルまたは製作図 | 古い版のデータで製造される |
| 検査・記録 | 全数の電気検査、断面観察の頻度と位置、成績書の提出、表示と防湿包装 | 不具合が出ても原因のロットを特定できない |
よくある質問
試作は安い工場、量産は別の工場で作る予定です。指定は試作のときから必要ですか
必要である。試作で確かめた性能は、試作の材料・表面処理・板厚で出たものである。量産で工場が変わると、指定していない項目は量産工場の標準に置き換わる。試作の発注書に量産と同じ指定を書いておけば、量産工場への切り替えのときに、何が同じで何が違うかを比べられる。量産の前に何を出させて承認するかは量産承認の記事で扱った。
Gerber データだけを送れば、図面は要りませんか
要る。Gerber 仕様自身が、人が見る図面(製作図など)には重要な製造上の指示が含まれうるとし、図面とデータを分けて、図面に属する情報は図面に全て書くよう求めている[3]。板厚の定義、表面処理の例外の場所、検査の要求は、データの図形からは読み取れない。ジョブファイルに書くか、製作図に書く。
「IPC クラス 2 準拠」と言う仕入先の成績書は、何を見ればよいですか
まず、準拠したと書かれている規格の番号と版が、発注書と同じかを見る。次に、成績書の測定項目(めっき厚、穴径、板厚など)が、どのサンプルで、何点測ったものかを見る。断面観察の結果であれば、どの穴の断面かも確かめる。数字が規格の下限ぎりぎりに並んでいるなら、工程のばらつきを聞いておく。
まとめ
プリント基板の発注では、クラスの数字だけでなく、規格の名称と版を書く。JIS C 5014 のように項目ごとに等級を選ぶ規格もあり、同じ等級名でも許容差は項目で大きく違う[1]。板厚は何を含む厚さかを定義し[1][2]、基材は記号と特性の両方で指定する[2]。表面処理は一つ選び、例外の場所を図面に示す[4]。データは属性付きの Gerber と外形の専用ファイルで渡し、穴は仕上がり径でそろえ、図面とデータを分ける[3]。全体の仕様と改訂番号はジョブファイルや製作図にまとめる[4]。実装まで任せるなら、基板の要求が実装業者から基板メーカーへそのまま流れることを契約で確かめる[5]。
出典・参考資料
- JIS C 5014:1994 多層プリント配線板(日本産業標準調査会 JIS 検索で本文を閲覧)
- JIS C 6480:1994 プリント配線板用銅張積層板通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で本文を閲覧)
- The Gerber Layer Format Specification Revision 2026.05(Ucamco/2026 年 5 月)
- Gerber Job Format Specification Revision 2020.08(Ucamco/2020 年 8 月)
- JIS C 61191-1:2021 プリント配線板実装-第1部:通則-表面実装及び関連する実装技術を用いた電気機器・電子機器用はんだ付け実装要求事項(日本産業標準調査会 JIS 検索で本文を閲覧)
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