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3Dデータ(STEP)で発注するとき——図面との優先順位、版、変換で落ちる情報の確かめ方

この記事のポイント(結論先出し)
3D データ(STEP などの CAD データ)を付けて発注すると、仕入先は形を正確に受け取れる。その代わり、図面と 3D データのどちらを正とするか、データのどの版で作るか、交換用の形式に変換したときに何が落ちるかが、新しく決めるべき事項になる。JIS B 0060-1 は、3D のモデルに寸法を表示しない場合でも、寸法の許容限界を要求するときは寸法を省略してはならないとしている[1]。発注書には、正とする資料と優先順位、図面と同じ版の識別、交換形式と元の CAD の種類・版、変換の確認方法を書く。2015 年の学会誌の解説は、形状の変換は総じて大きな問題ではなくなった一方、寸法や公差などの注記(PMI)の変換はツールによって成績が大きく違うと指摘している[2]。仕入先が作った加工データや金型のデータを、発注内容に含めないまま無償で出させることは、取適法の対象取引では違反事例として挙げられている[5]。
目次
3D データで発注すると、何が新しく決まっていないか
3 次元 CAD で設計した部品を外注するとき、図面と一緒に STEP などの 3D データを渡すことが増えた。曲面の多い部品や、図面の寸法だけでは形を伝えきれない部品では、3D データがあるほうが仕入先は早く正確に加工の段取りを組める。見積の段階で 3D データを渡すと、加工時間の見積もりも出しやすくなる。
一方で、図面だけで発注していたときには起きなかった食い違いが出てくる。図面の寸法と 3D データの形がわずかに違っていたとき、どちらで作るのか。図面は改訂したが 3D データは古いまま、という版のずれをどう防ぐのか。発注側の CAD から交換用の形式に書き出したデータを、仕入先が別の CAD で読み込んだとき、何が正しく渡り、何が落ちるのか。いずれも、発注書で決めておかなければ、問題が起きてから話し合うことになる。
製品の幾何特性仕様の基本原則(JIS B 0024)は、その規格でいう「図面」という語を、可能な限り広い意味において、部品を規定する文書群全体を網羅的に含んでいると解釈するとしている[6]。3D データも、部品を規定する文書の一部として扱われる。図面と同じように、正本・版・受け渡しの方法を管理する対象になる。
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3D データの構成を知っておく
デジタル製品技術文書情報の総則である JIS B 0060-1 は、三次元製品情報付加モデルを、3 次元 CAD で作成した形状を表す設計モデルに、材料・公差・溶接・表面処理などの要求事項を直接付加したもの、及び/又は間接的に二次元図面で指示したものに、データの管理情報を加えたデジタル情報と定義している[1]。そのうえで、このモデルが満たすべき要件として、設計モデル、必要に応じて設計モデルから作成した二次元図面、必要に応じて寸法・幾何公差・表面性状・溶接・熱処理・注記などの要求事項、部品番号・部品名称・設計変更履歴などの管理情報を挙げている[1]。
この規格の参考の表は、モデル管理情報として、部品名称・部品番号・設計変更履歴・承認・注記に加え、CAD 及びビューアの種類とそのバージョンなどのツール使用情報を挙げている[1]。発注側が仕入先に渡す 3D データについても、同じ項目を一緒に伝えれば、相手はどのデータをどのツールで作ったかを確かめられる。
| 発注で決めること | 根拠になる規格・資料の記述 | 発注書・依頼書に書く内容の例 |
|---|---|---|
| 正とする資料と優先順位 | 要求事項は設計モデルに直接付加するか、二次元図面で間接的に指示する[1] | 「寸法の許容限界と注記は図面による。図面に寸法のない形状は 3D データによる」 |
| 寸法を 3D データで読む範囲 | 「寸法は設計モデルによる」旨を注記すれば寸法の表示を省略できるが、寸法の許容限界を要求する場合は省略してはならない[1] | 公差を付ける寸法は図面か 3D 注記に必ず書く |
| データの版 | 管理情報の更新では、変更箇所と変更がなかった箇所を明確に区別できるようにする[1] | 図面と同じ版記号をファイル名とデータの属性に付ける |
| 交換形式と元の CAD | 管理情報に CAD 及びビューアの種類とバージョンを含める[1] | STEP(形状のみ/注記付き)、元の CAD の種類と版 |
| 変換の確認方法 | 変換の信頼性を高めるには、データの品質検査と、変換前後のデータを比べる変換保証が重要。代表値の比較は失敗を簡便に検出できるが、形状間の距離を計算する方法のほうが多くの崩れを検出する[2] | 体積・重心などの代表値を送り、受け手でも同じ値になるかを確かめる(変換の失敗を見つけるための確認で、形が正しいことの確認にはならない)。重要な部品は形状どうしの比較か、初回品の三次元測定で確かめる |
| 3D に載らない要求 | 一般公差・材料など部品全体の特性は属性情報として保存され、置く場所や名前は会社ごとにルールが違う[2] | 普通公差・材料・表面処理を図面か仕様書に文字で書く |
図面と 3D データ、どちらを正とするか
最初に決めるのは、二つの資料が食い違ったときにどちらに従うかである。製図総則(JIS Z 8310)は、図面に描いた図形は対象物の形を示すものであり、その寸法は図形を測るのではなく指示した寸法数値によると定めている[3]。紙の図面では、図形の線の長さを定規で測って寸法とすることはしない。3D データでは、モデルそのものが正確な形を持っているので、図面に寸法の書いていない部分はモデルから読む、という使い方ができる。
精密工学会誌の解説(2015 年)は、下流の工程では二次元図面が正のデータとみなされる場面も多く、3 次元 CAD データとの二重管理に起因するデータの再作成や整合のチェックに労力を費やしていることも珍しくないと書いている[2]。発注の現場でも、図面と 3D データの両方を渡しながら、どちらが正かを決めていない例は多い。
実務で多い決め方は、寸法の許容限界・幾何公差・表面性状・材料・注記は図面に従い、図面に寸法の書いていない形状(自由曲面や、機能に効かない逃げの形など)は 3D データの名目の形に従う、というものである。この場合、3D データの形をどこまでの公差で作ればよいかを、普通公差や輪郭度の形で別に決めておく。3D データだけで発注する(図面を出さない)なら、JIS B 0060-1 のとおり公差を付ける寸法はモデルの注記として必ず表示させる[1]。どちらの形にするかを発注書に一文で書いておけば、食い違いが見つかったときに迷わない。
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交換形式に変換すると、何が落ちるか
発注側と仕入先が同じ CAD を使っているとは限らないので、受け渡しには STEP や IGES のような交換用の形式が使われることが多い。先の解説は、商用の 3 次元 CAD が導入され始めた頃は形状データの変換の失敗が大きな問題だったが、自動車業界を中心としたデータ品質の取り組みもあり、100% の変換成功率は難しいものの総体的には大きな問題ではなくなってきたと書いている[2]。
形状より注意が要るのは、寸法や幾何公差などの注記である。同じ解説は、寸法・幾何公差・溶接記号・表面仕上げなど従来は図面に書かれていた情報を 3 次元的な注記として CAD データに付加する取り組みが活発になっており、これらは PMI(製品製造情報)と呼ばれることが多いとしたうえで、STEP などでは表示用のデータと実際の属性情報の両方を記述できるが、それを読み書きする変換ツールは発展途上で、ツール間で変換の成績や対応する CAD が大きく異なると指摘している[2]。受け手の画面に注記が表示されていても、それが表示用の線だけで、公差の値として読み取れる情報が落ちている、ということが起こりうる。
さらに、一般公差や材料、版・作成者・日付などの管理情報は、部品全体に対する属性情報として保存され、情報を入れる場所や属性の名前が会社ごとに大きく違うため、変換の際に対応づけが必要になるケースが多いとしている[2]。発注側の CAD では属性に入っている普通公差や材料が、仕入先の CAD では見えない場所に入ってしまう、ということである。部品全体にかかる要求は、3D データの属性に頼らず、図面か購買仕様書に文字で書いておくほうが確実である。一般注記に何を並べるかは図面の一般注記に何を書くかで扱う。
変換の確認をどうするか
解説は、変換の信頼性を高めるには、変換されるデータの品質検査と、変換前後のデータを比べる変換保証の二つが重要だとしている。形状の変換保証には、重心・体積・慣性モーメントなどのモデルの代表値を比べる方法と、二つの形状の間の距離を計算して閾値を超えるかを判定する方法があり、前者は簡便に失敗を検出できるが、後者でしか検出されないケースのほうが多いため、前者を後者の代わりのラフなチェックとして位置づけることはできないと書いている[2]。
発注の実務で全部の部品に形状間の距離の計算をするのは現実的ではない。せめて、発注側で 3D データの体積と表面積、重心の座標を書き出して依頼書に添え、仕入先が自分の CAD で読み込んだときに同じ値になるかを確かめてもらう。値が合わなければ、その時点で変換に問題があると分かる。値が合っても形の局所的な崩れは残りうるので、重要な部品では、初回品の三次元測定の結果を 3D データと比べて確かめる。三次元測定のデータの求め方は三次元測定(CMM)の測定データを仕入先に求めるときで扱う。
版をそろえる
3D データを使う発注で多い事故は、図面と 3D データの版のずれである。図面を改訂して新しい版を送ったのに、3D データは前のものが仕入先の手元に残っている。あるいは、設計者が 3D データだけ直して、図面の改訂が後回しになっている。
機械製図の JIS B 0001 は、出図後に図面を訂正・変更するときは変更前の図形や寸法を判読できるように保存するとしつつ、寸法の変更に伴って図形が自動的に修正されてしまう場合はこの限りではないとしている[4]。3 次元 CAD から図面を出していると、寸法を直した時点で前の形は消える。変更前の値は変更履歴欄に文字で残すか、旧版のデータを別に保管しておく。
仕入先に渡すときは、図面と 3D データに同じ版記号を付け、ファイル名だけでなく、データの属性や添え状にも書く。発注書には図面番号と版を書き、「3D データは同じ版のものによる」と書いておけば、版のずれに気づきやすい。図面の改訂を仕入先に伝える手順は図面の版を発注書で指定し、改訂を合わせるで扱う。
仕入先が作るデータの扱い
3D データのやりとりは、発注側から仕入先への一方向だけではない。仕入先は、受け取った 3D データをもとに加工用のデータや金型の設計データを作る。これらを誰のものとし、発注側に渡してもらうのかを、発注の時点で決めておく。
公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、金型の製造委託で、4 条明示した給付の内容に金型の図面が含まれていないのに、金型の納入に併せて図面を納品するよう求めることは不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあり、提供させたいなら別途対価を払って買い取るか、あらかじめ発注内容に図面を含むことを明らかにして、それを含んだ対価を十分な協議のうえで設定して発注する必要があるとしている[5]。違反行為の事例としても、中小受託事業者が作成した金型の図面・加工データ等を、外国の事業者に製造させるために対価を払わず提出させた例や、CAD システムで作成したデザイン画の提出後に、委託内容にない電磁的データを対価を払わず提出させた例が挙げられている[5]。
仕入先が作ったデータを後で使う見込みがあるなら、そのデータを発注内容に含め、対価に織り込んでおく。後から「データもください」と求めると、この問題に当たりうる。金型の費用負担の考え方は有償支給材と金型代のルールで、預けたデータの秘密の扱いは取引先の情報をクラウドに預ける前に確かめることで扱っている。
よくある質問
STEP だけ送って、図面なしで見積をもらってよいですか
形の加工工数を見積もってもらう段階なら使える。ただし、公差・表面性状・材料・表面処理が決まっていなければ、仕入先は自分の想定で単価を出す。見積の前提をそろえるには、少なくとも普通公差、材料、表面処理、公差を付ける寸法の一覧を文字で添える。そのまま発注に進むなら、JIS B 0060-1 のとおり、公差を付ける寸法は省略せずに指示する[1]。
仕入先から「そちらの CAD の元データがほしい」と言われました
元の CAD のデータには、形を作る操作の履歴まで入っていることがある。解説は、履歴付きのデータを別の CAD で再現する変換は、各 CAD が独自に機能開発している領域で標準化が難しいと書いている[2]。相手が同じ CAD を持っているなら元データのほうが情報は多いが、設計の考え方まで渡すことになる。何のために必要かを聞き、交換形式で足りるならそちらで渡す。元データを渡すなら、秘密保持の取り決めと使い道の制限を先に結ぶ。
3D プリントで作る部品も同じ考え方でよいですか
基本は同じだが、積層造形ではデータの形式や造形の向きが寸法の出方に効く。注意点は3D プリント部品を発注するとき指定することにまとめた。
まとめ
3D データを付けた発注では、図面と 3D データのどちらを正とするか、データのどの版で作るか、交換形式で何が落ちるかが、新しく決めるべき事項になる。JIS B 0060-1 は、3D のモデルが設計モデル・要求事項・管理情報で構成されること、寸法の表示を省略しても許容限界を要求する寸法は省略しないことを定めている。交換形式では、形状の変換は総じて安定したが、PMI や属性の情報はツールによって落ちうるので、部品全体の要求は文字で書く。体積や重心などの代表値の比較は変換の失敗を拾うためのもので、それだけで形の正しさは確かめられないから、重要な部品は形状どうしの比較か初回品の三次元測定で確かめる。図面と 3D データには同じ版記号を付ける。仕入先が作るデータを使うなら、発注内容に含めて対価を決めておく。
出典・参考資料
- JIS B 0060-1:2015 デジタル製品技術文書情報-第 1 部:総則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2015 年 10 月 20 日制定・2025 年 6 月 20 日確認)
- 相馬淳人「3 次元 CAD データ有効活用のためのデータ連携の現状と今後の方向性」精密工学会誌 Vol.81, No.3(精密工学会/2015 年)
- JIS Z 8310:2010 製図総則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 2 月 22 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- JIS B 0001:2019 機械製図(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 5 月 20 日改正)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- JIS B 0024:2019 製品の幾何特性仕様(GPS)-基本原則-GPS 指示に関わる概念,原則及び規則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 2 月 20 日改正)
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