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三次元測定(CMM)の測定データを仕入先に求めるとき——座標系・点数・温度・成績書の様式

この記事のポイント(結論先出し)
三次元測定機(CMM)の成績書は、数値が並んでいてもどの座標系で、どの点を、どの温度で、どう計算したかが書かれていなければ、発注側で検証も比較もできない。依頼書には、どの段階で何個を測るか、座標系とデータムの作り方、測る点の数と配置、温度の扱い、計算方法、測定機の性能と定期検査の状態、報告の様式を書く。寸法は 20 ℃で決めることが規格の前提で[1]、測定機の性能は受入検査と定期検査で確かめるものとされている[2]。初回は測定条件の一覧と点群データまで出してもらい、2 回目以降は条件が変わっていないかを照合する、という二段構えにすると、受入で値が合わないときに原因をたどれる。
目次
「三次元で測りました」だけの成績書では、何も確かめられない
機械加工品や板金・樹脂部品の発注で、仕入先に三次元測定機での測定結果を求める場面は増えている。ところが届いた成績書が、図面の寸法番号と実測値、判定欄の「OK」だけ、ということは珍しくない。受入で発注側が測ると値が違い、どちらが正しいのか話し合おうにも、仕入先がどう測ったのかが分からない。
三次元測定機は、プローブ(測定子)で部品の表面の点を取り、その座標から直線・円・平面・円筒などの形をあてはめ、その形どうしの距離や角度を計算して寸法を出す機械である。精密工学会誌の解説は、寸法測定といっても前段階として測定データから直線・円・平面などの幾何要素を決める必要があり、決めた要素どうしの演算で寸法を求め、設計値と公差に照らして判定する、と説明している[3]。つまり成績書の数値は、点の取り方と計算の組み合わせの結果であり、その中身は測定プログラムの中にしかない。
データムの取り方や評価の計算方法の違いで幾何公差の値が合わなくなる仕組みは、同じシリーズの幾何公差の測定方法を仕入先と合わせるで扱った。この記事はその手前、測定データを仕入先に求めるとき、依頼書と成績書の様式に何を書いておくかに絞る。
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依頼書に書いておく項目
以下は規格の要求ではなく、受入で揉めないための実務の提案である。それぞれの項目について、書いておかないと何が起きるかを並べる。
| 項目 | 書かないと起きること | 依頼書の書き方の例 |
|---|---|---|
| 座標系とデータム | 原点と軸の決め方が違うと、位置の寸法がまるごとずれる | 図面のデータム A・B・C の順に座標系を作る。縁から除く幅を書く |
| 測る点の数と配置 | 穴を 3 点で測るか 8 点で測るかで、形のくせを拾うかどうかが変わる | 穴は等間隔に何点、平面は格子で何点、深さ方向に何断面 |
| 温度 | 部品が冷え切っていない状態で測ると、熱膨張の分だけ寸法がずれる | 測定室の温度、部品をなじませた時間、温度補正の有無を記録 |
| 計算方法 | 最小二乗と最小領域、異常点を除くかどうかで、値が変わる | 形状の評価方法、異常点を除く条件 |
| 測定機の状態 | 性能の確認が切れた測定機の値を、根拠として使ってしまう | 最大許容長さ測定誤差の値と、直近の定期検査の日付 |
| 報告の様式 | どの値が図面のどの寸法か、後から対応がとれない | 番号付き図面、公称値・公差・実測値・偏差・判定を 1 行に |
| 測る個数と個体 | 良い個体を選んで測った結果を、ロットの代表と取り違える | 型のキャビティごと、治具ごとに何個。部品に通し番号 |
座標系とデータム
三次元測定の最初の手順は、部品の上に座標系を作ることである。図面で決められたデータム(寸法の基準になる面・線・点)から座標系を作るのが原則だが、段取りの都合で仕入先が別の面を基準にしてしまうことがある。依頼書には「図面のデータムの順に座標系を作ること」と書き、成績書の冒頭に、実際にどの面を何点で取り、どう計算して座標系を作ったかを書いてもらう。
データムを計算でどう作るか(外接か最小二乗か、縁を何 mm 除くか)で値が変わる話は、前出の幾何公差の記事に詳しく書いた。この記事で付け加えるのは、その条件を成績書の書式に欄として設け、毎回埋めてもらうことである。欄がなければ、仕入先は書かない。
温度——寸法は 20 ℃で決まっている
JIS B 0680:2023 は、製品の幾何特性と寸法特性の仕様のための標準基準温度を 20 ℃に固定し、特に明示がない限り、製品の寸法の基準温度はこの標準基準温度とする、と定めている[1]。図面に書かれた寸法は、特に断りがなければ「20 ℃のときの寸法」ということになる。製品の幾何特性仕様の基本原則を定める JIS B 0024:2019 も、全ての仕様は基準状態で適用するとし、その中に JIS B 0680 の標準温度と、部品が汚れていないことを含めている[4]。
ただし、20 ℃ちょうどで測ることは現実にはできない。JIS B 0680 の附属書 A(参考)は、検証が基準温度と異なる温度で行われることは避けられないとしたうえで、その差に対する適切な補正が必要であり、補正量を正確に知ることができないことの影響を測定の不確かさに計上する必要がある、と書いている[1]。
どのくらい効くのかの目安として、1973 年の精密機械誌の解説は、三次元測定機の構造に使われる鋳鉄・鋼材の平均的な熱膨張係数を 11.5×10-6/℃とし、1,000 mm の長さで 1 ℃の温度差がある物を測ると 11.5 μm の誤差を生じる、と計算している[5]。同じ解説は、三次元測定機を一定の温度で安定させるには小さなもので 1 日、大きなもので数日を要するとし、ファンの風や空調の吹出口の風を直接当てることを避けるよう求めている[5]。
加工直後の部品は機械の熱を持っている。依頼書には「測定室で部品を何時間なじませてから測るか」「測定室の温度の記録」「温度補正をしたかどうか」を書き、成績書の欄にしておく。厳密な補正までは求めなくても、記録があれば、値が合わないときに温度を原因から外せる。
計算方法と異常点の扱い
取った点から円や平面を決める計算には、いくつかの方法がある。前出の精密工学会誌の解説は、通常は最小二乗法が使われるとしたうえで、最小二乗法は測定値に偏りがない、誤差がガウス分布をしている、といった理想の条件を前提にしていると指摘している[3]。そして実際の測定では雑音・バリ・ごみなどの異常なデータが混ざることがあり、それを取り除く必要が出てくるとして、異常点の影響を抑える計算(ロバスト推定)を紹介している[3]。
実務で問題になるのは、仕入先が異常点を除いているかどうかを、発注側が知らないことである。バリやごみの点を除けば、値は良くなる。それ自体は正しい処理だが、除く条件が仕入先の判断に任されていると、本当の形状のくせまで「異常点」として除かれていても分からない。依頼書には、異常点を除くことを認めるか、除くならどの条件で除き、何点除いたかを成績書に書くか、を決めておく。
測定機の性能と、定期検査の状態
三次元測定機そのものの性能は、JIS B 7440-2:2013(ISO 10360-2:2009 と一致)で確かめる。この規格は、長さ測定における座標測定機の性能の受入検査と定期検査を規定し、その適用を、離散点を取る接触式プローブを使う直交形の座標測定機に限っている[2]。光学式プローブの測定機や直交形でない測定機には、受渡当事者の合意がある場合を除き適用しない[2]。
規格では、性能を長さ測定誤差の最大許容値(データシートでの表記は MPE(EL))などで表し、その値は受入検査では製造業者が、定期検査では使用者が指定する[2]。また、温度・湿度・振動などの環境条件が製造業者のデータシートの範囲に入っていない場合、使用者はこれらの最大許容値の検証を要求できない、としている[2]。附属書 A(参考)は、定期検査の間にも日常的に点検(中間点検)を行うことが望ましく、その間隔は環境条件と要求される測定性能によって決めることが望ましいとしている[2]。
発注側が仕入先に確かめるとよいのは、次の 3 点である。
- 使っている測定機の最大許容長さ測定誤差の値(データシートの表記)
- 直近の定期検査の日付と、その結果が許容値に入っていたかどうか
- 設置場所の温度管理が、測定機のデータシートの範囲に入っているか
部品の公差に比べて測定機の誤差が大きすぎれば、どれだけ丁寧に測っても判定に使えない。逆に、公差に余裕がある部品にまで高精度の測定機と細かな条件を求めると、測定費がかさむ。どこまで求めるかは、部品の公差と用途で決める。
成績書の様式に入れる欄
成績書の書式は発注側が用意して渡すほうが、仕入先ごとにばらばらの書式を読み解くより早い。最低限、次の欄を設ける。
- 見出し:品番・図面番号と版、ロット番号、測った個体の通し番号、測定日、測定者
- 測定条件:測定機の型式、プローブの構成、測定室の温度、部品をなじませた時間、温度補正の有無
- 座標系:データムに使った面と点数、座標系の作り方
- 測定結果:図面の寸法番号ごとに、公称値・公差・実測値・偏差・判定
- 計算:形状の評価方法、異常点を除いた場合はその条件と点数
図面には寸法ごとに番号を振った版(番号付き図面)を用意し、成績書の行と 1 対 1 で対応させる。番号付き図面の版と成績書の版がずれると、どの値がどの寸法かが分からなくなる。図面の版を発注書でどう指定するかは、同じシリーズの図面の版を発注書で指定するで扱う。試作品の成績書の記載項目は試作部品の試験成績書の記事も参考になる。
初回は点群まで、2 回目以降は条件の照合
初回品(量産を始める前の最初の部品)では、成績書に加えて、測定プログラムの設定内容と、取った点の座標データ(点群)を出してもらうとよい。発注側が同じ部品を自分の測定機で測ったとき、同じ点群から同じ計算をすれば同じ値になるかを確かめられる。2 回目以降は、測定条件の欄が初回と同じかを照合すれば足りる。条件が変わっていれば、値が変わった理由をそこから追える。
データの形式
測定データを電子的にやりとりする共通の形式もある。ISO 23952:2020 は、製造の品質情報を扱う QIF(Quality Information Framework)という情報モデルの全体構成を定める規格で、XML のスキーマで記述され、ASME の GD&T と ISO の GPS(幾何特性仕様)の内容、測定の計画と結果のデータ(ISO 22093 の DMIS などで定義されたもの)を扱う、と説明されている[6]。双方の測定ソフトが対応していれば、紙やPDFの成績書を手で転記する手間と転記の誤りを減らせる。ただ、対応していない仕入先にこの形式を求めるのは負担が大きい。求めるなら、形式と版を依頼書に書く。
何個を、どの個体を測ってもらうか
三次元測定は 1 個あたりの時間がかかるので、全数には向かない。依頼書では、どの段階で何個を測るかを分けて書く。
初回品では、金型のキャビティ(同時に成形される型の穴)ごと、加工治具ごとに 1 個以上を測ってもらう。キャビティや治具が複数あるのに 1 個しか測らないと、測らなかったキャビティの寸法は分からないままになる。
量産の途中では、図面の全寸法を測るのではなく、機能に効く寸法と、ばらつきやすい寸法に絞って頻度を決める。量産を始める前に何を出させて承認するかは、同じシリーズの量産開始前の承認で仕入先に出させるものにまとめた。
測った個体には通し番号を付けてもらい、成績書と現物を結び付ける。値が合わないとき、同じ 1 個を往復させて測り直すためである。測定のばらつきそのもの(同じ部品を何度測るとどれだけ値が揺れるか)を確かめる手順は、測定システム解析を仕入先に求めるで扱う。
値が合わないときと、後から条件を変えるとき
受入で測った値が成績書と合わないときは、同じ個体で、座標系・点数・温度・計算方法を表にして並べ、違う条件を一つずつそろえて測り直す。合否の境目付近の値をどう扱うかは、測定の不確かさを考慮した判定の規則(JIS B 7440-2 が引用する JIS B 0641-1 など)の考え方を参考に、事前に決めておく[2]。
測定の条件は検査基準の一部である。取適法が適用される取引について、同法のテキストは、受領を拒んでも認められない場合の例として、検査の基準がはっきりせず納入品が委託の内容と違うのかどうかが明らかでない場合と、発注の後で基準を恣意的に引き上げ、それまで合格だった品を不合格にする場合を挙げている[7]。値が合わなかったことをきっかけに、点数や計算方法を一方的に厳しい側へ変えて不合格にするのは避ける。変えるなら、合意のうえで次の発注から変える。受領拒否と返品の範囲は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで扱っている。
よくある質問
仕入先が三次元測定機を持っていない
ノギスやハイトゲージ、投影機でも測れる寸法は多い。三次元測定でしか確かめられない寸法(自由曲面、複数のデータムに対する位置など)だけを、発注側か外部の測定機関で測る分担にする方法もある。その場合も、どの寸法を誰が測るかを依頼書に書いておく。
測定プログラムそのものを出してもらえるか
測定プログラムは仕入先の作業のノウハウでもあり、出したがらないことがある。プログラムのファイルそのものではなく、座標系の作り方・点の配置・計算方法を文章や図にした「測定条件書」を出してもらえば、照合には足りることが多い。
測定費はどちらが持つのか
三次元測定と成績書の作成は、仕入先にとって工数がかかる作業である。求める測定の範囲と頻度を見積依頼の段階で示し、見積に含めてもらう。発注後に測定の範囲を広げるなら、費用も改めて協議する。
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まとめ
三次元測定の成績書は、点の取り方と計算の組み合わせの結果であり、条件が書かれていなければ発注側では検証できない。依頼書には、座標系とデータム、点の数と配置、温度、計算方法と異常点の扱い、測定機の性能と定期検査、報告の様式、測る個数を書く。図面の寸法は 20 ℃が基準であり、温度の記録は値が合わないときの切り分けに効く。初回品では測定条件と点群まで出してもらい、2 回目以降は条件の照合で済ませる。測定の条件を後から一方的に厳しくして不合格にしないことも、発注側が守る線である。
出典・参考資料
- JIS B 0680:2023 製品の幾何特性仕様(GPS)-製品の幾何特性及び寸法特性の仕様に関する標準基準温度(日本産業標準調査会 JIS 検索/2023 年改正)
- JIS B 7440-2:2013 製品の幾何特性仕様(GPS)-座標測定機(CMM)の受入検査及び定期検査-第 2 部:長さ測定(日本産業標準調査会 JIS 検索/2013 年改正)
- 門脇聰一「三次元測定機(CMM)におけるデータ処理と形状評価」精密工学会誌 Vol.61, No.8(精密工学会/1995 年)
- JIS B 0024:2019 製品の幾何特性仕様(GPS)-基本原則-GPS 指示に関わる概念,原則及び規則(日本産業標準調査会 JIS 検索/2019 年改正)
- 広瀬藤司・宮本克巳「三次元測定機の精度試験と測定環境」精密機械 39 巻 7 号(精密工学会/1973 年)
- ISO 23952:2020 Automation systems and integration — Quality information framework (QIF) — An integrated model for manufacturing quality information(国際標準化機構(ISO)/2020 年発行)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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