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部品を別々の仕入先に出す前に——公差の積み上げを最悪値と統計で確かめる

この記事のポイント(結論先出し)
部品を別々の仕入先に出すと、各社は自分の部品の公差を守って作るが、組み上げたときの寸法は誰も保証していない。発注の前に、組立の機能に効く寸法がどの部品のどの寸法の積み重ねでできているかを拾い、まず各公差を単純に足す最悪値で計算する。収まらないときに統計的な計算(二乗和の平方根)を使うなら、それは各寸法が互いに独立で、正規分布に近いことを前提にしており[1]、実務ではさらに各寸法が狙いの中心で作られていることも当てにしている(この点は出典の仮定ではなく、この記事で置いた前提である)。仕入先が違えば中心のずれ方もそろわないので、その前提を発注条件として伝え、初回の実測で確かめる。収まらなければ、公差の配分を見直すか、組立で吸収する工夫を図面に織り込む[2]。
目次
部品は全部合格なのに、組み上がらない
ケースと蓋とスペーサーを 3 社に分けて発注した。受入検査では 3 点とも図面の公差に入っていて合格だった。ところが組み立てると、蓋が閉まらない個体が出る。どの仕入先に聞いても「うちの部品は図面どおり」と答え、それは事実である。問題は、図面どおりの部品を組み合わせたときの寸法が、そもそも機能を満たす範囲に入るように公差が決められていなかったことにある。
1 社にまとめて発注していれば、仕入先が組み立てて確かめるので、こうした問題は量産の前に表に出やすい。部品ごとに仕入先を分けると、組立の寸法を確かめる工程が発注側にしか残らない。大阪大学の研究者らの講演論文は、設計期間の短縮で流用設計が増えたこと、後工程との情報共有が減ったこと、厳密な公差設計が求められる海外メーカーに発注する機会が増えたことなどから、不適切な公差設定による不具合が目立つようになっている、と指摘している[2]。
この記事は、部品を分けて発注する前に、公差の積み上げ(寸法の連鎖に沿って公差がどう重なるか)を確かめる手順を、発注する側の目線でまとめる。
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二つの計算方法と、その前提
公差の積み上げの計算には、大きく二つの考え方がある。
| 項目 | 最悪値で足す方法 | 統計的に足す方法 |
|---|---|---|
| 計算 | 各寸法の公差を単純に足す | 各寸法の公差の 2 乗を足して平方根をとる |
| 4 部品がそれぞれ ±0.1 mm のとき | ±0.4 mm | ±0.2 mm(0.1 の 2 乗を 4 つ足した 0.04 の平方根) |
| 言っていること | 全部品が公差内で、部品を剛体として扱えるなら、組立寸法は必ずこの範囲に入る | 前提が成り立てば、組立寸法のほとんどがこの範囲に入る |
| 前提 | 各部品が公差内で、組み付けても変形しない(剛体として扱える)こと | 各寸法が互いに独立で、正規分布に近く、ばらつきの幅が公差に対して決まった関係にあること。加えて、各寸法が公差の中央付近で作られていること(この記事で置いた前提) |
| 外れると | 公差が厳しくなり、部品の加工費が上がる | 計算より組立寸法が広がり、組み上がらない個体が想定より多く出る |
上の表の数値は、計算の仕組みを示すための例である。統計的な方法では、部品の数が増えるほど最悪値との差が開く。だから公差を緩めたい設計者にとっては魅力があるが、そのぶん前提に頼っている。
統計的な方法が頼っている前提
計測自動制御学会論文集に掲載された光学系の公差設計の論文は、各変動の分布が全て正規分布で、互いに相関がないと仮定すると、よく知られている分散の加法性が成り立つとし、そのうえで各公差を標準偏差の定数倍とおいて公差の関係式を導いている[1]。逆に言えば、正規分布で相関がない、という仮定が成り立たなければ、二乗和の平方根で足すことの根拠はなくなる。
米国国立標準技術研究所(NIST)の統計ハンドブックは、N 回の測定の平均どうしの一次結合 Y=AX̄+BZ̄ の標準偏差を、A²sx²+B²sz²に共分散の項 2ABsxz を加えた量の平方根に 1/√N を掛けた形で示し、共分散の項は信頼できる推定値がある場合にだけ含める、と注記している[3]。平均ではなく 1 個ずつの寸法どうし(N=1)を足す場合も、式の形は同じである。二つの寸法が同じ原因で同じ向きにずれる(相関がある)なら、この項が加わり、組立寸法のばらつきは独立と仮定したときより大きくなる。同じ材料ロット、同じ治具、同じ金型から来た寸法どうしには、こうした相関が生まれうる。
「中心で作られている」という前提が、別々の仕入先で崩れる
統計的な計算では、各寸法のばらつきが公差の中央付近を中心に分布していると考えることが多い。ところが実際の加工では、仕入先は公差の中に入れることを目標にしており、中央を狙っているとは限らない。削り過ぎを嫌って公差の上側に寄せる、型の摩耗を見込んで片側に寄せる、ということは普通に起きる。
ばらつきの幅と中心のずれを数字で表すのが工程能力指数である。JIS Z 8101-2:2015 は、工程能力指数 Cp を、規格の幅を参照区間(正規分布なら標準偏差の 6 倍)の長さで割った値として表し、さらに上側・下側の規格限界それぞれとの距離から求めた指数の小さい方を、かたよりを考慮した工程能力指数 Cpk と定めている[4]。Cp がよくても Cpk が低ければ、中心が片側に寄っているということになる。
仕入先が 1 社なら、ずれ方にもある程度の一貫性があり、組立で確かめて調整することもできる。仕入先が分かれると、A 社は上側、B 社は下側、C 社は中央、とずれ方がそろわない。組立寸法がどちらに寄るかは、組み合わせ次第になる。統計的な計算で公差を決めたのなら、その前提をどの仕入先にも守ってもらう必要がある。
発注の前に確かめる手順
以下は規格の要求ではなく、部品を分けて発注する前の実務の手順の提案である。
1. 組立の機能に効く寸法を決める
蓋が閉まる、軸が回る、隙間が一定以上ある、といった機能を満たすために、組み上げた状態で守らなければならない寸法(すきま、はみ出し、位置など)を決め、その許される範囲を書き出す。
2. その寸法がどの部品のどの寸法でできているかを拾う
機能寸法から出発して、接触する面を順にたどり、関わる部品と寸法を並べる(寸法の連鎖)。部品ごとに仕入先を書き込んでおくと、どの寸法が別の会社どうしで重なるかが見える。
3. まず最悪値で計算する
連鎖の公差を単純に足し、機能寸法の許容範囲に収まるかを見る。収まれば、仕入先がそれぞれ図面の公差を守り、部品が組み付けで変形しない限り、組立寸法はその範囲に入る。薄板や樹脂のように締結で形が変わる部品が連鎖に入るなら、後述の「部品は変形しない」という前提の節も見る。
4. 収まらなければ、統計的に計算し、前提を確かめる
二乗和の平方根で収まるなら、各仕入先に、その寸法の工程能力と中心のずれ(Cpk など)を初回品で示してもらう条件を付ける。前提を満たせない寸法が連鎖に入っているなら、その寸法は最悪値で扱う。
5. それでも収まらなければ、設計か発注の形を変える
公差の配分を見直す(感度の高い寸法を厳しく、低い寸法を緩く)、組立で吸収する仕組みを入れる、調整用の部品を用意する、連鎖に入る部品を 1 社にまとめる、などを検討する。
6. 初回品を組み立てて確かめる
各社の初回品を実際に組み立て、機能寸法を測る。計算で収まっていても、測って確かめるまでは仮定のままである。初回品の測定データの求め方は、同じシリーズの三次元測定の測定データを仕入先に求めるで扱う。
組立で吸収する工夫は、図面に書いて初めて発注条件になる
前出の講演論文は、生産・組立の現場では完成品の形状精度の要求を満たすために、設計とは別に経験的な工夫が施されているとし、例として、ボルトを通す板の穴を円ではなく小判形に加工する、配管の締結部にフリーフランジを使って誤差を吸収する、削り代を残して加工した部品を途中まで組み上げてから 5 面加工機などで精度を出す、を挙げている[2]。同論文の計算例では、一部の寸法に ±1.5 mm(JIS B 0405 の普通公差の極粗級に相当)以内の誤差が出ると仮定したとき、穴を小判形にすることで、ある寸法に許される誤差の上限を 0.57 から 1.5 へ広げられることを示している[2]。
ここで注意したいのは、こうした工夫が現場の判断で行われていることが多い点である。1 社にまとめて発注していたときは仕入先が自然にやっていた調整が、部品を分けた途端に誰もやらなくなる。小判穴や調整代を前提に公差を決めたなら、それを図面に書き、発注の条件にする。
「部品は変形しない」という前提にも注意する
公差の計算は、部品を形の決まった剛体として扱うことが多い。JIS B 0024:2019 も、標準では部品を剛体として扱い、全ての仕様は自由状態で、重力を含むどんな外力でも変形しないものとして適用するとし、他の条件を適用するなら図示しなければならない、と定めている[5]。
薄板や樹脂の部品は、ねじで締めると反りが矯正されたり、逆に締結で歪んだりする。自由状態では公差内でも、組み付けた状態の寸法は別のものになる。組み付けた状態の寸法で機能を見たいなら、その状態で測ることを図面に書く。樹脂成形品の公差と測る状態の指定は、樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱っている。
図面と発注書に書いておくこと
積み上げの計算をした結果は、仕入先に伝わらなければ意味がない。次のことを図面か発注書に書く。
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- 連鎖に入る寸法に、普通公差ではなく個別の公差を書く(普通公差のままにしておかない)
- 統計的な計算を前提にした寸法には、その旨と、求める工程能力の条件を書く
- 組立で吸収する形状(小判穴、調整代、削り代)を図示する
- 組み付けた状態で測る寸法があれば、測る状態を書く
- 初回品で、連鎖に入る寸法の実測値を何個分出すかを書く
1 について補足する。普通公差(JIS B 0405 など)は、個別に公差を書いていない寸法に一括で当てる公差で、連鎖の計算に入れると思わぬ大きさになりやすい。普通公差の等級の指定は、同じシリーズの普通公差の等級指定で扱った。図面の一般注記に何を書くかは図面の一般注記に書くこと、はめあいの指定ははめあいの指定で扱う。
ただし、積み上げが心配だからといって全部の寸法の公差を厳しくすると、加工費が上がる。機能に効かない寸法の公差は緩めてよい。公差を厳しくしすぎた図面の見直し方は、過剰仕様の外し方で扱っている。
組み上がらなかったとき、仕入先の責任にしない
各部品が図面の公差に入っているのに組み上がらないのは、公差の決め方の問題であって、仕入先の責任ではない。取適法が適用される取引について、同法のテキストは、発注後に検査基準を恣意的に厳しくして従来の基準で合格とされたものを不合格とする場合などは、委託内容と異なることを理由に受領を拒むことは認められない、としている[6]。組立で合わなかったからといって、受入の基準を後から厳しくして部品を返すことは避ける。公差を見直すなら、図面を改訂し、次の発注から合意のうえで適用する。
よくある質問
寸法の連鎖が長くて、手計算では追いきれない
連鎖が長いとき、角度や位置の誤差が絡むときは、3D の CAD データを使った公差解析ツールを使う方法もある。ただし、ツールの計算も前提(分布の形、独立かどうか、剛体かどうか)は同じである。どの前提で計算したかを記録に残す。3D データで発注するときの図面との関係は、同じシリーズの3D データで発注するときで扱う。
仕入先に工程能力を出してもらえない
小ロットの部品では、工程能力を計算できるほどの数が作られないこともある。その場合は統計的な計算に頼らず、最悪値で収まる公差にするか、組立で吸収する形状を入れる。初回品の実測値を何個分か出してもらえれば、少なくとも中心がどちらに寄っているかは分かる。量産前に何を出させるかは量産開始前の承認で仕入先に出させるものにまとめた。
統計的に計算すると、何個に 1 個は外れるのか
前提が全て成り立つ場合でも、統計的な方法は「必ず入る」とは言っていない。JIS Z 8101-2 は、プロセスパフォーマンスの項(2.6.1)の注記 4 で、正規分布で平均から標準偏差の 3 倍の位置が規定された要求値と一致するなら、2,700 ppm(100 万個に 2,700 個)が規格の限界の外になると期待される、としている[4]。組立寸法の許容範囲をどの程度の確率で守るかは、機能と、外れたときの影響の大きさで決める。
まとめ
部品を別々の仕入先に出すと、組立の寸法を確かめる責任は発注側に残る。発注前に、機能寸法がどの部品のどの寸法の積み重ねでできているかを拾い、まず最悪値で計算する。最悪値の計算も部品が変形しないことを前提にしている。統計的な計算は、各寸法が独立で正規分布に近いことを前提にし、実務ではさらに中心で作られていることを当てにしており、仕入先が分かれるとこの前提が崩れやすい。前提を発注条件にして初回品で確かめ、収まらなければ公差の配分や組立の工夫を図面に書く。組み上がらなかったときに、後から受入の基準を厳しくして部品を返さないことも、発注側が守る線である。
出典・参考資料
- 市川晃「全方位視覚システムにおける統計的公差設計」計測自動制御学会論文集 Vol.37, No.4(計測自動制御学会/2001 年)
- 森永英二・塩谷景一・荒井栄司「組立現場での工夫を考慮した公差設計に関する一考察」生産システム部門研究発表講演会 2011 講演論文集(日本機械学会/2011 年)
- NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods, 2.5.5.2 Formulas for functions of two variables(米国国立標準技術研究所(NIST))
- JIS Z 8101-2:2015 統計-用語及び記号-第 2 部:統計の応用(日本産業標準調査会 JIS 検索/2015 年改正)
- JIS B 0024:2019 製品の幾何特性仕様(GPS)-基本原則-GPS 指示に関わる概念,原則及び規則(日本産業標準調査会 JIS 検索/2019 年改正)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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