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3Dプリント部品の発注で指定すること——方式・造形方向・後処理

この記事のポイント(結論先出し)
「3D プリントで作ってください」という発注では、工法も材料も品質の基準も決まらない。積層造形は規格で7 つの方式に分類されており[4][5]、方式ごとに使える材料も得意な形も違う。同じ方式・同じ材料でも、積層の向きと積層の厚さで強さと寸法が変わることが確かめられている[4]。発注書には、方式と材料に加えて、造形方向を誰が決めるか、寸法を測る面と仕上げ代、後処理、品質を確かめる試験と合否の決め方まで書く。国際規格 ISO/ASTM 52901 が、注文の時点で発注者と造形業者がやり取りすべき要素を 6 つに整理しているので[2]、発注書の項目はこれに沿って並べると抜けが減る。
目次
「3D プリント」と書いただけでは何も決まらない
試作や治具、少量の部品で積層造形(いわゆる 3D プリント)を外注する場面が増えた。積層造形は、3D データをもとに材料を一層ずつ積み重ねて形を作る加工法で、刃物で削り出す除去加工とは対になる考え方である[4]。金型が要らないので発注のハードルは低いが、その手軽さのぶん、図面と「3D プリントで」という一言だけで発注されることも多い。
積層造形の用語と方式は、ASTM(米国の規格団体)と ISO(国際標準化機構)の共同規格で定められている。現行の ISO/ASTM 52900 は 2021 年 11 月に発行された第 2 版で、積層造形の技術で使う用語を定義している[1]。表面技術誌の解説によると、2009 年に ASTM の F42 委員会ができ、そこで積層造形が 7 つのカテゴリーに分類されて ISO との共同規格になり、日本では 2020 年 3 月に JIS B 9441 で名称などが規定された[5]。JIS B 9441 の題名は「付加製造(AM)-用語及び基本的概念」である[3]。
7 つの方式は、結合剤噴射、指向性エネルギー堆積、材料押出、材料噴射、粉末床溶融結合、シート積層、液槽光重合である[4]。どの方式で作るかによって、使える材料、得られる強さ、寸法の出方、表面の粗さ、後処理の要否が変わる。発注の最初の分かれ目は方式の選択である。
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方式によって、材料と得意なことが違う
材料の種類と方式の組み合わせについて、学術誌の解説から読み取れることを整理する。
粉末床溶融結合(PBF)は、粉末を薄く敷いた層にレーザーや電子ビームを当てて溶かし固める工程を繰り返す方式である[6]。金属では主な方式の一つで、表面技術誌の解説は特徴として、ほぼ真密度で機械的性質が溶製材(溶かして作った通常の材料)に匹敵すること、精度 50〜100 μm・表面粗さ〜5 μm 程度の高精度な複雑形状が作れることを挙げている[5]。もともとはポリマーの粉末を炭酸ガスレーザーで加熱して造形する方式から始まった[6]。
指向性エネルギー堆積(DED)は、材料を付けたい場所にワイヤーや粉末を送りながらビームを当てて溶かし、盛り付けていく方式である。まてりあ誌の解説は、ワイヤー供給式は造形精度はあまり高くないが、材料のほぼ全量が造形物に使われ気孔ができにくいので、精度より緻密さが重要な用途で有用だとしている[6]。
材料押出(MEX)は溶かした材料を押し出して積む方式で、金属だけでなく炭素繊維を含む樹脂への適用が進み、装置が安価なことから販売が伸びている[5]。結合剤噴射(BJT)は自動車部品の大量生産向けの方式として注目されている[5]。液槽光重合(VPP)は、光で固まる液状の樹脂に光を当てて一層ずつ硬化させる方式である[4]。
発注側にとっての要点は、方式を仕入先任せにするなら、少なくとも満たすべき性質を書くことである。方式を指定しないまま材料名だけ書くと、同じ「ナイロン」でも粉末を溶かす方式と押し出す方式では別物の部品が届く可能性がある。方式を指定できないなら、強さ・密度・表面粗さ・使用温度のように、方式によって差が出る性質の要求値を書く。
注文時に渡すべきもの──ISO/ASTM 52901 の 6 つの要素
積層造形の部品を購入する側の要求事項を定めた国際規格が ISO/ASTM 52901(2017 年 8 月発行)である。規格の概要は、注文の時点で発注者と造形業者がやり取りすべき要素として、注文情報、部品の定義データ、原材料(フィードストック)の要求、最終部品の特性と性質、検査の要求、部品の受入方法の 6 つを挙げている[2]。また、この規格は最低限の受入要求を満たす部品を得るための基礎として使え、より厳しい要求は注文時に補足要求として加えられるとしている[2]。
規格本文は有償なので、各要素の中身をここで規格の要求として書くことはできない。以下は、6 つの要素を見出しにして、日本の発注書・購買仕様書に何を書くかを発注側の実務として整理したものである。
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| ISO/ASTM 52901 の要素 | 発注書・仕様書に書くこと(実務の提案) |
|---|---|
| 注文情報 | 数量、納期、用途(試作の形状確認か、機能試験か、そのまま製品に使うか)、方式の指定の有無 |
| 部品の定義データ | 3D データの形式と版、図面との優先関係、公差と測る面、造形方向の指定またはその決め方 |
| 原材料の要求 | 材料の種類とグレード、材料の証明書の要否、粉末の再使用を認めるかどうか |
| 最終部品の特性と性質 | 強さ・密度・表面粗さなどの要求値と、どの方向で測った値か、後処理(熱処理・HIP・二次硬化・表面仕上げ) |
| 検査の要求 | 寸法を測る面と方法、試験片を同じ造形で作るかどうか、内部欠陥の検査の要否 |
| 部品の受入方法 | 合否の判定基準、提出させる記録(造形条件・材料ロット・試験成績)、不合格時の扱い |
左列の 6 つは規格の概要の列挙そのままで[2]、右列は本記事の提案である。注文情報に「用途」を入れているのは、形を見るだけの試作と、荷重をかけて試験する試作とでは、指定すべき項目がまったく違うからである。
造形方向を誰が決めるかを決める
積層造形の部品は、積み重ねた方向によって性質が変わる。液槽光重合で作った樹脂の試料を、積層の厚さ(25・50・100 μm)と積層の向きを変えて調べた研究では、積層の厚さが大きいほど曲げ強さと曲げ弾性係数が下がる傾向があり、同じ積層の厚さでも向きによって機械的性質が違う条件があった。研究は、強さが必要な造形物では異方性(方向によって性質が違うこと)を考えて積層方向などの造形条件を検討する必要があるとしている[4]。
寸法にも向きが効く。同じ研究で 10 mm の立方体を造形すると、水平の 2 方向(x・y)は設定値より縮んだのに対し、積層方向(z)は積層の厚さ 25 μm と 100 μm で設定値より大きくなった。研究は、細長い造形物では高さ方向が小さくなるような配置や積層方向を検討する必要があるとしている。積層の厚さが小さいほど、積層方向に背の高い置き方ほど造形に時間がかかることも指摘している[4]。
| 積層の厚さ | 25 μm | 50 μm | 100 μm |
|---|---|---|---|
| 曲げ強さ | 50・100 μm より有意に高い。積層方向による有意差なし | 方向によって有意差がある条件あり | 最も低い傾向。方向によって有意差がある条件あり |
| 立方体の積層方向(z)の寸法誤差 | 正(設定より大きい) | (論文では正の値として挙げられていない) | 正(設定より大きい) |
| 歯の模型の縁の部分の変形量(平均) | 71.7 μm | 80.0 μm | 98.3 μm(有意に大きい) |
表は液槽光重合・特定の装置と樹脂での研究結果で[4]、他の方式や材料にそのまま当てはまる数字ではない。読み取るべきなのは、同じデータ・同じ材料でも、造形条件で部品の性質と寸法が変わるという点である。
発注側が決める方法は二つある。強さが要る部品なら、荷重の向きと積層方向の関係を発注側が指定する。造形業者のほうが向きの良し悪しを知っている場合は、造形業者に向きを提案させ、承認した向きと置き方(造形範囲のどこに何個並べるか)を記録させて、以後は変えないことにする。どちらでも、「承認した後に向きを変えるときは事前に連絡し、承認を得る」と書く。向きは図面に表れないので、書かなければ量産の途中で変わっても分からない。
寸法と表面の出方を、測る面ごとに決める
表面技術誌の解説は、金属の粉末床溶融結合の特徴として精度 50〜100 μm、表面粗さ〜5 μm を挙げる一方、同じ記事の中で、自分たちの研究で得た造形ままの表面を Sa(面の算術平均高さ)10.6 μm として「表面粗さに優れている」と紹介している[5]。造形条件によって表面性状は大きく変わり、密度や内部の欠陥もその影響を受けるとも説明している[5]。造形ままの面に、切削加工と同じ感覚で粗さや公差を求めると合わない。
発注側の実務としては、面を三つに分けて図面に書くとよい。
1. 造形ままでよい面
外観や寸法の要求が緩い面。粗さは造形ままとし、寸法の許容差を別に決める。
2. 後加工で仕上げる面
はめあい、シール面、基準面など。造形の段階で削り代(仕上げ代)を付けるよう指示し、仕上げ後の寸法と粗さを指定する。粗さの指定と測り方は表面粗さの指定と測定条件の考え方で仕入先と合わせる。
3. サポート(造形中に部品を支える仮の構造)が付く面
サポートを外した跡は粗くなるので、付けてよい面と付けてはいけない面を指定し、跡の仕上げ方を決める。
積層造形は、JIS B 0405(対応する国際規格の対象は金属の除去加工と板金成形の部品)が想定している加工ではない。図面に普通公差の等級が書いてあっても、造形ままの面にどの許容差を当てるかは発注側が決めて、図面か購買仕様書に書く。仕入先には、その許容差で作れるかを確かめる。普通公差の扱いの考え方は図面の普通公差の等級指定で整理している。
材料と造形条件を「承認したら変えない」ものにする
積層造形の部品の品質は、材料と造形条件の組み合わせで決まる。表面技術誌の解説は、金属の粉末床溶融結合について、投入するエネルギーの密度が小さいと溶融池(ビームで溶けた部分)が不安定になり、大きすぎるとガスの巻き込みやスパッタ(飛び散る溶けた粒)が増え、レーザー出力が低いと溶け残りの欠陥(融合不良)が出ると説明している。多くのパラメータの影響を受けて密度・表面粗さ・機械的性質が決まるので、高品質の造形体を得るには多くのパラメータを管理する必要があるとしている[5]。
材料の側にも注意がいる。まてりあ誌の解説は、粉末床溶融結合の原料には流動性の高いガスアトマイズ粉(溶けた金属をガスで吹き飛ばして作る粉)が使われるが、粉末を作るときのガスが粒子の中に気泡として残り、それが造形物に残って、造形条件を最適化しても無くせない欠陥の原因になることが見出されたと書いている[6]。同じ材料名でも、粉末の作り方が変われば内部の欠陥の出方が変わりうる。
購買仕様書には次のように書く。
- 承認した時点の材料(メーカー・グレード・粉末やフィラメントのロット)と装置、造形条件を記録として残させる
- 材料の供給元、装置、造形条件を変えるときは事前に連絡し、承認を得る
- 粉末を使う方式では、使い残した粉末を再使用してよいか、その条件を決める
- 出荷ロットごとに、造形日・装置・材料ロットを追えるようにする
樹脂の材料をグレードで固定する考え方と、代替を提案されたときの確かめ方は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認で扱っている。積層造形でも、データシートの数字を比べる前に、試験の方法と、どの向きで造形した試験片かがそろっているかを確かめる。
後処理まで含めて一つの工程として指定する
積層造形の部品は、造形が終わった時点ではまだ完成していないことが多い。液槽光重合では、造形後に溶剤で洗浄し、追加の光照射で硬化を進める工程がある。先の研究は、積層の厚さや向きと並んで二次硬化処理が造形物の機械的性質や精度に大きく影響するとされていることに触れ、実験でも造形後に、製造者の指示に従って溶剤で未硬化の樹脂を除き、60 ℃・1 時間の二次硬化処理を行っている[4]。
金属では熱処理が問題になる。表面技術誌の解説は、適切な造形条件のもとでは造形体の機械的性質は鋳造材より総じて優れ溶製材に匹敵するが、疲労強度は細かな欠陥のために溶製材より劣ることが多く、熱間静水圧成形(HIP:高温・高圧のガスで内部の空隙をつぶす処理)で溶製材に匹敵する特性が得られたと報告されていると説明している[5]。繰り返し荷重のかかる金属部品を積層造形で作るなら、HIP や熱処理を行うかどうかが性能を左右する。熱処理の指定のしかたは熱処理を図面・発注書でどう指定するかの考え方が使える。
後処理を仕入先任せにすると、「造形はしたが後処理は別の会社」という分業のどこかで条件が抜ける。発注書には、後処理の種類と条件、どの会社が行うか、後処理を外注する場合はその記録も提出させることを書いておく。
品質の確かめ方──試験片を同じ造形で作らせる
積層造形の部品は、部品そのものを壊さずに強さを確かめるのが難しい。発注側の実務としての一つの方法は、部品と同じ造形で試験片も作らせ、その試験片で強さや密度を確かめる方法である。ここまでで見たとおり、性質は造形の向きと条件で変わるので、試験片については次を決めておく。
- 試験片の形と試験方法の規格
- 試験片を造形する向き(荷重の向きと積層方向の関係を、部品の弱い向きに合わせる)
- 部品と同じ後処理(洗浄・二次硬化・熱処理・HIP)を通すこと
- 試験片の数と、どの造形ロットに何本付けるか
試験片の結果は、あくまで同じ条件で作ったものの代表値である。重要な部品では、試作の段階で部品そのものの破壊試験や断面の観察を行い、試験片の値との関係を確かめてから、量産では試験片で管理する、という順序にする。量産を始める前に何を出させて承認するかは、量産承認で仕入先に何を出させるかの考え方をそのまま当てはめられる。
試作は積層造形、量産は別の工法というとき
積層造形で作った試作品で評価を済ませ、量産は射出成形や板金、切削に切り替えることは多い。このとき、試作の評価結果は量産品の性質を保証しない。材料も方式も違えば、強さも寸法の出方も変わるからである。試作で確かめたのが形なのか、組み立ての可否なのか、強さなのかを記録しておき、量産の工法では強さに関わる評価をやり直す前提で計画する。
量産の工法に切り替える段階では、その工法での公差の決め方が必要になる。樹脂の成形品なら樹脂成形品の寸法公差の決め方、板金・プレス品ならプレス・板金品の公差の指定を参照してほしい。積層造形の部品を接着で組み立てる場合は、接着剤・シーラントを仕様で指定するときで書いた硬化条件と表面処理も合わせて決める。
よくある質問
形を見るだけの試作でも、ここまで指定する必要がありますか
形を確かめるだけなら、方式と材料、寸法を測る面、納期で足りることが多い。ただし、その試作品で組み立てや機能の試験をする予定があるなら、造形方向と後処理まで指定しておかないと、試験結果の意味が分からなくなる。注文情報に用途を書いておくと、造形業者も過不足なく対応しやすい。
造形業者が「この方式なら等方性です」と言っています
液槽光重合については、積層方向で層間の化学結合に差がなく理論的には等方性だという報告もあると、先の研究自身が紹介している。そのうえで同じ研究では、条件によって向きによる有意差が出ている[4]。強さが要る部品なら、主張を受け入れる前に、荷重のかかる向きで造形した試験片の結果を出してもらう。
3D データを渡せば図面は要りませんか
3D データは形を伝えるが、公差、測る面、粗さ、材料、後処理、検査の要求は伝えない。ISO/ASTM 52901 が部品の定義データと並べて、材料・特性・検査・受入方法を別の要素として挙げているのはそのためと読める[2]。3D データと図面のどちらを優先するかも決めておく。
まとめ
積層造形の部品は、7 つの方式のどれで、どの材料で作るかによって別物になる。同じ方式と材料でも、造形の向き、積層の厚さ、エネルギーの入れ方、後処理で強さと寸法が変わる。発注書には、ISO/ASTM 52901 が挙げる 6 つの要素──注文情報、部品の定義データ、原材料、最終部品の特性、検査、受入方法──に沿って項目を並べ、造形方向を誰が決めるか、どの面を後加工で仕上げるか、試験片をどの向きで作るかを書く。承認した材料・装置・造形条件・向きは、変えるときに事前の承認を要するものにしておく。
出典・参考資料
- ISO/ASTM 52900:2021 Additive manufacturing — General principles — Fundamentals and vocabulary(国際標準化機構(ISO)/2021 年 11 月発行)
- ISO/ASTM 52901:2017 Additive manufacturing — General principles — Requirements for purchased AM parts(国際標準化機構(ISO)/2017 年 8 月発行)
- JIS リスト(規格番号 B944 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- 液槽光重合法における造形条件が歯科用樹脂造形物の機械的性質および寸法精度に及ぼす影響(岩崎太郎ほか/日本歯科理工学会誌 42 巻 3 号/2023 年)
- レーザーによる AM(アディティブ・マニュファクチャリング)技術(京極秀樹/表面技術 71 巻 11 号/2020 年)
- 金属系材料の 3 次元積層造形技術の基礎(小泉雄一郎ほか/まてりあ 56 巻 12 号/2017 年)
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