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硬さの換算(HRC・HV・HB)の扱い——換算表の出典と限界、図面と試験方法が違うときの決め方

この記事のポイント(結論先出し)
硬さの換算表(HRC・HV・HB)は、材料の種類と状態ごとに作られた近似値である。換算表の代表的な規格である ASTM E140 は、炭素鋼・合金鋼・工具鋼(非オーステナイト系で均質なもの)、ニッケル合金、黄銅、オーステナイト系ステンレス、銅、アルミ展伸材などを別の表に分け、換算は指定の条件で試験できないときに限り、値は近似で特定の用途では不正確なことがあるとしている[4]。JIS の硬さ試験方法の規格 3 本も、他の硬さや引張強さへ正確に換算する一般的な方法はないとし、換算した場合は換算の基準と方法を報告させる[1][2][3]。図面の硬さと仕入先の試験方法が違うときは、どちらの方法の値で合否を決めるかを先に書面で決め、換算値は参考として扱う。ボルトの JIS のように、規格が試験方法ごとに別々の範囲を決め、疑義があればビッカースで判定すると定めている例もある[5]。
目次
この記事の範囲
「硬度 換算表」で探すと、HRC と HV と HB と引張強さを一列に並べた表がすぐ見つかる。図面に HRC が書いてあるのに仕入先がビッカースしか持っていない、受入の硬さ計がブリネルだ、といった場面で、こうした表を使いたくなる。この記事は、換算表がどこから来ていて、どこまで使えるかと、図面の硬さと試験方法が違うときに発注側が何を決めるかを扱う。
図面に硬さを書くときの試験方法・試験力・測る位置の指定と、仕入先と測定値が合わないときの切り分けの手順は図面の硬さ指定——試験方法・試験力・測る位置と値が合わないときで扱っているので、ここでは繰り返さない。熱処理と硬化層の指定は熱処理を図面で指定すると浸炭・窒化・高周波焼入れの有効硬化層深さに送る。
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JIS は「正確に換算する一般的な方法はない」と書いている
硬さ試験の方法を決めている JIS は、3 本とも換算について同じ立場をとる。ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244-1)は、ビッカース硬さを他の硬さまたは引張強さに正確に換算する一般的な方法がないので、そのような換算は、比較試験によって信頼できる換算基準が得られない限り避けることが望ましいとし、換算の参照先として ISO 18265 を挙げている[1]。ロックウェル硬さ試験(JIS Z 2245)も、ロックウェル硬さを他の硬さスケールや引張強さに正確に変換する一般的方法はなく、比較試験によって信頼できる換算の根拠がない限り避けることが望ましいとしている[2]。ブリネル硬さ試験(JIS Z 2243-1)も、ブリネル硬さを他の硬さスケールや引張強さに正確に換算する一般的な方法はないと注記している[3]。
この「避けることが望ましい」は禁止ではない。3 本とも、換算した場合には試験報告書にその基準と方法を書くことを求めている[1][2][3]。つまり規格の立場は「換算するなら、何に基づいて換算したかを明らかにせよ」である。発注側の実務に直すと、換算値を成績書に載せてもらうこと自体はできるが、どの表のどの材料区分を使ったかを書かせなければ、その値は検証できない。
換算表は、材料の種類と状態ごとに分かれている
換算表の出典として広く使われている ASTM E140(金属の硬さ換算表の規格)の現行版は E140-12B(2019 年再承認)で、適用範囲の箇条に、どの表がどの材料を対象にしているかが列挙されている[4]。
| 表 | 対象とする材料と状態 | 関係づけている硬さ |
|---|---|---|
| 表 1(C スケールの範囲)・表 2(B スケールの範囲) | 非オーステナイト系の鋼(炭素鋼・合金鋼・工具鋼)。鍛造のまま・焼なまし・焼ならし・焼入焼戻しの状態で、均質であるもの | ブリネル・ビッカース・ロックウェル・スーパーフィシャル・ヌープ・ショア |
| 表 3 | ニッケルと高ニッケル合金(ニッケル 50 % 超) | ブリネル・ビッカース・ロックウェル・スーパーフィシャル・ヌープ |
| 表 4 | カートリッジ黄銅 | ブリネル・ビッカース・ロックウェル・スーパーフィシャル |
| 表 5 | 焼なまし状態のオーステナイト系ステンレス鋼板(厚板) | ブリネルとロックウェル B だけ |
| 表 6 | オーステナイト系ステンレス鋼の薄板 | ロックウェルとスーパーフィシャルだけ |
| 表 7・表 8・表 9 | 銅、合金白鋳鉄、アルミニウムの展伸材 | 表ごとに異なる組合せ |
| 表 10 | 表 1 と同じ鋼(C スケールの範囲) | リーブ(タイプ D)とブリネル・ビッカース・ロックウェル |
表の区分は ASTM E140-12B(2019)e1 の適用範囲(1.1〜1.10)による[4]。
この表から、発注側が押さえておきたいことが三つ出てくる。
1. 鋼の表を、ステンレスやアルミに使わない。
ネットでよく見る一枚ものの換算表の多くは、鋼の表(表 1・表 2 にあたるもの)を元にしている。SUS304 のようなオーステナイト系ステンレスは別の表で、しかも関係づけている硬さはブリネルとロックウェル B、またはロックウェルとスーパーフィシャルに限られる[4]。オーステナイト系ステンレスの HV を HRC に直す行は、この規格の表にはない。アルミや銅も別の表である[4]。
2. 「均質」でない部品には、鋼の表もそのままは当てはまらない。
表 1 と表 2 は、鍛造のまま・焼なまし・焼ならし・焼入焼戻しの状態の鋼で、均質であることを条件にしている[4]。浸炭や高周波焼入れで表面だけを硬くした部品は、表面と内部で硬さが違うので、この条件を満たさない。試験力の違う方法で測れば、測っている深さが違い、換算の前提が崩れる。
3. 引張強さは、この規格の換算の対象に入っていない。
E140 の適用範囲に並んでいるのは硬さどうしの関係で、引張強さは挙がっていない[4]。JIS の 3 本も、引張強さへの正確な換算の一般的方法はないとしている[1][2][3]。硬さから引張強さを推定した値でミルシートや図面の強度を確かめることはできない。強度が要るなら引張試験(JIS Z 2241)を発注で指定するで扱う引張試験で確かめる。
さらに E140 は、換算は指定された条件で材料を試験することが不可能なときにだけ使い、換算する場合は慎重に、管理された条件のもとで行うべきだとし、表から得た値も式から計算した値も近似にすぎず、特定の用途では不正確なことがあると書いている[4]。同じ箇条は、あるスケールの範囲内での感度の違いが、二つのスケールや試験機の違いより大きいことがあるとも述べている[4]。換算表の数字が小数第 1 位まで並んでいても、その桁まで正しいという意味ではない。
スケールには、それぞれ使える範囲がある
換算表には、元の試験方法で測れない範囲の値まで並んでいることがある。JIS Z 2245 は、ロックウェルのスケールごとに適用する範囲を表で決めており、C スケール(HRC)は通常 20〜70 HRC に適用し、ダイヤモンド圧子の表面が先端から 0.4 mm 以上のくぼみ深さに相当する部分まで研磨されていれば、10 HRC まで適用する範囲を広げてもよいとされている(表 1 の注 a))[2]。20 HRC を下回る値が図面や成績書にあれば、どの圧子・条件で測ったのか、換算値ではないかを確かめる。軟らかい材料には B スケールなどの別のスケールがある[2]。
ブリネルの場合も、圧子の直径と試験力の組合せを、くぼみの直径が球の直径の 0.24〜0.6 倍になるように選ぶことが望ましいとされている[3]。硬い焼入れ鋼をブリネルで測った値を換算表で HRC に直しているなら、元のブリネル試験の条件が妥当だったかから確かめる。
規格のほうが、方法ごとに別々の値を決めている例
換算の不確かさを避けるため、製品規格が試験方法ごとに別々の要求値を書いていることがある。図面の硬さを決めるとき、こうした書き方が参考になる。
ボルトの強度区分(JIS B 1051)
炭素鋼・合金鋼製のボルト・小ねじ・植込みボルトの機械的性質を決める JIS B 1051 は、強度区分ごとに、ビッカース硬さ(試験力 98 N 以上)、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ(HRB または HRC)の範囲を別々の行で決めている[5]。たとえば強度区分 10.9 は、320〜380 HV、316〜375 HBW、32〜39 HRC である[5]。ただし、この範囲全体が要求になるのは引張試験ができない部品などで、引張試験ができる部品は表の最大値を超えないことが要求になる(9.9.5)[5]。硬さはビッカース・ブリネル・ロックウェルのどれで求めてもよいが[5]、疑義が生じた場合は、ビッカース硬さ試験によって、ねじ部の先端から 1d の位置の軸直角断面で、軸心を中心とする半径 0.25d の円の領域で求める方法を判定の試験に用いるとしている[5]。表面での測定は、めっきなどの皮膜を取り除いた頭部の平らな面、端面、円筒部で行い、日常の検査に用いてもよいとされる[5]。めっきした部品の硬さを測るときの試験方法・試験力・測る位置の指定は図面の硬さ指定で、めっきによる水素ぜい化の扱いはめっきの発注で指定することで扱っている。溶融亜鉛めっきそのものの指定は同じ束の溶融亜鉛めっき(JIS H 8641)の指定にある。
同じ規格は、硬さと引張強さとの間には直接的な関係はないかもしれず、最大硬さの値は理論的な最大強さ以外の理由(例えば、ぜい化を避けるため)で決められている、と注記している[5]。硬さの上限は、強さの換算ではなく、別の目的の値である。ボルトの強度区分の指定と受入はボルトの強度区分と規格の指定で扱っている。
無電解ニッケル-りんめっき(JIS H 8645)
めっき皮膜の硬さでも、規格は方法ごとに値を分けて書いている。JIS H 8645 は、めっきの硬さをビッカース硬さ 500 以上、ヌープ硬さ 450 以上とし、硬さ試験は JIS Z 2251(ヌープ硬さ試験)に規定する方法によるとしている[6]。ビッカースの値をヌープに換算して判定する作りにはなっていない。詳しくは同じ束の無電解ニッケルめっき(JIS H 8645)の指定で扱う。
図面の硬さと、仕入先の試験方法が違うとき
ここからは規格の要求ではなく、発注側の実務としての提案である。図面が HRC で、仕入先がビッカースしか持っていない、あるいはその逆という場面では、次の順で決める。
1. 部品が図面の方法で測れるかを確かめる。
薄い板、小さな部品、表面硬化層、めっき皮膜などは、図面の方法の試験力では測れないことがある。測れないのに図面に書いてあるなら、それは換算の問題ではなく図面の問題である。方法を変えるなら図面か仕様書を改める。
2. 判定に使う方法を一つに決める。
仕入先の成績書が別の方法の値でもよいとするなら、「合否は○○の実測値で判定する。換算値は参考とする」と仕様書に書く。ボルトの規格が疑義のときの判定方法を一つに決めているのと同じ考え方である[5]。
3. 換算値を使うなら、表と区分を書かせる。
成績書に換算値を載せるなら、どの換算表のどの材料区分を使ったかを書かせ、材料が表の対象に入っていなければその換算値は使わない[4]。報告書に換算の基準を書かせる求め方は図面の硬さ指定で扱っている。
4. 換算の根拠を自分たちで作る。
同じ材料・同じ熱処理の部品が続くなら、同じ品物を両方の方法で測る比較試験で換算の根拠を作る方法もある[1]。進め方は図面の硬さ指定の値が合わないときの手順と重なるのでそちらに送る。測定のばらつきの評価は測定システム解析(MSA)を仕入先に求めるときの考え方が使える。
なお、取適法の対象となる取引では、発注時に検査基準がはっきりしていなかったり、発注後に基準を厳しくしたりして受け取りを拒むことは認められない。受入で図面と違う方法を使い、換算値で不合格にすると、基準を後から変えたのと同じ問題になりうる。判定方法は発注時の仕様書に入れる。取適法上の扱いは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで扱っている。
図面に複数のスケールを書くとき
図面に HRC の値と、それを換算した HV の値を括弧で併記している例がある。併記するなら、どちらが要求でどちらが参考かを図面上で区別する(当方の提案)。両方を要求値として書くと、片方は合格で片方は不合格という部品が出たときに判断できない。製品規格が方法ごとに範囲を決めているボルトのような例は、それぞれが要求値として成り立つように規格の側で決めてあるが[5]、自社の図面で同じことをするなら、その範囲の組合せに根拠が要る。
海外の仕入先から受け取る成績書では、HRC が海外の換算表で HV や HB に直されて書かれていることがある。どの国の規格の表かによって数値は少しずつ違いうるので、元の実測値が何で測られたものかを必ず確かめる。同等材の承認と同じで、数字だけを突き合わせない。材料の置き換えの判断は同等材の指定と承認で扱っている。
よくある質問
Q. 仕入先がビッカースで測った値を、換算表で HRC に直して成績書に載せてきました。受け取ってよいですか。
受け取ることはできるが、その値で合否を判定するなら、どの換算表のどの材料区分を使ったかと、元の HV の値と試験力を一緒に出させる[1]。材料が換算表の対象外(例えばオーステナイト系ステンレスを鋼の表で換算)なら、その換算値は根拠にならない[4]。
Q. 硬さから引張強さを換算して、強度の確認に使えますか。
JIS の硬さ試験方法の規格は、引張強さへ正確に換算する一般的な方法はないとしている[1][2][3]。ボルトの規格も、硬さと引張強さの間に直接的な関係はないかもしれないと注記している[5]。強度を保証させたいなら、引張試験の結果を求める。
Q. 図面に「HRC 15 以上」とあります。
C スケールの適用範囲は通常 20〜70 HRC で、圧子の条件(表 1 の注 a))を満たせば 10 HRC まで広げてよい[2]。20 HRC 未満の値なので、どの圧子・条件で測る前提かを設計側に確かめ、条件を満たす圧子で測るか、B スケールなど通常の適用範囲に入るスケールで書き直す。
Q. 換算表の値はどの程度ずれるものですか。
ASTM E140 は、表の値も式の値も近似で、特定の用途では不正確なことがあるとしている[4]。何 HV ずれるかの一般的な数字はこの規格には書かれていない。合否の境界付近の部品では、換算値で判断しない。
まとめ
硬さの換算表は、材料の種類と状態ごとに作られた近似で、鋼・ニッケル合金・黄銅・オーステナイト系ステンレス・銅・アルミなどは別の表になっている[4]。JIS の硬さ試験方法の規格は、他の硬さや引張強さに正確に換算する一般的な方法はないとし、換算したなら基準と方法の報告を求めている[1][2][3]。スケールには適用範囲があり、HRC は通常 20〜70 HRC、圧子の条件を満たせば 10 HRC までである[2]。ボルトやめっきの規格は、方法ごとに別の値を決め、疑義のときの判定方法を一つに定めている[5][6]。図面の硬さと試験方法が違うときは、判定に使う方法を一つに決めて仕様書に書き、換算値は表と区分を明記した参考値として扱う。
出典・参考資料
- JIS Z 2244-1:2024 ビッカース硬さ試験-第 1 部:試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2024 年 6 月改正)
- JIS Z 2245:2021 ロックウェル硬さ試験-試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2021 年 4 月改正)
- JIS Z 2243-1:2018 ブリネル硬さ試験-第 1 部:試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2018 年 2 月制定・2022 年 6 月確認)
- ASTM E140-12B(2019)e1 Standard Hardness Conversion Tables for Metals(ASTM International/2019 年再承認)
- JIS B 1051:2014 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-強度区分を規定したボルト,小ねじ及び植込みボルト(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2014 年 9 月改正・2024 年 10 月確認)
- JIS H 8645:1999 無電解ニッケル-りんめっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
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