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噴霧乾燥基礎とスプレードライヤ熱収支設計による最適応用事例

目次
はじめに
噴霧乾燥(スプレードライイング)は、液体原料を高速気流中で瞬時に微粒子化し、乾燥させるプロセスです。
食品、化学、医薬、セラミックスなど多彩な分野で利用され、実用化から半世紀以上経つ現在でも、依然として製造業の中枢工程として根強い需要があります。
本記事では、噴霧乾燥の基礎、スプレードライヤの熱収支設計のポイント、現場のアナログ的暗黙知、さらに応用事例について実務経験を踏まえて解説します。
噴霧乾燥の基礎をおさえる
噴霧乾燥のしくみ
噴霧乾燥は、原液(スラリー、溶液、分散液など)をノズルやディスクを使って微粒子状に噴霧し、高温の乾燥空気に瞬時に接触させます。
これにより、液滴から水分が効率的に蒸発し、固体粉末が得られます。
“瞬時”に乾燥させるため、熱に弱い物質も変質を最小限に抑えつつ加工できるのが特徴です。
噴霧乾燥の主要パラメータ
1. 乾燥空気の温度・湿度
2. 原液の温度、粘度、固形分濃度
3. 噴霧方式(圧力ノズル、二流体ノズル、回転ディスク)
4. チャンバー内の滞留時間と空気流速
5. 集塵方式(サイクロン、バッグフィルタ等)
これらは単なる数値管理ではなく、原材の性質、仕上げ粉末の設計要件とのバランス設計が重要となります。
昭和から抜け出せない?実は成熟技術の“攻めどころ”
噴霧乾燥は古くからの技術と思われがちですが、現場には今なお多くのアナログ思考が色濃く残っています。
たとえばノズルの洗浄タイミング、着粉の発生と清掃頻度、乾燥空気のヒータ制御――。
これらはデジタル計装化が進んだ現代でも“経験値”がものを言う領域です。
知っていればロスを防げる“クセ”が現場ごとに無数に存在しています。
スプレードライヤの熱収支設計とその実践
熱収支設計の基本的フロー
噴霧乾燥は「大量の熱風」を要するため、燃料費・CO₂排出のコストが重くのしかかります。
そこで熱収支設計が製品コストと品質を左右する最大のポイントです。
1. 供給原液の量・温度・含まれる水分量を把握
2. 必要な乾燥空気量と投入温度(INLET TEMP)を決定
3. 製品出口時の目標水分(OUTLET TEMP)を設定
4. 熱損失(配管・チャンバーの放熱、排気ロス)を推定
5. 回収エネルギー(排気の熱交換再利用など)の見込みも組み合わせる
これらをもとにボイラー・ヒータ設定、乾燥機規模、排気風量や熱回収システムの最適化案を作ります。
エネルギー損失・歩留まり改善の勘どころ
現場の肝は、単に理想値で設計するだけではなく、実生産時の要素(製造計画変動、突発の缶詰まりやスケール付着、原液質変動)を“読みに行く”ことです。
たとえば、運転初期にチャンバー内部が十分に昇温しないまま噴霧を始めると、不要に水分が残り吸湿しやすい微粉末となることがあります。
また、投入空気温度を上げすぎて粉が過乾燥・変質してしまう事例も多いです。
過不足ない運転のため、出口温度を微調整しながら安定運転への“地ならし”をする、これが昭和から受け継がれる職人技です。
熱回収システムと最新の動向
燃料コスト上昇、カーボンニュートラルへの要請を背景に、最近では排気熱回収が強く求められています。
たとえば排気空気に含まれる熱を熱交換器で回収、プレヒーターや原液昇温に再利用します。
一方、微粉のリサイクルやインライン品質センシングの活用によって全体歩留まりの最大化にも現場では知恵が凝縮されています。
自動化とアナログ現場ノウハウの融合が令和の噴霧乾燥現場の新たな“勝ち筋”になりつつあります。
噴霧乾燥・スプレードライヤの応用事例
粉末食品分野での高付加価値化実例
最も著名なのはインスタントコーヒーや粉ミルクですが、それだけではありません。
たとえば健康補助食品(プロテインパウダー、機能性乳製品)、または植物性たんぱく、各種アミノ酸など少量高価値品でも噴霧乾燥が選ばれます。
理由は「色・風味の再現性、高い微粒子均一性、溶解性の向上」です。
また、通常はシーズ変動で需要が乱高下するため、小回りの効く生産体制とロット管理が利益最大化のカギになります。
化学・ファインケミカル分野での効率改善例
触媒、顔料、セラミックス原料、リチウムイオン電池材料――。
これらでは微粒子径や粒径分布をミクロン以下でコントロールすることが求められます。
噴霧乾燥なら、粘度や分散条件のチューニング、ノズル口径/空気圧による分級が可能です。
また生産性に直結するのが“サイクルタイム短縮”。
ここに熱収支設計力がモノを言います。
効率的な熱回収+計測自動化で、時間あたりの生産量が2〜3割増加した事例も現場には多くあります。
医薬品・バイオ分野での攻略法
ここ数年増加しているのが「バイオ医薬原薬」や「フリーズドライ替わりの噴霧乾燥」。
熱に弱いタンパク質、酵素、ワクチン候補素材等も、スプレードライイングの高速・低温乾燥で品質確保と生産性向上が両立可能です。
GMP(医薬品製造基準)対応には工程管理の厳格化、トレーサビリティ、原材料バリデーションもセットで求められます。
ここではIT/IoT化の積極導入と、現場作業者の“ちょっとした違和感”を拾い上げる柔軟な現場文化の両立が不可欠です。
バイヤーとサプライヤー双方から見る噴霧乾燥設備導入の論点
バイヤー視点:設備投資判断と要求仕様の明確化
バイヤーにとって最大の悩みは「現場の目標性能(処理能力・仕上げ水分・歩留まり率・連続稼働性)を数値でブレずに示せるか」です。
例えば、最盛期の受注変動に合わせて季節ごとの最大・最小ライン装置キャパをどう企画するか。
あいまいな要求仕様で導入後に“オーバースペック”か“ラベル通りに動かない”という失敗も多々あります。
現場実験やパイロットラインで実データを積み重ね、メーカーへフィードバックしながら知見を蓄積する地道なPDCAがコスト回収のカギです。
サプライヤー視点:バイヤーの“本音”を読み解く
逆にサプライヤーにとっては
「単なる装置スペック説明だけではバイヤーの信頼を得られない」
「現場運用時に本当に困るポイント(粉の付着、不良発生時のリカバリ、洗浄性の担保)は最初の提案で聞き出す」
といった、現場目線での丁寧なヒアリングが重要です。
とくに昭和型アナログ運用が根強い現場では、カタログ値以上に「過去トラブル事例」「予防策」「消耗品サイクル」の経験共有が評価されやすいです。
まとめ:新たな地平を目指す噴霧乾燥の今後
噴霧乾燥は成熟技術ですが、熱収支設計や自動化・デジタル化でまだまだ革新領域が拡がっています。
原液特性・チャンバー設計・運転最適化の三位一体を深化させ、多品種少量生産や省エネ型生産にも柔軟に適応できる“攻め”の現場作りが求められます。
バイヤーもサプライヤーも、従来の枠を一歩越え、現場のノウハウとデジタル新技術を融合した最適化を目指していきたいものです。
製造業に携わる皆さまが、この記事をヒントに噴霧乾燥の現場改善、新たな付加価値創造に挑戦されることを願っています。
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