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めっき品質トラブル未然防止と工程管理改善で実現する安定生産

目次
はじめに:めっき品質トラブルはなぜ起きるのか
めっきは、製品の耐久性や外観品質を大きく左右する重要な表面処理工程です。
しかし、その現場では日々さまざまなトラブルが起こり、クレームや納期遅延、再作業や廃棄が発生します。
たとえば、皮膜のムラ、密着不良、変色、寸法不良など、めっきの品質不良が製品価値を大きく下げてしまいます。
現場の立場から見ると、こうしたトラブルは「突発的なもの」と捉えがちですが、実は工程管理と未然防止の仕組みを強化することで、かなりの割合で抑制できます。
本記事では、経験則・勘に頼りがちな「昭和的」なアナログ運用から一歩進み、確実な安定生産を実現するための実践的な改善策や業界動向について解説します。
バイヤー、サプライヤー、現場のすべての立場で役立つ内容となっています。
現場で起きているめっき品質トラブルの実態
よくあるトラブル事例
めっき工程の現場では、以下のような品質トラブルがよく発生しています。
– 皮膜厚のバラつきや規格外
– 密着不良による剥がれ
– 変色やシミ
– ピンホールやクラック
– 寸法精度の不一致
– 下地処理不良による付着不良
いずれも表面に現れやすく、最終製品として市場に出すには致命的な不良です。
また、これらのトラブルは加工直後に発覚する場合もあれば、納入後や使用段階でクレームとなる場合もあり、顧客との信頼にも大きな影響を与えます。
なぜ同じトラブルが繰り返されるのか
多くの現場では、「突発的な要因」「作業員のミス」「設備の劣化」など、トラブル原因を個別事象として考えがちです。
しかし、実際には「工程管理の甘さ」「情報共有不足」「基準や記録の形骸化」という根本課題が隠れている場合がほとんどです。
昭和の時代から続くベテラン作業員の勘や経験値に頼る文化も、属人化・ブラックボックス化を招き、再発防止の障壁となります。
工程管理を徹底して未然防止する具体策
工程ごとの品質ポイントの見える化
まず実施すべきは、「工程ごとに何が品質の決め手となるか」を明確化し、現場で“見える化”することです。
たとえば前処理洗浄、脱脂、めっき液への投入、温度・電圧管理、排水管理、乾燥・検査まで、各ステップでクリティカルな管理項目を整理します。
表やチェックリストを現場に掲示し、誰が見ても「この工程で何を守るべきか」が一目でわかるようにします。
これにより、作業者のベテラン・新人問わず、一定の品質管理が徹底される仕組みができます。
4M(人・機械・材料・方法)の標準化とPDCA
めっきの安定品質には、「人・機械・材料・方法(4M)」という基本の視点で標準化を推進することが不可欠です。
– 人:作業手順書の整備・訓練、要点教育でヒューマンエラーを極小化
– 機械:設備の定期メンテナンス・校正、異常兆候の早期発見体制
– 材料:めっき液・薬品・素地材料の受入検査、ロット管理
– 方法:正しい配合比や処理時間、温度管理方法などの手順明確化
これらを運用した上で、「記録→振り返り→改善」というPDCAサイクルを現場全体で回します。
品質データの蓄積と解析を通して、再発リスクの高い箇所への重点管理や、現実的な対策立案が可能になります。
IoT・デジタル活用による記録精度の向上
近年、めっき工程にもIoTの波が広がりつつあります。
– 電流値や液温等の自動記録化
– 現場作業データのリアルタイム集計
– センサ類の活用による異常検知
こうしたデジタル技術を取り入れることで、「現場での記録漏れ」「改ざん」「再現できない過去事例」など、従来の課題を大きく減らせます。
小規模ラインやアナログ体質が残る工場でも、安価なセンサやRaspberry Pi、小型PLCなどを活用した「デジタル見える化」は十分導入可能です。
”未然防止”のために管理職が取るべきアクション
現場への権限移譲と報告文化の醸成
未然防止活動を根付かせるためには、現場スタッフが「異常に気づいたらすぐに止める」「遠慮なく報告する」風土を作ることが重要です。
いわゆる報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を促進し、管理職は「問題発見=評価される行動」として積極的に受け止める姿勢を示しましょう。
怒りや失敗の指摘ばかりに終始すると、現場はリスクを隠し、問題の先送り構造が温存されてしまいます。
「品質は現場の最大の武器」と位置づけて、情報発信力・自主改善提案力を評価・報酬に反映させる仕組みづくりも検討しましょう。
品質トラブルの“見える化ボード”活用
トラブル内容や原因、対策、再発防止策をタイムリーに“見える化”してチームで共有する「カイゼンボード」も有効です。
情報を隠すのではなく、ありのまま共有し、「類似事例の横展開」や「早期対策合議」に結び付けます。
過去の教訓を忘れず、個人ミスを責めるのではなく、再発しないプロセスの構築を重視する現場力が養われます。
品質管理部門と現場の“壁”をなくす活動
多くの製造現場では管理部門と生産現場の意思疎通が十分でなく、責任の押し付け合いや協力不十分が目立ちます。
ここを改善すべく、現場同士での定期的な「品質パトロール」や「現場勉強会」を開催しましょう。
品質管理部門が現場の実情・改善提案を積極的にヒアリングし、課題共有と全体最適につなげる土壌が重要です。
バイヤー目線:サプライヤー選定と安定供給の要所
めっき業界のアナログ体質と時代変化
多くのめっき加工会社は中小規模の家族経営や昭和的な文化が根強く残っています。
ベテラン作業員への依存度が高いため、属人化や作業標準の未整備、ITやIoT導入の遅れなどがネックとなりがちです。
一方で、サステナビリティ(環境負荷低減)やトレーサビリティ、グローバル品質基準(IATF16949やISO9001)への適合が、バイヤー選定の際に重視される時代となっています。
バイヤーの立場としては、「品質管理と情報開示、不具合対応力(未然防止力)」に優れためっき会社を選定し、長期的なパートナーシップ構築が必須です。
工場監査・品質監査のポイント
サプライヤー監査や新規取引時の現地調査では、以下の観点が品質安定の要所です。
– 標準作業手順書の整備・実運用の有無
– 設備・治具のメンテナンス記録、校正履歴
– ロットトレース、品質異常時の対応履歴
– 属人性への対応(誰がやっても同じ品質か)
– 環境・廃水管理の法令順守状況
現場の“隠し事”や「問題はありません」という建前回答ではなく、率直な課題開示や改善アクションが期待できるサプライヤーとの関係を重視しましょう。
サプライヤー側の“バイヤー視点”理解の重要性
サプライヤー側としては、バイヤーが「なぜ厳しい品質基準を求めるのか」「トレーサビリティや未然防止を重視する背景は何か」を理解することが、自社の成長に直結します。
最終組立メーカーは、自動車でも家電でも、わずかな部品の不良が全体のブランド・安全・保証コストに大きな影響を及ぼします。
「不良がゼロで当然」「問題発生時のデータ即時開示」「現場主導の再発防止」が当たり前となる現場レベルの管理体制が、信頼とリピート受注につながります。
「昭和的アナログ体質」からの脱却と、ラテラルシンキングのすすめ
本質的な未然防止・工程管理改善を目指すには、単なる「部分最適」「現場の常識」にとらわれず、ラテラルシンキング(水平思考)の発想転換が不可欠です。
たとえば、
– 一部工程の自動化・AI活用で属人化打破を図る
– 多品種少量に対応できるモジュール生産ライン導入
– “見える化”とデジタル記録の全社展開で異常情報を即共有
など、現状維持に甘んじず、業界や他工場の成功事例・別分野の技術も横展開し“イノベーションのタネ”を発見しましょう。
また、知見や改善ノウハウをオープンにしたり、ITベンチャーや外部専門家とコラボするなど、社外の新風を積極的に取り入れることも一つの突破口です。
まとめ:安定生産を実現する現場力の強化へ
めっきの品質トラブルは、決して“運”や“作業者の経験”だけで防げるものではありません。
工程管理と未然防止の仕組みを現場起点で“標準化”し、自主的な改善・情報発信の現場力を高めることで、驚くほど安定した品質と納期が実現できます。
“昭和型”から脱却する勇気と、新しい技術・考え方を導入する柔軟性を持ち、現場・バイヤー・サプライヤーが一体となって「強いめっき工場・選ばれるパートナー企業」を目指しましょう。
今日からできる小さな見える化や標準化、データ記録の改善が、未来の大きな成果へとつながります。
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