投稿日:2025年10月12日

ヨーグルトの酸味を一定に保つ発酵菌種と培養時間制御

はじめに:ヨーグルトの品質を支える“安定した酸味”への挑戦

ヨーグルトは、日本でも健康食品として長く親しまれてきました。
その大きな魅力の一つが「酸味」です。
しかし、工場の現場でこの酸味を毎回安定して作り続けることは、実は非常に高度な管理が必要となります。
本記事では、長年製造現場で実践してきた経験をもとに、「ヨーグルトの酸味を一定に保つ発酵菌種と培養時間制御」について解説します。

現場視点で、サプライヤー・バイヤー双方の視点、そしてアナログからデジタルへの過渡期にある日本の製造業ならではの課題や対応策についても掘り下げていきます。

ヨーグルトの酸味はなぜ一定にできないのか?

乳酸菌の働きと発酵プロセス

ヨーグルトの酸味は、乳酸菌が乳中の糖分(主に乳糖)を分解して乳酸を生成することによって生まれます。
この際に関与する主な菌種は、ブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、そして近年注目されるビフィズス菌などです。

この乳酸菌による発酵工程は、わずかな温度・時間差、菌の状態で大きく味がぶれてしまうのが現場の悩みです。

“アナログ現場”の落とし穴

多くの工場では、数十年前から大きく変わらない発酵タンク・温度制御装置が今も現役です。
デジタル管理が進むものの、昭和世代の職人技と“勘”に頼る部分も根強く残っています。
一方で、時代は安定品質・大量生産へ。
このギャップが、酸味のばらつきを生み出す根本原因となっています。

安定した酸味のカギ:「発酵菌種」と「培養時間」

発酵菌種の選定と管理

ヨーグルトの発酵菌種は、「メーカーごとのオリジナルブレンド」が差別化のポイントです。
大手メーカーでは、菌種の純度・活性を定期的に検査し、ロットごとに調整しています。

サプライヤー側のポイントとしては、菌種の「起源管理」、「保管・輸送時の温度管理」、「納入までのリードタイム把握」が不可欠です。

一方、バイヤー側では「どの菌種を、どの頻度で、どんな環境で安定供給できるか」というサプライヤー選定が最初の勝負どころとなっています。

培養時間と温度:現場で起きる“ズレ”の正体

ヨーグルトは、通常42℃前後で4〜8時間程度の発酵が標準です。
しかし、実際には「季節による初期原料温度」、「発酵タンクの前工程(洗浄温度等)」、「工場内の気温・湿度」によって、わずかな変化で乳酸菌の働きが増減します。

現場では、「時計の針通り」だけでなく、「直前バッチのpH」「中間サンプリングでの酸度検査」等も織り交ぜ、“動的”に発酵工程を調整する必要があります。

現場での成功事例:アナログとデジタルの融合的アプローチ

徹底したリアルタイムpHモニタリング

ある大手乳製品メーカーでは、pH電極を発酵タンクに常時設置。
発酵工程中、30分ごとに自動的にpHデータを記録・蓄積する仕組みを取り入れています。
このデータをもとに、「一定酸度」に達したら速やかに次工程(冷却)へ進めるため、日々の酸味ぶれが1/10以下に抑制できています。

このようなIoTによる自動データ取得の現場導入は、酸味安定化と同時に、現場の負担軽減や「後継者育成の標準化」にもつながっています。

サプライヤー管理の強化事例

他工場では、「菌種納入時のロットごと微生物活性テスト」を徹底。
納入翌日の朝一番で、サンプルミルクにて“本番と同条件”の発酵試験をおこない、1日早く異常を検知します。
これにより、納期遅延・季節変動・菌種品質劣化等による味のばらつきリスクを事前回避できています。

こうした現場アクションは、サプライヤーとの信頼関係や直接コミュニケーションがあってこそ実現するものです。
サプライヤー側としては、ただ菌種を納入するだけでなく「納入後の品質結果」までフィードバックをもらい、次回提案に活かすことが重要です。

アナログ文化からの脱却が酸味安定化・効率化のカギ

職人の“勘”との向き合い方

現場では未だ、「経験年数20年超のベテランリーダー」の五感に頼る文化が色濃く残っています。
しかし、IoT計測や自動制御を補助として使うことで、「ベテランの判断基準」を“見える化”し、誰もが同水準の発酵管理・酸味コントロールができるようになります。

かつては口頭伝承だった「温度変化の傾向値」、「菌の立ち上がりパターン」も、日報やデータベースに残して知見を蓄積。
これにより、品質事故リスクが大幅低減しました。

デジタル投資と現場教育の最適バランス

全工程を自動化したくても、莫大な設備投資や、現場担当者の“働き甲斐”喪失につながる恐れがあります。
そのため、「重要工程のみデジタル・IoT化(pHモニタ)」+「最終判断は現場リーダー」といった、“選択的自動化”が普及しつつあります。

また、現場教育では「なぜ酸味調整が重要なのか」「酸味ぶれがどこから発生するのか」といった本質まで学ぶ“アナログ力”を同時に磨く必要があります。

サプライヤー・バイヤーのための「酸味安定」交渉術

サプライヤー視点:価値提案+現場フォロー

酸味安定に求められる菌種の“スペック”のみならず、実際の「安定供給力」「納入後のサポート力」「現場の悩み解決力」まで含めて提案することが競争力となります。

納入後すぐの酸度テスト結果共有や、季節ごとの調整提案、納期トラブル発生時の即応体制など、“現場密着の価値提供”が特に評価されています。

バイヤー視点:仕入れ先選定の着眼点

菌種スペック表だけでなく、実際の使用実績・現場対応力・前工程まで含めてヒアリングすることが重要です。
試験的にサンプル導入し、数週間の発酵安定性テストを経たうえで「数値ブレ幅」「対応レスポンス」「トラブル時の原因究明力」等もチェック材料に入れておきましょう。

交渉時には「安定した酸味=ブランド維持=取引継続」につながるため、緊急対応体制や異常検知フロー、定例レビュー会議の有無もポイントとなります。

今後の展望:これからのヨーグルト工場はどう進化するか

AI・機械学習を活用したpH制御、次世代センサーにより「原乳〜最終製品」まで完全トレーサビリティが見えてきています。
一方、「家庭的な手作りヨーグルトの味」を活かした限定商品や、職人手仕込みの“限定酸味”企画など、新たな差別化も生まれています。

現場の知恵+デジタルの力で、安定した長期ブランドを維持しながら、多様性ある商品開発も続ける必要があります。

まとめ:酸味の安定化は“現場力と技術力の二刀流”がカギ

ヨーグルトの酸味安定化は、発酵菌種の選定・管理と、培養時間・温度の精密なコントロールで決まります。
現場では“アナログ文化”と“デジタル化”の狭間に悩みながらも、地道な検証とデータ活用、サプライヤーとの連携強化によって確かな成果を上げてきました。

サプライヤーに求められるのは、単なる納入ではなく「現場密着の提案力」。
バイヤーは、自社現場にフィットするパートナー選定が不可欠です。

安定品質がブランドと信頼を生み、産業界全体の発展にもつながります。
現場で汗を流すすべての皆さまが、日々の工夫で未来の地平線を切り拓いておられることを、これからも力強く応援しています。

You cannot copy content of this page