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投稿日:2026年1月29日

人手不足対策が現場の暗黙知を壊してしまうケース

はじめに:人手不足対策と「現場の暗黙知」

近年、製造業における人手不足が深刻な課題となっています。
少子高齢化と若年層の製造業離れ、そしてコロナ禍による産業構造の変化など、多くの要因が同時に重なっています。
その結果、現場では様々な人手不足対策——自動化、マニュアル化、アウトソーシング、派遣雇用——が推進されてきました。

しかし、こうした人手不足対策が「現場の暗黙知」を壊してしまい、逆に製造現場の力を大きく損なうケースが多発しています。
この記事では、昭和から続く製造業のリアルな現場を踏まえながら、「暗黙知の消失」がもたらす弊害と、その回避・活用について深く考察していきます。

暗黙知とは何か?製造現場の真実

暗黙知は現場の「見えない資産」

製造現場には、言葉やマニュアルで表現できない、独特のノウハウや勘、タイミングがあります。
これを「暗黙知」と呼びます。
例えば、機械の微妙な音の違いから故障の兆候を察知するベテラン職人の感覚、材料の手触りから不良品を瞬時に見抜く技、工程間の声の掛け合いで流れを調整する力など、書き表せない多くの知恵が現場を支えてきました。

日本の製造業を支えてきた暗黙知

日本の製造業が世界に冠たる競争力を持ちえた理由の一つは、こうした現場の暗黙知の蓄積と世代間継承です。
俗に言う「匠の技」はまさに暗黙知の結晶であり、単なる労働力以上の価値を生み出してきました。
特に中小企業やサプライヤーでは、「マニュアル化していないことが強み」という文化も根強く残っています。

人手不足対策が引き起こす暗黙知の消失

マニュアル化・標準化の落とし穴

人手不足に直面した現場では、省力化や多能工化を目的に「マニュアル化」「標準化」が進みます。
しかし、現場の一部では「現場の肌感覚」「場の空気感」を無視し、誰が来てもできるように「表層だけの標準」を急造します。
その結果、熟練者が持っていた臨機応変な判断や微妙な調整力が失われ、現場の柔軟性が乏しくなります。

特に、トラブルが発生した際に「なぜこれが駄目なのか」が誰も説明できない、といった事例も発生しやすくなります。

自動化・DX化の進展と暗黙知の伝承断絶

自動化(ロボット導入、生産管理システム化)やDX導入は、現場の省人化・効率化に大きな効果があります。
しかし、思い切った自動化を実施し、現場からベテランが急速に減少すると、設備トラブルや想定外の現場課題が起きた時、即応できる人材がいなくなります。

なぜかというと、事務所で作られた「きれいな進捗表」や「工程維持基準書」だけでは、現場特有のニュアンスや「あれ、音が違う」「今、流れが悪い」といったベテランしか気づけない違和感を再現・継承できないからです。

派遣・非正規雇用依存による現場知識の希薄化

人手不足を外部リソースで埋めるため、派遣スタッフやアルバイト、外国人技能実習生への依存も高まっています。
人が入れ替わり続ける現場では、「教えてもすぐにやめる」「細かいノウハウまで教えられない」という悪循環に陥り、暗黙知の共有や伝承が現実的に難しくなります。

実際に起きた暗黙知消失の現場事例

ライン切り替え時トラブルの多発

ある大手自動車部品メーカーで、新人主体でライン切り替え作業をしたところ、装置調整が不十分となり不良品が多発した事例があります。
ベテランは「この装置は切り替え時、2ミリだけバルブを緩めて様子を見る」といった独自ルールを体で覚えていました。
しかし、マニュアルには載っておらず、その勘どころを知らない新人は現場を止めてしまいます。
こうした事例は、業種・事業規模を問わず頻繁に起こっています。

突発変更に対応できない多能工化失敗

多能工化・ジョブローテーションを急ピッチで進めた工場では、「誰でも作れるはずの製品」の工程で、ちょっとした設変や突発トラブルに誰も確かな打開策を持てず、生産が長時間停止してしまいました。
本来、現場に居て当たり前だった「あの人ならなんとかしてくれる」熟練技能の喪失は、組織全体のレジリエンスを大きく下げてしまいます。

なぜ「暗黙知」は簡単に消えてしまうのか?

技術伝承の「型」が変化した現代

昭和の製造現場では、「先輩の背中を見て盗む」「阿吽の呼吸で気配を感じ取る」文化が主流でした。
しかし、現代の労働形態では人の流動性が高く、「見て覚える」の前に組織から人がいなくなることも珍しくありません。
また「教わっていないことはやらない」若手も増え、一つ一つの知識を形式知(マニュアル)にする必要性が強くなっています。

DX、AI時代の「機械にはできない仕事」が増加

AIやRPAはルールベースの仕事は得意ですが、不測の事態への柔軟な対応は苦手です。
現場の暗黙知の多くは「無数のイレギュラー対応」の積み重ねから生まれています。
だからこそ、「この工程は自動化できたが、細かい手直しや調整、機転はいつも人がやっている」といった“機械化できない仕事”が逆に増えています。

定年退職による世代断絶

製造業の現場では、大量の団塊世代が定年退職を迎えています。
短期間に多人数の熟練者が抜けた現場では、一気に「誰も全体が分からない」「誰も頼れない」状況に陥りやすいです。
暗黙知が失われてからその重要性に気付き、「もう遅かった」と後悔する企業も少なくありません。

バイヤー・サプライヤー視点での暗黙知の意義

バイヤー視点:目に見えない品質・対応力の評価

バイヤーがサプライヤーを評価する際、図面やスペック通りのものを「作れる」だけでなく、「想定外のトラブル時にも柔軟に対応できる現場力」が強い武器となります。
暗黙知が根付く工場は型破りな要望や困難な納期変更にも現場で知恵を絞り、解決策を見出します。

逆に、巨大な投資で自動化され、効率化は進んだけれど「突発不良」に現場が耐えられない工場では、バイヤーから見ても「不安定に見える」場合が多いのです。

サプライヤー視点:暗黙知を明示知へ変換する戦略

「暗黙知」だけに頼ると継承困難ですが、一方で現場独自の知恵(強み)を積極的に形式知・マニュアル化し、売り込みポイントに変換する手法もあります。
たとえば、「うちはベテランしか分からない工程が多いですが、要所だけを動画マニュアル・チェックシートで見える化しています」とアピールできる工場は、バイヤーに高く評価される傾向にあります。

暗黙知を守りつつ「人手不足」を乗り越えるために

段階的なDX・自動化、技能伝承のハイブリット化

「いきなり全自動」「全部マニュアル」のどちらかに極端に振れるのではなく、
まず現場の知恵や感覚的判断を丁寧にヒアリングし「このポイントはベテランのノウハウ」「ここは自動化でOK」というリストアップと分析をしましょう。

そして、単純作業は自動化しつつ、微妙な調整・仕掛かり確認などの“匠の手”を残した複合ライン設計を目指してください。

暗黙知の「翻訳」=動画、ストーリー、OJTの活用

ベテランの技術や意見を記録し、動画やストーリー仕立ての教育コンテンツを作ることで、“暗黙知”の見える化が進みます。
作業の「なぜそこまでやるのか」「どうして異常に気付くのか」を現場でOJTしながら語り、納得感ごと継承していくことが大切です。

サプライヤー・顧客との直接対話で真の現場力を磨く

現場で積み上げた暗黙知を、サプライヤー起点で「ウチはこうやっています」「貴社で困っているなら、うちの現場力を使ってください」と提案営業を行うのも効果的です。
顧客・バイヤーとのコミュニケーションは、自分たちの暗黙知を他者に理解してもらう絶好の機会となります。

まとめ:暗黙知の価値を問い直し、失わない工場へ

人手不足対策として推進される現場改善や自動化は、確かに重要です。
しかし、その過程で現場の暗黙知が失われれば、「その工場ならでは」の競争力を失い、コモディティ化—つまりどこでも同じような工場—になってしまうリスクも孕んでいます。

今こそ、工場の現場力=暗黙知の重要性を問い直し、形式知化・共通言語化しながら、世代を超えた技能の橋渡しを意識することが必要です。
そして、暗黙知の価値を「見える化」し、製造業ならではの強さを未来に継承していきましょう。

この地道な取り組みこそが、アナログとデジタル、新旧の知恵を融合させた「これからの日本の製造業」を切り拓く鍵になるはずです。

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