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試作費を抑える分割受注でNRE負担を段階化する立ち上げスキーム

目次
はじめに:試作費の重圧が製造現場にもたらす課題
製造業の現場において新規案件の立ち上げは、常に重たい試作費というハードルに直面します。
とりわけアナログな部分が残る日本の製造業界では、「まず1ロット分のNRE(Non-Recurring Engineering:非回収費、開発費)を全て初回で負担せよ」というスタンスが今なお根強く残っています。
この背景には、昭和から続く習慣や、取引先との信頼関係重視の商習慣、さらには業界全体のIT化・自動化の遅れといった要素が複雑に絡み合っています。
しかし近年は、こうした一括請求によるスタートアップ負担が、調達部門にもサプライヤーにも大きなリスクとしてのしかかっています。
今回は、業界動向や現場経験を交えつつ、「試作費負担の段階化=分割受注スキーム」について、バイヤー・サプライヤー双方の目線から、そのメリット・懸念点・現場で有効な進め方について解説します。
分割受注で試作費(NRE)を段階化する意義とは?
なぜ今、NRE負担の分割が求められるのか
従来は、NREや型代といった初期投資を初回発注時にまとめて請求・一括精算する手法が一般的でした。
しかしこの方式では、量産に至るか不透明な段階でも多額の費用負担が発生し、調達バイヤーの立場ではプロジェクト途中の中止リスクが無視できません。
一方、サプライヤー側も、「仕様変更」や「工程見直し」で追加コストが発生しやすく、初回発注で粗利が確定しないという現実に悩まされています。
分割受注スキームは、「仕様検証→工程妥当性確認→量産初期→本格量産」など、複数段階に分けてNRE負担をスライドさせていく手法です。
これにより、双方のリスクを低減しつつ、よりアジャイルな製品開発・部品供給のあるべき姿を目指す動きが生まれています。
業界トレンド:NRE負担の段階化を後押しする背景
一括請求が難しくなってきている社会的背景として、以下のような流れが加速しています。
- 新規開発のスピード化により、設計変更やキャンセルが増加
- 小ロット・多品種生産へのシフトが進行中
- 製造DXによるコストおよび作業・工程データの可視化
- ESG、サステナブル調達の台頭によるリスク分散志向
また、ユーザー企業側の調達部門でも、サプライヤーリスクを下げる知恵として「段階的に報酬・費用を設計する」文化が求められています。
分割受注型NRE段階化スキームの典型パターン
代表的な分割パターン
実務現場における分割受注の具体的な方法は案件やサプライチェーン構造によって柔軟に変わりますが、一般的には以下のようなパターンがあります。
- 試作品検証段階
事前の図面検証、サンプル作成、小ロット評価分用の試作。 - 工程確立・量産性検証段階
パイロット生産や工程タクト最適化、量産立ち上げ前の工程設計見直し。 - 量産初期段階
初回ロット生産(小~中ロット)で歩留り、品質、納期実績を検証。 - 本格量産
生産体制・サプライチェーン全体の最終セットアップ後、Fullコスト適用。
各段階で明確なゴール(KPI、品質基準、納期等)を設定し、「成功した段階までのNRE負担を精算」することが肝要です。
実際の進め方(現場目線でのポイント)
試作から量産に至るまでの間、各工程ごとに「何に経費がかかるか」「どこまでバイヤーが負担するか」を可視化する必要があります。
また現場対応としては、「サプライヤーによる原価見積もりの妥当性検証」や「量産移行時の追加投資項目の洗い出し」も忘れてはなりません。
具体例として、
- 「段階ごとにサプライヤー提出の原価明細を添付してもらう」
- 「仕様変更や設計変更が発生した場合、都度協議しNRE負担割合を調整」
- 「想定ロット割りに応じ“ロットあたりコスト”を明確化」
など、コミュニケーションの透明化とコストの見える化が大切です。
バイヤー・サプライヤーそれぞれの目線とメリット・懸念
バイヤー(調達購買担当者)が得られる利点
- 初期費用を最小限に抑えつつ、段階ごとのリスク・投資対効果をモニター可能
- 案件途中で中止/仕様変更となっても、全損しない柔軟な投資コントロール
- 社内稟議や上長決裁・予算配分がしやすい(必要段階のみの説明で済む)
- サプライヤーと信頼関係を築きやすく、長期目線の共創体制づくりに貢献
サプライヤー(部品メーカー等)側の利点と配慮点
- 初期投資回収の確度が上がり、品質トラブルやロス発生時の追加請求根拠を明確化できる
- 無駄な追加仕様や作り直しが減り、現場負荷の適正化につながる
- 段階ごとにリードタイム・コスト・品質要求への合意形成が進めやすい
一方で、「分割だから何度も工程再調整が必要」「コスト見積もりを小分けにしなければならない」といった現場負担感や、経験値の少ない営業担当だと腹落ちしにくいという課題も残ります。
アナログ的業務慣習とDX化のジレンマ
日本の製造業では、見積書一枚で全て決まる“仁義の世界”がいまだ根強く、ERPや見積・原価管理システムとの親和性も課題です。
「分割受注は面倒だ、手間だ」という声も現場ではしばしば聞かれます。
しかし、設計・試作・量産の工程データを活かし、デジタルツールを用いれば柔軟な進捗・コスト管理が可能となります。
段階的精算×業務DXは、今後両立・定着させるべき方向性と言えます。
段階的NRE精算導入の流れ:現場での実践チェックリスト
1.事前準備:費目内訳とゴール設定
- どのプロセスでどの項目が発生するか(例:設計工数、治具費、型費など)
- 各ステップ完了時の「合格条件」や「成果物の目標値」設定
- 見積提出時に「分割精算可否」「精算ポイント」提示があるか
2.契約/調達ルールの合意形成
- 段階ごとの費用配分方法について双方でコンセンサスをとる
- 仕様変更や工程見直し時の費用再協議ルールを盛り込む
- 各分割のタイミング、報告・検証方法も事前にすり合わせる
3.定期的な進捗管理とレビュー
- 納入時の成果物レビュー(サンプル、工程データ、品質レポート等)
- 次段階への移行に必要な要件・稟議基準を明確にする
- コスト進捗/投資対効果を“見える化”し都度社内にレポート
4.段階的承認・精算・再計画のサイクル
- 成果報告ごとの見直しや即時フィードバック
- プロジェクト中止や量産スリム化時の再計画(損切り基準)
- 部品表や工程マスターの定型化(次案件への横展開)
未来志向:円滑なスキーム展開のために
分割受注型NRE段階化の本質は、「コストベネフィットの透明化」「現場のリスク分散」「製造現場の知恵とデジタル情報の融合」にあります。
昭和的な一括契約・人情取引から一歩踏み出し、工程・投資・成果・フィードバックの“流れ”で会話できる現場づくりが、これからのバイヤー・サプライヤーの価値を高めていくでしょう。
大手製造業メーカーからの現場提言
- 「手間が増える」「ルール化が面倒」と考えず、一歩ずつでも現場で“段階管理モデル”を試してみる
- 仕組みづくりはIT部門やシステム開発とも連携し、「工程・金額・成果物」をクラウド共有する
- 営業利益の最大化より、「トータル・現場最適」を優先した協力体制を目指す
まとめ:分割受注・段階的NRE精算がつくる業務革新
「最初から多額のNRE負担はリスクが高い」「小ロット開発が増えた時代には柔軟な工程管理が求められる」ーー。
現場を知る製造業バイヤー、そしてサプライヤーの立場から、段階的スキームへのシフトが新しい時代の調達購買の知恵となるはずです。
特にサプライヤーにとっても、段階ごとにきちんと成果の証拠を示せるため、信頼度が上がり次案件にもつながります。
そして何より、「現場の知識と客先ニーズとを最適につなぐ」「段階管理×可視化」で、製造業全体の競争力底上げに貢献することができるのです。
今こそ、分割受注型試作費精算を一歩踏み出し、現場価値創造の新たな地平線を切り拓いていきましょう。
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