投稿日:2025年8月25日

ステンレス板のプレス成型とインサート成型技術の加工委託

はじめに ― 製造業におけるステンレス板加工の重要性

現代の製造業において、ステンレス板のプレス成型とインサート成型技術は、部品品質と製造効率の両立になくてはならない加工手法となっています。

特に自動車、家電、食品機械、建築資材分野では、耐食性・美観・強度といった特性を活かすため、ステンレス板の加工技術が高度化しています。

一方で、コスト削減や短納期対応への圧力が年々高まる中、「加工委託」というサプライチェーン戦略が進化しつつあります。

本記事では、調達・購買担当者や工場現場長の視点も交えながら、現状の課題と今後の動向、そして実際に加工委託を成功させるためのポイントを解説していきます。

ステンレス板のプレス成型 - 基本を押さえる

プレス成型とは何か

プレス成型は、金型を用いてステンレス板に圧力を加え、所定の形状に成型する加工技術です。

主な工程には、せん断(打ち抜き)、曲げ、絞り、端面仕上げなどがあり、たった1工程、あるいは複数工程の組み合わせによって構造部品や外装部品が作られます。

高い量産性と製品寸法の安定性が利点ですが、材料特性や金型精度、プレス機の能力、スタッフの技量が品質に大きく影響します。

ステンレス特有の留意点

ステンレス板は耐食性に優れる一方、加工硬化しやすい性質を持っています。

これにより、プレス加工後にバネ戻りや割れ、摩耗による金型寿命の短縮といったリスクが発生しやすいです。

昭和時代から受け継がれた「経験と勘」に頼り切った職人技も強みではありますが、寸法精度や表面仕上げ、コスト競争力を両立させるには、設計段階から適切な材質・板厚の選定、CAE予測や金型設計の最適化が欠かせません。

現場のリアルな課題

プレス成型現場では、
– 人手不足による熟練作業者の減少
– 残業規制と納期短縮プレッシャー
– 昭和期の古い設備の稼働継続

といった課題が根強く、実は新しい加工技術の積極導入は意外と進んでいません。

多くの工場では未だに紙の作業指示書や目視検査、「勘」によるプレス調整が現場レベルで主流であり、最新の設備を持つ数少ない大手工場と下請町工場の間で、生産性と品質の「二極化」が進行しています。

インサート成型 ― 高度化する部品一体化ニーズへの対応

インサート成型とは

インサート成型は、樹脂成型時に事前に金属やナットなどを「挿入(インサート)」しておき、成型品と一体化させる加工技術です。

ガスや流体、電気部品の接合部品、あるいは締結部品に多く使われています。

従来は二次工程で「後付け」していた金具を、成型と同時に取り付けることで部品点数や組立工数を削減し、コスト競争力を確保できます。

インサート部品がステンレス板の場合のメリットと難しさ

インサート部品としてステンレス板やステンレス製小部品を採用することで、耐食性や強度の向上、電気的な特性の付与が可能です。

一方で課題も多く、主なものは次の通りです。

– 樹脂とステンレスの界面密着性の確保
– 熱膨張率の違いによる割れや反りの発生
– 複雑な構造での樹脂流動・ガス抜き管理

サプライヤー側としては、それぞれの材料特性や加工順序への深い理解が求められ、「ただ単に工程を追加すればよい」話ではありません。

業界動向:小ロット多品種化と技能承継問題

かつて、家電や自動車部品は大ロット大量生産が主流でした。

ところが、近年は短寿命サイクル・カスタマイズ志向の製品が増え、小ロット多品種、かつ高品質でのインサート成型が要求されています。

一方で、昭和から伝わる現場技術者のノウハウの継承が進まず、「やったことのあるサプライヤーが周囲にいない」状況も珍しくありません。

こうした中、「成型時のCAE活用」「歩留まりデータの細やかな記録」や「ノウハウの可視化・マニュアル化」が、再び脚光を浴びつつあります。

加工委託の現場実務 - バイヤーとサプライヤー双方の目線で

バイヤーが求めるのは何か?

長年、私自身が調達現場を経験する中で痛感したバイヤーの本音は次の2点に集約されます。

– 「安定品質・納期維持」が最優先
– トラブル時に「現場目線」で相談できる信頼関係の構築

いくら営業トークが巧みでも、現場の品質実態やリスク対応力を見抜くための綿密な工場監査、過去トラブル事例からの逆算的なQCD(品質・コスト・納期)管理能力の訴求が、サプライヤー選定判断の決め手になります。

昭和的な風土から抜け出すための提案

依然として「属人的・電話やFAX主体」な購買現場の多くにおいて、バイヤーがサプライヤー選定で見ているのは次の点です。

– 設計変更時や工程トラブル時の柔軟な対応力
– 3D-CADデータ、CAE解析結果、成形シミュレーションの提示能力
– 不適合時の迅速な現地対応と再発防止実績

「この図面通りできますか?」の一歩先、「この要求なら、こういう工程と管理が最適です」と現場目線で根拠ある加工提案を返してくれる委託先こそ、長期的に選ばれる傾向があります。

よい取引関係を築くためのポイント

サプライヤー側は、単なる「御用聞き」から「価値提供パートナー」へと脱皮する必要があります。

– 試作品の歩留まり/寸法測定データを綿密に記録し開示する
– 他業界の類似事例や失敗事例、コストダウン成功例を共有する
– 納期遅延や不適合発生時の現場写真・レポートをタイムリーに提出

また、加工委託時には工場への「現場監査」を歓迎し、5S、現場作業標準書、工程内/最終検査体制がきちんと運用されていることをアピールすることで、購買担当者の評価を高めます。

委託先選びで失敗しないためのチェックリスト

昭和的な「顔なじみのサプライヤー」だけに頼り切っていた現場も、部品供給リスクや品質管理レベルの底上げが求められる時代になりました。

加工委託で「失敗しない」ためには、以下の観点で委託先をチェックしましょう。

– ISO9001やIATF16949などの品質保証体制があるか
– サンプル/試作過程でQ&Aを丁寧にやってくれるか
– 加工工程ごとの写真・動画・作業手順書を提出できるか
– 明確な価格体系・追加工費用の提示があるか
– 納期遅延リスクやリードタイム短縮要請にきちんと対策があるか

これに加え、現場の作業者や保全担当者、検査員といった複数レイヤーの担当者が直接コミュニケーションをとれるサプライヤーは、いざという時のトラブル対応や迅速な改善提案がもらえる点で魅力的です。

今後の展望―工場DX(デジタル変革)と加工作業の未来

ステンレス板のプレス成型やインサート成型委託においても、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が急速に押し寄せています。

AIとビッグデータを活用してプレス加工作業の異常検知や自動調整、CAE-シミュレーションによるインサート成型の最適条件自動抽出など、数年前には考えられなかった技術が現場に導入され始めています。

とはいえ、現場のベテラン技術者の「五感」や現物確認による対応力が、安易な省人化により失われるリスクも孕んでいます。

今後は、デジタル技術の力と昭和的現場力の「ハイブリッド型」で人材を育てることが、競争力の維持には不可欠となるでしょう。

まとめ―「現場主義」と「現代技術」の橋渡しを目指して

ステンレス板のプレス成型やインサート成型技術、そしてその加工委託の現場では、デジタル化・効率化の流れと、熟練技の伝承という二律背反の課題に直面しています。

バイヤーとサプライヤーが互いの立場を理解し、「現場で使える」提案や情報共有を深化させることが、日本の製造業発展のカギです。

20年以上現場を見てきた経験から、ものづくりの根本は「人の思いやりと知恵の共創」だと確信しています。

常に「なぜ?」「どうやって?」を問い直し、時代の変化に適応できる現場をともに作っていきましょう。

製造業に携わるすべての方の挑戦を、心から応援しています。

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