投稿日:2025年8月25日

社内移送の台車標準化で運搬時間と傷物のコストを抑える現場整備

はじめに:製造現場の「当たり前」に潜むムダを見直す

製造業の現場に身を置いて20年、驚かされるのは、昭和の時代から変わらない「当たり前」が未だに根強く残る点です。

特に、社内移送に使われる台車の運用ありませんか。
「いつも使っているこの台車、もう20年選手だよ」
「この製品は、あの一番大きな台車じゃなきゃ運べない」
こんな会話、現場のベテランの方であればきっと思い当たるでしょう。

昨今、製造業には「高品質・短納期・低コスト化」への期待がこれまで以上に高まっています。

では、その実現に必要な現場の微細なムダ取りやロス削減、果たして十分に進んでいるのでしょうか。

社内物流のキモである「台車」。
実はここに、少なく見積もっても数百万円単位のロスと品質リスクが眠っています。

この記事では、台車の標準化による運搬時間と傷物コストの抑制について、現場で培った経験や最新の業界動向を交えて、詳しく解説します。

なぜ台車標準化が現場の課題解決のカギとなるのか

台車運用の「属人化」と「場当たり」の弊害

現場では、それぞれのラインや担当者の好みで、様々な種類・サイズ・材質・形状の台車が混在しています。

その多様性は、柔軟性や対応力の高さと引き換えに「属人的運用」と「場当たりの継ぎ足し」という課題につながります。

例えばシフトで人が入れ替わる際、「前の人が用意しておいてくれた台車が合わない」ために一からセットし直すこともしばしばです。

このたび重い荷物を載せる仕様で作った台車のキャスターが、一年後にはガタガタになり、部品の運搬時にはタイヤ跡が製品に残ってしまう。

また、最近では外国人スタッフや異動した他部署の社員など、多様な人材が現場をシェアします。

そんなとき、手順書には「適切な台車を使用」としか書いていないので、台車の選択ミスが起きやすくなります。

結果として、運搬タイムロスや物損、ケガなど、深刻な問題へと発展するのです。

台車の「非標準」はコスト増・品質低下の温床

標準化されていない台車運用がもたらすデメリットは、次の通りです。

– 適正な台車選択の判断ミスによる製品への傷・汚損
– 不安定な運搬作業がもたらす作業者の疲労・ケガリスク
– 蜘蛛の巣のような導線ルールの複雑化
– 各現場ごとに検討・購入・メンテナンスすることでの在庫・コスト増

これらは意外に見過ごされやすいですが、「ちりも積もれば山となる」どころか、毎日の繰り返しにより、年間数百万円相当のムダ工数やコストに直結します。

また、製品画像の傷や汚れ、ちょっとした変形はクレーム原因となり、ブランド信頼にも大きな悪影響を及ぼします。

台車標準化のメリットを現場視点で再発見する

使いやすさと品質の両立

標準化台車とは、ラインや運ぶアイテムに最適化した仕様を複数現場で共通利用できるものです。

例えば、製品の寸法・重量・精度要件・床面の材質・作業導線などをきちんと洗い出し、汎用化できる台車を限定して導入することが肝心です。

標準化のポイントとしては、

– キャスター材質(床に傷がつかないゴム・ウレタン選定)
– ハンドル高さ(誰でも安全に操作可能なサイズ)
– 台車天板の素材選定(商品を守るためのロンリュームやゴムシート)
– 補強の形状(製品のたわみ防止・荷崩れ防止ガード)

が挙げられます。

こうした「意図的な設計」によって、台車自体の使いやすさが向上し、製品への損傷も未然に防げるのです。

運搬工程の標準時間短縮

台車種類の統一は、運搬ルートの見直しやレイアウト改善にも波及します。

誰が使っても同じ場所、同じ手順、同じ台車を使うことでリードタイムにバラつきが出にくくなります。

作業者は無駄な思考や選択、「この部品、どの台車がベストなのか?」という迷いも消え、本来注力すべき生産活動や品質確保に集中できるようになります。

この一貫性が、結果として工程全体のボトルネック解消や遅延減少につながり、ひいては納期遵守率のアップへとつながるのです。

維持管理とコスト見直しの好循環

台車の部品や保守・修理、清掃・点検も、標準化することで一元管理が可能です。

適切なメンテナンスサイクル導入で耐久性もアップし、消耗品の共通化によって調達コストも下がります。

また、社内の台車購入台帳が一眼でわかるようになれば、ムダな新規購入や放置される台車の廃棄コストも減少します。

実現のポイント:「現場」と「管理部門」で何からはじめるか

①現場ヒアリングと現物観察の徹底

標準化の第一歩は、現場実態の把握に尽きます。

製品ごとの運搬経路、積載される重量、搬出入の頻度、作業者の声、まだ「台車病」が起こっている部分などを細かくリサーチしましょう。

独自のチェックシートやヒアリングカードを作成することも有効です。

②「使う立場」と「マネジメント立場」の擦り合わせ

現場目線からすると「本当に必要な機能」が何か、また管理側からはコストダウン・安全性・標準作業確立といったバランスをとる必要があります。

場合によっては作業者代表と調達購買担当、品質管理、保全部門などが混じった「標準化プロジェクト」を立ち上げ、合意形成を図るとベターです。

③ピクトグラムや導線シールなどの“見える化”も大切

どの台車がどの用途なのか誰でもわかるようラベルや色分け、置き場表示・導線マーキングなど、工夫次第で取違い事故を大きく減らせます。

これは外国人スタッフや新入社員研修にも効果絶大です。

④バイヤーとサプライヤーの連携でコストと機能を最適化

台車一つとっても、調達・購買の経験値が問われます。

「安いから」といって既製品を大量導入するのではなく、専門サプライヤーとの仕様打ち合わせを通じ、必要最低限かつ十分なスペックでオーダーメイド化またはセミオーダー化する視点が重要です。

現場の声をくみ取れる目利きバイヤーこそ、製造現場改革のキーパーソンになり得ます。

バイヤー視点・サプライヤー視点で考える台車標準化のコツ

バイヤーが注意すべき点

– 製品ごと・工程ごとの必要スペック(特にキャスターの耐荷重・材質)
– 長期耐用の部品共有化(メンテナンスコスト減・在庫効率向上)
– 法規対応・安全性(板厚・溶接強度・ストッパ有無など)
– 気温・湿度差など使用環境

購買価格の安さだけでなく、トータルで見て「運搬ロス」や「不良損失」まで含めたコスト感覚が求められます。

サプライヤーが知っておきたい「現場の本音」

現場ユーザは「サイズ・仕様が合えばコストを気にしない」と言われがちですが、実は「掃除しやすい」「軽量化してほしい」「分解修理が簡単」など、細かな要望を持っています。

ヒアリングツールや現場視察からニーズを正確につかみ、見積段階で「オプション」提案できるとベストです。

まとめ:台車標準化は「現場力強化」の登竜門

社内物流の要である「台車」。
見過ごしがちですが、台車の標準化は現場の安全・品質・コスト競争力を根本から高めます。

属人的運用・現場ごとのバラバラな改善から一段進み「全体最適」を実現することで、傷物・ケガ・遅延コストの全てに、目に見える成果が現れます。

バイヤーもサプライヤーも現場目線で、運用・管理・設計に一段踏み込んだ付加価値を。
それこそが、昭和時代から一歩先へ踏み出す、日本のものづくり現場の進化のカギです。

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