投稿日:2025年9月4日

港湾THCとドキュメントフィーの可視化で想定外コストを排除する見積標準

はじめに 〜港湾THCとドキュメントフィーの見える化がもたらす真の価値〜

製造業におけるグローバルなサプライチェーンの運用は、年々複雑性を増しています。
原材料・部品の調達先が世界中に分散する中、物流コストの管理は企業競争力の根幹をなす要素といえるでしょう。
特に、港湾で発生するTHC(ターミナルハンドリングチャージ)やドキュメントフィーなどの“名ばかり諸経費”は、現場では「想定外コスト」として度々問題になります。

この記事では、過去20年以上にわたり製造業現場の厳しい調達・購買実務に携わってきた経験から、港湾関連の諸費用を徹底的に可視化し、属人的・アナログ的な“読み”や“カン”に依存しない「見積標準」の考え方を解説します。
バイヤーを目指す方や、サプライヤーの視点でバイヤー心理を理解したい皆様にも参考いただける実践知が詰まっています。

なぜTHCやドキュメントフィーは見えにくいのか?

“外付け”コストの罠――見積書のブラックボックス化

多くの製造業現場では、サプライヤーの見積書の項目が解像度の低いまま承認されている実態があります。
「本体価格は他社と比べて安いが、よく分からない“諸経費”が載っている」ケースが多いのは、このためです。

輸送費や保険料に並び、船積手前で発生するTHC・ドキュメントフィーは、サプライヤー・フォワーダーごとに算出基準も記載方法もバラバラです。
結果として、最終的な調達コストが読み切れず、予算化・原価低減活動にブレーキをかけています。

昭和型アナログ慣習が残す「常識の壁」

日本の製造業界では長年にわたり、往々にして前例踏襲・暗黙知に依拠したコスト交渉が行われてきました。
「この経費は大体これくらい」という“慣例値”が、根拠も曖昧なまま横滑りで適用される例も珍しくありません。

この昭和的アナログ慣習は、グローバル競争が激化する現代において、見積もり項目の属人化・不透明化という根強い課題となっています。

THC(ターミナルハンドリングチャージ)の本質的理解

THCとは何か?――発生する理由と内訳

THC(Terminal Handling Charge)は、船積貨物が港湾ターミナルで取り扱われる際に発生する一連の荷役・管理コストです。

主な内訳は以下の通りです。

・コンテナの搬出入料(CY charge)
・クレーンオペレーション費用
・保管料(一定期間以上の場合)
・港湾作業スタッフの賃料
これらは港ごとに設定される関税・港湾使用料や、人的コストの影響を強く受けるため、地域や時期で大きく変動する特徴があります。

サプライヤー提示額=実コストとは限らない訳

サプライヤーやフォワーダーの見積項目に“THC一式”として加算されていても、その内訳や計算根拠はブラックボックス化しがちです。
ときには、実際の港湾コストに独自の事務手数料等を上乗せした“合算額”が請求されることもあります。

ここにバイヤーが能動的に可視化へのアクションを取らなければ、サプライヤー都合で設定されたコストを無条件で受け入れるリスクが潜みます。

ドキュメントフィーの構成と交渉余地

ドキュメントフィーの本質と変動要素

ドキュメントフィーとは、船積指示書・B/L(船荷証券)発行・各種インボイス管理など、物流に付帯する書類作成業務にかかる事務コストです。
各種法規制や貿易管理書類のデジタル化に伴い、発生根拠・適正額の見極めが以前よりも複雑になっています。

・B/L発行手数料
・マニフェスト入力料
・書類送付費用
など細かな項目に分かれていますが、実際は一括で「ドキュメントフィー」とされるケースが多い点が特徴です。

バイヤーの“見える化”がもたらす交渉力

過去の調達購買現場の経験から言えば、 ドキュメントフィーは交渉次第で大きく削減できる“隠れ原価”です。

・書類作成の自動化
・電子化による郵送費の実質ゼロ化
・テンプレート化による業務効率向上

こうした実態を問いただし、過去契約分と突き合わせることで、サプライヤー・フォワーダー側の上乗せ幅を抑制しやすくなります。

港湾THC・ドキュメントフィー可視化の方法論

1. 各項目の明細化要求

現場目線では、まず見積書または契約書内で「THC・ドキュメントフィーの詳細明細」を必ず要求するのが鉄則です。

・どの港で
・どんな作業に
・いくら発生するか

少なくとも、サプライヤー側の“お任せ”、“一式”表現ではなく、具体的な仕訳項目と金額根拠の明確化を徹底してください。

2. 自社独自のベンチマークデータ構築

前例ベース・人任せから脱却するためには、自社で蓄積した過去データをもとにTHC・ドキュメントフィーの“標準価格表”を作るのが非常に有効です。
できれば定期的に各港ごと、仕向け地ごとの費用を一覧化し、クロスチェックできる仕組みを整備しましょう。

3. 複数サプライヤー間での透明化競争を促す

単一サプライヤーとの取引依存から脱却し、複数の見積比較を繰り返すことで、各項目費用の“透明化競争”を仕掛けるのも強力な手段です。

バイヤー主導で「今回から費目別明細を開示してください」と宣言し、情報公開の基準ラインを引き上げることが業界全体の健全化につながります。

見積標準による想定外コスト排除の実践例

CASE(A)港湾THCの標準化が“現場予算”を救う

ある製造現場では、東南アジアからの部品調達で港湾THCが年々増加し、原価低減計画が停滞していました。
そこで、自社で「2018年以降の同一港・同一船社」取引のTHC実績値を洗い出し、平均値・最高値・近時の上昇要因をリスト化。
サプライヤー見積もりと乖離があった場合は、その根拠を明細ごとに確認、最終的に「どんな場合でも1コンテナ○ドル以内」と標準額を定め、超過分は毎回説明義務を課す方式に切り替えました。
結果、年予算の20%近いコスト削減と、「不意の増額無し」の安心感を獲得しています。

CASE(B)ドキュメントフィー絶対額の見える化

別の事例では、サプライヤー側で「ドキュメントフィー一式1件5,000円」という定額見積もりが出ていました。
そこで、業務プロセス分析と事務アウトソース化を実施し、実際に掛かっている作業時間・人件費・郵送実費を項目ごとに算定。
電子B/L導入による手数料減額を交渉カードとし、「最大2,000円/件」へ引き下げに成功しました。
浮いたコストで現場現金化サイクル短縮への再投資も実現するという好循環につなげています。

実践現場での「ラテラル発想」――新たな切り口で港湾コスト革命を

従来“見積もり不要”だった範囲まで徹底チェック

「毎回同じ港を使っているから」「グループ指定フォワーダーで決まりきっているから」と心理的盲点になりがちな項目にも、隠れた原価圧縮ポイントが見つかる可能性があります。

現場の細かい作業フロー、一度はルーチン化した取引条件についても、「そもそもこの金額は今も妥当か?」と批判的視点で点検することが重要です。

IT・デジタル化が加速する新・標準化の波

近年は各種港湾作業や貿易書類処理のデジタル化が進み、「人件費」「作業コスト」の削減可能性が増しています。
AIやRPA、eB/Lなどのデジタルソリューションで本当に必要な費用だけを“定量化”し、見積基準そのものをアップデートすることが、次世代バイヤーの強みとなっていきます。

まとめ——明細化と標準化が巻き起こす製造業調達の革新

グローバルサプライチェーンが複雑になる中、THCやドキュメントフィーのブラックボックス化は、製造業現場の足かせとなり続けています。
アナログ的な「慣例値」「一式処理」に流されず、徹底した見積細目の明確化と、自社標準価格の策定で、“想定外コスト”を排除しましょう。

バイヤー側のラテラルシンキングによる新たな視点・データの活用は、コスト競争力を劇的に高めるだけでなく、業界全体の透明性向上にも寄与します。
デジタル時代の見積標準が示す新しい地平線へ、今こそ共に一歩踏み出す時です。

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