投稿日:2025年8月17日

棚札の色と記号を標準化して誤ピッキングを減らす表示DX

はじめに:棚札の「色」と「記号」に潜む現場のリスク

製造業の現場では、日々膨大な部品や製品が行き交います。
その一つひとつを正確に管理し、必要なタイミングで必要な場所に届けることは、工場運営の根幹と言える要素です。
しかし、アナログな現場では今なお「誤ピッキング」という課題が根強く存在しています。

棚札(たなふだ)による表示は、現物の識別や作業効率を上げるための重要な役割を担っています。
色や記号が混在し、現場ごと・担当者ごとに独自ルールが幅を利かせているケースも少なくありません。
その曖昧さや属人化が、思いもよらぬヒューマンエラーの温床となるのです。

本記事では、棚札表示の色と記号を「標準化」=見える化・分かりやすさ・統一性の観点で再定義し、誤ピッキング削減につなげる新たな「表示DX」の道筋を、実践事例とともに深掘りします。

現場目線で見る誤ピッキングの実際と、その要因

なぜ誤ピッキングが起こるのか

誤ピッキングの主な要因は、人間の注意力や記憶に頼ったオペレーションにあります。
棚札の色や記号が統一されていないと、似た形状や色の異なる部品を取り違えるリスクが大きくなります。
たとえば「白い札+黒丸」と「白い札+赤丸」など小さな違いが、忙しい現場や暗い環境下では十分に認識されず、間違いが発生しやすいのです。

昭和型アナログ現場の「現実的な」課題

・現場ごとに色分けルールがバラバラ
・現場主任や古参社員が「俺流」で運用
・棚札が手書きやラミネートで増設と変更を繰り返している
・新人教育のたびに説明が必要で、浸透率があがらない

こうした状況が長年続くと、ヒューマンエラーが常態化し「これくらいのミスは仕方ない」という諦めムードが蔓延してしまいます。

色と記号の標準化:なぜ今強く求められているのか

「標準化=現場DX」への第一歩

標準化とは、単なるルール集ではありません。
誰が見ても直感的に分かる「共通言語」を現場に根付かせ、属人化や曖昧さを取り除くことです。
“分かりやすい表示”は、技能や経験に左右されにくい働き方を実現し、労働人口減少や多様な働き手への活用を強力に後押しします。

デジタル化の波が工場を覆う中、「表示の統一とDX」は、いわば現場改革の基礎工事と言えます。
単に棚札の”見た目”を変えるだけでなく、ミスを限りなくゼロにし、信頼性と生産性の両立へつなげていく取り組みなのです。

優れた標準化がもたらす6つのメリット

1. 誤ピッキングの大幅削減
2. 作業スピードの向上
3. 教育・引継ぎが容易
4. 多国籍・高齢者・初心者でも視認性UP
5. 品質トラブル発生率の減少
6. サプライヤーや他部署との連携強化

この6つは、現場力強化への道筋であり、人が主役のアナログ工程にも確実な変革をもたらします。

棚札の色・記号:現場実践の「標準化パターン」事例集

主要な色分けの考え方

棚札の色は、単なるデザインではなく意味を持たせる必要があります。
以下は筆者の実体験をもとにした運用例です。

・赤:要注意品/特急品/異常品
・黄:納期優先品/着手指示済み
・緑:通常部品/在庫充足
・青:追加手配中/受領待ち
・白:標準品/全数在庫OK

こうした色分けは、信号機や安全表示と同じ「誰にでも分かる」原則に従っています。
たとえば赤は危険や緊急の意味を、青や白は安定や通常運用を示します。

記号の付与で更なる識別力向上

色だけではカラーユニバーサルデザインに対応できません。
色覚特性の異なる従業員や、薄暗い現場でも間違いが起きないよう、
・丸:完成品
・四角:部品
・三角:工具/治具
・星印:要注意
など「形(記号)」も積極的に使い分けましょう。

文字情報だけでなく、ピクトグラフや“バーコード”“QRコード”と組み合わせることで、棚卸しやトレーサビリティ技術にも連動させやすくなります。

デジタル棚札の導入事例

近年は「電子ペーパー」や「フルカラーLED電子表示」を工場内に導入し、遠隔操作や自動切換えにより棚札の内容を書き換える企業も増えています。
これにより、人手を介さずに
・出荷ロット変更
・緊急オーダーの明示
・異常アラートの発信
などが実現し、作業の正確性が格段に向上しています。

サプライヤー・バイヤー視点で現場標準化を見る

資材調達〜生産全体を貫く「統一言語」

大手メーカーでは、バイヤーは部品と情報、さらには品質リスクまでも一元管理する使命を担っています。
「標準化された棚札=共通ルールの導入」は、サプライヤーである協力工場や外注先にも波及し、バイヤーとの正確な連携を生みます。

たとえば「緑ラベル×四角」が“供給OKな標準部品”になれば、双方の物流・仕分け・在庫チェックの手戻りが圧倒的に減ります。
表記ルールが曖昧なままでは「ウチのやり方」「アノ人だけが分かる運用」になり、余計なトラブルや伝言ゲームによるミスを誘発してしまいます。

バイヤーが知っておくべき現場の「棚札ルール問題」

バイヤーは帳票ベースやシステムデータで調整できても、実際の現場での札の違いによる混乱が現実に発生しています。
たとえば“緊急部品”の定義や“要検品部品”の記号などは、現場ごとのローカルルールが根強く、思わぬミスや納期遅延の原因になり得ます。
サプライヤーとしても「標準化された棚札ルール」を持っている取引先は、結果的に管理コストを圧縮でき、信頼度もアップします。

棚札標準化の進め方:現場改革の成功ポイント

小さなPDCAを回しながら定着させる

標準化は一朝一夕で現場に根付くものではありません。
最初は小さな範囲でパイロット運用(=試験導入)から始め、失敗や反発を許容しつつ、「なぜ分かりやすい表示が必要か」という現場目線の腹落ちを促すことが大切です。

・従来の棚札との違いを実感させて現場を巻き込む
・実際の誤ピッキング件数をデータで可視化
・ラインリーダーや棚卸し作業者からのフィードバックを即反映
・「棚札表示リーダー」「標準化推進リーダー」を立てて継続改善
現場の納得感を最大化するためには“見た目が変わる”だけでなく“現場が楽になる”“組織のパフォーマンスが向上する”という実感を共有することが必須です。

デジタル棚札・IoT棚札への展開

標準化ルールが固まったら、次のステップは帳票・ERP・WMS(倉庫管理)システムとの連携、さらにはIoT対応の「電子棚札」化です。
作業者ごとのスマート端末と連携すれば、“ピッキング指示”や“エラー警告”もリアルタイムで現場に伝えることができ、人為的な抜け漏れを減らせます。

とはいえ、コストや現行システムとの兼ね合いもあるため、一気呵成の導入ではなく段階的な適用を推奨します。
まずは「色・記号・区分」表示の徹底から始め、現場改善を実感したうえで徐々にデジタル化へシフトするのが賢明です。

まとめ:棚札標準化で製造業の現場を強くする

製造現場の「誤ピッキング」をゼロに近づけるには、アナログな手作業任せから脱却し、「誰にとっても分かりやすい棚札表示」の標準化が不可欠です。

・色分け×記号で識別力向上
・現場ごと・人ごとの“俺流”を排し、共通ルールに
・デジタル・紙・ピクトグラムの多層活用で多様性に適応
・バイヤーとサプライヤー双方の効率と信頼性を高める

時代は、現場主導の“表示DX”へと確実に進化しています。
マンパワーと経験を軸にした昭和型の現場でも、この小さなイノベーションが大きな生産性革命につながるでしょう。
棚札の色と記号の標準化から、日本のモノづくり現場に新たなベストプラクティスを広げていきましょう。

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