投稿日:2025年9月3日

VGM計量とSOLAS対応を標準化して出港遅延のリスクを回避する出荷手順

はじめに:VGMとSOLASが求める現場目線での本質的な課題

海上輸送がグローバルサプライチェーンの一端を担う現代において、VGM(Verified Gross Mass: 検証総重量)の適正管理と、SOLAS(海上人命安全条約)への準拠はもはや義務です。

しかし、実際の現場では「VGM計量の標準化がなぜ必要なのか」「SOLAS対応は形だけでは正しい運用にならない」など、昭和から続くアナログな慣習や属人的な運用に業界全体が悩まされています。

今回は、製造業の出荷現場で培った実体験や、現場特有の “ひずみ” をふまえて、VGM計量とSOLAS対応を標準化するための実践的な出荷手順を解説します。

出港遅延のリスクを回避し、グローバル調達・物流の信頼性を高めるために、バイヤー志望者やサプライヤー側の方もぜひ参考にしてください。

VGM計量とSOLASの基本:なぜ重要なのか

VGM・SOLASとは何か ― 製造業にとっての意味

VGMとは、『コンテナの“正確な総重量”を出荷者が証明して港湾運営者に申告する』ことです。

誤った重量申告は、荷崩れや転覆事故を引き起こしかねず、海上輸送の安全を脅かします。

SOLAS(Safety of Life at Sea)は、こうした事故を防ぐために拡張された国際条約で、VGMの申告を法的に義務化しました。

工場現場から見ると、
– コンテナに積載する全ての貨物・パレット・梱包資材・コンテナ自体の重量まで「本当に正しいか」チェックしなければならない
– 誰がVGMの責任者でどうやって証明書を発行・保管するかプロセスを整備しなければならない

といった新たな課題に直面しています。

現場が最も困るリアルな問題

・いまだにアナログ的 “勘” や “目測” で重量を申告してしまう
・誰がVGM確認者か不明(責任の所在があいまいなまま)
・外部委託や多拠点生産でプロセスが乱立し、標準化されていない
・計量機材の管理や記録・証跡の保管がバラバラで不備になりやすい

こうしたズレやムラが、ちょっとしたミスで出港遅延、最悪の場合は港で荷役を拒否される事態につながります。

昭和的アナログ運用~なぜ温存されがちか?

「見て覚える」重視とパート・当たり前の壁

日本の多くの製造現場では、「経験者がやっていた手順を受け継ぐ」「一度合格したやり方を変えることを恐れる」といった昭和由来のアナログ文化が根強く残っています。

とくに、積み付けや検品・梱包工程はパートタイムや出荷経験者が賄うことも多く、
・デジタル計量機器の導入が遅れている
・記録は紙管理で、人によって記入や保存が雑
・忙しい時期はチェックが形骸化する
という実情があります。

また、計量台やフォークリフト用スケールなど、現場機材そのものの精度管理があいまいで、キャリブレーションの定期点検も「使えなくなるまで放置」というケースもしばしば見受けられます。

「コスト優先」VS「安全性・法令順守」のねじれ

一方で、経営層や営業現場は、
「コストを抑えて一コンテナにできるだけ多く詰めろ」
「納期死守!とにかく出港遅らせるなよ」
と、現実路線でのプレッシャーをかけがちです。

現場では「とにかく早く積んで出せ」というプレッシャーが強く、VGMやSOLASの重要性よりも、目の前の出荷量と効率が優先になりがちです。

このギャップこそが、業界がいまだにアナログ運用から脱却できない最大のハードルとなっています。

VGM計量とSOLAS対応を高精度で標準化する出荷手順

ここでは、昭和的感覚と現代の法令順守を両立しつつ、実際に「出港遅延」を未然に防げるプロセスを、一連の手順としてご紹介します。

1. 責任者の明確化と権限付与

出荷現場に必ず “VGM責任者” を任命します。
・現場サイド(出荷管理課など)から、リーダー経験のある正社員または契約社員を選定
・VGMに関する教育(ISO・SOLAS研修を含む)と、権限を明確に文書化して付与
・責任者は、出荷毎に「確認サイン」「証明書類の発行・保管」「トラブル時の記録保存」を必ず行う

2. 計量プロセスの標準化

・計量手順をマニュアル化し、標準作業手順書(SOP)を策定
・現場の計量機材(台秤・リフター・計量証明書が出せるもの)は必ず年1回以上点検・キャリブレーション実施
・すべての貨物、梱包部材、パレット、コンテナ自体の重さを「一品一様」で必ず計量記録
・記録は可能な限りデジタル化(PC/タブレット入力、自動バックアップ含む)

3. 実重量と帳票の連動

・受注システムやWMS(倉庫管理システム)と計量結果を連動、余計な転記や記入ミスを撲滅
・計量記録とB/L(船荷証券)、インボイスを照合し、数値不一致時は必ずリーダー承認
・照合の段階以降は、出荷直前変更を原則禁止

4. SOLAS認証手順の自動化・流れ作業化

・計量データからVGM証明書を自動生成
・VGM証明書の電子保管(クラウド保存/PDF化)
・出荷伝票や港湾申告書へワンタッチ転記
・必要に応じて取引先やフォワーダーへ自動送信

5. 例外時の現場ルール整備

・現場で急な積み替え・コンテナ変更が起こった際、必ず “やり直しフロー” を用意
・ヒューマンエラー発生時は即時報告と再計量、当日の責任者または管理職による承認必須
・定期的に「エラー事例集」を共有し、属人的な処置を減らす

業界の標準化事例:先進企業の実践例

事例1:自動計量・一元管理システムの導入

某大手自動車部品メーカーでは、フォークリフト搭載型スケールや自動ラベル発行機を導入。

出荷工程の合間にリアルタイムで計量結果をクラウド管理しています。

納品伝票も自動でVGM証明データにひも付き、トラブル時のトレーサビリティも実現しました。

事例2:部品サプライヤーとの連携強化

製品部品を他社から調達する際、前段階のサプライヤーにも計量・証明工程を義務化しています。

各サプライヤーから「重量証明」「使用部材仕様」「梱包材リスト」等を事前取得した上で自社倉庫へ搬入。

組立後、全体として再度VGM計量を行い、二重チェックを徹底しています。

事例3:教育と現場改善のPDCA化

とある精密機器メーカーでは、現場実習やe-learningなどでVGM教育を全作業者に義務化。

毎月出荷トラブルやヒヤリハットを計量台帳でフィードバックし、常に作業手順をPDCAで改善しています。

現場スタッフもVGM/SOLAS対応がキャリアアップや評価の一要素になるため、積極的な取り組みが浸透しています。

バイヤー・サプライヤー目線で押さえるべきポイント

バイヤー志望の方へ

VGM対応がしっかり回っている工場・サプライヤーは、「納期・品質・安全・コンプライアンス」すべてが高い確率で安定しています。

海外ではVGM不備を理由に港で荷役拒否や罰金、最悪禁輸措置となることもあるため、調達先選定の極めて重要なチェックポイントです。

サプライチェーンの信頼性を評価する際は、帳票・VGM証明・出荷管理担当者の仕組み化を必ず“見える化”で確認しましょう。

サプライヤー側の注意点

自社出荷現場だけでなく、
・どの下請け・協力会社のどこでVGM証明しているか
・トラブル発生時に誰が迅速対応できるか
などバリューチェーン全体の管理が不可欠です。

また、顧客/バイヤーに対し「計量の透明性」「トラブル時のエビデンス提示」など、高いガバナンス意識をアピールすると、信頼度や受注力が大きく向上します。

まとめ:現場力×標準化でVGM・SOLASリスクを根絶しよう

VGM計量やSOLAS対応は、決して“面倒な義務”ではありません。

適切な標準化ができれば、「出港遅延ゼロ」「納入先との信頼強化」「現場からのヒューマンエラー撲滅」という未来が実現できます。

とくに、現場の知恵・気づきと、デジタル化のハイブリッドをうまく活用した仕組みづくりが求められます。

現場リーダー・バイヤー・サプライヤーすべての立場が、現状分析から一歩ずつ改善を繰り返すことで、昭和的な属人化・曖昧運用を脱却しましょう。

サプライチェーン全体の競争力を底上げするためにも、ぜひ今日から自社のVGM対応標準化を見直してみてください。

You cannot copy content of this page