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プラスチック製品にスクリーン印刷する際の静電気と密着対策

目次
はじめに:プラスチック製品の印刷現場における課題
プラスチック製品の表面にスクリーン印刷を施す工程は、現代の製造現場で広く用いられています。
自動車部品、家電筐体、化粧品容器、文具など、我々の生活に身近な商品もその多くがスクリーン印刷の恩恵を受けています。
しかし、そのプロセスの中で大きな障壁となるのが「静電気の発生」と「インキの密着不良」です。
これらの問題は、昭和のアナログ時代から令和のデジタル時代にかけて根強く、現場の悩みの種であり続けています。
長年、工場の現場で調達・生産・品質管理を経験した立場から、本記事では静電気と密着をめぐる課題とその実践的な解決策について、深く掘り下げていきます。
製造現場の方々はもちろん、調達担当者(バイヤー)やサプライヤーの皆さんにも役立つ知見をお届けします。
プラスチック製品のスクリーン印刷工程と静電気発生のメカニズム
スクリーン印刷とは
スクリーン印刷は、メッシュ状の版にインキをのせ、スキージーと呼ばれるヘラでインキを押し出して被印刷物に模様や文字を転写する方式です。
プラスチック成形品においては、表面への装飾・機能表示が主な目的です。
現場では自動化されたロボットを用いる例から、今なお熟練工の手作業で繊細な調整を行う工程も多く残っています。
静電気が生じる原因
プラスチックは絶縁体であり、摩擦や剥離の際に容易に帯電します。
スクリーン印刷工程では、以下のタイミングで静電気が発生します。
– 成形直後の部品表面と金型、部品同士の接触や分離時
– 印刷治具との摩擦
– 清掃やエアブロー時の摩擦
– 搬送時のスライド、衝突
静電気が発生すると、細かいゴミやホコリが表面に吸着しやすくなります。
インキ密着前にこれらが混入すれば、重大な印刷不良へとつながります。
また、静電気が残留することで、インキの濡れ広がり不良や密着ムラの原因にもなります。
静電気によるトラブルと現場で直面する問題
静電気によるホコリ付着・異物混入
クリーンルームでない限り、工場内にはミクロン単位のホコリや繊維くずが舞っています。
静電気で表面に吸着した異物は、肉眼で気づきにくいことも多く、不良の潜伏原因となります。
特に家電・化粧品など外観品の場合、消費者クレームへ直結するリスクもあります。
インキの密着不良
プラスチック表面に静電気が残留したままだと、インキの塗布不良やエア噛み、被膜のムラ密着不良が発生します。
さらに、静電気による局所的な帯電がマイクロクラックやピンホールの原因となるケースも報告されています。
現場では「なぜかこのロット/この個所だけは密着不良が出る」といった『現象の再現性がつかみにくいトラブル』として、長年バイヤーやサプライヤーを悩ませてきました。
再発防止が難しい理由
静電気が関与する不良は、目に見えにくい“見えざる敵”です。
材料ロットや気象条件(湿度・温度)、人的作業のわずかな違いでも影響を受けやすく、「なぜ今回だけ?」とクレーム対応や是正報告に多くの工数が割かれる現実があります。
この背景には、プラスチックの多様化や海外調達の進展により、樹脂種類や添加剤、表面特性のバラツキが拡大したこと、業界全体の技術伝承(ノウハウ化や暗黙知化)が進んでいないことも挙げられます。
静電気対策と密着向上のための実践的アプローチ
1. 静電気除去と異物対策
工場現場で静電気をコントロールし異物混入を防ぐには、いくつかの王道パターンと工夫があります。
– イオナイザー(除電装置)の設置
印刷ライン前、搬入コンベア、エアガンなどにイオナイザーを配置し、必ず“部品表面とその周辺”の静電気を中和する。
– エアブローの制御
無秩序なエアブローは余計に帯電を招きます。
イオナイザーエアガンや静電防止フィルターを活用しましょう。
– 設置環境の見直し
床や治具に導電性マットを敷設する。
生産エリアの湿度維持(40〜60%)も静電気低減に効果あり。
– 作業者の帯電対策
作業衣・手袋に帯電防止処理。
必要に応じ、帯電防止リストバンドを装着(とくに手置き作業を伴う現場で有効)。
– 除電力の目視監視
帯電度合いがわかるテスタを定期チェックに取り入れ、工程の安定を“見える化”する。
これらを地道に繰り返し、ラインに合ったベストな組み合わせを模索するのが実際の現場です。
2. インキ密着性向上の工夫
プラスチックの多様な性質(PPやPEなどの低極性樹脂、添加剤の有無)により、密着不良の要因も複雑になっています。
– 表面処理(プラズマ、コロナ、フレーム処理の活用)
PP・PE等の低極性樹脂は、事前に表面を酸化(親水化)することでインキ密着性が格段に向上します。
安価な小型プラズマ装置やハンディトーチの活用も有効です。
– 表面洗浄・脱脂の徹底
離型剤や油分が残るとインキ密着性が著しく低下します。
アルコールや専用クリーナーによる前処理は欠かせません。
– 密着改良剤の選定
印刷インキにあらかじめ密着助剤を添加したり、密着プライマーを下塗りすることで、材料選択の幅を増やすことができます。
バイヤーの立場からは「現場で密着剤を使うとコストが上がる」と敬遠しがちですが、「不良減・二次工程不要化」という観点で再評価したいポイントです。
– 印刷条件の最適化
版種類、スキージー圧力・速度、乾燥温度・湿度などのパラメータ最適化が密着性にも強く影響します。
これらこそ“現場ならではの勘所”ではありますが、今後はデジタル化の恩恵を活用し「工程データ化」により仕組みで安定化させていく時代です。
3. 工場の自動化・省人化とアナログノウハウの融合
現在、多くの工場で印刷工程の自動化・ロボット化が進んでいます。
ただし、ことプラスチック成形品の静電気・密着性の管理は、微妙な「製品ごとの個体差」や「ロットごとのバラツキ」を見ながら対応するアナログノウハウが求められる領域です。
このため、完全な省人化が一朝一夕に実現しない背景には
– センサーだけで判別しきれない微細な“表面状態の違い”
– トラブル発生時の即応力・現場改善力
があります。
ここで肝要なのは、ベテラン作業者の知識やポイント(失敗事例、独自の工夫)をAIやIoTに積極的に“言語化”し、標準化・自動化へ乗せることです。
昭和以来の“匠の技”を、現代のIT技術と掛け合わせることで「再現性×生産性×品質安定」という新しい地平線が開けてきます。
調達・購買担当者が知っておくべき業界動向と要求事項
調達・購買部門、いわゆるバイヤーの視点から見ると、プラスチック製品の印刷品質は“仕様書上は一言「表示あり」と書かれているだけ”というケースも多いです。
本来は、表面状態や密着基準、経年劣化試験、印刷環境要件などをきちんと明文化し、サプライヤーと認識を共有しておくことがトラブル防止に直結します。
最近ではサステナブル材料(エコプラスチックやリサイクル樹脂)への切り替えニーズが急拡大。
しかし、リサイクル材料はバージン材料に比べて帯電・密着特性が不安定な傾向があります。
バイヤーは、仕様の事前レビュー時、
– 印刷品位の要求水準
– サプライヤー側での前処理や除電設備の有無
– 密着試験(剥離・摩擦・耐候など)の合否基準
を明確にし、工程視察を通じて“現場のリアリティ”に基づいた調達判断を行うことが重要です。
サプライヤーの立場としても、これらの技術的課題や現場の創意工夫を積極的に開示することで、調達担当者との信頼関係や差別化ポイントを築くことができます。
まとめ:製造業の共創で進化するプラスチック印刷現場
プラスチック製品のスクリーン印刷現場における静電気・密着トラブルは、決して過去のものではありません。
最先端の自動化技術が進んだ現場でも、“現場目線”で課題を一つひとつ拾い上げ、アナログからデジタルへの橋渡しが求められています。
静電気・密着対策の実践は、新たな材料や社会要請(サステナビリティ・多品種少量生産体制)に適応するための“コア技術”です。
昭和の現場力を現代の科学的知見・データ活用に取り込んでいくことが、製造業の新たな地平線を切り拓く第一歩となるでしょう。
今後もバイヤー、サプライヤー、現場技術者が相互に知恵を出し合い、製造業全体の品質と競争力をともに高めていきましょう。
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