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革ポーチの製版で版剥がれを防ぐための静電除去と脱脂剤選定

目次
はじめに:革ポーチ製版における版剥がれの課題
革ポーチは、機能性とデザイン性を兼ね備えたアイテムとして、多くのブランドやOEMメーカーで注目されています。
その製造工程の中において、製版(プリントや刻印用の版を設置、もしくはスクリーン印刷を施すプロセス)は、最終的な製品品質に大きく影響する重要なステップです。
しかし、製版工程においてしばしば発生するのが「版剥がれ」というトラブルです。
版剥がれとは、印刷したインクや刻印が革表面から部分的、または全面的に剥がれてしまう現象を指します。
このトラブルは、製品不良に直結するだけでなく、再加工や返品、クレーム対応など余計なコストにもつながります。
特にアナログな現場や、昭和時代からの手法を守る工場では「長年の勘や慣習」だけに頼る傾向がありますが、市場要求は高度化・多様化しているため、今こそ実践的な対策と最新知識が求められています。
この記事では、革ポーチの製版において「版剥がれ」を防止するための静電除去と、脱脂剤の選定方法を現場目線で、かつ科学的な観点を加えて解説します。
版剥がれの原因はどこにあるのか?
物理的要因と化学的要因
版剥がれの主な要因は、大きく二つに分類できます。
一つは「物理的要因」、つまりインク(または版材)と革との密着が物理的に弱い場合です。
もう一つは「化学的要因」で、表面の汚れや油分、帯電などによって材料同士の結合・定着が妨げられることです。
とくに化学的要因のなかでも、目に見えない「静電気の帯電」と「表面のコンタミ・油分残渣」が、現代の高度な製造ラインにおいても軽視されがちな盲点となっています。
昭和型アナログ現場での落とし穴
多くの日本国内の製造現場や下請け工場では、工程間の清掃や脱脂を「ウエスで軽く拭いておく」「手慣れた人がチェックする」という属人的な運用が残っています。
これは一見手取り早く、コストもかからないように見えますが、実は大きなリスクを孕んでいるのです。
人の手指やウエスには、微細な皮脂や洗剤成分が残留しやすく、それが不均一な密着となって版剥がれの原因になってしまうことがあります。
さらに、樹脂製パレットや搬送トレイを使う作業現場では、知らず知らずのうちに「静電気」が蓄積されており、これが微細なホコリや塵、あるいは埃中の油分を引き寄せることで表面が汚れてしまう現象もあります。
帯電と脱脂:二本柱の品質管理のすすめ
静電除去の重要性
近年の印刷工程や自動化された製造現場においても、「静電管理」は軽視されがちです。
しかし、帯電した革や設備は小さな微粒子を表面に引き寄せてしまい、インク密着や版定着の障壁となります。
静電気は目に見えず、無臭であるため十分に管理が行き届いていないケースが多いです。
現場では「エアブローで埃飛ばし」を行うケースをよく見かけますが、帯電しているとブローした直後に別の塵がすぐ引き寄せられる悪循環に陥ります。
正しい静電除去には、「イオナイザー(静電気除去器)」や「静電気除去ガン」などの専用設備の導入、または静電気が発生しにくい作業環境の設計(湿度管理、アースの徹底)が肝要です。
脱脂工程の最適化
革は動物由来の油分が多く、加えて加工や運搬の過程でさまざまな油脂・添加剤・手指からの皮脂などが付着します。
版定着を良くするには、表面の油脂除去=「脱脂」工程が不可欠です。
昭和型現場では「一般的なアルコール拭き」や「中性洗剤溶液による清掃」で済まされるケースが多いですが、それだけでは十分とはいえません。
むしろ革素材のショルダー部(首回りなど脂分が多い部位)や、加工が複雑なパーツほど、専用脱脂剤の選定が「版剥がれゼロ」への重要ポイントとなります。
その上で、素材特性(タンニンなめし/クロムなめし)や下地処理材(プライマー)の相性も加味することが不可欠です。
現場のリアル:失敗から学んだ対策実例
現場失敗例1:根拠なきアルコール拭きで大量不良
あるOEM革小物工場では、長年の慣習として「イソプロパノール拭き」を一律で全製品に実施していました。
初期ロットはうまく動きましたが、ある時、冬場の乾燥した日に版剥がれ不良が多発しました。
調査したところ、作業現場の湿度が30%以下に下がり、「アルコール拭き後に帯電が起き、埃が再吸着」していたことが判明。
エアブローのみで満足し、静電除去をしていなかったことが影響した典型例です。
これを教訓に、拭き取り直後に「イオナイザー付きエアガン」に切り替え、作業場所の加湿器を常設したところ、版剥がれは劇的に減少しました。
現場失敗例2:コスト重視で汎用クリーナーを使用
下請け工場では、「どんな素材も一発で汚れが落ちる」とうたう汎用クリーナー(強アルカリ洗浄剤)を導入しました。
確かに油性ペンの跡や旧インク汚れは落ちましたが、その副作用で「革本来の油脂層」までも溶かし、結果的に革表面がパサパサに乾燥し、印刷後数ヶ月でひび割れや版剥がれが多発しました。
素材特性無視のクリーナー選定は、コストダウンどころか後工程のロス(再加脂工程や交換対応)を招く事態となりました。
その後、革種ごとに推奨される専用脱脂剤リストを整備し、作業記録の徹底を行ったことで、品質と効率の両立に成功しました。
脱脂剤選定の眼ポイント
素材別・用途別に最適化することの重要性
脱脂剤を選ぶ際は、「安全性」「脱脂力」「残留性」「揮発性」のバランスを考える必要があります。
ポイントは以下の通りです。
・タンニンなめし革の場合:油脂成分がデリケートであるため、強溶剤系ではなく、「水性アルコール系」や「天然由来脱脂剤(オレンジオイル等)」が適しています。
・クロムなめし革の場合:人工的な皮膜と防水性が高いため、やや強めの溶剤(イソプロパノール、アセトン系)が有効です。ただし過剰な使用は避けるべきです。
・特殊コーティング革(エンボス加工やラメ・パール仕上げ等):表面皮膜を傷めないように、メーカー推奨の専用品を使うべきです。下手な“万能洗剤”は厳禁です。
・環境負荷/作業者安全への配慮:近年はVOC(揮発性有機化合物)規制の強化により「ノンVOC型」や「低臭型」の脱脂剤も登場しています。作業者の健康や廃液処理コストも含めて検討すべきです。
メーカー/物流バイヤー目線のポイント
バイヤーとしては、「表面処理剤も材料調達品」と捉えるべきです。
革の出自・ロットごとの安定性評価(革見本による前処理テスト)を物流段階でも随時チェックし、納入ロットごとの「脱脂剤指定・違和感情報」をサプライヤーに共有することが長期的な安定調達の秘訣となります。
静電除去の最適解と現場導入のポイント
設備投資か運用工夫か?現場の判断軸
イオナイザーや静電除去機器の導入は、品質トラブルの根本解消につながる最短ルートですが、初期投資やメンテナンスコストの壁も存在します。
生産量や設置環境を勘案して「毎日一定量以上の製版工程を行う」「季節により静電気不良が頻発する」という現場では、積極的な設備投資を推奨します。
一方、小ロットや作業者の移動が多い現場では、「個別エアガンの導入」や「作業机のアース徹底」「導電性シートの設置」など、手軽に始められる運用工夫も有効です。
また、従業員への「現場教育(静電気の見える化、帯電チェック)」を定期的に実施することで、属人的な運用から脱却した安定品質に近づくことができます。
まとめ:現場実践こそが“昭和”からの飛躍
革ポーチの製版における「版剥がれ」は、単なる表面的な清掃・脱脂で防げるものではありません。
見えない静電気問題や素材特性を理解し、それに適した脱脂剤・静電除去手段を選ぶことこそが、脱“昭和型アナログ現場”の第一歩です。
バイヤーやサプライヤー、製造オペレーターすべてが「原因を深掘りし、現場の声と科学的根拠を両立させる」ことが、時代が求める高品質・高効率生産への近道となります。
今日から取り組める小さな一歩(表面帯電の見直し、専用脱脂剤の選定、現場教育)は、必ずや現場の生産性と取引先の信頼につながっていきます。
時代は変わっても、現場の本質は「現物・現場・現実」。
その目線を常に忘れず、製造業としての品質力を進化させていきましょう。
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