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製造業における“ばらつき”を管理する統計的品質管理の基礎

目次
はじめに:なぜ“ばらつき”が問題になるのか
製造現場でモノづくりをしていると、決まった仕様通りに製品ができているはずなのに、一部に不良品が紛れることがあります。
この現象の多くは、“ばらつき(バリエーション)”が原因です。
現場目線で言えば、材料の質や機械の微細な調整状態、作業者の熟練度、さらには工場内の温度・湿度まで、多くの要因が“ばらつき”を生み出します。
では、なぜ“ばらつき”の管理がこれほど重要なのでしょうか。
理由はシンプルです。
ばらつきを放置すると不良品率が上昇し、コスト増や納期遅延、さらには顧客からの信頼低下につながるからです。
つまり、ばらつきを管理することは、品質と利益の源泉を守ることに他なりません。
統計的品質管理(SQC)とは何か
現場に根付くアナログ文化とSQCのギャップ
昭和時代から続く製造業の現場では、“経験と勘”による現場力が今なお重視されています。
もちろん“ベテランの目利き”も大切ですが、それだけでは高精度な品質管理は難しい時代になりました。
そこで登場したのが、データを用いて品質を“見える化”し、科学的に管理する統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)です。
SQCは、経験に頼るだけの時代から脱却し、数字やグラフで工程をコントロールする手法として注目されています。
SQCの基本:データの収集と見える化
統計的品質管理の第一歩は、現場で起きている“ばらつき”をデータとして集めることです。
代表的な手法には下記があります。
- 抜き取り検査や全数検査でデータ収集
- ヒストグラムでばらつきの分布を確認
- 管理図(Xbar-R管理図やp管理図など)で工程を監視
この「まず測る。そして可視化する」というアプローチは、それまで「なんとなく大丈夫」と思っていた現場にも“気づき”をもたらします。
なぜ“ばらつき”は生まれるのか?実践から読み解く
ばらつきには2種類ある
SQCの世界では“ばらつき”を「偶然原因によるもの(Common Cause)」と「突発原因によるもの(Special Cause)」に分けます。
現場で例えると、
- 偶然原因…材料ロットごとに硬度が微妙に違う、設備の経年劣化により刃こぼれの度合いが日々少し変わる。
- 突発原因…使用中の刃が割れてしまい、極端なばらつきや不良が発生する。
偶然原因は工程に内在する“普通の揺らぎ”なので、工程改善で少しずつしか減らせません。
一方、突発原因は対策可能(例えば、管理図上で異常を見つけたらすぐ停止)です。
現場の勘違いと正しいデータ解釈
現場ではしばしば「昨日変更した設定が悪いのでは?」と短絡的に原因を追い、根拠なく手を加えて迷路に迷い込むことがあります。
ですが、SQCなら管理図上で“ばらつきの異常”か“工程の普通の揺らぎ”かを一目で判断できます。
例えば、管理図の線から外れていなければ、ちょっと不満に感じるデータでも“いじらないこと”が重要です。
逆に、線から外れた場合は、根本原因を素早く深掘りし、再発防止に役立てます。
管理図の活用:不良品より早く問題に気づく
管理図とは?
管理図は、工程のデータを時系列で並べて“管理限界線”(UCL、LCL)を引き、異常を監視する道具です。
製造現場が「問題が発覚してから慌てる」のではなく、「異常の兆候を早期に察知して手を打つ」のに役立ちます。
代表的な管理図には以下があります。
- Xbar-R管理図―寸法データなど連続量の管理に適用
- p管理図―合格・不合格など良否判定の比率を管理
管理図による“見える化”で現場が変わる
目の前の製品1つひとつの出来が良くても、時系列で見れば“不吉なシグナル”が浮き彫りになることがあります。
例えば、ある寸法が管理上限ギリギリばかり出ているなら、近々不良品が発生する可能性が高まっている合図です。
データをグラフ化することで、経験豊富なベテランだけでなく、若手スタッフでも“異常の予兆”に気づいて動けるようになります。
事例:工場のSQC導入による現場改善
1. 設備ばらつき原因の特定
ある自動車部品メーカーでは、寸法不良が続発していました。
従来は経験則に頼り、調整作業も担当者によってまちまちでしたが、統計的管理を導入したところ、長期間の管理図から“特定の設備だけ寸法ブレが大きい”ことが判明したのです。
その設備の定期点検項目を見直し、必要な部品交換や割れやすい部品の材質改善を行ったことで、不良率が半減しました。
2. 工場間の品質ばらつき平準化
複数拠点を持つメーカーの課題は、工場ごとの品質ムラです。
各工場で同じ製品を作っても“工場Aは安定して良品なのに、工場Bはバラつく”という現象が起きていました。
ここに、SQCと分析ソフトを活用し、現場ごとにヒストグラムや管理図、工程能力指数(Cpk)の定期レビューを開始しました。
結果として工場ごとのノウハウ共有が進み、全体の品質ばらつきが徐々に縮小されました。
なぜ今、SQCは再評価されるのか(業界動向)
日本の製造業は“昭和からの流れ”を引きずっている
日本のモノづくりはQCサークルやカイゼン活動など現場主体の工夫で支えられてきました。
しかし近年、熟練工の減少、海外サプライヤー増加、膨大な部品点数、顧客要求の厳格化など複雑化が急速に進んでいます。
“ベテランの勘”に頼るだけでは、これらの課題に追いつけません。
今、あらためてSQCのような統計的手法を導入し、現場をデジタルシフトしようとする動きが強まっています。
デジタル技術との融合
AIやIoT技術の進化により、センサーから取得した膨大なデータをリアルタイムで解析し、異常兆候を素早く検知できる時代になりました。
従来は紙の管理図に手書きで記録していた作業も、クラウドや分析ツールを使うことで、どこにいても品質監視できるようになります。
アナログな業界だからこそ、小さな一歩からSQCを現場に根付かせることが競争優位性につながるのです。
バイヤー視点とサプライヤー視点でのSQCの役割
バイヤーが重視する“品質の安定”
調達や購買のバイヤーにとって、最優先は安定して“同じ品質のモノ”を納入できるサプライヤーかどうかです。
いくら安く作れても、不良品やばらつきが多いサプライヤーは、結果的にトラブルや管理コスト増を招き、総合的な信頼を失います。
バイヤーは、納入資料や監査の際にSQCの導入有無や、ヒストグラムや管理図の実績なども細かく見ています。
サプライヤーから見た“見える実力アピール”
サプライヤー側では、品質管理を数値とグラフで客観的に説明できることで、取引先への信頼性アピールができます。
また「自工程完結」をSQCで実現すれば、不良流出だけでなく工程内手直しや停止も減らし、生産効率が劇的に向上します。
SQCを武器に“品質で選ばれるサプライヤー”を目指すことが、これからの変化を勝ち抜く鍵となります。
まとめ:現場から始まる“ばらつき”管理が日本の未来を支える
モノづくりに失敗や偶然はつきものですが、“ばらつき”を放置せずデータで可視化し、現場力と科学的管理の両軸で対応することがこれまで以上に求められています。
SQCは決して特別なものではありません。
むしろ“現場の気づき”を支援し、数字と現象を紐づけて考える力を養う現代の“現場力”の一部です。
新規バイヤーを目指す方は、SQCを理解することで調達先を正しく見極める視点が身に付きます。
また、サプライヤーであれば、SQCを現場レベルから導入し対外的な差別化につなげることができます。
統計的品質管理を通じて、“ばらつき”に強い現場を築き、日本のモノづくりの底力を高めていきましょう。
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