投稿日:2025年9月11日

サステナビリティ経営に移行する製造業のステップと課題

はじめに:なぜ今、製造業にサステナビリティ経営が必要なのか

昭和から続く製造業の多くは、高度経済成長期の成功体験に支えられてきました。
かつては「作れば売れる」「大量生産が正義」といった価値観が強く、日本のものづくりは世界に冠たる地位を築きました。

しかし、時代は大きく変わりました。
消費者志向の多様化、持続可能な社会への要請、そして脱炭素を求める世界的な流れなど、今やサステナビリティ(持続可能性)は“避けては通れないキーワード”となったのです。

製造業の現場を知る者として、サステナビリティ経営への移行は単なる時代の流行ではなく、引き続き事業を存続・成長させていくための「必修課題」だと断言できます。

サステナビリティ経営とは何か

従来の「効率化」との違い

多くの現場では「効率よく稼働すること」「手間を省いて利益を最大化すること」が長年のテーマでした。
これに対し、サステナビリティ経営とは「現在の利益確保」と「将来世代への責任」を両立しようとする考え方です。

いかに早く、安く、大量に…という従来型の価値観から、
 ・資源の有効活用
 ・環境負荷の低減
 ・ステークホルダーとの共生
を経営そのものに組み込むという、大きな思想転換が求められているのです。

ESG、SDGsと製造業

サステナビリティ経営を語る際に必ず登場するのがESG(環境・社会・ガバナンス)とSDGs(持続可能な開発目標)です。
すでに大企業のみならず、中堅・中小製造業にも「ESGは無視できない」と現場レベルで意識が広がっています。
またバイヤーにおいても「サプライチェーン全体のサステナビリティ評価」が進む中、サプライヤーにもESG対応が厳しく求められる時代となっています。

サステナビリティ経営に移行するための現場目線のステップ

1. 現状把握の徹底:自社のCO2排出量・エネルギー消費・廃棄物の見える化

まず、何から始めるべきか迷う現場の方も多いでしょう。
最初の一歩は「現状を数字で把握すること」です。

製造現場では、それぞれの工程で消費されるエネルギー量、排出されるCO2、発生する廃棄物量を網羅的に“見える化”しましょう。
この段階で、古いシステムや手書き帳票が残っている現場も少なくありません。
現場スタッフの協力と業務プロセスの徹底的な棚卸しがカギとなります。

2. 小さな改善から始める:「カイゼン魂」の再発見

いきなり大きな投資やオーバースペックなDX(デジタルトランスフォーメーション)を構想する必要はありません。
むしろ、現場主導の“小さなカイゼン”がサステナビリティ実現の近道です。

例えば、空調の最適化やLED照明への切替え、機械の待機時の無駄な稼働の見直しなど、毎日の習慣と意識改革から始めましょう。
現場リーダーによる「生産ライン横断のエネルギー監視」や「5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」の強化が、意外と大きな成果につながることも多いです。

3. サプライチェーン全体での歩調合わせ:取引先との協働が不可欠

バイヤー、サプライヤー双方に共通する関心事が「サプライチェーン全体の脱炭素・グリーン調達」です。
サステナビリティ経営は、個社単独では完結しません。

調達先や外注先に対しても、
「原材料のサステナブルな調達」
「梱包材の簡素化やリサイクル化」
「納入方法の見直し(例:共同配送・エコロジカルな納入形態)」など、
対話とともに具体的なアクションの共有が重要です。

大手企業に限らず、中堅・中小メーカーも取引口座や入札資格の維持のため、サステナビリティ対応を問われるケースが増えています。
サプライヤー側も「バイヤーは何を見ているのか」常にアンテナを張る必要があります。

4. 現場スタッフの意識改革:「作業者=イノベーター」へ

昭和型の現場では、「言われたことだけやる」「上からの指示を待つ」が当たり前でした。
ところがサステナビリティ経営では、現場作業者・調達担当・生産管理担当それぞれの「自律的な発想」「改善の提案」が力を発揮します。

例えば、熟練作業者による歩留り改善や故障予防策は、現場のエネルギー削減に直結します。
品質管理や工程設計でも、「サステナビリティ意識」が新たな付加価値を生み出します。
カイゼン提案制度の強化や、現場の“気づき”を経営層が前向きに取り上げる土壌作りが不可欠です。

サステナビリティ経営の実践現場に潜む課題

1. 予算捻出の難しさ:現場発アイデアと経営層の温度差

どれだけ現場でやる気が高まっても、「予算がつかない」「経営の理解がない」と頓挫するケースは珍しくありません。
今までの指標(コスト削減率、生産性向上度)だけでなく、
「CO2削減量」や「サーキュラーエコノミーへの貢献度」もKPIに盛り込み、経営レイヤーへ成果を見せる工夫が求められます。

また、現場主導で“小さい成功体験”を積み上げ、結果を可視化・数値化して積極的に経営会議へ持ち込む工夫が鍵となります。

2. デジタル化の障壁:アナログ文化の根深さ

製造業では、いまだにFAXや紙帳票が残る現場が少なくありません。
最新のIoT機器やクラウドシステムを導入しても、一部の工場だけで終わってしまい、「現場の全員」が恩恵を受けているとは言い難いのが実情です。

この課題への打開策は2つあります。
一つは、業務フローの徹底的な棚卸しで“従業員の手間が減る”形でのデジタル化設計。
もう一つは、レガシーシステムを活かしながら徐々に新しい仕組みに移行する「スモールスタート・スモールサクセス」型です。

3. サプライチェーン遅延:調達購買部門の苦悩

調達購買担当やバイヤーの立場では、
「グリーン調達基準」に対応できる取引先の開拓・再編成に頭を悩ませている現場も増えています。

特に、部材調達の選択肢が限られる中小製造業や、特定の独自部品に頼るサプライヤーは「新規基準対応に時間がかかる」「価格転嫁が困難」という現実的な壁に直面します。
この場合、サプライヤーに寄り添った中長期の“協働改善マップ”を設け、成果をともに分かち合う関係づくりが大切です。

バイヤー目線のサステナビリティ経営:着目ポイントとトレンド

バイヤーがサプライヤーに求めるサステナビリティ施策は、
「書類提出」「形式的な報告」だけではありません。

今後は、
・第三者認証(ISO14001など)の取得状況
・実際のCO2排出量データ、エネルギー消費削減実績
・LCA(ライフサイクルアセスメント)による数値根拠
といった“現場発のリアルな情報”に重点が置かれます。

また、グローバル調達では「強制労働、児童労働の排除」「労働安全性」などの“社会的責任”も調達基準に入ってきています。
従来の品質・生産能力評価だけでなく、サステナビリティの本質を押さえた提案・現場説明がサプライヤーに求められる時代です。

製造業のサステナビリティ経営、昭和からの創意工夫を未来へ

サステナビリティ経営は、決して一部の先進企業や大企業だけのものではありません。
むしろ、現場の底力・職人魂・カイゼン精神を持ち合わせた「昭和型ものづくり現場」こそが、
持続可能経営の本質にもっとも近い存在になり得るのです。

新しい発想・新しい技術を受け入れる柔軟性
多様なステークホルダーとの信頼関係構築
現場ベースでの粘り強い課題解決力

これらを掛け合わせながら、現場のひとり一人が「サステナビリティ推進者」となれば、日本の製造業は世界をリードし続けることができるでしょう。

まとめ:サステナビリティ経営は“地に足のついた挑戦”

最後に。
サステナビリティ経営への移行は、一夜にして達成できるものではありません。
ですが、現場視点で一歩一歩の実践を繰り返すことこそが、自社・社会の未来を切り拓く大きな力となります。
同じ製造業の仲間として、この挑戦を恐れず、共に新時代を切り拓く仲間が増えることを心より願ってやみません。

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