投稿日:2025年10月29日

飲食業が初めて製品化を進めるためのレシピ試作と工場連携の実務手順

はじめに:飲食業が「製品化」に挑む時代へ

昨今、飲食業界では独自のレシピを商品化し、自社ブランドとして食品を市場に送り出す動きが加速しています。

新しい収益の柱として、またブランド力強化のために、飲食店が「食のプロフェッショナル」として自信を持つメニューや味を、工場で大量生産する「製品化」の需要がかつてなく高まっています。

しかし、現実は“レシピ”はあっても“工場で再現可能なレシピ”や“安定生産”にスムーズに繋げられる飲食事業者はまだ少数派です。

ここでは、製造業(食品工場)の現場経験をふまえ、飲食業が製品化を成功させるためのレシピ試作から工場連携まで、現場ならではのノウハウとポイントをわかりやすく解説します。

今後、バイヤーやサプライヤーの現場担当者も知っておきたい業界動向、昭和的な商習慣の壁を乗り越えるリアルな手順も踏まえてご紹介します。

製品化へのファーストステップ:ゴール設定と情報整理

ターゲットと製品の方向性を明確にする

製品化は単なるレシピ開発ではありません。

まず、「誰が」「どこで」「いつ」「どんなシーンで」食べることを想定するのか、市場や販路を含めたゴール設定が肝心です。

外食用途なのか家庭用なのか、業務用か個人消費用かによって、求められるサイズ・保存性・味・価格は大きく違います。

ここを曖昧にしたまま工場に相談しても、噛み合わない試作品が量産されるだけで、余計なコストや時間がかかります。

また、「冷凍か、冷蔵か、常温か」といった保存条件も事前に整理すると、対応できる工場選びの効率が格段にアップします。

「現場のレシピ」を「工場用レシピ」へブラッシュアップ

飲食店のキッチンで作るレシピは、必ずしも「工場生産」に適応しません。

現場での「目分量」「感覚」「盛り付けの美しさ」など、ヒトの裁量による工程は、機械化・自動化が前提の工場には馴染みにくい要素です。

また、現場で使う調味料や原材料も、業務用規格・工場供給品に変換が必要になる場合が多くあります。

飲食業の立場から「レシピ通りに作ってほしい」ではなく、「工場で再現できる工程設計」を前提にレシピの構成や分量、工程をしっかりと書き起こしておきましょう。

試作プロセスから見える、工場目線のポイント

「まずはできる限り自分でレシピ化」してみる

工場にレシピ相談を投げて「これ作れますか?」と聞くのは簡単です。

しかし、工場は「営利目的のビジネス」であり、しっかり設計されたレシピでなければコスト見積すら出せません。

「原材料」「分量」「調理温度/時間」「仕上げ」「冷却/保存」「包装仕様」まで、簡易でもファイルとしてまとめるのが業界流儀です。

もしご自身で整理が難しい場合も、早い段階で工場担当者(または食品のOEM専門業者)に相談し、量産化を踏まえた情報設計を一緒に進めることがベストです。

「歩留まり」「コスト感」「規模の現実」をすり合わせる

一品ずつ丁寧に作る“飲食業”と、数千~数万単位を同時に生産する“工場”では、スケール感もコストも根本的に違います。

特に「歩留まり(ロス率)」や「原料手配可能性」「季節による変動」など、机上では想定できない現場の現実が立ちはだかります。

また、原材料も飲食業なら“毎朝仕入れる”で済みますが、工場では「安定供給(RoHS規制/トレーサビリティ)」や「ロット管理/在庫管理」が不可欠。

「原材料の供給リスク」「安定品質を実現できる範囲」「生産コストに対する妥協点」を、飲食店と工場が率直にすり合わせる姿勢が大切です。

工場選びと交渉テクニック

自社に合った工場タイプを見極める

「とりあえず大手の有名工場」という選び方はリスクがあります。

大手工場は大量生産向けなため、中小飲食業の規模では「小ロット不可」や「高コスト」「機械ライン対応不可」で断られるケースも多いです。

逆に、地域の中小規模OEM工場や、特定分野に強い“町の食品製造会社”は、比較的柔軟に小ロットや複雑な加工にも対応してくれます。

工場の得意分野・生産上限・自動化レベルを踏まえ、自社商品にぴったり合う工場を選ぶことが成功の鍵です。

アナログな現場交渉力が武器になる

昭和的な商慣習が色濃く残る製造業・食品業界では、「口約束~現場感覚」に左右されることも珍しくありません。

メールだけでなく「現地見学」や「現物持参」「担当者との雑談」を経ることで、工場側も意見を言いやすくなり、協力体制の構築がスムーズになります。

一人のバイヤー、営業として現場目線で「どこに課題があり、どこまで譲歩可能か」率直に共有すると、現場担当者も“仲間”として本音で応えてくれるようになります。

量産移行に向けた品質・工程管理のポイント

試作品の品質評価は「自社」と「工場」で見方が違う

「飲食店の味を再現してほしい」という想いが強いあまり、試作品に過剰な品質基準を求めてしまう飲食業者も少なくありません。

しかし、工場生産では「味のブレ」の許容範囲をあらかじめ決め、規格書(スペックシート)として双方で共有しておくのが標準です。

例えば、「±〇%の塩分範囲」「見た目の合否判定基準」「賞味期限の設定根拠」など、感覚でなく数値や文書で規格管理するのが製造業流の進め方です。

「生産立ち合い」「ラインテスト」は欠かせない

試作品がOKとなっても、本格的な量産に移行するには「生産ラインテスト(プレステ)」や「工程立会い」が不可欠です。

実際の工場ラインで試作ロットを流し、「加熱・冷却ムラの有無」「包装精度」「異物混入リスク」「異常時のトラブル対応」などを両者で現物確認します。

ここで初めて「現場のリアルな課題」が顕在化し、最終的な工程改善・コスト再見積・品質安定の最重要ポイントを明らかにできます。

バイヤー・サプライヤーの立場で知るべき業界動向

原価高騰・人手不足にどう対応するか

近年、原材料高騰や人手不足は食品工場の現場に大きな負担を与えています。

バイヤーとしては、安易な値下げ要求だけでなく「原価高騰背景」「価格改定の仕組み」「長期契約での材料確保策」など、工場サイドの立場から考えることが不可欠です。

サプライヤーとしては「バイヤーのニーズに応えつつ、自社の負担増も理解してもらう」ため、コスト構造や現場実情についても分かりやすく伝える工夫が求められます。

合理化・自動化と手仕事の両立を目指す

全てを自動化する“大工場”と、手作業を残す“町工場”が並立する現代。

どちらが優れている・劣っているではなく、「商品の価値」「安定供給」「品質維持」に応じた最適な生産方式を構想するラテラルシンキング力が問われます。

「部分自動化」「人の目による最終検品」「パートタイマー活用」など、多様な手法を組み合わせることが、今後の製品化・工場連携には不可欠です。

まとめ:飲食業のチャレンジが業界全体を変える

飲食業が自店の味を“商品=製品化”し、工場と連携して量産・流通を拡大することは、単なる新規事業ではありません。

現場の知恵・工夫・美味しさが、技術力ある食品製造業の現場と出会い、新たなヒット商品・付加価値商品を生む大きな可能性があります。

昭和以来の伝統やアナログな現場の知恵も活かしつつ、冷静な工程管理・交渉術・数値管理を駆使することで、独自の“ものづくり”力を磨いていきましょう。

飲食業・製造業・バイヤー・サプライヤー、多様な立場が競い合い、共創する未来は、必ずや業界全体の進化に繋がります。

その第一歩として、本記事の実務手順と現場目線が、今日から皆様の挑戦・イノベーションのきっかけになることを願っています。

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