投稿日:2025年7月3日

DRBFMワークシート活用で信頼性を向上させる実践ステップ

はじめに:製造業現場で高まる信頼性要求

製造業の現場では、製品の信頼性向上がかつてないほど重要視されています。

とくに近年は、お客様からの品質要求が格段に高まり、リコールや不具合によるブランド価値の棄損が深刻な経営リスクとなってきました。

そのような背景の中で注目されているのが、DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)です。

DRBFMは設計・生産プロセスの変更点に着目し、潜在的な問題点を徹底して洗い出す手法で、品質トラブルの未然防止に大きな効果を発揮します。

本記事では、DRBFMの基本から現場実践での具体的なワークシート活用法、昭和的な“アナログ文化”の現場への浸透に至るまで、製造業の第一線経験者としての視点で徹底解説します。

DRBFMとは:従来手法との本質的な違い

DRBFMの位置づけと目的

DRBFMは主に自動車業界で開発された品質保証手法ですが、その適用領域は今や家電、精密機器、医療機器など多岐にわたっています。

“Design Review Based on Failure Mode”の名の通り、設計・工程の「変更点」に焦点をしぼって、いかにその変更によるリスクを最小化するかが最大の狙いです。

従来、多くの工場現場で行われてきたFMEA(故障モード影響解析)は、全体的な見直しが主眼であり「どこかで問題があるはず」という前提のもと網羅的にリスク抽出をしました。

一方、DRBFMは「ちゃんとした設計なら“そのまま”なら問題が起きない」というフィロソフィーに基づき、“変えた箇所”に絞ったディスカッションを徹底します。

昭和的な現場への馴染みやすさ

昭和から続く多くの日本の工場の現場では、「新しい試みよりも“例年通り・踏襲”が安全」という文化が根強くあります。

この風土の中でDRBFMは、「変更点だけに集中的にリスクを考える」といったシンプルで現場目線の実践が浸透しやすく、管理職世代や現場リーダーに受け入れやすいという大きな利点があります。

DRBFMワークシートの基本構成

DRBFMワークシートとは

DRBFMワークシートは、設計やプロセスの変更点ごとにリスクの洗い出しと管理をするためのチェックリストです。

これを活用することで、思考の抜けや俗人的な見落としを防ぎ、論理的かつ体系的にリスク抽出・評価・対策までを進めることができます。

現場での実用例を踏まえると、以下のような構成が一般的です。

  • 「変更箇所・変更内容」
  • 「変更による潜在的な故障・失敗モード」
  • 「影響範囲・影響度」
  • 「発生メカニズム・要因」
  • 「現状管理(抑制策)」
  • 「追加必要な評価・確認内容」
  • 「責任者・期限」

ワークシートの作成ポイント

ワークシートは、変更検討の初期段階から着手することで抜け漏れを防止します。

A3サイズなどの「大きめの紙」を使い、関係者がその場で書き込みできる形がベストです。

また、エクセルやGoogleスプレッドシートによるデジタル運用も増えていますが、工場現場に根付く「書く」文化も尊重し、最初は紙ベースで運用しつつ徐々に電子化していくやり方も有効です。

DRBFMワークシート活用の実践ステップ

DRBFMワークシートを現場で活用するには、単なるフォーマットの共有だけではうまくいきません。

以下の実践ステップを踏むことで、現場に根付かせ、現実的な“リスク0運営”の入口を開くことができます。

ステップ1:変更点の抽出と「見える化」

まず、変更対象の図面や工程フローを基に、どこをどう変更するのか、変更ポイントを明確にします。

ここで重要なのは「なぜ変更するのか」「何を変えたら、どこまで影響するのか」という“設計思想”まで深く突き詰めて可視化することです。

メンバー間の認識違いをゼロにし、“伝えたつもり”や“分かったつもり”を排除します。

ステップ2:関係者の巻き込みと部門横断

品質・調達・生産・技術・営業といった多部門の関係者を集めます。

現場にありがちな「技術者だけの自己完結」を避け、あえて“普段現場に接していない部門”にも積極的に意見を出してもらうことが肝要です。

現場にいると見えなくなるリスクも、バイヤーやサプライヤーの視点で「そこが落とし穴」という指摘を受けることがよくあります。

ステップ3:ワークシートを使ったディスカッション

実際のワークシートには、各項目ごとに集まったメンバーが「なぜ?」「どうして?」と深掘りしながらリスクを書き込んでいきます。

「過去どうだったか」「他部署目線ではどう見えるか」という“社内レガシー”な知見もどんどん洗い出しましょう。

たとえば、「変更」でワッシャーの厚みを1mmから0.8mmにした場合、「ねじのバカ締めで座屈する可能性」「組立治具との干渉」「耐久評価は再実施すべきか」など、思いつく限りネガティブシナリオを記述します。

ステップ4:評価・管理・アクションプラン作成

抽出したリスクごとに、「影響度」「発生可能性」「既存対策の有無」を評価し、優先順位をつけます。

必要に応じて、“追加の試験”や“不具合モニタリング”をきめ細かく設定し、「誰が、いつまでに、どんなアクションを取るか」までワークシートに明記します。

責任の所在を明確にすることで、タスクの“空中分解”を防ぎます。

DRBFMワークシート定着のコツと現場目線の落とし穴

「記入が目的」ではなく「現場の思考習慣化」を目指す

ワークシートが定着しない現場には、「記入することがゴール」となり、肝心のリスク思考が浅くなっているケースが多く見られます。

短絡的な形式主義に陥らないためには、「書く」ことそのものよりも“部門を超えた深堀り思考”を日常業務の中に浸透させることが本質です。

昭和的現場文化に根付く潜在的リスク

古き良きアナログ現場では、「自分たちは大丈夫」「過去も問題なかった」という心理が根強いです。

その油断が、時に公的な品質事故への引き金になります。

DRBFMの表面的な実施で満足せず、“過去を疑う・今を見直す”という思考を徹底しましょう。

サプライヤー・バイヤーの共感を得る活用術

サプライヤーがバイヤーに対して「きちんとリスクを管理していますよ」と提示できるワークシートは、商談や技術打合せでも強力な説得材料となります。

一方、バイヤー側はサプライヤーシートを「形式だから」と斜に構えてはいけません。

共通言語としてリスクを共有しあう姿勢が、信頼できるパートナー関係構築につながります。

DX時代のDRBFMワークシート活用最新動向

クラウド運用と遠隔コラボレーション

リモートワークが進んだ昨今、ワークシートもクラウド運用が一般化しつつあります。

Google WorkspaceやTeams、Miroなどのプラットフォームを活用し、距離を超えたコラボレーションが可能となっています。

こうしたツールの活用は、記録・検索性の劇的な向上と、現場の知見の蓄積を促進します。

AIによるリスク抽出の支援

AIを使った過去不具合データの分析から、ワークシート記入のアシストまでする“半自動化”も試みられ始めています。

ただし、現場固有の“さじ加減”が必要な項目については、やはり人が最終判断を下すことが重要です。

まとめ:DRBFMワークシートは「問いかけ」の連鎖

DRBFMワークシートは、単なる“記入フォーム”以上の力を持っています。

変更点ごとの「なぜ?」「本当に大丈夫か?」の自問自答が、組織のリスク感度そのものを底上げしていきます。

昭和から続く製造業の現場でも、現場目線の実践を着実に積み重ねることで、グローバル品質競争の中でも着実な信頼性向上が実現できます。

バイヤー、サプライヤー、そして製造業すべての現場人が、“紙一枚の問いかけ”から品質未来を切り開くことができるのです。

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