投稿日:2025年10月9日

トマトジュースの赤みを維持する殺菌温度と酸化防止制御

はじめに:変わりゆく製造現場とトマトジュースの「赤」へのこだわり

トマトジュースの深い赤色は、消費者の購買意欲をそそる重要な品質要素です。
「より鮮やかに、よりナチュラルに」という声は昭和時代から絶えず続いており、今日でも製造業の現場ではその実現に多くの工夫が凝らされています。

しかし、トマトの赤みの元となるリコピンは、加熱や酸化に弱い特性を持っています。
このため、殺菌や保存といった安全性と、色や風味といった品質の維持とが常にせめぎ合っています。

製造ラインの自動化やAIの導入が進む中でも、「赤みを損なわず、かつ安全性を保つ」という命題は、まさにアナログとデジタルの狭間で常に課題となり続けているのです。
本記事では、現場目線の知見と業界の動向を交えながら、トマトジュースの赤みを保つ殺菌温度と酸化防止の制御について、具体的かつ実践的に解説します。

トマトジュースの赤みの本質とは?

赤みの正体「リコピン」とその安定性

トマトジュースの赤色は主にカロテノイド色素「リコピン」に由来します。
リコピンは脂溶性で、熱や光、酸素に反応しやすいため、殺菌や加熱時、さらには流通・保存時にも変色しやすい特徴を持っています。

加熱によるリコピンの変性は、トマトの加工度合いや濃縮度、pH環境にも影響を受けます。
特に高温殺菌ではリコピン自体が壊れるだけでなく、トマトの細胞膜や組織が壊されることで、色素の安定性も落ちてきます。

鮮やかな赤を「維持」するとは

消費者が好む「鮮やかな赤」は、加熱殺菌直後の色ではなく、流通や保存の間も品質を保ち続けることが大切です。
したがって、殺菌温度の最適化とともに、酸化防止制御がセットで考えられることがポイントです。

殺菌温度とプロセス設計のベストプラクティス

高温短時間殺菌(HTST)と低温長時間殺菌(LTLT)の違い

トマトジュースの安全性確保のためには微生物を確実に減らす必要があるため、一般的には殺菌温度を高く設定します。
従来のLTLT(低温長時間殺菌:70〜80℃、30分など)は昔ながらの方法として根強いですが、近年はHTST(高温短時間殺菌:90〜100℃、30秒〜1分)が主流です。

HTSTは、色や風味の損失を最小限に抑えながら十分な殺菌効果が期待できるため、リコピンの退色に敏感な製品ほど適しています。
しかし、瞬時に加熱・冷却ラインが設計できるかどうかは、現場設備や投資判断にも左右されます。

温度プロファイルとライン設計の工夫

トマトジュースの殺菌では、単に設定温度を守れば良いというものではありません。
急激な加熱や冷却こそがリコピンの安定性を助けるため、熱交換器の仕様選定や殺菌釜の攪拌、ピストンポンプによる流量一定化など、設備選定段階から赤み維持を意識した設計が重要です。

特にラインの切替時やスタンバイ時には、製品が高温状態で長く滞留しないようバッファータンクやバイパス機能を活用することが効果的です。

実際の温度制御のトレンドと現場対応

近年ではサニタイジングも兼ねる「115〜120℃数秒」レベルの超高温殺菌(UHT)が海外では普及していますが、国内大手工場では「85〜95℃ 30〜90秒」程度が多い傾向があります。

現場では、サンプル毎の色差計による定量評価、炭酸ガス放散や分離現象の有無もチェック項目として定着しています。
ラインの殺菌槽やチューブ内など、最も温度が上がり切らない「コールドスポット」の把握も現場ノウハウの一つです。

酸化防止制御:赤みを守る現場のひと工夫

酸素管理の基本と現状

トマトジュースのリコピンは、原料加工〜加熱工程の酸素との接触で急速に退色が進みます。
従来の充填工程では無菌・減圧環境の整備が不十分なことも多く、昭和時代の大容量タンク使い回しラインでは、酸素との接触を防ぎきれていませんでした。

最近はステンレスサニタリタンク+不活性ガスパージ+真空脱気+無菌充填の複合制御が主流になりつつあります。
このマルチな工程管理こそが、昭和アナログから抜け出す一歩であり、かつ持続的な赤み維持の出発点です。

主な酸化防止技術と最新トレンド

– 原料受入れ時点での即時加工→酸化時間の最小化
– 空気接触面積の小さな連続式処理機への切替
– 充填前の真空脱気(ディガッシング)機構の装備
– 窒素や炭酸ガスによるヘッドスペースフラッシング
– 酸素吸収型フィルムやバリア性容器活用(ペットボトルでもバリアコート活用が浸透)

これらの技術が、色素劣化の根本的リスク低減に直結します。
実際に、現場でパージや脱気工程を省略してしまった場合、製品の保存試験中に見る見るうちに褐色変色する事例も少なくありません。

ラインレイアウトと運用上のポイント

バッチ式殺菌⇒タンク貯蔵⇒充填という流れであれば、タンク内を窒素置換し、液面下部からの吐出・配管ルート短縮も効果的です。
連続式であれば、充填部直前の連続脱気工程や自動エアパージ機能の稼働状況確認もポイントとなります。

現場で「赤み」を評価する:目視・定量・ロス視点

目視評価から色差計による定量へ

ベテラン現場作業員の「良い赤み」のノウハウは宝物ですが、言語化・数値化していかないと継承は難しいです。
最近は色差計や分光測色計によるL*a*b*値の管理が主流で、ラインモニタで「規格外赤み」の流出を防ぐ仕組みも構築されています。

工程内ロス=赤みロスという発想

殺菌槽内の残留や充填前の長時間滞留ロスは、そのまま色素劣化の見逃しにつながります。
工程内の滞留時間短縮や、シェアードタンキングの際の「回転率向上」は、現場自動化と相性が良い改善案です。

バイヤー視点、サプライヤー視点での「赤み品質管理」

バイヤー(調達・購買)の気になるポイント

バイヤーや購買部門にとって、「赤み保持」は単なる品質項目ではなく、ブランドイメージ維持や市場投入後クレーム防止にも直結します。
実際の購買基準で重視されるのは次のようなポイントです。

– 工場ごとの殺菌プロセスの違い(安定再現性あるか)
– 製品保存中の赤み維持(賞味期限内基準)
– 原料ロットごとの色差バラつき(規格化できているか)
– 加熱履歴・酸素レベルの工程ごと記録(トレーサビリティ)

バイヤーは単なる仕様書だけでなく、その背景にある現場の本気度や改善実績も「見える化」したくなるものです。

サプライヤー(製造側)の戦略的アプローチ

サプライヤーの立場で「バイヤーが知りたい赤み管理」を把握することは、差別化の大きなポイントです。
赤み維持のプロセスを技術資料化したり、第三者検査データや経年変化比較を資料として提示したりすることで、信頼度を高められます。
また、工程変更やライン増設の時には、事前にバイヤーと情報共有し、赤み維持保証システムの構築提案をすることで、長期的な取引継続につなげることができます。

昭和的ノウハウとデジタル化の両立がもたらす未来

現場アナログの凄みを活かす

一見、デジタル制御や自動化が全てを解決するようですが、実際の製造現場では「手感覚」の微妙な調整・蓄積された経験知こそが赤み品質の守り神です。
朝一番のライン立ち上げ温度の「ワンテンポ待ち」や、殺菌タンクへの「空タンク戻し減らし」など、アナログ的な判断も不可欠です。

データ化・見える化との共存

ラインの温度履歴ログ、酸素濃度管理、色差値グラフ表示など、ITとAIによる「見える化・即時フィードバック」で、経験則が属人化するリスクを減らしていく。
さらに、他社動向や海外工場とのデータ比較も可能になれば、日本独自の赤み訴求力を国際競争力へつなげていくことができるはずです。

まとめ:製造業の現場知と新技術が拓く赤みの未来

トマトジュースの赤み維持は、殺菌温度の最適化・酸化防止制御・評価システムの三位一体で成り立っています。
従来のアナログ現場力に、最新技術や見える化を融合させることで、「日本品質」の赤みと味わいを世界に発信する道が開けてきます。

赤みひとつに莫大な工夫と最新技術、多様な現場ノウハウが詰まっている。
それを理解し、伝え続けることが、製造業の今後の力となるでしょう。

製造業に携わるすべての方に、そしてこれから業界を担う未来のバイヤーやサプライヤーにも、現場でこそ感じる「赤みへのこだわり」と真剣勝負の熱意が伝わることを願っています。

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