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飲食店がレトルト商品を開発する際の殺菌温度と食感保持の考え方

目次
はじめに:飲食店がレトルト商品を開発する背景
飲食店が独自のメニューをレトルト商品として製造・販売する動きは、コロナ禍をきっかけに急増しました。
従来は店内での食事提供が主流でしたが、外出自粛やテイクアウト需要、通販市場の拡大を受けて「自宅で店の味を楽しみたい」という声が強まっています。
しかし、レトルト化に取り組む際に必ず直面するのが、「安全基準を満たした殺菌」と「オリジナルの食感・味わいの保持をどう両立するか」という課題です。
この両立は簡単なことではなく、業務用厨房で調理する場合とはまったく異なる知識とノウハウが必要になります。
本記事では、現場経験に基づき、昭和から続くアナログな食品製造現場の実態も踏まえつつ、飲食店のレトルト商品開発で肝となる「殺菌温度」と「食感保持」の考え方を、実践的に紹介します。
これからバイヤーやサプライヤーを担う方、飲食店経営者や製造経験者の方にも役立つ情報となるよう、深掘りして解説します。
レトルト食品製造の基礎知識
レトルト殺菌とは何か?
レトルト商品とは、食品を密封容器(パウチや缶)に詰め、加圧加熱によって殺菌処理を行い、常温で長期保存を可能にした食品を指します。
日本では、主に121℃で4分間加熱(F値=4)する「レトルト殺菌」が基準となっています。
ここでいうF値とは、「微生物(主にボツリヌス菌)がどれだけ死滅するか」の指標を数値化したものです。
つまり、十分なF値を確保することが安全なレトルト食品づくりの第一歩です。
なぜ殺菌温度が重要なのか
レトルト食品の殺菌は、加圧加熱によってボツリヌス菌などの耐熱性芽胞菌を死滅させることが目的です。
温度が不十分だと、菌が生き残り食中毒や腐敗のリスクが高まります。
一方で、過度な加熱は食品成分や食感、風味の低下を招きます。
この「安全」と「美味しさ」のバランスを取る基準設定が、製造現場の“アート”ともいえる部分です。
たとえば、和食の煮物や洋食のクリームシチューなどは、温度管理を誤ると、とろみが消えたり野菜が崩壊したりします。
レトルト食品の殺菌条件の考え方
F値管理の実践的アプローチ
レトルト商品のF値は、一般的に「F0値=3〜5」が望ましいとされています。
F0値3は、121℃で3分間加熱するのと同等の殺菌効果であり、これで通常の家庭用常温流通が可能です。
一方で、具材や粘性、パッケージサイズによって殺菌条件は大きく変わります。
業界では「最終製品の中心温度が目標温度に達するまでの時間+その後の保持時間」を厳密に管理することが基本です。
具材が大きい、固形物が多いほど熱の伝導が遅くなります。
昔ながらの昭和的な製法では“とりあえず加熱時間を長く”しがちですが、これは食感劣化の主要因になります。
現代の現場では、食品成分分析や温度ロガーデータを駆使するデジタル管理が常識になり始めています。
耐熱性微生物とそのリスク対応
レトルト食品最大の敵はボツリヌス菌ですが、その他にも枯草菌やセレウス菌などが問題となります。
特に豆類や根菜、土付き野菜を多く使ったメニューは、芽胞菌混入のリスクが上がります。
これらに対応するには、徹底した前処理(洗浄・下茹で)とともに、必要十分な殺菌時間・温度を確保する必要があります。
昭和型工場では「昔からこの時間でやってきたから…」と前例踏襲しがちですが、現代は科学的根拠をもとに都度検証し、製品ごとに最適値を見極める姿勢が重要です。
食感・風味保持のポイント
加熱による変質—何が起きるのか
レトルト加圧加熱は、タンパク質変性、デンプン糊化、野菜の繊維分解など、さまざまな化学変化を引き起こします。
具材が柔らかくなりすぎる、ホロホロ崩れる、色が悪くなる、ソースが水っぽくなる……これらの現象は、殺菌温度・時間の設計が甘い場合に頻発します。
特に飲食店の名物料理をそのままレトルト化したい場合、こうした変質を極力抑えるレシピ改良と工程設計が肝となります。
食感を守る技術と発想
現代の工場では、殺菌時の品質劣化を防ぐために次のような工夫をしています。
1. 具材サイズ・厚みを最適化する
具が大きいほど熱が伝わるのに時間がかかります。
推奨サイズにカットすることで、加熱時間を短縮し、食感劣化を緩和できます。
2. 事前加熱・ブランチング
熱に弱い野菜類は、完成前の段階で高温に短時間さらしておく(ブランチング)ことで、酵素失活や変色を防げます。
3. デンプンの調整
小麦粉や片栗粉などの増粘剤はレトルト殺菌後に粘度低下しやすいため、プレゲル化スターチ等、レトルト適性の高い原料に置き換える手法が効果的です。
4. AMS(オートメーションモードステリライザー)の活用
近年は急速昇温・急速冷却を可能にする装置を導入し、食品の中心温度到達を早めて総加熱時間を削減できます。
これにより、多くの飲食店レトルトが従来より高品質になっています。
5. ソースやタレの再設計
店で提供している味をそのまま再現すると、レトルト後には味がぼやけたり分離したりすることが多いです。
発酵調味料やアミノ酸、低分子うま味成分を加えたり、必要ならポストインジェクション(後入れ製法)を検討するのも手です。
昭和アナログ型現場の“あるある”とその打開策
現場の慣習や“勘と経験”の限界
業界が長らく“職人技”や“現場勘”に頼ってきた背景には、「何となくうまくいっているから変えづらい」「新しいやり方を導入するコストが高い」という事情があります。
しかしレトルト食品として通販・業務用市場で勝つには、安全基準の裏付けが必須です。
厚労省や自治体が定めるガイドラインに準拠しつつも、データ管理や分析を積極的に学び、現場主導で標準工程をアップデートしていく姿勢が重要です。
新たな地平線―DX導入と現場発想の融合
いま「昭和的手作業」から「デジタル主導」への転換は業界で最重要課題になっています。
たとえば、IoT温度ロガーやプロセスコントローラーの活用、小ロット多品種生産に対応したセミオートメーションラインの導入などです。
現場の知恵や経験を活かしつつ、データ化・自動記録化することで、昭和型工場も高品質レトルト製造へと進化できます。
生産管理や品質管理の視点でいえば、「再現性」と「透明性」はこれからバイヤーやACサプライヤーが最も重視する項目です。
まとめ:飲食店・バイヤー・サプライヤーへのアドバイス
レトルト食品開発は、単なる“保存食”から“商品力”が問われる時代へシフトしました。
殺菌温度・F値の正確な設定は安全の絶対条件であり、そのうえで「いかに食感・味を守れるか」という差別化の挑戦こそが、これからの成功を分けるポイントです。
飲食店からのOEM依頼や自社開発に携わる方は、自分の料理をそのままレトルト化するのではなく、「加熱・殺菌工程を前提にしたレシピ設計」に意識をシフトしましょう。
バイヤーやサプライヤーの方は、「なぜこの殺菌温度なのか」「中心温度管理はどう証明されているのか」など、科学的な根拠を確認する姿勢が重要です。
昭和的なアナログ現場の知恵も活かしつつ、最新の工業的知見を組み合わせることで、日本の製造業はさらに高みを目指せます。
今後も現場の発想とラテラルシンキング(横断的思考)の両輪で、「美味しくて安心なレトルト食品作り」に取り組んでいきましょう。
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