投稿日:2025年9月25日

古い在庫管理に固執する企業が資金繰りを悪化させる問題

はじめに:製造業の「在庫」は資金繰りの鏡

現場での経験を重ねるうちに、在庫管理が企業体質の良し悪しを如実に表す指標であることを痛感してきました。

多くの製造業メーカーでは、昭和時代から続く伝統や慣習を理由に、アナログ的な在庫管理から脱却できていません。

その結果、余剰在庫や不良在庫が積み上がり、財務を圧迫し、企業の成長を阻害しています。

本記事では、なぜ古い在庫管理に固執する企業が資金繰りを悪化させるのか、現場目線と最新動向を交えながら、課題の本質、そしてこれからのあるべき姿を考えます。

現場に根強く残るアナログ在庫管理の現実

手書き伝票とエクセル台帳――未だ健在な昭和型管理

日本の中堅・中小規模工場では、今尚、手書きの伝票とエクセル台帳による在庫管理が日常風景です。

ロット番号は手作業で付され、「棚卸し」は年数回の一大イベント。

在庫データの修正や履歴の遡りも人海戦術に頼ることが多いです。

こうした現場には「今までこれで回ってきた」「変える必要性を感じない」という空気が色濃く漂い、意志決定層の高齢化もあいまってデジタル化への抵抗が強いのが実情です。

在庫が企業の「安全弁」になっている理由

在庫は、納期トラブルや設備停止、人的ミスといった不測の事態への“保険”として現場で重宝されがちです。

「念のため、もうワンロット余分に作っておこう」「材料が多めに来たが、困ることはないだろう」といった曖昧な判断が積もり、気付けば倉庫に“お宝”が山積みになっている現場も多々見受けられます。

この“安心感”――在庫を持つほど安心、という昭和的マインドが、現代のサプライチェーンの柔軟性を著しく損なってしまっています。

古い在庫管理と資金繰り悪化のメカニズム

在庫資産=不活性なキャッシュ

財務諸表上、在庫は“資産”として計上されますが、現実には売上が立たない限り現金化できない「不活性資産」です。

過剰な在庫は、仕入・製造で投じた現金を長期間倉庫に“寝かせて”しまい、運転資金を逼迫させます。

特に、原材料費やエネルギーコストが高騰する昨今、余剰在庫は現金流出の元凶となり、金融機関からもネガティブに評価されます。

不良在庫・陳腐化のダブルパンチ

受注変動や技術進化、需要トレンドの変化に迅速に対応できないまま積み上げた在庫は、次第に「使えない在庫」「古い規格」「売れない型式」といった“お荷物”に変わります。

この不良在庫や陳腐在庫が帳簿上価値を大きく毀損させ、最終的には「棚卸減耗損」あるいは廃棄損失として計上され、利益を大きく圧迫します。

投資対効果の観点からも、取れるはずのリスクや新規事業への投資資金が目減りし、企業の競争力を根底から奪っていきます。

なぜ変われない?アナログ慣習に固執する理由

現場経験に裏打ちされた「保守的文化」

長年現場に根ざした従業員ほど、「トラブルの記憶」がDNAのように刷り込まれています。

「納期遅延で怒られた」「素材切れで生産が止まった」等のストレス体験が、在庫多めの“保守的備蓄”に走らせる根源です。

また、過去の属人的ノウハウへの過度な信頼や、社内政治的な力学もデジタル化や新ルール導入の障壁になります。

システム導入への費用対効果への過度な期待

中小企業では「在庫管理システム=高額」「どうせ使いこなせない」「投資効果が見えない」といった先入観が根強く、商社やITベンダーの口車に簡単には乗りません。

一方で、部分最適化(例:入出庫のみのデジタル化)にとどめて“やった気分”だけで終わる事例も多いのです。

こうした「真に現場が求める変革」が伴わない限り、形だけのDX(デジタルトランスフォーメーション)は空回りし、根本的な資金繰り改善にはつながりません。

資金繰り悪化の波及効果と経営リスク

実質的なキャッシュフローの停滞

架空の例ですが――A社は5億円の年間売上に対し、在庫5,000万円を常に保持しています。

仮に在庫回転日数が60日なら、2ヶ月分の売上相当が常に“寝かし”の状態で、これが回収不能となれば急速に資金ショートを引き起こします。

緊急時の仕入れ資金や人件費の支払いすら滞り、取引先・金融機関からの信用低下を招きます。

経営判断の遅れと現場の士気低下

在庫に関わる情報が即時にシェアできず、現場は「勘と経験」頼り。

過剰在庫・部品不足を発見するたびに慌てる。

経営者は正しい数字が分からず、意思決定が常に一歩遅れ――このような組織風土では、現場力や生産性も年々低下していきます。

意思決定層が現場データを信頼できる形式で吸い上げられない限り、サプライチェーン全体の最適化は遠い夢に終わります。

現場発想で突破する!新時代の在庫管理変革

ヒューマンエラーを前提とした仕組み作り

人は必ず間違えます。

最初から「ヒューマンエラーを前提」として、出庫・入庫履歴を全て時間軸で記録し、原因究明しやすくする設計がカギです。

現場に負担をかけないタブレット入力、バーコードリーダー、QRコード管理など、工夫次第で少額投資でも精度向上は可能です。

本当に必要な在庫の「見える化」

「どこに」「何が」「どれだけ」「どういう状態で」存在するのか――を一元的に可視化できれば、帳簿と現物の不一致や“隠れ資産”を最小化できます。

さらに、リアルタイムでABC分析、在庫回転率の把握、死蔵品管理などを実践し、感覚的な判断からデータドリブンな管理へ移行することで、資金繰り管理も飛躍的に改善します。

バイヤー視点とサプライヤー視点の共通言語化

発注側(バイヤー)と仕入側(サプライヤー)が、在庫情報や需給状況を可能な限り同期・共有することで、加工リードタイム短縮や過剰な安全在庫の圧縮が実現します。

「バイヤーは何をリスクに感じ、どこまで在庫を持ちたくないのか」

「サプライヤーはどのくらいの変動に耐えられるのか」

こうした“腹を割った現場目線の会話”こそが、サプライチェーン全体の最適化の第一歩です。

おわりに:今こそ「在庫」を問い直すとき

どんなに優れた仕組みやシステムも、「なぜ変わる必要があるのか」を現場スタッフ・経営層が深く納得し、現実を直視することからしか始まりません。

今、古い在庫管理にしがみつくことは、現金を倉庫に“放置”し続けることと同じです。

資金繰り悪化の本質的原因に気付き、在庫回転率という「企業の健康指標」を現場と共に毎日眺め、仕組みを変革する勇気こそが、今後の製造企業の生命線になると強く信じています。

製造業に携わる皆様、バイヤー志望の方、サプライヤーの皆さんも、「在庫」という身近なテーマから、ぜひ明日を変えるアクションを一歩踏み出してみてください。

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