投稿日:2025年12月15日

海上輸送の遅延が読みきれず国内在庫が枯渇する流れ

はじめに:物流の混乱と製造業現場への影響

近年、海上輸送の遅延が世界中で顕著になっています。
新型コロナウイルス感染症の影響、船舶不足、港湾混雑、地政学的なリスク拡大による航路変更など、さまざまな要因が複雑に絡み合い、世界規模で物流が“詰まる”現象が頻発しています。

その影響は、我々日本の製造業現場にもダイレクトに降りかかっています。
特に、調達購買、生産管理、工場現場に深くかかわる人材、部品や原材料を国内外から調達するバイヤーの方々、またサプライヤー側でバイヤーとの交渉や納期管理に頭を悩ませている担当者にとって、この物流の乱れは他人事ではありません。

この記事では、海上輸送の遅延が読みきれず国内在庫が枯渇し、製造現場がどう苦しみ、どう対処してきたか、現場目線で掘り下げていきます。
また、業界全体が抱えるアナログな課題や、今後の対応策についても、俯瞰的にかつ具体的に考察していきます。

海上輸送遅延とは何か?背景と現状を掘り下げる

コロナ禍で加速した世界的な物流混乱

新型コロナウイルス感染症の流行によって、2020年以降、世界中のサプライチェーンが混乱しました。
海外工場の一時閉鎖や人員不足が続き、さらには港湾での感染防止対策によって作業効率が低下。
輸送力の供給不足が深刻化し、船舶やコンテナの確保が困難になった時期が長く続きました。

また、パンデミックの影響だけでなく、近年ではスエズ運河座礁事故、紅海の安全保障リスク、ウクライナ情勢など、地政学的リスクもますます高まっています。
主要な航路に障害が発生すると、リードタイムの遅延が発生し、予定通りの納期で荷物が届かないリスクが顕著になったのです。

製造現場に与える影響:在庫不足と調達リスク

海上輸送の遅延がもたらす最大の問題は、「部品・原材料在庫の枯渇」です。
従来の安定供給を前提とした在庫管理が、完全に崩壊したといえるでしょう。

特に「ジャストインタイム(JIT)」生産方式を取り入れていた現場では、少しの遅延でも全工程が止まる重大リスクになります。
製造ラインが数日間停止するだけで、会社としての損失は甚大です。
また、バイヤーや調達部門は納期遅延の理由説明や顧客からのクレーム対応に追われ、サプライヤー側も対応に苦慮しています。

なぜ在庫が枯渇するのか?アナログ業界の「昭和思考」も影響

古い慣習が足かせに:紙・電話・FAX頼りの情報共有

日本の製造業、とりわけ中小規模、もしくは歴史のある企業では、いまだに紙や電話、FAXを中心とした情報連絡が多く残っています。
発注や納期連絡、在庫情報の管理もアナログで進められ、リアルタイムで現場の状況を把握できる体制が整っていません。

海上輸送の遅延情報も、「伝言ゲーム」のように時間差でしか現場に届かず、手遅れになってから「納期が遅れます」という連絡を受けて、慌てて生産計画の再調整や顧客への説明に追われる――こうしたパターンが各所で繰り返されてきました。

需給バランスの精緻なコントロールが困難に

従来の日本製造業の強みは、「現場力」と「人海戦術」。
ところが、グローバルなサプライチェーンが複雑化し、コントロール不能な事象が増加するなか、従来の経験や勘、人的ネットワークに頼るやり方だけでは対応しきれなくなってきました。

部品、材料の手配ミスやダブルブッキング、余剰在庫の見落とし、計画生産の不均衡など、「緻密な需給バランス」のコントロールが一気に難化したのです。

「読めない」時代のバイヤー事情と苦悩

「いつ、いくつ届くか分からない」時の調達・購買の悩み

海上運賃は高騰し、リードタイムも不安定。
「〇月〇日着予定」と言われても、その日になったら「やはり1週間遅れます」との連絡。
あるいは、事前に大口発注しても、コンテナ不足で一部しか納品されず、分納を余儀なくされる。
こうしたトラブルが日常茶飯事となっています。

特に部品が多品種・多数量にまたがる自動車・機械・電子部品業界では、調達部門の苦労は計り知れません。
「現場在庫がギリギリ」「明日止まります」「なんとか他から調達できませんか?」と、現場からのSOSに頭を抱えるバイヤー。
サプライヤーにも「納期遵守!品質保証!」とプレッシャーをかけざるを得なくなる。
現場、調達、サプライヤーが“疲弊”しているのが現状です。

バイヤーが考えていること:コストカットと安定供給、その板挟み

バイヤーは基本的に「コストを抑えつつ、必要なモノを、必要な分だけ、確実に」手配したい。
しかしこの数年は安定供給の重要性がそれまでになく高まりました。
コストを絞って在庫圧縮したはずが、欠品でラインストップするリスクが表面化。
一方で、過剰在庫も利益を圧迫し、経営陣から目標達成を迫られる。
この“コスト”と“供給安定”のシーソーゲームが、現代のバイヤーたちの最大のジレンマとなっています。

サプライヤーの立場から見た製造業バイヤーの「本音」

とにかく「早く欲しい」が全体最優先

サプライヤーとしては、受注を確定させてから材料をそろえ、生産し、出荷するのが理想です。
ただし、昨今の物流混乱下では「先行手配しても良いから、とにかく早く、確実に納品できる手配をしてほしい」という要望が強まっています。
取引先からは短納期要求や、納期前倒しのプッシュ、断続的な進捗確認が押し寄せます。

逆に輸送遅延→納品不可となると、自社の信頼低下にもつながり、「他のサプライヤーから仕入れます」という話にも発展しかねません。
結果として「納期とリスク分散」に最大限気を配りながら、一方でコスト削減にも応えねばならない状態が続いています。

バイヤーとサプライヤーの「情報ギャップ」と現場トラブル

物流遅延や在庫枯渇リスクに対して、バイヤーとサプライヤー間で「どこまで包み隠さず共有できるか」が重要です。
しかし、現場では「見通しが立たない」と率直に言えず、互いに「納期は守ります(多分)」という形で話を進めてしまい、最終的にトラブルになるケースが目立ちます。

この背景には、「安定供給できる業者だけが生き残れる」という業界風潮と、「無茶振りを断れない」サプライヤー側の文化が根強く残っています。

現場から提案する、アナログ脱却と在庫枯渇リスク対策

デジタル化戦略の重要性と、小さな一歩からの現場革新

最も効果的な改善策は、やはり「情報のデジタル化」によるリアルタイム可視化です。
クラウド在庫管理システムを利用することで、発注・納期・輸送状況を一元管理し、現場、生産管理、調達、サプライヤー間のギャップを埋めることが可能となります。

とはいえ、「急激なフルデジタル化」は現場にとってハードルが高いです。
まずはエクセル・Googleスプレッドシートによる納期一覧共有、チャットツールでの情報連絡、進捗会議のオンライン化など、できるところから地道に「昭和的な紙・FAX文化」からの脱却を進めることがポイントです。

在庫適正化とリスクバッファーの見直し

今後も海上輸送の遅延リスクは完全には解消されません。
そのため、従来の“在庫極小化”からリスクバッファー(追加安全在庫)の確保が求められます。
ただし、闇雲に在庫を積むのではなく、「最重要部品」や「他社調達困難品」を中心に、サプライチェーン全体で最適な在庫量を再設計する必要があります。

可視化されたリアルタイムなデータを活用し、在庫補充ポイントや手配タイミングを自動化する仕組み作りが、持続的な現場運営のカギとなるでしょう。

まとめ:アナログ業界こそ変革のチャンスが眠る

海上輸送遅延による在庫枯渇は、外的な環境変化のみならず、長年の業界慣習や「昭和的」な企業文化にも一因があります。
「読めない」時代の今こそ、製造バイヤー、サプライヤー、工場現場が一丸となって“見える化”と“情報共有”、そしてデジタル活用の一歩を踏み出すべきです。

もし、現場の皆さんが今「同じように悩んでいる」としたら、まずは小さな改革から仲間と始めてみてください。
現場目線のラテラルシンキングとデジタルの力が、変化の時代の“新たな地平”を必ず切り拓くはずです。

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