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顧客価値に直結する戦略的研究開発テーマ設定と継続判断法

目次
はじめに:製造業における研究開発テーマ設定の重要性
製造業の現場では、新しい技術や商品を生み出す源泉として「研究開発(R&D)」が重視されています。
しかし、どれだけ優れたテーマを掲げても、それが市場や顧客の真のニーズに直結していなければ、せっかくの努力も徒労に終わってしまいます。
特に、グローバル化とデジタル化の流れのなか、昭和以来の「モノを作れば売れる」という発想では、競争優位性を維持することが困難になっています。
本記事では、現場で培った視点から、顧客価値に結び付く研究開発テーマの設定方法と、その継続可否判断のポイントを徹底解説します。
バイヤーやサプライヤーの方々、さらにはこれから製造業に携わろうという方々にもお役立ていただける内容になっております。
研究開発テーマ設定における「顧客価値」の再定義
「顧客価値」とは何か
研究開発の世界では、ついつい技術的な優位性や先進性に目が向きがちですが、その技術が「顧客にとってどのような価値を生み出すか」を抜きにして語ることはできません。
ここでいう「価値」とは、単に製品の高性能や低価格といった分かりやすい機能面だけでなく、顧客の課題解決、安心・安全、社会的信頼、供給責任といった中長期的な視点も含みます。
業界の現場で生まれる「現実的な価値観」
現場レベルで実感するのは、数値で簡単に現れない“現実的な価値観”です。
例えば、ある部品のわずかな設計改良が、ライン作業者の負担軽減や生産ライン全体の稼働率向上につながる場合があります。
一方で、画期的な新技術が導入コストや運用負荷の面で現場にしわ寄せを生じさせてしまうことも。
研究開発テーマ設定においては、こうした現場実態や運用面の「生きた価値」を見落としてはいけません。
顧客接点を持つ部署との連携強化
営業、マーケティング、カスタマーサポート、調達・購買など、顧客接点を多く持つ部署からの“生の声”は、顧客価値を正しく捉える上で極めて重要です。
調達目線では「なぜその価格が適正なのか」「将来コストダウンに繋げられる余地はどこか」といった観点からの意見も有効です。
現場からの声に、現代のバイヤーやサプライヤーがどのような着眼点を重視しているのかを加味し、総合的な「顧客価値像」を導き出すことが求められます。
戦略的研究開発テーマの選定ポイント
①市場・顧客課題の明確化
最初に行うべきは、「誰に、どのような価値を、どうやってもたらすか」を具体的に定めることです。
製造業では、販路や顧客層が多岐にわたることが一般的です。
オープンインタビューやアンケート調査を駆使し、市場や既存顧客の“痛点”や“未充足ニーズ”を言語化します。
同時に、“サイレントカスタマー(声をあげない者たち)”の存在にも注意深く目配りすることが重要です。
②バリューチェーン全体での価値最大化
研究開発テーマが、社内の開発部門だけでなく「調達」「生産管理」「品質」「物流」「サービス」など全バリューチェーンにポジティブな影響を及ぼせるかの視点も大切です。
例えば、ある新製品開発のための素材調達では、サプライヤーの技術力や品質水準、納入リードタイムなども「価値創出」の一部として加味することが極めて重要です。
社内外のプレイヤーとの共創も視野に入れましょう。
③将来シナリオとリスクヘッジ
昭和的な「場当たり的」開発から脱却し、中長期視点でのシナリオプランニングを強く意識しましょう。
マーケット、規制、技術、環境、社会情勢などの変化に応じて、研究テーマが将来も最大化できるかどうか、複数の仮説でリスクヘッジを行います。
「新技術が陳腐化した場合」「原材料コストが急騰した場合」「他社が類似技術をリリースした場合」など、最悪のケースでも価値を提供できるかまで想定しておくことが重要です。
アナログ業界に根付いた「現場力」を活かすテーマ設定術
現場の「暗黙知」を形式知化する
アナログ色の強い製造業界では、昭和から引き継がれてきた職人技や“勘と経験”が今なお重宝されています。
しかし、これらの「暗黙知」を放置していては、属人化・業務停滞・技術伝承の断絶といったリスクも孕んでしまいます。
テーマ選定段階で現場のベテランや多能工を巻き込み、「何が課題で、何が成功や失敗を分けるか」といった暗黙知の可視化・分析に取り組むことが、イノベーティブなR&Dに繋がります。
アナログ×デジタルで付加価値を生み出す
近年ではIoTやAI、デジタルツインといったテクノロジーの導入が進んでいますが、「デジタル化=自動化、効率化」だけではありません。
現場のノウハウ(例:磨耗部品ごとの交換タイミング、微妙な機械調整方法)をデータ化し、どのようなプロセス・サービスに活かせるかを考えることで“他社に真似できない高付加価値”が生まれます。
「現場発イノベーション」が生まれやすいテーマ設定には、アナログの底力とデジタルの拡張性を掛け合わせる発想が欠かせません。
コストダウン原理主義から脱却した価値創出
今もなお「コストダウン至上主義」が根強く残る業界は多いですが、単なる安価追求では長期的な競合優位は掴めません。
「取引価格を削る」だけでなく、「設計の工夫で歩留まりを上げる」「調達方法を変えて柔軟な供給体制を確立する」「使い勝手やアフターメンテナンスを重視」など、現場発の視点で顧客への総合的な価値提案を盛り込むことが重要です。
戦略テーマの継続判断基準と進化のさせ方
定期的なテーマレビューの重要性
一度設定した研究開発テーマも、事業環境や市場要求の変化、技術の進歩によって陳腐化するリスクがつきまといます。
3ヵ月に一度など定期的なプロジェクトレビューを設け、「成果指標(KPI)の達成度」「顧客からのフィードバック」「外部環境の変化」などを多角的に評価し、継続・修正・撤退の意思決定を行いましょう。
「やり切ること」に執着しすぎた結果、競争力を失ってしまうケースは少なくありません。
社内外のステークホルダーを巻き込む
意思決定には、開発担当者だけでなく、営業・調達・品質保証・経営層といった幅広い視点が不可欠です。
場合によっては、主要顧客やサプライヤーを巻き込んだ“オープンイノベーション型”の中間レビューを行うことも検討すべきです。
現場からの「こんな使い方されている」「想定外のトラブルが多発している」といった生の情報が、テーマ進化の鍵を握ります。
「撤退する勇気」「進化させる柔軟性」
すでに相当な投資を行ったテーマを見直すのは勇気が要る決断ですが、それができなかったがために巨額の損失を被る大手企業の例は枚挙に暇がありません。
失敗の兆候が見えた段階で“判断基準”を設け、早期撤退か方向転換を行う体制が求められます。
また、全く別の市場や用途、別分野との連携も視野に入れて進化(ピボット)させる柔軟性を持つことが長期的な躍進を支えます。
まとめ:現場発の「価値創造マインド」をテーマ設定・継続判断に生かそう
製造業の研究開発テーマ設定は、単なる先進技術や低コストだけではなく、「誰のために」「どのようにして」価値を創造するのか、という現場視点に立脚した発想が不可欠です。
アナログとデジタルを融合し、現場の知恵や経験を最大限に活用することで、競争優位に繋がる戦略的テーマ設定が実現できます。
継続可否の判断は、定期的なレビュー、多様なステークホルダーの巻き込み、時には「撤退する勇気」や「新たな挑戦への進化力」も必要です。
既存のやり方や昭和時代の常識に縛られることなく、ラテラルシンキングで広い視野から研究開発を再設計し、顧客価値を最大化していきましょう。
これからの製造業の研究開発が、皆様の現場やキャリアで真の付加価値を生み出すものになれば幸いです。
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