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中小企業がOEM先との競合を避けつつ自社製品を販売するための戦略設計

目次
はじめに 〜現場経験者が解くOEM取引の本音とジレンマ〜
日本の製造業は、長らく大手メーカーによる系列・OEM(受託製造)構造に支えられてきました。
とりわけ中小企業は、OEMからの安定的な発注によって事業の基盤を作ってきた歴史があります。
しかし、人口減少・グローバル競争・コスト圧力が進む令和の今、OEM依存のリスクが改めて認識されるようになりました。
OEMからの受託比率が高い企業ほど、自社ブランド製品(PB)にもチャレンジしたい気持ちは強いはずです。
しかし、実際にはOEM先との契約や商慣習、業界の連携ネットワークが壁となり、「競合禁止」(カニバリ/カニバリゼーション)のジレンマに悩む現場が多いのが実状です。
本記事では、現場で20年以上、調達購買・生産管理・品質管理・工場長・バイヤーまで様々な立場を経験した著者が、OEMの現場目線で「競合を避けつつ自社製品を売る戦略」について、実践的ノウハウと事例を交え深掘りします。
なぜOEM先との競合が問題となるのか
産業構造と契約上の制約
製造業のOEM取引では、委託元(A社/発注者)とOEM受託先(B社/受託者)の間で、秘密保持契約や競業避止条項が盛り込まれるのが一般的です。
この理由は主に、A社のブランド価値・市場シェア・製品技術の優位性保持、並びに市場内での価格競争激化防止があります。
特に下請法や独禁法の観点からも、OEM先が勝手に同じ市場に製品を投入することは、BtoB/BtoC問わず大問題となります。
業界ネットワークと“昭和の常識”
加えて、業界横断的、地域横断的なネットワークも重しとなります。
いわゆる「阿吽の呼吸」「仁義」「共同体意識」などの、昭和から続く“目に見えない縛り”は未だに健在です。
実際、同じ部品メーカーがA社のOEMとして主要部品を製造しつつ、自社ブランドで同等品を出そうとした瞬間、「他社案件との分別は十分か?」「受託品質とPB品質の差別化は守れるか?」などと、A社のバイヤーが厳しくチェックを入れる…というケースは令和の今も珍しくありません。
OEM先との競合にならない自社製品開発とは何か
自社ブランド展開による成長戦略は、中小企業だけでなく、サプライチェーン全体の活性化にも繋がります。
しかし、単純に受託品と同じものを売り出してしまえば、“二重販売”となり即・契約違反です。
では、どこまでが許容範囲なのでしょうか?
重要なのは“市場・仕様・価値訴求ポイント”の差別化です。
(1)ターゲット市場・チャンネルの分離
OEM先が主に大手量販店向け、産業用途向けに製品展開している場合は、自社ブランド品は別の市場(例:個人事業主・DIY・ニッチ業界向け)や別業態(EC限定・受注生産・カスタム品など)への投入が有効です。
このとき、流通チャネルも差別化した設計が求められます。
たとえば、受託品は業界ルート流通、自社品はWeb直販限定にすることで、市場カニバリを回避する戦術です。
(2)仕様・機能・デザインによる棲み分け
OEM元に納入している標準品から、機能追加・デザイン変更・使用部材の独自化・セット販売化などで、類似品ではあっても製品カテゴリーを変えます。
「BtoB標準仕様」×「BtoC向けアレンジ」や、「量産安価品」×「高付加価値・多機能化」など、顧客価値軸で明確差別化できれば、OEM元バイヤーからも理解を得やすくなります。
(3)用途提案型・ソリューション化戦略
単体部品や製品のみならず、自社の独自ノウハウや現場サポート、アフターサービスをパッケージ化するのも、棲み分けの有効手法です。
たとえば、アフターフォローを徹底したり、「現場課題解決のコンサルティング付き」「IoT連携システムとセットアップ一式」など、「体験」も含む提案型ビジネスへ昇華させることで、単なる“モノの売り合い”と一線を画すことができます。
競合回避と自社製品戦略 具体的実践ステップ
1. OEM元との対話と交渉の“地ならし”
最重要なのは、契約内容と事前の関係性構築です。
競合回避のための自社製品企画を考える際、まず秘密保持契約・競業避止条項・知的財産権の範囲を自社法務・顧問弁護士とも相談し、“現状でできること・できないこと”の棚卸しをしましょう。
そのうえで、OEM元へ「こういう市場で、こういう仕様、かつ御社とはバッティングしない形で展開したい」という趣旨を誠実に説明します。
また、時にはOEM元との共同ブランド化(コ・ブランド型)や共同での新市場開拓提案も視野に入れると、信頼関係の深化につながります。
2. 市場選定と顧客インサイト深掘り
自社製品の適用市場はどこか、今までOEMで見られてこなかったニッチ市場の要望はどこにあるか。
展示会現場、問合せ履歴、既存顧客のペルソナヒアリング、競合SNSの口コミ解析、購買データの異常値分析など、現場の一次情報を徹底活用します。
また、業界内での異業種コラボや、既存品の新用途提案など、視野を横に広げて考えることがポイントです。
3. 商品企画と付加価値設計
他社と似たものになることを恐れず、自社の強み(工場の技術力・QCD・短納期対応力・特殊材料調達ルートなど)を活かせる形で、他にない価値を盛り込みます。
特に、現場ならではの“かゆいところに手が届く”工夫=たとえば「設置作業が半日短縮できる」「メンテナンスが容易」「出荷検品を100%写真付きで納入」など、消費者目線だけでなく“現場のバイヤー”が嬉しい機能・サービスを盛り込むことが鍵です。
4. 集客・販路の独自化とデジタルシフト
今やWeb直販、SNS活用、オンライン展示会、YouTubeでの現場検証動画配信など、旧来のBtoB営業だけに頼らない拡販が可能です。
OEM元と明確に棲み分けた販路指向を示すことで、“嫌がらせ防止”にも役立ちます。
また、Web上でダイレクトに現場担当者やエンドユーザーと繋がることで、市場ニーズの継続的収集・商品企画へのフィードバックも加速します。
昭和から脱却できない「アナログ業界」が変われる理由
令和の今も、「大手バイヤーの顔色を伺うのが普通」「うちの工場には技術しかない」「宣伝は代理店任せ」。
こうした声を、現場で幾度となく聞いてきました。
確かに、系列取引の常識や業界慣習がしぶとく残るのが日本の製造業です。
しかし、デジタルシフトと市場多様化の時代――技術情報のオープン化・共創型バリューチェーンの価値観拡大によって、“受け身一辺倒”からは今こそチャンスが生まれます。
たとえば名古屋の老舗町工場が、OEM元と連携しつつ、楽天・Amazonや自社ECで“プロ職人向けカスタム品”を全国販売し、補助金活用でデジタル化も進め、OEM元は逆に「現場情報を製品開発に生かせた」とWin-Winになった事例もあります。
現場の知見を軸に、業界軌道修正が可能な時代なのです。
まとめと、現場から未来へ―OEMと自社ブランドの“両利き経営”
OEMからの安定受注は経営基盤として重要ですが、環境変化や競争条件の中で「自社製品展開による新たな付加価値」を生み出すことは、中小企業にとっても生き残りの決定打となり得ます。
その際、“OEM先との競合回避”を単なる制約ではなく、「差別化の必然」と前向きに捉え直し、
・市場、仕様、価値訴求の明確な棲み分け
・契約・関係性構築の徹底
・アナログとデジタル両面からの攻め
・現場視点での顧客課題解決力
を軸に、ラテラルシンキング(水平思考)で新しい地平線を切り拓いていくことが、“両利き経営”の要となります。
製造業は今、現場から変わるチャンスに満ちています。
これまでOEM一筋だった方、新たにバイヤーを目指したい方、またサプライヤーとしてバイヤー視点を知りたい皆さんへ、現場経験者としての知見が何らかのヒントとなれば幸いです。
未来のものづくりは、他社との協調と自社らしさの両立に掛かっています。ぜひ一歩踏み出してください。
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