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試験と検査の重複を棚卸して費目別に削る品質費用マネジメント

目次
はじめに:品質費用マネジメントの新しい視点
製造業において品質保証ほどコストとパフォーマンスの綱引きが激しい業務領域はありません。
不良ゼロを目指せば検査や試験は膨れ上がり、納期や生産性が圧迫されます。
一方、コストダウンの掛け声が強まる中で検査・試験を減らせば、最終製品の品質やブランド価値に危機が迫ります。
とくに日本の製造業は、昭和時代の成功体験から、現場の勘や習慣、根回し文化が深く根付いており、標準化やIT化、効率化が思うように進んでいない現場が少なくありません。
本記事では、20年以上にわたり現場・管理職双方を経験してきた立場から「試験と検査の重複を棚卸して費目別に削る品質費用マネジメント」について、実践的な観点で掘り下げます。
バイヤーやサプライヤー、それぞれの立場で利益を最大化しながらも、モノづくりの魂を守る方法論を解説します。
品質コスト構造の可視化から始めるべき理由
品質費用=目に見えにくい「隠れたコスト」の集合体
品質保証にかかる費用は、製造原価や材料費に埋もれやすい「間接費」の代表格です。
見積書や原価計算時に直接部品に割り当てられるコストではなく、現場が良かれと思って増やした試験、習慣的に行われている工程内検査、ISO要求による文書管理などが積み重なり、その正体も規模も見えにくくなっています。
これを放っておくと、いつの間にか売上高の数%規模に膨張し、しかも削減が難しい固定費化してしまうのです。
多くの製造現場ではこの「見えていないコスト」を“品質のために仕方ない”と諦め、抜本的な可視化・見直しを行う機会がありません。
棚卸しは「悪玉工程」を見つけ「重複」を削る最良の武器
重複試験や重複検査、意味の薄くなった帳票類は、品質リスクの低減には結びつかない“過剰投資”であることが多いです。
しかし、これらを統計的に可視化し、業務フロー全体で棚卸しすることで、適正化の余地を浮き彫りにすることができます。
特に、工程別・費目別に振り分けながら「目的と手段が一体化していない業務」「実態と基準先行の検査」などを洗い出すことで、現場が納得しやすい削減施策が立てられるのです。
製造業の「重複」発生の典型パターン
サプライヤーとメーカー間の二重検査・試験
サプライヤーが出荷前検査をしているにも関わらず、メーカー(バイヤー)でも同種の検査を初物や全品で行っているケースは典型的な重複です。
これは「自社責任重視」や「トラブル時の根拠確保」「品質保証の形式対応」など、論理的な積み重ねの果てに非効率化したプロセスです。
IT化や信頼関係構築が進まない場合、いつまでも“二重のコスト”が発生し続けます。
工程内検査と製品出荷前検査の“二重投資”
工程内での自主検査やパトロールチェックと、最終出荷前の検査が目的レベルで曖昧なまま両立している場合があります。
この重複も多額の時間・人件費を生み出しますが、標準書が整備されていなかったり、“昔からのやり方”が背景にあるため削減の糸口が見えないことが多いです。
記録・帳票管理の「念のため保管」
ISOやIATFなど品質マネジメント認証への適合を理由に、検査記録や試験成績書を何年も保管し、現場もそれを当たり前のように受け入れていることがあります。
これはデジタル化が進まない現場ほど顕著で、紙とハンコ文化、人的エラー防止が目的化し、本来の機能を失って形骸化しています。
現場目線で進める重複棚卸の実践ステップ
1. 目的―手段の再定義から始める
現場や管理職が一緒になって「そもそも何のためにやっているか?」の再定義から始めます。
たとえば、工程内検査は“不良の流出防止”か“工程能力の監視”なのか。
出荷前検査は“顧客要求の保証”のためなのか。
洗い出した重複検査や帳票について「その目的はいまも有効か」「別の手段で代替できないか」を問うことが核心です。
2. 担当者別・設備別・時間軸別で可視化+見える化
誰が、どこで、何の装置を使い、どのくらいのサイクルで、どんな検査や試験・記録をしているのかをフローチャート化します。
この際、“一人作業”や“人的依存”になっている業務や、忙しい時期だけ増えている臨時検査なども記載しておきます。
工場の全景が見えると、無駄が一気に浮かび上がります。
3. 費目・コストインパクト別にメリハリをつける
洗い出した各項目について、「年間でどれだけの工数」「材料費・人件費」「設備占有率」に換算し、見積原価や総コストに占める割合を算出します。
費用インパクトが大きい順に優先度を決め、「重複度」と「削減余地」のマトリクス管理を行います。
4. バイヤー・サプライヤー間のコミュニケーションを強化
検査や記録の削減は、メーカー・サプライヤー双方の合意が不可欠です。
現場からの積極的な提案(例:抜取頻度の見直し、証明書様式の統一化、ICTの活用など)を行い、品質保証部門、本部のバイヤーを巻き込むことで「守り」から「攻め」の品質コストマネジメントを推進できます。
また、得意先との協議で“第三者認証”や“相互認証”などの仕組みを作れば、二重検査そのものをゼロに近づけることが可能です。
アナログ業界でもできる費目別削減アイデア
紙文化からの脱却:現場書類のデジタル移行
紙ベースでの検査記録や品質帳票が業務を圧迫している場合、まずは“Excel化”“グループウェア化”など小さなデジタル化から着手します。
これにより集計・検索・共有工数が大幅削減でき、重複記録や「念のため」保管作業も減ります。
数値入力や帳票印刷を自動化すれば人的エラーが減り、検査員のストレス軽減にも繋がります。
“工程保証”を徹底し、工程内検査の負担を減らす
工程能力指数(Cp、Cpk)の定量管理を導入し、実際に安定稼働している工程は「信頼できる工程」として検査頻度を減らします。
不具合発生時だけ臨時検査を強化する「リスクベース」の運用に切り替えれば、保証コストと検査員負荷が劇的にダウンします。
検査・試験の“アウトソーシング”でコア業務集中
内製検査・試験は設備償却や熟練者人件費が高コスト化しがちです。
ノンコア工程や特殊性の低い検査は外部機関に委託し、コア技術開発やトラブル対策に現場リソースを集中させることも有効です。
ISO認証や品質証明の維持にはアウトソース先の信頼性評価も必須です。
昭和からの「精神主義」を壊すラテラルシンキング術
「なぜ、この検査が必要か?」を5回繰り返す
現場では「昔からやっているから」「重大クレーム対策で…」など理由がぼやけたまま継続している工程が多いです。
トヨタ生産方式の“なぜなぜ分析”を応用し、少なくとも5回は「なぜ?」を繰り返すことで潜在的なムダや無駄な手間に気づくことができます。
「逆算思考」で本来必要な品質保証を掘り下げる
たとえば「お客様からの品質不具合流出ゼロ=どこまでの保証が必要か」という逆算思考に立ち、最小限必要な検査箇所に絞りこむアプローチも有効です。
この思考法が徹底されれば、昭和式の“安心のための全品検査”から脱却し、工程保証や自動化への投資判断へと踏み込むことができます。
今後のあるべき「品質費用」の考え方とは
重複は“悪”ですが、検査や試験そのものは決して“ゼロ”にはできません。
製品・工程の成熟度、顧客要求、グローバル取引、リスクマネジメントとのバランスを考慮し、品質費用マネジメントは“機動的に変化する仕組み”へと進化させるべきです。
データ活用とAIの導入で「予兆検知型」へ
従来の「結果の帳票記録」から、収集した検査データ・不具合情報をAIで解析する“予兆検知型品質管理”に進化させることで、全体最適と高レベルな品質保証が両立します。
現場と経営層が「成果で議論できる文化」の醸成
棚卸し・削減活動では現場が「サボっている」と見なされがちです。
しかし、本来は「質の高い仕事に集中するため」の前向きな活動です。
経営層も現場も“成果軸で議論”し、共同で「必要な品質コスト」を最適化していく姿勢が重要です。
まとめ:工場もサプライチェーンも、みなで高め合う未来へ
品質費用の適正化は、単なるコスト削減のテクニックではありません。
工場とサプライヤー、バイヤーと現場、それぞれの立場が知恵を出し合い、共通のビジョンを持つことで“高品質と効率”の両立を現実のものとできます。
ラテラル思考と現場視点、データ活用を武器に、製造業が今こそ昭和型から抜け出し、世界と戦う競争力を取り戻す時です。
試験・検査業務を棚卸し、目的と成果で整理しなおすことで貴社の品質現場が一歩進化することを願っています。
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