投稿日:2025年8月27日

工程委託の一貫受託化で搬送と中間マージンを圧縮

はじめに:製造現場の重要課題としての「工程委託」

製造業の世界では「工程委託」という言葉が日常的に使われています。
外部業者に特定部分の生産工程を任せることで、自社の負担を減らし、生産効率を最大化するための選択肢です。
しかし、昭和の時代から受け継がれる多重下請け構造や紙・電話ベースの情報伝達が、いまだ多くの現場で根強く残っています。

このような状況下で近年注目されているのが、「一貫受託化」の流れです。
つまり、従来は複数の外注業者に分散して委託していた各工程を「一社」にまとめて任せるという手法です。
この一貫受託化は、単純なコストダウンにとどまらず、ロス削減やリードタイム短縮、生産管理精度向上など、製造現場に多大なインパクトを与えています。

この記事では、工程委託の一貫受託化がなぜ搬送と中間マージンの圧縮につながるのか、その現場目線の実践的なノウハウとともに、業界を取り巻く根強いアナログ文化にも焦点を当てて深堀りします。

なぜ「一貫受託化」が今、求められているのか

時代の変化:多品種少量・短納期要求の加速

昭和から平成、令和に至る過程で、製造業を取り巻く環境は大きく変化しました。
多品種少量生産が標準化し、顧客の要求納期はますます短くなっています。
従来型の分割委託と比べて、工程ごとに業者が変わるごとに発生する「搬送ロス」や「中間在庫の管理」「情報伝達のタイムラグ」は、納期遵守や在庫圧縮を阻害する大きな障壁となっています。

現場目線の課題:搬送と中間マージンの「見えないコスト」

分割委託の場合、それぞれのサプライヤー間で物理的な搬送作業が発生します。
トラック手配、積み下ろし、検品作業、それに伴う人件費や管理コストは、単純な見積もり項目だけでは見えにくい「隠れたコスト」です。
そして何より、サプライヤーごとに発生する中間マージン(いわゆる“抜き”)は、累積的に最終製品コストを押し上げる要因となります。
実際、下請け構造が複雑な案件ほどコスト構造が不透明になりやすく、発注側・受注側双方が不満を持ちやすいのが現実です。

一貫受託化で生まれる構造的メリット

一社完結型の受託体制が実現できれば、各工程間のモノ/情報の流れが線から点へ、さらには面的な連携へ進化します。
社内搬送で済ませられればトラック手配や外部脱着の手間は最小限で済み、情報共有もシームレス。
中間マージンも減り、受発注関係がクリアになります。

一貫受託化による「搬送圧縮」の具体的効果

物理的搬送回数の最小化

従来、加工→表面処理→組立と各工程ごとに業者を切り替えていた場合、1工程ごとにモノは外部搬送されます。
そのたびに梱包、トラックチャーター、再検品、納期調整が発生します。

一貫受託でこれを一社内で完結できれば、下記のような大きな効果が現れます。

– 梱包/開梱、積み下ろし作業の削減
– 輸送トラックコストと燃料・CO2排出量の削減
– 納期ミスや製品ロス(誤配送・紛失等)リスクの回避
– 社内搬送装置(AGVなど)の活用による省人化/省力化

情報の移動もスムーズに

業者間で送り状、出荷連絡、進捗管理などを手書きや電話・FAXでやり取りする手間が、社内システム完結となれば大幅に減ります。
現場主任や担当者が直接状況を管理・フィードバックできるため、意思決定も迅速化します。

現場のリアル:工程移動に潜む「見えないコスト」

例えば、とある金属部品加工の事例では、
「材料支給→板金加工→溶接→表面処理→組立→検査」
この各過程で外注が違えば、最終仕上げまでに合計5社、4回もの外部搬送が発生しました。
これが一貫受託体制に切り替わったことで、リードタイムが30%短縮、搬送コストは40%圧縮され、総合的な欠品トラブルもほぼ0に近づいた、という事例もあります。

「中間マージン圧縮」の仕組みと本質

なぜ多重下請け構造ではコストが増幅するのか

下請け構造とは「A社(元請け)→B社(1次下請)→C社(2次下請)→D社(3次下請)」のように案件がピラミッド状に広がるものです。
それぞれの段階で、受注時には必ず見積もりと手数料(マージン)が積み増されていきます。

– 実際の加工費:1000円
– 2次下請け利益:+100円
– 1次下請け利益:+200円
– 元請け管理費:+300円
– 実際の発注価格:1600円

こういった中間マージンの累積構造こそ、製造業の長年の非効率の象徴ともいえます。
また、複数社の利害調整が入ることで、最終現場の「生の声」が発注側に届きにくくなり、技術革新や改善提案も生まれにくくなります。

一貫受託体制のメリットはここにある

– 直接取引により「不要な中間マージン」がなくなる
– 工程全体の見積もりが透明化し、費用対効果の評価がしやすくなる
– 現場のノウハウが直接フィードバックされ、技術的なアップデートが加速する

さらに「全体最適」による原価低減策や、工程間のロス削減(例えば一連工程まとめて治具・設備を開発する等)も進めやすくなります。

現場が実感する「関係性の変化」

バイヤー/調達担当目線では、

– 業者間調整業務(納期交渉・トラブル調整・情報伝達)の激減

サプライヤー目線では、

– 取り扱い量増加によるスケールメリット獲得
– 付加価値提案やソリューション提案の土壌ができる

双方にとって「Win-Win」の関係が築ける基盤となります。

業界に根付くアナログ文化・昭和的慣習との向き合い方

「長年の付き合い」が意思決定を曇らせることも

製造業の現場では、カタログスペックや書面契約よりも「長年の信頼・顔の見えるつながり」がいまだ優先されがちです。
どうしても一社にまとめられない、“付き合い”“地域バランス”による委託先選定が根強く残ります。

これを完全に否定はできません。
なぜなら「万が一の対応力」「現場感覚の共有」「緊急時の駆けつけサポート」など、デジタルでは補えない既存ネットワークの価値もまた高いからです。

ラテラルシンキングで打開する新たな地平線

重要なのは、「アナログ文化」と「一貫受託」のバランスをどう取るかです。
例えば、全工程の完全統一が難しくても、「主要工程だけ一括」「搬送ロスが大きい一部工程だけ切り出して一社受託」など、フレキシブルな設計が可能です。
また、既存の下請け企業が「新たに一貫受託化の役割」を担うよう再編・アライアンス化する形も取れます。

– 既存サプライヤー同士による協業体制(バーチャル一貫工場)
– サプライヤー主導による工程間デジタル連携(クラウドベースの工程管理)

アナログとデジタル、両方の強みを活かす「ハイブリッド型」が、今まさに求められています。

これからの調達・バイヤーに求められる視点

バイヤーは「協働型パートナー」を選ぶ時代に

従来の「価格交渉型」から「共創型」へ、調達戦略はシフトしています。
サプライヤーの技術開発力や提案能力、全体最適の観点で協力できるパートナーを選ぶことが付加価値創出につながります。

– 「工程丸投げ」ではなく、「モノづくりの現場提案力」を引き出す設計
– 工程間のデータ可視化やKPI共有による現場連携の深化
– 下請けの域を超えた共創関係の構築

これからのバイヤーには、コストだけでなく現場力や提案力とのバランス感覚が必須です。

サプライヤー目線でバイヤーの考えを知る意義

サプライヤー側も、ただ「発注されたものをこなす」受け身の姿勢では、今後淘汰されてしまいます。
「うちなら一貫受託できる」「この工程とこの工程はまとめて効率化提案ができる」
そんな“営業力”と“現場力”の両面を持つ企業が、次の競争力を得ます。

そのためには、バイヤーが抱える調整業務の煩雑さやコストプレッシャーを正確に理解し、「本質的に喜ばれるサービス」を磨くべきです。

まとめ:一貫受託化は製造の“智恵”の結晶

工程委託の一貫受託化は、搬送効率化や中間マージン圧縮といった「目に見えるコストダウン」を実現するだけでなく、
現場同士が“智恵”を出し合う「共創の場」として抜群の破壊力を持っています。

昭和から続くアナログ文化にもしっかりリスペクトしつつ、変えるべき論理やルールは大胆に刷新する。
製造業のバイヤー、サプライヤー、現場経営者、全ての方にとって、「一貫受託化」という新たな選択肢がもたらすダイナミズムに、いまこそ目を向けてみてはいかがでしょうか。

今後の製造現場の発展とイノベーション、その主役は「一貫受託と共創の現場力」だと、私は強く信じています。

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