投稿日:2025年6月21日

機械・構造物における強度設計と具体例

はじめに:強度設計の重要性と現場感覚

機械や構造物の設計において「強度設計」は最も基本であり、かつ決して軽視できない工程です。

ものづくりの現場では、設計の数値的な安全率やシミュレーションだけでは現実の問題をすべて網羅できません。

なぜなら、設計図どおりにものを作ったはずなのに現場で“割れる”“変形する”“思った通りに動かない”という経験は、製造業に携わっている方なら一度は味わっているからです。

強度設計は単なる理論や計算だけではなく、現場の知恵、ノウハウ、そして昭和時代から連綿と続く現場感覚がいまも色濃く影響している領域といえるでしょう。

本記事では、強度設計の基礎から、実践で重宝されるノウハウ、そして最新の業界動向まで、現場目線を大切にしながら具体例を交えて分かりやすく解説します。

強度設計とは何か?基礎理論と製造現場の実情

強度設計の基本

強度設計とは、目的とした負荷や環境条件下で、機械や構造物が壊れずにその機能・性能を維持できるように各部の形状や材質、寸法などを決定することです。

理論的には、応力(ストレス)= 外力 ÷ 部材の断面積、許容応力や安全率を用いて、「設計」を進めていきます。

一方、現場に目を向ければ、形状、材質、加工精度や熱処理、溶接の質、現場環境、運転パターン、はては現場作業者の“クセ”までが強度に影響するという現実があります。

こうした「現場ならではのシビアな強度設計」を理解していないと、机上の計算通りに設計したものも本番環境で簡単にトラブルを起こしてしまうのです。

強度設計が活きる現場の代表例

新規設備の導入時や新製品の立ち上げ、老朽化設備のリプレース、そして工場のライン拡張・自動化工事など、どの工程でも強度設計の知識が根幹にあります。

特に製造現場では次のようなシーンで強度設計が問われます。

  • 荷重が頻繁にかかるプレス金型や治具
  • 高速で稼働する搬送装置や生産ラインのフレーム
  • 重量物を吊り上げるクレーンや架台
  • 高温や腐食環境下で使われるタンクや配管

どれも「設計上は大丈夫でも、実際に振動や衝撃、繰返し荷重に壊される危険」が潜んでいます。

昭和から続く“現場知”と最新ツールの融合

未だに残る「経験工学」の価値

日本の製造業――特に中小の現場では図面や材料スペック以上に、ベテラン技能者の「経験工学」が語り継がれています。

たとえばボルト締結一つとっても、「このぐらいだと、あとで緩むぞ」とか、「あの溶接だと、ここから割れてくるぞ」といった現場ベースの予知・予見能力です。

これらは設計ツールやCAE(解析ソフト)では再現しきれない細かな気づきであり、現場ならではの“生きた強度設計”といえるでしょう。

最新の解析技術との実践的な使い分け

いっぽう、設計段階における強度検討では近年CAE(有限要素法解析)が強力な武器になっています。

部品や構造物の応力分布や、繰返し荷重による疲労破壊リスクなどを設計段階で可視化できるため、大規模案件や高付加価値製品では事実上欠かせません。

しかし「解析ツールが完璧な答えを示すわけではない」「常に現場フィードバックを加味する必要がある」と理解して現場と設計の双方からアプローチすることが大切です。

強度設計の具体的な進め方

ステップ1:要求仕様の明確化

どんな荷重条件(静荷重、動荷重、衝撃荷重など)を受けるのか。
運用環境(温度、湿度、腐食、磨耗、振動など)はどうか。
使用期間や保守周期の目安なども明らかにしましょう。

これら「要求仕様」を最初に十分に定義しておかないと、後工程で甚大な手戻りやトラブルが発生します。

ステップ2:材料選定

素材の選定は、強度設計における最重要ポイントです。

鋼材一つ選ぶだけでも、一般鋼・高張力鋼・ステンレス・アルミニウム…と選択肢は多彩です。

コスト、加工性、重量、調達納期(昨今のサプライチェーン事情も含む)など多角的に検討することが肝要です。

ステップ3:設計計算と安全率

静荷重なら許容応力法で、繰返し荷重(疲労)なら耐久応力をチェックします。

現場感覚としては、設計安全率に関して「ただ大きく取れば安心」というわけでもありません。
なぜなら、安全率が高すぎれば材料コスト・重量・エネルギー消費増加といった形でムダが発生するからです。

部品や設備の用途ごとに適切な安全率を設けましょう。

ステップ4:接合・加工法の選定

溶接部、ボルト締結部、リベット、接着など、設計上の弱点になりやすい「つなぎ目」の強度は特に慎重な設計が求められます。

現場の溶接技能や加工精度、検査体制など“作る側”の実力も設計者は必ず織り込む必要があります。

ステップ5:現物検証・フィードバック

実際に試作・量産された部品、設備は現物評価やフィールドテストを極力行いましょう。

現場の作業者や保全員、品質管理担当者の声を集め、不具合・トラブルの芽を早期に摘み取る努力が大切です。

そのフィードバックを基に設計を修正し、「実用的な強度設計サイクル」を築くことが利益向上・品質確保の近道です。

強度設計の具体例で学ぶ:機械・構造物別の実践

1. 大型製缶構造(フレーム・架台)

大型機械の架台やフレームは、とてもノウハウの必要な設計領域です。

単なる断面強度だけでは、後になって
「運転時、共振して振動が止まらない」
「溶接部からクラック発生」
「重量過大で床が沈下」といった不具合も起きがちです。

鉄鋼材料の溶接部は「HAZ(熱影響部)」が脆化しやすい、塗装後の腐食リスクが高まる、など事前の知恵がものを言います。

各部の補強リブやガセットの配置、板厚や形状変更で微調整しながら、現場にとって“ジャストフィット”な強度設計を目指しましょう。

2. 回転機械部(シャフト・軸受)

シャフトや軸受装置は、静荷重だけでなく回転による「ねじり」や「曲げ」、不均等荷重、振動、摩耗など複雑な負荷が加わります。

「べき等負荷」「急激な負荷変動」にも耐えられる材質と寸法、さらに表面処理(焼き入れ、浸炭、メッキなど)で補強することで、実用寿命を格段に延ばせます。

3. プレート・ブラケット

薄物プレートやブラケットは「たわみ」や「座屈(曲がりくずれ)」のリスクが高い部品です。

板厚だけでなく、穴あけ加工位置、曲げ形状、周囲締結方法を工夫し、最適形状と配置を模索しましょう。

設計時には構造計算に加え「現場での手入れしやすさ」や「部品交換のコスト」も強度設計の一環として考えてください。

4. 配管・タンク

高温・高圧流体を扱う配管やタンクは、材料そのものの強度だけでなく、溶接部やフランジ結合部からの“漏洩リスク”に神経を使います。

疲労やねじり、外部衝撃、腐食やスケール堆積など現場で発生しがちなトラブルを設計段階から盛り込むべきです。

まとめ:実践的な強度設計で業界の進化を

ものづくり工場出身の目線から強度設計を俯瞰すると、単なる理論計算やマニュアル遵守だけで正しい答えは導き出せません。

現場の経験、設備管理ノウハウ、最新解析技術、サプライチェーン事情など、あらゆる視点を立体的に組み合わせて初めて「現場で長く動き続ける設計」が実現できます。

現場担当者、バイヤー、サプライヤー、それぞれが「なぜそこまで細かく設計・管理しているのか」を深く理解し合えば、無駄な手戻りやトラブル、事故も激減します。

何より、昭和から続く“現場の知恵”を活かしつつ、新しい技術や働き方とも融合させていく。

そんな姿勢で、これからの強度設計をより実戦的で、革新的なものへと進化させたい――それが本稿の一番のメッセージです。

ものづくり従事者のみなさんが、より深く、実践的な強度設計に携わり、業界と自身の価値を高めていく一助となれば幸いです。

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