災害対応を支える車両土地調達でBCPを強化する資産確保と活用ノウハウ

はじめに：製造業におけるBCPの重要性と災害対応の現実

製造業において事業継続計画（BCP：Business Continuity Plan）は、近年ますますその重要性を増しています。
自然災害や地政学リスク、感染症の流行、サプライチェーンの分断など、企業を取り巻く環境は複雑化・多様化しています。

とくに“昭和型”から脱しきれていないアナログ業界では、「平時のコスト削減」に注視しがちで、万一のことを想定した資産確保や調達の重要性が軽視される傾向が残っています。
しかし実際の現場では、適切な資産管理や対応ノウハウの有無が、緊急時の復旧スピードや企業存続を分ける決定的要因となります。

この記事では、災害対応に不可欠な車両や土地といった資産調達の視点から、BCP強化のための実践的ノウハウを共有します。
「バイヤー」「現場生産管理」「サプライヤー」の立場を経験した筆者だからこそ語れる、“本当に役立つ資産確保と活用の秘訣”をお届けします。

いざという時に真価を問われる「車両土地」資産の役割

なぜ“車両土地”の確保が災害時に欠かせないのか

災害時、多くのサプライチェーンが停止・混乱するなかで、応急物資や部品の運搬、従業員の避難・移動、現場の視察・対応など、機動的な動きを左右するのは自社保有の“車両”です。

また、仮設オフィスや一時的な保管、従業員の避難スペースなどに活用できる“土地”資産も、事業継続性を高める切り札となります。
特に製造業の多くは郊外立地で敷地面積が広い場合が多いため、有効活用の余地が豊富にあります。

これら資産の調達・管理を安定的かつ戦略的に運用することは、BCPにおける“最後の切り札”ともいえるのです。

昭和型アナログ管理から脱却せよ

実際のところ、日本の製造業では「車両管理は工場長・総務任せ」「土地は本社管理部の専権事項」など、現場の実態と意識が乖離しがちです。
調達購買や生産管理などの部門では、平時の稼働効率やコストダウンに目が行きがちで、遊休化した車両や不明土地の整理だけが“資産管理”と誤解されています。

しかし、最新のBCP指針では、「災害時にいかに動かせる資産を、どこにどれだけ確保しているか」「効率よく再配置できる仕組みが即座に稼働するか」が求められます。
アナログ的な“帳簿管理”や“現況登録”だけでは本物のリスク対策になりません。

失敗事例に学ぶ：資産管理の落とし穴と“現場視点”の対策

よくある失敗と現場の混乱

BCP未整備のまま災害を経験した多くの現場で、以下のような問題が発生しています。

・工場の敷地内には遊休化したトラックやフォークリフトが散在していたが、維持費削減のため保守が疎かになっており、いざ動かそうとしてもエンジンがかからない
・仮設建物の設営や保管スペースとして使用できる空き土地があったが、どの部署が管轄するかが曖昧で迅速な使用許可が下りない
・災害時の一時退避場所として一応“候補地”はあったものの、地盤やアクセス動線の確認までには至らず、有効活用できなかった
・資産リストはあるものの更新頻度が低く、実際は既に売却・譲渡していたり廃車済みの車両が“存在”している事になっていた

どれも「まさかの時」に大きな障害となり、「こんなはずじゃなかった」「備えていたつもりだった」という後悔につながりました。

現場目線での資産確保・活用実践ポイント

現場を知り尽くした立場から提言できる、実践的な対策ポイントは次の通りです。

・定期的な資産パトロールの実施（車両・土地の現地実査、状態記録、使用可能性チェック）
・あらゆる場面を想定した「用途別」資産リスト作成（運搬用・避難用・仮設スペース用…）
・“現場部門主導”による維持管理体制（総務・経理任せにせず、調達・生産管理との連携を）
・最低限の動作確認・メンテナンス費用を平時から確保（「節約」は本質的なリスク回避の敵）
・災害時の資産利用マニュアル・連絡網の整備（複数部門での“机上訓練”も推奨）

クルマなら「保険も含めた平時の維持」「緊急時の移動経路・活用シナリオ」まで現場で練り上げることで、初めて“本当に役立つBCP資産”になり得ます。

車両・土地の調達戦略：サプライヤー／バイヤー視点の最善手

バイヤーが押さえるべき「調達の勘どころ」

バイヤー（購買担当）は、単に「安く・早く」調達するだけでなく、「有限資産を最大活用する観点」から戦略的調達を行うことが必要です。

災害対応を見越して、
・中古車両やリース車両・モバイルオフィスの選定（新車だけでなく、コストと稼働バランス重視）、
・グループ企業・協力工場との共同保有契約
・災害時優先で供給してもらえるベンダーの選定
など、平時と異なる“選択肢拡大”が求められます。

また、土地についても
・多目的活用が可能な形状・立地か（避難、仮設工場、物資集積所　等）
・近隣自治体や他企業との相互協定（災害時だけ一部貸し借りする仕組み）
など、一歩踏み込んだ調達・契約交渉が有効です。

サプライヤーの差別化ポイントとは

サプライヤーの側は、「ただ売る」だけでなく“災害時対応力”をアピールすることで取引拡大の好機が広がります。
たとえば、
・災害時に即納できる在庫・車両ストック
・短期レンタルやシェアリングの仕組み
・BCP教育・車両メンテナンス等の付帯サービス
・仮設建物や移動式事務所の即応プラン
など、新しい“モノ×サービス”で価値提供する発想が有効です。
バイヤーのBCP意識が高まる中、「いざという時に真っ先に相談されるサプライヤー」になることが、競争力の源泉となるでしょう。

新たな地平線：資産調達のDXと“共創型”BCPへ

デジタル活用で変わる資産管理・連携

近年、IoTやクラウド、AIを活用した車両・土地管理システムの導入が全国で広がりつつあります。
たとえばGPS内蔵の車両管理、ドローンによる土地巡回、システム上のリアルタイム在庫可視化、災害時の一斉アラート・マッチング機能といったデジタル活用は、「平時の見える化」だけでなく、「非常時の最適活用」に直結します。

従来の「属人的なカンコツ管理」や“一律帳簿”に止まっていては、変化に即応できません。
今後は
・物理資産データの自動連係
・平時と有事の管理ルール切替
・複数サプライヤー・関係者との共通プラットフォーム
が不可欠となり、製造業全体のBCPレベルが問われる時代になりました。