投稿日:2025年8月30日

貨物盗難リスクが高い港で実施すべきトレーサビリティ強化策と監視体制

はじめに:高まる港湾貨物盗難リスクと製造業の課題

現代の製造業が直面する課題のひとつに、港湾での貨物盗難リスクが挙げられます。
グローバルサプライチェーンの重要拠点である港は、攻めどころが多く、特に近年は巧妙化・組織化した犯罪が目立っています。
調達購買だけでなく、生産管理や品質保証の担当者もこのリスクに直面しており、対策は急務となっています。

貨物盗難による損失は、単なる物理的な製品の喪失だけに留まりません。
納期の遅延、クレーム対応、ブランド信用の毀損といった、企業全体へのリスクへと波及します。
本記事では、貨物盗難の実態を踏まえつつ、現場目線で機能するトレーサビリティ強化策と監視体制の構築方法に迫ります。

貨物盗難の“現場実態”を知る:なぜ港が狙われるのか

港湾エリアは、世界中の物流が交差する場所です。
その分、日々大量の貨物が積み下ろしされ、人や関係者が多数出入りします。
この“人と物が入り乱れる混沌”は、犯罪者にとっては格好の隙なのです。

アナログ管理の“穴”が狙われやすい理由

昭和から続くアナログ管理体制のままでは、貨物の入出庫や保管状況が紙台帳頼りだったり、現場作業員の経験則に頼る場合も少なくありません。
箱の中身やパレットの移動状況が曖昧になりやすく、現場での確認ミスや情報伝達の齟齬も発生します。

こうした“管理のスキマ”を突き、犯罪者はダミーラベルや偽造書類、作業員になりすます手口などを駆使。
従来の港湾セキュリティだけでは防げない巧妙な盗難が増えています。

盗難ターゲットの傾向と巧妙化する手口

狙われやすいのは、高付加価値の電子部品、精密機器、医薬品、最新モデル製品など。
また、小型で転売しやすいバッテリーや貴金属等も引き続き狙われています。

近年は、GPS妨害機や監視カメラを一時的に無効化する電子機器まで使われる事例も発生しています。
場合によっては港湾作業員や運送会社の内部関係者が加担するケースもあるほどです。

現場視点で考える:本当に機能するトレーサビリティ強化策

“盤石な管理”を標榜する企業は多いですが、いざ現場に目を向けると、紙の帳簿と手作業の確認が混在している会社も多いのが実情です。
ここでは、現場の効率は損なわず、“本当の意味で持続可能な”トレーサビリティ強化策をご紹介します。

1. システム×現場力の「ハイブリッド」トレーサビリティ

基礎はデジタル管理の徹底です。
例えば、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸送管理システム)などを導入し、入出庫・保管・移動・出荷の各工程でバーコードやRFIDタグを活用します。

しかし、システム任せにせず、“現場で目視確認するチェックポイント”も並行で設けます。
例えば、貨物搬入出のタイミングで、現場責任者が必ず物理的にタグ・ラベル・貨物とシステム上データの一致を照合するルールを設けます。

この「システム×現場チェック」のハイブリッド運用が、データの抜けや偽装、ラベル貼り替え等の“アナログ手口”を遮断します。

2. 貨物単位での一元管理とリアルタイム監視

各物流過程で“何が・どこで・誰の責任で”という情報を一元的に集約することが鉄則です。
特に、RFIDやバーコードの追跡情報をベースに、港湾の保管ヤードごとに定期的な棚卸し・在庫照合を実施します。

また、スマートフォンやタブレット連動型の現場アプリを導入し、現場作業員が即時に情報入力・確認できる仕組みを整えます。
これにより、港湾外部への持ち出しや、荷崩れによる在庫異常、輸送中の端末紛失に迅速に気付けます。

3. 「正規ルート」を明確化して不正な操作を困難に

港から工場、もしくはサプライヤーから港、港から顧客へ…といった正規の流れを明文化し、例外が発生した時のみ現場責任者に報告義務が発生する仕組みを設けます。

また、経路変更・日時変更が生じた場合は、必ずダブル承認を実装。
“なぜその移動が必要だったのか”を記録することで、ヒューマンエラーや計画外の持ち出しを牽制します。

効果的な「監視体制」構築のすすめ

もちろんシステム強化だけでは万全とはいえません。
犯罪を未然に防ぐ・抑止するためには精度の高い監視体制が不可欠です。

AI・IoTを活用した“次世代監視”

近年は、AIによる映像解析によって、港湾ヤード内への不審者・不審車両の侵入や、パレットの不自然な移動を瞬時に検知できるシステムも登場しています。

赤外線カメラ・熱感知カメラや、IoTセンサーをパレット・トラック・ゲート等の戦略箇所に設置し、異常検知と24時間アラート通知が可能となりました。

例えば、通常の入出庫ルート外で物品が動くと即時アラームを出す、センサーが貨物の“開封”を検知したら現場責任者と事務担当へリアルタイム通知するといった仕掛けも容易です。

熟練現場担当者の“直感”を活かす

デジタル監視と合わせて、現場リーダークラスの“目利き力”“異常感知能力”も重要な防波堤となります。
たとえば、普段と違う作業員の動きや、見慣れないトラックが来た、荷姿が不自然、ラベルの貼り方に違和感がある…。
そうした“現場の感覚”を定期的に共有・教育し、気軽に申告できる体制を作ります。

監視カメラだけでは、時に「慣れ」による見落としも。
そこで月1回の形骸化しない臨店パトロールや、現場内でのローテーション現場レビューを導入することも、地味ですが長期的な信頼強化に繋がります。

バイヤー・サプライヤー双方で活かすべき“攻め”の発想

バイヤー側にとっては、港湾管理における透明性こそが、サプライヤーとの信頼構築の要です。
一方、サプライヤー側も、自社から出荷された貨物が納入先の手元に着くまで責任をもってトレースできる体制づくりが、生き残り戦略となり得ます。

バイヤー視点:要件定義と定期監査を徹底する

流通途中の盗難リスクを減らすため、サプライヤー選定時や契約段階で、港湾管理方法・トレーサビリティプロセスについて明確な要件定義を行います。
万が一の盗難時の対応フローや保険・補償体制も事前に確認し、定期的に監査を実施します。

また、サプライヤー側管理責任者との直接の情報共有や共同パトロールも有効です。
「自社の責任範囲を明示することで、相手の管理意識も高まる」——この効果は地味ですが、現場力を底上げします。

サプライヤー視点:競争力強化につながる“公開型トレーサビリティ”

積極的なトレーサビリティ開示は、顧客への信頼アピールとなります。
たとえば、輸送経路・港湾保管履歴のデジタルデータをオンラインで提供したり、万が一盗難等問題が発生した場合もリアルタイムで異常検知・情報追加できるAPI連携サービスなどが注目されています。

これにより「自社がサプライチェーンの弱点ではない」という信頼価値が高まり、競合との差別化に直結します。

まとめ:人×システムの両輪で“昭和から脱却”した港湾リスク対策を

本記事では、港湾における貨物盗難リスクのリアルな実態と、機能するトレーサビリティ・監視体制強化の考え方を紹介しました。

いまや「港が一番危ない」のは世界共通の認識です。
紙台帳と経験則、監視カメラだけに頼る時代は終わりを迎えつつあります。

とはいえ、極端なIT化だけでは、現場実務が混乱し、逆に抜け穴を生むことも。
“昭和の現場力”と“令和のデジタル管理”をハイブリッドで組み合わせる柔軟な体制づくり。
この“人×システム”の両輪こそが、持続可能で強固な貨物盗難対策となるのです。

製造業に携わるバイヤー・サプライヤー双方が、港湾リスク対策を通して「守り」だけでなく「競争力強化」や「現場の変革」につなげていきましょう。

自社の“港湾対策”、いまこそ見直すタイミングです。

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