投稿日:2025年10月8日

レジ袋の取っ手が破れない延伸方向とヒートシール温度制御

はじめに:レジ袋の強度向上が求められる背景

レジ袋は、日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストア、小売店で日常的に利用されている包装資材です。
消費者が繰り返し使用する中で、「取っ手が破れる」というトラブルは店舗・顧客の双方にとって悩ましい課題となっています。

この背景には、コスト低減と環境配慮のために限界まで薄肉化された袋の使用増加、それに伴う材料強度の低下、さらには製造現場の熟練者減少によるヒートシール(融着)不良など、さまざまな要因があります。
本記事では、実践の現場から見えてきた「レジ袋の取っ手が破れないために不可欠な延伸方向とヒートシール温度制御」について深掘りします。

レジ袋の設計思想と延伸方向

レジ袋は一般的にポリエチレンフィルム(HDPEやLDPE)を原材料として製造されています。
このフィルムは、押出し成形によってシート状に成形されます。
このとき、フィルムには「縦方向(MD、機械方向)」と「横方向(TD、横方向)」の2つの延伸方向が生じます。

延伸方向とは何か?

延伸方向とは、フィルムを引き伸ばす際に主に素材の分子配列が揃う方向のことを指します。
押出し成形でレジ袋用フィルムが作られる場合、フィルムは機械に沿って高速で引き取られ、分子配列が機械方向に整列します。
この「機械方向(MD)」は、一番強度が高い延伸方向であり、すなわち最も破れにくい方向となります。

なぜ取っ手の設計に延伸方向を重視するのか

レジ袋の取っ手にかかる負荷の多くは、消費者が袋を持つときに発生します。
つまり、袋の取っ手を下方向に引っ張る力です。
もしこの力の方向とフィルムの延伸方向(最も強い方向)が一致していないと、分子の並びが不連続な部分から簡単に裂けてしまいます。

現場では「取っ手の引っ張り方向=機械方向(MD)」になるよう袋のカッティングを最適化します。
こうすることで、最も強度の出る延伸方向が、取っ手の力をそのまま受け止めてくれるからです。

ヒートシールとは? 取っ手部分で起こりがちな問題

レジ袋の製造工程では、フィルムを袋状にしたあと、取っ手付近をヒートシール(熱圧着)で接合します。
このヒートシールが不良だと、いくら材料や延伸方向に気を配っても取っ手の根元から破損しやすくなります。

ヒートシール温度制御の重要性

ヒートシール工程で最も重視すべきは「温度管理」です。
現場では温度が高すぎると材料が焼けて脆化し、逆に低すぎると圧着が不十分になり「ピール不良(圧着離れ)」が発生します。

昭和時代のアナログな設備では、オペレーターの経験則と手の感覚に頼ることが多かったのですが、近年は異物検知や温度センサの導入が進み、よりシビアな管理が要求されています。
温度分布の均一化やシールバーの調整も強度維持の鍵です。

取っ手部分の「ホットタック」と「クールシール」

取っ手部分のような負荷が集中する箇所では、「ホットタック」と呼ばれる、熱した直後の粘着強度が重要です。
しかし、冷却(クールシール)までをしっかり管理しないと、見かけの接合強度は保たれていても、実際に荷重がかかった際に裂けやすくなります。
製造現場では、ヒートシールの直後に冷却ローラーや水冷で十分冷まし、材料の結晶化を促して安定した強度を出す工夫がされています。

現場で多発するトラブル事例と改善策の実践

延伸方向やヒートシール温度制御の重要性はわかっても、実際の現場では多くのトラブルが発生します。

延伸方向ミスによる取っ手破れ

とくに海外のサプライヤーやコストダウンを目的とした外部委託でありがちなのが、取っ手のカッティング向きのミスです。
これにより、機械方向と反対方向でカットされた袋が納品され、現場検品時に引っ張り強度を調べるまで発見できないことがあります。

このため、現場目線での「引張試験」や「オンライントレース」など品質確認フローを組み込む必要があります。
初期流動管理(FMEA等)の仕組みを徹底し、「この袋のカット方向は本当に正しいか」を現場内でチェックする工程が不可欠です。

ヒートシール不良による取っ手根元の破断

近年、特に自動化が不十分なアナログ現場では、ヒートシール温度ムラや圧力ムラによる破断事故が増加傾向にあります。
熟練オペレータが減り、省人化とスピードアップのジレンマの中で「ヒューマンエラー」が混入しやすくなっています。
温度分布センサやプレッシャーモニタリングをICT化し、NG品の流出をブロックする仕組みづくりが重要です。

アナログからデジタルへの転換:現場改善の最前線

製造現場の自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)は、昭和時代からの脱却を求められる大きなテーマです。

IoTセンサによる温度・圧力管理の進化

現場では、「IoT温度センサ」や「サーモグラフィーカメラ」によるリアルタイム監視が普及しつつあります。
これにより、ヒートシール温度のムラや圧力不足を自動的に検出し、不良品の早期発見ができるようになりました。
こうしたスマートファクトリー化は品質管理の高度化を実現し、属人的な不良品混入リスクを下げます。
昭和的な「カンと経験」から、「データで語るものづくり」への転換が進んでいます。

工程の見える化とバイヤーへの説明力強化

バイヤーや顧客からの品質要求が高まる中、取っ手の強度やヒートシールの安定性をデータで示せる体制を整えることが、サプライヤーにとって競争力となっています。
「どの方向にフィルムが延伸され、どの温度・圧力でシールされているか」といった工程条件の見える化、トレーサビリティの強化が不可欠です。

サプライヤー視点:バイヤーは「現場管理」の確かさを見ている

バイヤーや調達担当者は、コストだけでなく「安定供給」と「現場力」を重視しています。
特に消費財メーカーでは、トラブル発生時の迅速な原因究明や再発防止策を「現場がどこまで理解し、実行できるか」がサプライヤー選定の大きなポイントです。

延伸方向とヒートシール温度制御は、「現場の当たり前品質」を守るための重要なボトルネックです。
自社のノウハウや強みを「見える化」し、日々の工程監査や品質審査の場で自信をもって説明できる体制が求められます。
一朝一夕ではできない現場力こそが、長期的な信頼関係につながります。

現場目線でまとめる:次世代製造業に必要な「探究心」

レジ袋の取っ手が破れないためには、設計段階の延伸方向設定から製造工程におけるヒートシール温度制御、最終的な検査体制まで、一貫した現場目線のこだわりが不可欠です。

昭和時代の手作業・経験値に甘んじることなく、IoTやデジタル技術も積極的に活用しながら、現場改善を続けていく姿勢が今後の製造業には欠かせません。
バイヤーや顧客と徹底して「現場の見える化」「説明力の強化」を図ることで、より信頼性の高いパートナーとして認知されていくはずです。

最後にお伝えしたいのは、「常に疑問を持ち、より良い方法を探し続ける探究心」が、現場の進化と自己成長につながるということです。
現場で悩みながら気付いた小さな違和感から、未来の大きな技術革新が生まれる。
レジ袋の取っ手一つに込められた想いとストーリーが、日本のものづくりの力強さを支えています。

今後も現場目線での知見を共有し、皆様と共に新しい時代の製造業を切り拓いていきたいと考えています。

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