投稿日:2025年12月15日

物流コスト削減が“現場に丸投げ”される構造的欠陥

物流コスト削減が“現場に丸投げ”される構造的欠陥

はじめに―なぜ今、物流コスト削減が叫ばれるのか

ここ数年、物流コストの高騰は製造業の現場を直撃しています。
背景には、燃料費や人件費などの固定費上昇、2024年問題に代表される物流ドライバーの労働環境改善など、業界全体の構造転換が横たわっています。
加えて、サプライチェーンのグローバル化や頻繁な納期変更、在庫圧縮の要求拡大は、現場に大きな負担を与えています。

その結果、多くの日本企業では「物流コスト削減を実現せよ」という経営からの号令が日常茶飯事となっています。
しかし現実には、こうした大号令は本社・経営層から各工場や現場に“丸投げ”されがちであり、現場は疲弊し続けているのです。
ここにはどんな構造的問題が隠れているのでしょうか。

物流コスト削減が現場に“丸投げ”される本当の理由

経営層が物流コスト削減を外部コンサルタントに相談する事例もありますが、実務レベルの改善は現場に任されることがほとんどです。
要因を分解して考えてみます。

1. コスト構造の「見える化」不十分

そもそも物流コストとは何が含まれるでしょうか。
輸送費、梱包費、保管費、荷役費、管理費…と細分化できますが、会計処理上は「物流費」として一括りにされることも多く、現場レベルで個別コストを把握しきれていないケースが大半です。
経理・財務、購買・調達、生産現場など複数部門が関与しており、「どの部門でどこまで改善できるのか」という分界点が曖昧になります。

2. システム・組織の壁

多くの企業では、物流関連の予算や意思決定が本社/支店単位でばらばらです。
製造現場が努力しても、その削減効果が本社の会計には十分反映されない「成果の見えづらさ」があります。
対照的に、失敗やクレームは現場の責任として処理されてしまうケースが目立ちます。

3. 業界特有の慣習・昭和的発想からの脱却困難

日本の製造業は「現場がなんとかする」という文化が根強く残っています。
経営など上層部は目標だけを提示し、その実現方法や苦労は暗黙の裡に現場へ委ねてしまう風習が、物流分野にも色濃く反映されています。
これが“丸投げ”の根底にある構造的欠陥です。

現場で起きている「物流コスト削減」劇場

では、現場が“丸投げ”された時、実際にどういうことが起きているのでしょうか。

事例1:いきなり「輸送費10%削減」を求められる

ある工場の物流担当者は、経営層から「今期は輸送費を10%落とすように」と通達されました。
何の根拠も背景説明もなく、現場は一律“見積もり比較”や“運送業者への値下げ要請”しか打つ手がありません。
費用対効果を考慮せず、目先の削減ばかり繰り返す中で、品質低下や納期遅延という「副作用」が頻発しました。

事例2:余計な梱包・積み替え作業の増加

コスト削減のために「極限まで小口配送を減らす」と指示が下り、現場は一時的にパレット梱包や共同配送を試みました。
ところが現場の作業負担だけが増え、却って人員増強や残業、品質トラブル(積込ミス・荷痛み)につながり、物流コストの総額は下がらなかった(むしろ増加した)という笑えない話もあります。

こうした事例は、現場・管理職が「小手先の施策」だけでなく、「業務全体の流れ(サプライチェーン)」を俯瞰して議論すべき必要性を問いかけています。

現場だけに押しつけない「物流コスト削減」の本質的アプローチ

物流コスト=全社戦略:現場依存からの脱却を

物流コストは、単なる輸送費や保管費の見直しだけで達成できません。
調達、購買、生産計画、在庫管理、納期対応など、あらゆる部門が複雑に関係し合っています。
本質的改善には、全社横断でサプライチェーンそのものを見直す必要があります。

たとえば、調達部門が「きめ細やかな発注単位」を繰り返していれば、現場は小口輸送や細かい梱包作業に追われます。
販売・営業部門が「できるだけ在庫を持たない」方針だと、急な納期要求が物流費を押し上げます。

これらを解消するためにも、「物流は現場だけの問題ではない」という意識改革が急務です。

IT/デジタル技術による“見える化”の徹底

最新の物流管理システム(TMS)、在庫管理システム(WMS)、IoTセンサーを活用すれば、現場のあらゆる動きとコスト要因がリアルタイムで可視化できます。
Excelマクロや紙台帳による手作業管理では、サプライチェーン全体像が掴めません。

「どの製品が、どのルートで、どこにムダが生じているか」を正確にデータ化し、現場と経営層が同じ指標で議論する土台作りが重要です。

バイヤー・サプライヤー間での“共創型コスト削減”へ

物流コスト削減の実現には、購買部門/バイヤーとサプライヤー(仕入先)の密な連携が不可欠です。
これまでの日本型取引は「仕入値交渉ありき」で、コスト圧縮要求を下請けや現場に集中させる傾向が強くありました。

今後、本当に成果を出すには…

– サプライヤーとも物流方式・納品ロット・発注リードタイムを徹底的に議論する
– 発注側(バイヤー)も自社都合による細切れ発注を見直し、ロジスティクスの効率化に協力する
– 生産部門とも連携して、工程間のムダや重複運搬を排除する

こうした「共創型コスト削減」が必要です。

現場マネジメントの質を変える―「儲かる仕組み」づくりを

工場長や生産管理者は、どうしても目の前の業務改善だけに目が行きがちです。
しかし、これからは「現場で何をすれば会社全体の儲けに繋がるのか」を考える視点が重要になります。

– 配送時間の短縮=効率だけに目を向けず、「顧客の要求に応じた柔軟性」と「標準化」のバランスを追求する
– 担当者単独での頑張りに依存せず、IT・部門横断プロジェクトとしてコスト削減に取り組む
– 成功した現場改善手法の“横展開”(ナレッジ共有)を推進する

こうした「儲かる仕組み」の追求が、現場の疲弊を招かない改善文化の第一歩となります。

昭和的な“丸投げ”から、ラテラルシンキングによる新しい物流コスト管理へ

アナログからデジタルへ、そして“対話”が物流改革のカギ

これまでご紹介したように、日本の製造業にはまだまだ“昭和的”なアナログ文化が根付いています。
ですが、この状況を一方的に嘆いていても、現場の苦しみは減りません。

むしろ大切なのは、既存の「役割分担」「他責文化」をラテラルシンキング(水平思考)で再定義し、「本当に自社はどう姿を変えられるか」と柔軟に考えることです。

たとえば、
– 失敗やコストアップ要因を共有しやすい“対話の場”を作る
– バイヤー側とサプライヤー側が共通のKPIを運用し、「共通のゴール」を持つ
– 一度だけの“小手先施策”に終わらせず、継続的な改善プロセス(PDCA+ナレッジ蓄積)を重視する

こうした「対話と共創」によって、デジタル技術との融合や部門連携が本格的に進むでしょう。

まとめ:現場主導の改善から、全社的変革へ

物流コスト削減は、もはや現場だけの課題ではありません。
この構造的欠陥を放置すれば、企業の競争力低下に直結します。

今こそ、経営層・現場・サプライヤーといった全てのプレーヤーが連携し、本気で「仕組みを変える」フェーズに移行しましょう。
ラテラルシンキングで革新の地平を切り開けば、日本の製造業はいっそうグローバルで戦う力を取り戻せます。

物流コストの“丸投げ”問題を乗り越え、現場もバイヤーもサプライヤーも、皆が「納得できる物流の実現」を目指して動き出すことが、製造業の次世代成長への第一歩です。

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