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地方製造業で兼任が常態化する構造的問題

目次
はじめに:地方製造業の実態と兼任の常態化
地方の製造業では、限られた人員で生産活動を維持する必要があるため、複数の業務を一人で兼務する「兼任」が当たり前になっています。
この現象は決して一時的な対応ではなく、慢性的かつ構造的な問題として根強く存在しています。
グローバルな競争が激化する中、大手企業の下請けやサプライチェーンの末端に位置付けられる地方工場では、効率化や自動化の波がなかなか及ばない現実も無視できません。
この記事では、製造現場で20年以上培った知見をもとに、現場目線で兼任がなぜ起こるのか、その裏にある構造的な課題や、昭和的な業界特有の背景、さらには打開策や今後の展望についても深堀りしていきます。
なぜ地方製造業で兼任が常態化しているのか
人口減少と採用難が根本にある
主な背景には、「人がいないから誰かがやるしかない」という現実があります。
都市部へ若年層が流出し続ける地方では、ベテラン従業員が少人数で現場を回すのが日常茶飯事です。
新卒採用も難しく、「人が足りないならひとり二役、三役で」という兼任体制が当然になっています。
固定観念と昭和的組織文化の根強さ
昭和の高度成長期から続く日本の製造業では、「長く勤めれば仕事を覚えるもの」「職人肌こそ正義」といった価値観が色濃く残っています。
そのため、専門分化よりも「臨機応変さ」や「多能工」への期待感が根強いのです。
効率化や自動化への投資が進みにくい中、現場の人間が今ある業務をまるごと引き受けるという体制が温存されてきました。
仕組み化・IT化の遅れ
大手メーカーや都市部の工場と違い、中小規模・地方工場では、業務のデジタル化やシステム導入が大幅に遅れがちです。
手書きの日報、電話やFAXの受発注処理など、今もアナログなやり方が主流です。
これでは新しい社員にも仕事が引き継がれづらく、結局「できる人」に業務が集中。
結果的に、購買・調達、生産計画、品質管理といった複数の役割を同じ人が担うという構図が生まれるのです。
兼任による現場への具体的な影響
業務の属人化とリスクの増大
兼任に慣れてしまうことで、業務が特定の人に依存(属人化)しやすくなります。
休暇や突然の離職などが発生した場合、工場全体が機能不全に陥ることもしばしばあります。
また、新しい改善活動を起こそうにも、全員が手一杯で時間を割けず、マンネリや停滞も生じやすくなります。
業務品質・生産性のジリ貧化
業務を兼任するということは、どの業務にも100%のリソースを投入できないことを意味します。
忙しいと妥協や見落としが増え、品質・納期・コストのいずれかでミスが起こりやすくなります。
生産性向上や品質改善に取り組みたくても、「まずは日々の仕事を回すのが精一杯」という現状が壁になります。
人材育成・キャリア形成の難しさ
本来なら一つの業務で専門性を高め、将来的なリーダーやバイヤーを育成する必要があります。
しかし、なんでもこなせる多能工に偏ると、業務ごとの深いノウハウが蓄積されず、次世代への伝承やキャリアパスが不明瞭になります。
若手人材から見れば、「ああはなりたくない」「やりがいを感じにくい」と思われるリスクもあります。
激変する調達・購買の現場でバイヤーに必要な視点
兼任がもたらすバイヤー業務の限界
受発注管理やサプライヤー評価、価格交渉だけでなく、技術的な知識や市場調査なども求められる現代のバイヤー業務は、かつての部品手配係とは比べ物になりません。
しかし、地方製造業の現場では「購買担当=他の仕事も兼務」が多数派です。
納期の遅れや品質トラブルの際、他の業務とのバランスを取りながら解決しなければならず、一人当たりの負荷はさらに増しています。
バイヤー側とサプライヤー側、それぞれの事情
サプライヤーから見れば、バイヤーが兼任で多忙であることが商談や交渉のネックになります。
「細かい見積仕様が伝わらない」「意思決定が遅い」など不満の声もよく聞かれます。
逆にバイヤーから見れば、現場の品質やコスト事情を細やかに伝え、現実的な調整を進めることが必要ですが、それを行う余裕が乏しいという板挟みに悩む人も多いのです。
現場感覚とデータ活用の両立が鍵
兼任バイヤーが増えるほど、勘や経験に頼った調達になりやすく、最適な購買や柔軟な調整がしにくくなります。
今後は、「現場感覚を持ちつつ、データやシステムも上手に活用する」という両立が重要です。
例えば、手書きや記憶だけでなく業務ソフトやスプレッドシートで発注履歴や実績を見える化する。
サプライヤーマップや購買標準を整備し、誰でも受け渡せるようにする。
こうした工夫が業務の透明性・持続性を高めます。
兼任体制から脱却するための現実的な打開策
「兼任=悪」ではなく、合理的分担に見直す
多能工化や兼任自体は、地方製造業の基礎体力であり、すぐに全面否定はできません。
しかし、「すべてをひとりで抱える」構造を見直し、一定の分業やアウトソーシング、補助ツールの活用などを推進することが大切です。
現場の負荷マップを作成し、ボトルネックになっている業務や人材配置を経営層が明確に把握することが第一歩になります。
デジタル化・IT化の一歩を踏み出す
IT導入はリスクと感じられがちですが、業務のスリム化や情報共有には欠かせません。
例えば、発注管理や生産進捗を紙からクラウドへ、社内外の連絡をメール・チャットに切り替えるだけでも、大きな時間短縮が可能です。
最初から完璧な自動化を目指すのではなく、「今の仕事を少し楽にする」レベルで始めるのが現実的です。
人材育成とキャリアパスの再設計
兼任で得た知識をベースに、「調達はこの人、生産管理はこの人」という専門分野ごとの経験を積ませる設計に見直しましょう。
業務の属人化を防ぐためには、マニュアルや教育プログラムの整備が不可欠です。
また、現場のベテランのノウハウを形式知化し、若手に伝えるワークショップや定期的な意見交換会も有効です。
求められるバイヤー像と、サプライヤーとの新しい関係
パートナーシップ時代のバイヤー像
これからのバイヤーに求められるのは、単なる購買担当ではなく、コスト・品質・納期すべてを俯瞰し、サプライヤーと「共につくる」パートナーに進化する力です。
兼任体制の中でも、「現場目線」「情報感度」「提案力」が求められ、他部門と連携しながら最適解を導く姿勢が不可欠です。
サプライヤーに求めたい視点
サプライヤー側も「バイヤーは忙しい。余裕がないのが常態」という認識を持ったうえで、分かりやすい提案や先回りした資料準備をする。
納期や品質トラブル時には協力的な姿勢を示し、応急対応や二重チェックなどの手間を惜しまない。
「信頼できるパートナー」として実績を重ねれば、優先的な商談や技術打ち合わせに参加できるチャンスも増えます。
まとめ:兼任から未来志向の現場へ
地方製造業で兼任が常態化しているのは、人材不足やアナログ思考、仕組み化の遅れといった構造的な要因が重なった結果です。
このまま属人化を放置していては、現場の競争力も人材のモチベーションも失われていきます。
しかし、最前線の現場を知りつくした私だからこそ、「一歩のデジタル化」「合理的な分担」「パートナーシップ精神」が、昭和的体質を少しずつ変える原動力になると確信しています。
兼任を前向きな強みに変えつつ、それぞれの業務領域でスペシャリストとしての誇りと責任を育てる――。
そうした現場づくりを、これからも発信し続けたいと思います。
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