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価格以外の価値を評価したいのに通らない現実

目次
はじめに 「価格以外の価値」をなぜ評価しにくいのか
製造業の現場では、調達購買活動が会社の利益を直接左右する重要な業務です。
しかし現実に多くの組織で、「価格」だけが至上命題となりがちです。
納入実績、供給安定性や技術力、さらにはパートナーシップといった“価格以外の価値”を重視するべきという声はよく聞きます。
それなのに、実際の現場では最終的な調達判断が「価格一点突破」になってしまう……。
その現実には、長い歴史を持つアナログ業界ならではの構造的な理由が横たわっています。
この記事では、現場視点で「価格以外の価値」を評価しにくい現状を掘り下げ、その背景や改善のヒントをプロのバイヤー/工場長経験者として、実践的に解説します。
製造業に従事する方、バイヤーを志す方、サプライヤーの立場でバイヤー心理を知りたい方にとって、新たな気づきと一歩進んだ行動のヒントをお届けします。
なぜ「価格一点突破」になるのか? 業界の構造的な要因
数値化が容易=説明がしやすいというジレンマ
調達業務において、「価格」は明確な数値です。
社内説明や稟議、比較の基準として絶対的な「物差し」になり、経営層や関係部門に対しても分かりやすい武器になります。
こうした恩恵に慣れ切ってしまうと、たとえば「技術力」「供給安定性」といった、定性的で評価が難しい価値は、稟議上の“説明責任”という壁に直面します。
たとえば、「サプライヤーA社の提案は卓越した技術力があります」と説明しても、「で、そのコストメリットはいくら?」となりやすいのは業界のあるある。
こうして、最終的に「価格」だけでジャッジが下される場面が後を絶たないのです。
昭和型慣習とKPI主義がもたらすもの
多くのメーカー現場では、長年にわたり「コストダウン目標」が調達担当者の最大KPIとして根づいています。
中には「前年より3%のコストダウンを守れ」といった目標が、今も毎年のように課されています。
この構造が根強ければ根強いほど、“説明のつかない”価値は疎外され、結果的に「選定理由は価格でした」となりやすいのです。
さらに問題を複雑にするのは、購買担当者自身も「価格で評価される」という自己防衛意識に陥りやすいこと。
「価格以外でも攻めたい」と思っていても、現場のKPIや承認フローの中で“自ら殻を破る”のはなかなか難しいのが現実です。
「サプライヤーリスク」の局地的な過小評価
メーカーの不祥事やサプライチェーンの混乱が頻発する昨今ですが、「今までは問題が起きなかった」実績があると、“その危うさ”を過小評価する傾向が強く残ります。
本来、供給安定性や事故発生時の即応体制、技術提案力といった価値は価格以外の評価軸となるはずです。
しかし、「現状維持の安心感」や「短期的な利益至上主義」が、リスクヘッジのための適正コストや投資的調達を阻害してしまうのです。
現場で感じた「価格以外の価値」が本当に意味を持つ場面
品質・供給トラブル時に、真の価値が浮き彫りに
現場で印象的なエピソードがあります。
ある電子部品調達で、最安値サプライヤーB社から切り替えた直後、生産ラインで不良品が続出し、あわや納期遅延という事態に発展しました。
緊急対応の際、“価格は高かったが技術支援やレスポンスが群を抜いていたA社”の存在が、事態の迅速な収束と信頼回復に大きく寄与したのです。
この経験は、“緊急時ほど価格以外の価値を体感できる”という現場真理を突きつけました。
短期的な目先のコストでは計り知れない「安心・安全の担保」が、実は製造業の根幹だという学びです。
技術提案力=競争力の源泉
「言われたものを作る」から「一緒に価値を生み出す」時代へ、調達活動の質的転換が本格化しています。
生産効率向上や新製品開発で不可欠な“技術提案型サプライヤー”はまさに競争力の源泉です。
もちろん、「技術力を持つサプライヤーはコストも高い」という現実がありますが、実際には生産ラインの合理化や歩留まり改善といった、トータルコストの“見えない部分”で巨大な恩恵があります。
長期的パートナーシップの価値
「この案件だけ」「このコストだけ」でサプライヤーを選び替える―このやり方に現場は疲弊し、組織横断的な協業や改善も促進されません。
長期に渡り一緒に開発や改善に向き合える“共創型パートナー”との関係性は、製造業において不可欠です。
これこそが、単純なコストカット以上の大きなリターンを生み出す“価格以外の価値“です。
なぜ「価格以外の価値」は会議で通しにくいのか?
定性的評価へのアレルギーと“合意形成の難しさ”
「技術力」「誠実さ」「トラブル対応力」など、“定性的な価値”は人によって評価基準も感覚値も異なります。
社内説明や稟議時に、「それって本当に差があるの?」と突っ込まれると、担当者個人の意見で押し切るのが困難になります。
ここで求められるのは、「主観を排しつつ、客観的なエビデンスに基づいて判断する」ことですが、実際にはその道具立てやデータ集めが製造業の現場ではまだ弱いのが現状です。
「業界横並び・減点主義」の壁
日系メーカーに根強い「横並び意識」や「減点主義」の文化も、価格以外の価値評価の障害です。
“他社もやってないから”“やらなくても大事故は起きていないから”といった同調圧力が、イノベーションや新たな価値追求を抑え込んでしまうのです。
この「無難な選択」こそが、昭和型構造の温床となっています。
新しい地平を開拓するための処方箋
「見えないコスト」という新しい評価軸
まず重要なのは、「単純な購入価格」だけでなく、「見えないコスト」を意識したトータルコスト管理です。
具体的には、以下のような切り口があります。
– 品質トラブル発生時の想定損失額
– サプライヤーの情報提供頻度や開発支援回数
– 緊急時のリードタイムやレスポンスの定量化
これらを過去のトラブル事例や実績に基づいて、「できるだけ数字化」して社内説明に活用することが肝要です。
「パートナーシップ評価軸」の見える化
単純な「コスト」や「納期」以外に、サプライヤーとの長期共創に向けたパートナーシップの評価指標を開発することを提案します。
たとえば
– 技術提案件数
– 共通目標に向けたワーキンググループ参加実績
– 教育・トレーニング提供数
こういった“活動の履歴”を地道に可視化し、稟議や報告書に盛り込めば、「価格以外の価値」を説明できる余地が生まれます。
多様な人材・他部門の活用
調達業務は購買担当者一人で抱え込むものではありません。
生産、技術、品質保証といった現場との連携、また最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)やサステナビリティの専任人材を巻き込み、マルチパースペクティブで“価値”を再定義していくことが重要です。
他部門の専門性を活かして評価基準を共創することで、価格以外の視点が組織横断で根付いていきます。
バイヤー・サプライヤーへのアドバイス
バイヤーに求められるのは、「説明責任」のアップデート
自分自身の言葉で、「なぜこの価値は会社に必要なのか」「中長期で見ればどれだけリスクヘッジや競争力につながるのか」を丁寧に説明する力が重要です。
感覚値や希望ではなく、客観的データや実例を小さなことから積み上げておくことが社内説得力に繋がります。
サプライヤーに求められるのは、「共に汗をかく提案型行動」
ただ「協力します」「技術力あります」と伝えるだけでは、バイヤーや経営層には刺さりません。
バイヤーの課題やKPIに寄り添い、数字や証拠を交えて「この提案があなたの問題解決にどう寄与できるか」と具体的に説明していくこと。
これが、価格以外の価値を通す“鍵”になります。
まとめ:「価格以外の価値評価」は地道な努力と発信力から
価格だけを追求してきた昭和型調達の世界にも、確かに変革の兆しが表れています。
そのためには、
– 「見えない損失、目に見えない価値」を数字や実績で可視化する
– 多様な部門・人材を巻き込んで新たな評価基準を作る
– バイヤー・サプライヤー双方が「共創」の当事者意識で行動する
ことがますます求められます。
一足飛びの変化は難しくても、まず小さな改善と発信の積み重ねから、業界の新たな地平を切り拓いていきましょう。
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