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スチレン系熱可塑性エラストマー医療チューブとDEHPフリー証明

目次
はじめに〜医療用チューブの新たな潮流
製造現場で医療機器に携わる方にとって、スチレン系熱可塑性エラストマー(SBC/SEBS・SIS等)を使用した医療チューブは、プラスチック規制や安全性志向が進む昨今、大きな注目を集めています。
この記事では、昭和時代から使われてきたPVC系可塑剤(特にDEHP)医療チューブから、次世代のDEHPフリー、さらにはより環境配慮型のスチレン系熱可塑性エラストマー製チューブへの転換、その背景や現場目線の課題・利点などを深堀りします。
また、バイヤーや仕入れ担当者、サプライヤー、ものづくり現場全体で意識しておきたい実際の「DEHPフリー証明」運用のリアルも解説します。
なぜ今、スチレン系熱可塑性エラストマーチューブなのか?
医療現場のアンメットニーズとグローバル潮流
長年、医療用チューブの多くはコストパフォーマンスに優れたPVC(ポリ塩化ビニル)が主流でした。
可塑剤としてDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)が添加され、柔軟性と成形性を両立した素材として圧倒的支持を受けてきた歴史があります。
しかし、欧州REACH規制やRoHS、米FDAガイダンスの下、DEHPには発がん性・内分泌撹乱作用などの懸念が指摘され、実際に新生児、透析、輸血などへのリスク回避要請が強まっています。
先進国を中心に「DEHPフリー・ノンフタル酸」への早急な置き換えが叫ばれ、バイヤーやサプライヤー間で調達基準が一変しました。
その際注目されたのが、スチレン系熱可塑性エラストマーの存在です。
従来のPVCとスチレン系TPEの比較
スチレン系TPEは、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン)などのブロックコポリマー構造を活かし、柔らかさ・弾力性・成形加工性、さらには耐薬品性にも優れています。
PVCのようなDEHP添加を前提とせずに柔軟性が出せるため、「コンパウンド配合=カスタマイズ」でバリエーションの広さも確保できます。
更に、熱可塑性樹脂である点からリサイクル可能性も高く、製造現場や設計者にとってSDGs時代の合理的解決策として支持されています。
“DEHPフリー証明”がバイヤー・サプライヤー取引の決定打に
DEHP規制と証明書(証明書・試験報告書)のリアル
実際、バイヤーが医療チューブの仕入れ交渉を行う際、取引先から必ず求められるのが「DEHPフリー証明書」です。
これは「配合プロセスでDEHPが全く添加されていない」ことのみならず、「DEHPを含んだ他製品と生産ラインや原料を共用していないか(クロスコンタミのリスク)」、さらには「リサイクル原料を使っていないか」など、エビデンスレベルもより厳格化しています。
多くのサプライヤーは、社内試験でのHPLCやGC-MS等による検出値(通常1,000ppm以下規制)を使い「DEHP検出無し」の書式で証明しますが、欧州や外資取引・大手製薬向けとなると「第三者認証機関の試験データ」や「原材料レベルの追跡」まで要求されるケースも増えています。
昭和からの経験則で「メーカーがOKと言えば大丈夫」な時代は過去になりました。
取引先バイヤーのリスクマネジメント意識も年々高度化しています。
調達現場での苦労とチェックポイント
“DEHPフリー”を自信を持って掲げられる体制には、原材料サプライヤーの選定・工場内の製造ライン専有・トレーサビリティの強化、文書管理のデジタル化など、地味ですがきめ細かい業務改善が求められます。
私の経験上、QC管理部門と連携し「バッチごと」「月次で」証明書を頻繁に取得・更新できるか、またバイヤークレームなど現場トラブルに即応できる体制が取れている企業は信頼され易いです。
スチレン系熱可塑性エラストマー医療チューブのメリット・デメリット
メリット1:DEHP・可塑剤リスクのゼロ化
根本的に可塑剤添加が不要なため、DEHPはもちろん、代替可塑剤(DINCH、TOTM、ATBC等)の混入問題にも無縁です。
透析、輸血ラインなど可塑剤溶出や移行リスク厳守が必要な医療現場で「ゼロリスク化」を謳えるのは最大の武器です。
メリット2:バリエーション調整力の広さ
硬度(ショアA15〜90程度)、透明〜着色、耐熱〜耐寒、滑性・粘着性バランス設計…。
重合設計とコンパウンド技術の掛け算で、ユーザー要望にかなり柔軟に応えられます。
ユーザー独自の「しなやかさ」「カテーテル挿入感」「ホースの折れ耐性」など用途別物性開発にも向いています。
メリット3:リサイクル対応&環境配慮
熱可塑性であるためスクラップリサイクルが容易です。
PVCは焼却時の有害ガス等の問題がありますが、スチレン系TPEはカーボンフットプリントも低減。
ESG評価項目にも貢献できるため、海外医療機器企業や大手顧客ほど「グリーン購買」志向が進展しています。
デメリット・現場課題
一方で、スチレン系TPEの現場運用には弱点も存在します。
・価格はPVCより高め(材料コスト、コンパウンドノウハウ料など)
・溶剤溶着や高周波ウェルダー加工でPVCに比べて難しい場合がある
・樹脂自体の耐熱性・化学的耐久性に限界があり、長期・高温用途には要注意
・生体適合性(ISO10993/USP Class VIなど)の試験コストや開発リードタイムが長め
そのため、バイヤーや製造サプライヤー間で「品質・コストバランス」「確実な証明書発行体制」「加工・カスタマイズの可否」を総合的に評価・比較する必要があります。
調達購買・サプライヤー交渉で注意すべきポイント
コスト・証明書重視から「相談できるパートナー選び」へ
価格だけで「DEHPフリーだから安心」と即決せず、下記ポイントを押さえておくと現場トラブル予防につながります。
– 自社品目で過去にDEHP分析・トラブル実績が無いか
– スチレン系TPEのコンパウンド・押出成形ノウハウをしっかり開示できるか
– “DEHPフリー証明”の発行周期、トレーサビリティレベルは必ず確認
– 「第三者食品衛生・生体安全性試験データ」有無や対応を事前照会する
– 既存ラインへの置き換え時、物性(しなやかさ・色調・接合性など)の微妙な差異にユーザー現場が納得するまで試行(P-Q-M/QC管理)を徹底する
バイヤーもサプライヤーも“証明書ひとつ”で油断せず、「現場で何かあればすぐ相談できる」「開発段階から品質保証部門とタッグが組める」パートナー選びが、DEHPフリー時代の競争力につながります。
アナログ医療業界で「人の目・ものづくりの勘所」が活きる場面
製造現場で見逃せないのが、「現場作業者やエンジニアの熟練経験や勘所」です。
設計値どおりでも、ほんのわずかな配合・押出温度ズレで透明感・弾力特性が変わります。
バイヤーが「DEHPフリーだから安心」と一括調達した後、実ラインで現場者から「引っかかりやすい」「サイズが揃わない」といった“アナログな声”が上がるトラブルも、しばしば耳にします。
アラートの早期キャッチ、現場ラウンド、加工テスト結果のフィードバックを習慣化すると、現場起点のプロジェクト推進ができます。
まとめ〜昭和の延長線からの脱却、未来志向の意思決定を
スチレン系熱可塑性エラストマーの医療チューブは、「DEHPフリー」が大前提となる時代に、その特性・製造現場の強み・証明書運用の真価が問われています。
調達購買現場では、価格・試験書類だけでなく、開発・生産・品質・営業が一体となった「パートナー型協業」が新常識になりつつあります。
昭和の延長ではなく、「規制変化を先読みし、ものづくりの知見を率先活用する」ことが、今後の製造業バイヤー・サプライヤー双方に求められる競争力です。
現場の声と未来志向—両方の視点を持ち、熱可塑性エラストマーチューブの発展、そして安全・安心な医療機器の提供に貢献していきましょう。
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