投稿日:2025年12月15日

サプライヤー評価が主観に偏り調達の質が落ちる問題

サプライヤー評価が主観に偏り調達の質が落ちる問題

なぜサプライヤー評価は主観に陥るのか

日本の製造業、とくに昭和から続くアナログな体質が色濃く残る現場では、サプライヤー評価において「ベテラン担当者の肌感覚」や「長年の付き合いに基づく信頼」など、主観的な要素が強くなりがちです。

筆者も現場時代、調達会議の席で「A社は昔から誠実だ」とか「B社の営業は気が利く」といった発言が意思決定に大きな影響を与えていた光景を幾度となく見てきました。

評価基準や手順が明文化されていないため、個人の経験や人間関係が判断に入り込んでしまうのです。

もちろん、現場感覚や信頼関係を軽視するのは危険ですが、これが行き過ぎると組織としての判断力が鈍り、「調達の質」を落としかねません。

主観評価による弊害とリスク

主観評価が目立つ現場では、次のような問題が起こります。

・価格競争力が弱化する
限られた“顔なじみサプライヤー”だけに取引が集中し、新規・他社との価格比較がなおざりになり、結果としてコスト最適化が阻害されます。

・品質トラブルの温床となる
過去の信頼だけに基づき継続取引すると、サプライヤー側が緊張感を失い、慢性的な品質問題が放置されがちです。

・イノベーションの機会損失
新興のサプライヤーや、ICT、ロボット技術など新しい価値提案を持つ企業との接点が減り、結果的に最新技術の導入やベンチマーキングの好機を逃します。

・担当者依存リスクが肥大化する
もし主観評価に頼っていた“キーパーソン”が異動や退職すれば、サプライヤーとの意思疎通や品質保証体制そのものがガタガタになることもあり得ます。

これらはいずれも企業競争力を大きく損なう要因であり、調達購買力の根本から見直すべき課題です。

なぜ主観から脱却できないのか?業界構造と背景

日本の製造現場は、「トヨタ生産方式」や「ジャストインタイム」など、現場主導文化が強く、そして“失敗しないこと”が重視されやすい傾向にあります。

評価基準を明確に数値化したり、システマチックに更新したりする動きが遅れる理由として、以下のような土壌が挙げられます。

・ベテラン担当者の“職人芸”を重視する文化
・「サプライヤー(取引先)に厳しくできない」しがらみや忖度
・失敗を恐れ、未知のサプライヤーを避ける保守的傾向
・過去の成功体験が優先され、見直し意欲が乏しい

また現場現象として、人手不足や業務過多が原因で、サプライヤー“再評価”のための手間が避けられる傾向さえあります。

このような構造を変えなければ、現場の調達力・調達品質は向上しません。

調達購買を変えるための現実的アプローチ

では、現場起点で「主観評価」から脱却し、調達の質を高めていくためにはどうすればよいのでしょうか。

キーワードは「評価の見える化と多角化」です。

1. サプライヤー評価指標の明確化・点数化

客観的な判断ができるよう、評価指標を可能な限り数値化・文書化することが重要です。

例えば、
・納期遵守率
・品質(不良発生率、是正対応スピード)
・コスト競争力
・開発・提案力
・コミュニケーション、レスポンス
など、複数指標を用い、それぞれに重み付けをして“総合スコア”として管理します。

この際、現場の感覚や肌感覚も定性的に記録できる評価欄を設けることで、現場ならではの知見も無視せず反映させることが大切です。

2. 定期的な見直し・レビュー体制の導入

年1回以上のサプライヤー評価見直し(レビュー会議)を制度化し、調達・品質・生産管理(場合によっては営業や設計)といった他部門横断の評価体制を作ります。

現場依存や“なあなあ体質”にならぬよう、人事異動のタイミングでも評価引継ぎシートを作成し、属人的なノウハウの形式知化を進めます。

3. 新規サプライヤーの活用促進

既存サプライヤーだけでなく、定期的なサプライヤー公募や、展示会・マッチングサイトを活用したリサーチ活動も社内で推奨します。

新規サプライヤーへの評価体制(試行発注や、段階的な評価プロセス)を仕組み化することで「未知のリスク」を最小限に抑えつつ、調達チャネルの多様化を図ります。

4. デジタルツールによる管理強化

サプライヤーの評価記録や、改善依頼の進捗状況をExcelや紙でとどめず、クラウド型のSRM(購買先管理システム)や、現場でも使いやすいアプリ・ツールを部分導入します。

現場視点で「簡便かつ正確に記録できる」仕組みがポイントです。既存のERPシステムや品番管理と連携できる形だと現場での負担も軽減できます。

サプライヤー評価を“経営資源”と捉える視点へ

サプライヤーは、“ただの外注先”ではなく、自社の事業継続や競争力そのものを担う「戦略的パートナー」です。

主観に頼った調達慣行から卒業し、より客観的で透明性ある評価体制を整えることは、企業文化を刷新し、業界全体をアップデートしていく大きなきっかけになり得ます。

とくにDX化やグローバル競争が進む現代においては、こうした評価プロセスが機動的に回せるかどうかが、“強いものづくり”の新たな条件となっています。

現場主導で変革するために大切なこと

調達現場の数々の実体験から言えば、現場担当者が評価の見える化・多角化に率先して取り組むことが不可欠です。

一方で、「古いやり方」に反発されることも少なくありません。

その打開ポイントは、“全員参加型”の取り組みにすることです。

・評価基準作りには必ず現場のリーダーや品質保証担当も巻き込む
・現場目線の“オレ流評価軸”は定例会議で必ず可視化して議論する
・新しいしくみやツール導入の際は、小規模な部署や部門で一度試験運用し、効果や課題点を現場全体で共有する

こうした地道なアプローチの積み重ねこそ、サプライヤー評価の主観から脱却し、長期的な調達力向上と組織の活性化につながります。

サプライヤー・バイヤーの立場から考える“次の一手”

現場でしか見えない“判断の曖昧さ”や、“なあなあ体質のリスク”に早めに気づき、一歩早く手を打てることが、今後の時代を生き抜く必須スキルになります。

これからバイヤーを目指す方は、職人技や信頼も大切にしつつ、「見える化」によるフェアな判断力を磨きましょう。

またサプライヤー側は、バイヤーの評価軸やデータ化ニーズを知り、自社の強みや改善点を可視化・提案できる体質づくりを心がけてください。

主観による評価、感覚的な仕入れの時代は終わりに近づいています。

調達購買部門もサプライヤーも、データと現場知を両立しながら、“次のものづくり”時代をリードしていきましょう。

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