投稿日:2025年9月13日

購買活動における標準品利用率向上とコスト削減の成功例

はじめに:購買活動と標準品利用の重要性

製造業において、調達購買活動は単なる「物を安く仕入れる」業務ではありません。
競争力のあるものづくりには、高品質・高効率な購買戦略が欠かせません。
その中で最近とくに注目されているのが「標準品」の積極的な活用です。
標準品とは、JIS(日本工業規格)やISOなどによって寸法・性能が定められている、広く流通する工業部品や資材のことを指します。

一方、製造現場や設計部門は、長年の習慣や使い勝手から“特注部品”や“カスタム仕様”を好む傾向が根強く残っています。
特に昭和から続くアナログ的な文化が強い企業ほど、「うちはうちのやり方」「昔から使っている部品が安心」といった意識が改革の障害となってきました。
しかし、グローバル競争や製造コストの高騰を背景に、標準品の利用比率を高めて調達の最適化・コスト削減を実現した事例も増えています。

本記事では、購買活動における標準品利用率の向上とコスト削減の成功例を、自らの体験や業界動向も交えて詳しくご紹介します。

なぜ今、標準品の利用が重要なのか

標準品利用がもたらすコストダウン効果

標準品は大量生産・大量流通されているため、調達単価が安いだけでなく、調達先選定・納期管理・在庫最適化も容易です。
例えばオーダーメイド部品に比べて調達価格が30%〜50%下がった事例も珍しくありません。

また、標準品の採用は部品点数や仕入先の絞り込みにつながり、管理工数や発注業務・検品コストの低減、サプライチェーンのリスク分散にも寄与します。
受入検査でも標準的な試験方法や合格基準を活用でき、品質保証負担も減らせます。

設計自体の適正化にも波及

部品の標準化・共通化は、上流の設計現場にも大きな影響をもたらします。
「部品表(BOM)の最適化」「設計作業効率アップ」「図面作成工数削減」「設計者間のナレッジ継承」など、設計現場の生産性向上や若手育成にも貢献できます。

現場主義&伝統的な価値観とのせめぎあい

このように多くのメリットがある一方、製造現場では古くから“使い慣れた仕様が一番安心”“標準品だと現場で工夫しにくい”といった意見が根付いています。
長年の取引関係から特注品を仕入れていたサプライヤーへの配慮、営業現場の属人的な調整といった日本型商習慣も変革のハードルとなってきました。

標準品利用率向上のための実践的ステップ

1.現状把握―標準品/特注品の使用状況を可視化

まずは自社内で使われている部品・資材を洗い出し、「標準品」「準標準品」「特注品」の利用比率を棚卸します。
部品点数、調達額、使用頻度など複数軸でデータ分析し、“なぜその部品を特注で使い続けているのか?”を掘り下げることが肝要です。

たとえば、機械設備メーカーでは「ボルト・ナット・ベアリング」の多品種化による在庫圧縮が課題だったため、過去3年分の購買履歴をエクセルに整理。
どの部品が設計部門の意向で標準化から外されていたかまで洗い出し、サプライヤーに“標準品への置き換え提案”も依頼しました。

2.設計・現場との密なコミュニケーション

購買部門だけで標準化を推進しても、設計・生産・品質管理など現場の“納得感”が伴わなければ定着しません。
そこで設計リーダーや各現場担当者を交えて「なぜ参考仕様やメーカー推奨品では駄目なのか」「標準品でどこまで性能・強度・耐久性を担保できるか」など技術面と運用面でディスカッションします。

実際、ある工場では週次定例ミーティングの中で「標準品化推進枠」を設け、担当者が懸念点や代替案を共有。
現場の疑問を一つ一つ解消しつつ、購買部門が専門情報を提供し、その場でサプライヤー担当者とWeb会議でQAを行うなど迅速なフィードバック体制が構築できました。

3.標準品・選定ガイドラインの整備と教育

標準品の品番や採用可能な用途、推奨メーカーリスト、棚番や在庫状況をまとめた“標準品リスト”を文書化し、設計部門・生産現場に水平展開しました。
新規設計案件やリプレイス案件の際は“原則標準品採用”とし、「例外規定(カスタム部品採用の判断基準)」も明記して運用に柔軟性を持たせました。
定期的な教育会を実施することで、若手設計者でも納得の上で部品標準化に取り組めるようになりました。

4.パートナーシップによるコスト削減の実現

標準品メーカーや商社とタッグを組み「まとめ買いによるボリュームディスカウント」「標準仕様の設計コンサルティング支援」なども交渉ポイントとなります。
一社購買に依存しすぎず、複数のルートから標準品の見積もりを取得することで、さらなる単価圧縮を図ることができます。

実際の成功例から学ぶ:標準品化がもたらした具体的効果

ケース1:A社(産業設備メーカー)の事例

数十年にわたり設計者ごとに異なる仕様のねじ部品を調達していたA社。
標準化プロジェクトを開始し、JIS規格の六角ボルトへ品番統一したところ、以下の成果を上げました。

– 採用ボルト種別を約150種から38種へ削減
– 調達単価が平均23%低減
– 発注ロット統一で物流コストも年間210万円削減
– 在庫スペース削減で倉庫管理レイアウトの効率化を実現

この成功のポイントは、設計現場の“安心できる強度保証”“量産時の作業性アップ”といった現場ニーズも同時に満たせたことにありました。

ケース2:B社(精密部品加工業)の事例

小ロット多品種生産が主流のB社では、「カスタム指定部品=現場力の証」と考えられていました。
しかし、同一機種内で使うシャフト・ベアリング類の仕様ばらつきによるトラブル(調達ミス・納期遅延)が頻発。

標準品メーカーの技術者を交えて共同検討を行い、社内BOM(部品表)を再構築。
標準品へ置き換え、従来20社あった仕入先を8社まで集約しました。
これにより部品調達リードタイムが平均4.2日短縮し、突発トラブル件数も半減。
経営層も在庫圧縮とキャッシュフロー改善効果を評価しました。

ケース3:C社(自動車関連工場)の事例

C社では突発修理用のメンテナンスパーツで「現場が個人調達→取り付け不良→品質事故」となるケースが多発。
購買部と設備管理チームが協働し、設備保全部品の標準化・共通化プロジェクトを実施。
設備メーカー各社との情報共有も進め、「“どこでも誰でも交換できる部品”への統一」を推進しました。

結果として、保全部品の誤発注・誤装着トラブルを70%減少させ、工具在庫のスリム化や省スペース化も実現できました。

標準品化・コストダウン推進における留意点

標準品への移行に際しての“現場抵抗感”への配慮

どれほど正しい施策でも、一方的な標準化推進は「やらされ感」を生み、現場の隠れたノウハウや工夫を消してしまうリスクもあります。
伝統的な現場力をリスペクトし、現場担当者と双方向の対話を重ね、その理由と背景を丁寧に説明することが大切です。

標準品の“アップデート力”にも着目

また、標準品メーカーは市場動向や新規格改定に沿って常に品種ラインナップやスペックを進化させています。
“今あるものを使い続けること”が一時的な標準化にとどまらないよう、定期的なリスト見直しや海外規格(ISO・DINなど)も視野に入れたアップデートが重要です。
DX(デジタル変革)時代の顧客志向・グローバル調達にも迅速に適応できる組織づくりが鍵となります。

まとめ:標準品の活用が製造業の競争力を高める

標準品利用率向上とコスト削減は、購買・設計部門だけでなく製造現場全体の生産性・品質・働きやすさ向上にもつながります。
昭和的な成功体験や伝統も大切にしつつ、データ分析・現場対話・パートナー協力を通じたラテラルな思考で、新たな調達価値を生み出していくことが今後ますます重要となります。

購買担当者、バイヤー志望者、サプライヤーの皆様も「標準化」を単なるコスト削減手法として捉えるのではなく、ものづくり全体の進化と現場の働きやすさ・日本の競争力向上に向けて、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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