投稿日:2025年8月21日

製造停止品を事前通知せず急に供給終了される問題

はじめに:製造業現場によくある「供給終了」の衝撃

製造業の現場で長年生産管理や調達購買の仕事をしていると、一番頭を悩ませるトラブルの一つが「急な製造停止品、いきなりの供給終了」です。

特に、部品調達においてサプライヤーから何の前触れもなく「来月で終売となります」といった連絡が来るケースは、決して珍しいことではありません。

多くの現場担当者や調達バイヤーは、こうした急な供給終了にどう対応すべきか頭を抱えています。

一方、部品や原材料を納める立場のサプライヤー側でも、「供給終了のタイミングや通告方法」に悩んでいる会社は少なくありません。

この記事では、供給終了の問題がなぜ今も昭和的なアナログ慣習とともに根強く残っているのか。

また、その現場特有の事情と、対応策、バイヤーが本当に知っておきたいサプライヤー心理まで、20年以上の現場経験から実践的に掘り下げます。

なぜ事前通知なく供給終了されるのか?現場視点での実情

サプライヤー側の「言い出せない理由」

まず、そもそもなぜサプライヤーは急に「来月で供給終了します」という通告をするのでしょうか。

現場でよく耳にする本音を挙げてみます。

– 経営トップの決断が急で「現場に伝える時間がなかった」
– 工場の生産設備老朽化や原材料高騰で、急遽「採算が合わない」と判断
– 明確な通告ルールがなく、営業担当が後回しにしていた
– 長期受注が減り、他社への生産ライン転用が決まっていた
– 顧客の発注ボリュームが減り「自然消滅」したつもりでいた

特に日本の昭和型アナログ業界ほど、「お客様に申し訳なくて言い出せなかった」というケースも多く、人間関係を重視した曖昧な伝え方が結果的にトラブルを招いてしまいます。

バイヤー側の「想定外」の背景

一方で、バイヤーや工場の調達担当者は、「十分な事前通知」を期待しています。

なぜなら、
– 部材の代替開発には半年~1年かかる
– 社内承認フローや図面変更が大変
– ライン切替には大きな工数と費用が発生する
からです。

特に「重要部品」や「特注品」「国内製しか選択肢のない品目」の場合、突然の供給打ち切りは、納期遅延のみならず最悪の場合は自社製品の生産停止にも直結します。

業界特有の「昭和的アナログ慣習」とその弊害

「阿吽の呼吸」に頼るリスク

製造業では長年のお取引や付き合いにより、「このくらい言わなくてもわかるだろう」「口頭で何となく伝えたし…」といった阿吽の呼吸に頼りがちです。

実際、発注数が減った段階でサプライヤー側は「もうこれで終わりかな」と思い、明確な終売通告をせずにそのままラインを止めることはよくあります。

しかし、これが現場の混乱や高コスト対応(突貫の代替開発、緊急調達)につながりやすいのです。

「FAX文化」や「メール一斉連絡」の限界

事前通知の重要性は分かっていても、「FAXで一斉通知すれば十分」と思い込んでいる会社もあります。

また、一度メールを流したからと言って、その後フォローアップせずに終わってしまうケースも多数。

その結果、
– 現場が見逃していた
– 管理職には伝わっていなかった
– 通知した顧客リストが古かった
…など、認識の食い違いが発生しがちです。

製造停止品の通知が遅れる「本音」の理由

供給側から見た心理的ハードル

サプライヤー担当者としては、
– 顧客に迷惑がかかるのが分かっている
– 他社への切り替えや競合加速が怖い
– 新規受注の種が他にない
など「ネガティブな話は先延ばしにしたい」心理が働きます。

また「安定したリピート取引き」への執着が強く、「いつかお客様が発注してくれるかも…」と希望的観測で動いてしまう現場も少なくありません。

現場の設備や部材側の事情も大きい

例えば
– 設備の寿命が急に来た
– 主要な下請けサプライヤーが撤退
– 原料の海外需給が急変

など、サプライヤー自身にも読めない事象で「突然の終了」にならざるをえない場合もあります。

ですが、その「現場から経営層→営業担当→顧客担当→購買部門」という伝言ゲームの間で、どうしても情報伝達が遅れる――これがアナログ製造業の風土的な弱点でもあります。

「供給終了」をめぐる法的・商慣行上の問題点

法的な義務は?

日本の通常の商慣習や製造委託契約では、「供給終了時は何カ月前までに通知」といった明確なルールが無い場合が圧倒的多数です。

極端な話、「次から終わりです」と言われてしまえば、契約の範囲では拒むことが難しいことが多いのです。

安定調達を重視する欧米の大手顧客では「EOL(製造終了通知)」のリードタイムが半年~1年と厳格に決まっていて、違反時には違約金というルールもあります。

しかし日本はその導入がまだまだ遅れています。

「秘密保持」や「外部漏洩防止」で通知が遅くなることも

サプライヤー側が新たな製品転換や他プロジェクトの秘密保持などを理由に、ギリギリまで通知できない、という事情も増えています。

例えば、外資系企業との提携やM&Aが絡むと、厳格な情報管理が要求されるからです。

現場でのトラブル事例とその対応策

ありがちなトラブル事例

– ある電子部品メーカーで、1つの特殊端子が急に製造終了となり数十社が大混乱。
事前通知なくサイト掲載だけだったため、現場では生産延期・設計変更コストが膨大になった。
– 樹脂成形品のサプライヤーが高齢化や廃業で、伝統的な口頭約束のまま受注終了。
バイヤーが気付かず毎年発注予定に入れていたが、在庫ゼロでラインが停止。

現場が取り組める実践的な対応策

– 主要サプライヤーとの間で「供給終了時の通告条件」を必ず文書化+署名
– 年間定例会議や棚卸しで、品目ごとに「現状・販売計画・生産終了意向」をヒアリング
– 主要部品については、最低でも6カ月前通知をルール化(社内規定に明記)
– 主要サプライヤーリストを毎年更新し、通知対象担当のダブルチェックを徹底
– 曖昧な「自然消滅」に頼らず、「書面によるEOL通告」を要求
– サプライヤーとの日常的なコミュニケーションと、突発事象の即時情報共有の習慣化

サプライヤー側の「バイヤーに本音で知ってほしい」ポイント

– 設備や原材料の変化は予測できないことも多く、早めの打診ができるよう協力してほしい
– 「最小ロット」「ラストバイ注文」など柔軟な案を受け入れてもらえると助かる
– 代替品の相談や引き継ぎ先の紹介など、解決案を一緒に検討したい意向がある
– 供給終了を悪意なくギリギリまで営業が伝えない場合もあるため、必ず定例進捗会などの「見える化」が必要

傾向として、バイヤーが「もっと事前に現場状況を教えてほしい」と率直に頻繁にヒアリングしてくれることで、話しやすくなるサプライヤーも多いです。

中小企業の強みと課題:昭和型体質からの脱却

地場密着型の中小サプライヤーの課題

– 品目内容や主要取引先が特定の人に依存
– 源流まで遡れる「品番管理」や「データベース」が未整備
– 廃業や世代交代、病気休業で情報伝達が行き渡らない
– 取引口座が切れて業績ダメージが拡大しやすい

「人頼み」から「仕組み」と「データ」による管理へ

まず重要なのは、「この人がいないと分からない」という個人技に頼る現場を脱却し、
– 部品台帳や取引先管理データベースの徹底
– EOL(製造終了通知)やLong Term Supply(長期供給)契約の導入
– 「定期会議」の仕組みでアナログ会話をチェックリスト化
することです。

さらに、工場と本社、営業間の情報連携をクラウド基盤や共有サーバーに移行することもポイントです。

バイヤーやサプライヤーで今すぐできる、小さな一歩から

現場力アップのための「定例質問」と「緊急ルート」を設ける

– 取引先との月次・半期レビュー会議で「製造終了予定品や懸念」を必ず質問
– 通常の購買ルートとは別に、「緊急時の直通連絡先」を事前に交換
– DWG管理、P/L帳票、供給EOLリストの「最新化」をベースにした仕組み作り
– 短期の代替開発や先行投資判断の意思決定フローの明確化

まとめ:「終売」「供給終了」通知も現場力の進化に繋げよう

急な製造停止や供給終了は、製造業におけるリスクの1つです。
しかし、これを単なるトラブルや不幸と片付けるのではなく、「現場の仕組みの再点検」と「サプライヤー・バイヤー双方の本音のコミュニケーション」のきっかけにすることで、結果的に全体の体質改善につながります。

昭和的な阿吽の呼吸だけに頼らず、仕組みと習慣を合わせて現場を守る。

これこそが、次代の製造業に必要な柔軟な現場力の進化であるといえるのです。

現場の皆様一人一人が、今日から小さなコミュニケーションの一歩とともに、リスクマネジメントの主役となることを願っています。

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