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海外調達案件で通関不備を責任転嫁されるサプライヤー問題

目次
はじめに:製造業の現場で起きる「責任転嫁」問題
製造業の現場で長年にわたり勤務していると、時に理不尽とも思える「責任転嫁」に遭遇することがあります。
特に、グローバルサプライチェーンが当たり前となった現在、海外調達案件では、日本国内とは異なる数多くのハードルが待ち受けています。
中でも、サプライヤーが通関不備を理由にしてバイヤーから一方的な責任追及を受けるケースは、目立たないながらも確実に増えている現実的な問題です。
これは単なる現場オペレーションのミスにとどまらず、組織の体質や、昭和的な「元請け至上主義」がいまだ根強く残っていることにも起因していると言えるでしょう。
本記事では、20年以上の実務経験を踏まえ、現場目線でこの問題を掘り下げると同時に、これからバイヤーを目指す方やサプライヤーの皆さまにも知っていただきたい実践的な視点を提供していきます。
そもそも「通関不備」とは何か?
通関の基本と海外調達の特徴
通関とは、物品を国境を越えて輸出入する際、関税法・関連法規に基づいた所定の手続きを行政機関(税関)で行うことです。
製造業の海外調達では、資材、部品、完成品など様々な形でグローバル物流が発生します。
調達元は欧米だけでなく東南アジアや中国、インドなど多岐にわたり、それぞれ通関手続きや規制の解釈も異なります。
たとえばインボイス、パッキングリスト、輸出許可証明書類、各種認証といった複雑な書類管理が不可欠です。
発生しやすい「通関不備」の典型例
「通関不備」と一言でいっても、その原因や内容は様々です。
– インボイスや税関書類に記載ミスや抜けがある
– 輸入規制品・認証品の取得漏れ
– 原産地証明の誤記載、虚偽記載
– HSコード(関税分類)の誤判定
– 輸送パレット材の規格違反(ISPM規格等)
これらは往々にして、サプライヤー由来だけでなく、バイヤー(調達者側)の知識や指示不足で発生する場合も少なくありません。
なぜサプライヤーに責任転嫁されるのか
昭和的業界体質から抜け出せない構造
日本のものづくり業界には「下請け責任論」が今なお根付いています。
発注側(バイヤー)が優位な立場であり、発生したトラブルはまずサプライヤーが責任を取る、という暗黙の構造が続いているのです。
実際、現場で起きた通関トラブルでも、「サプライヤーが要件どおり書類を用意しなかった」「ルールを守らなかった」と形式上サプライヤー責任にされてしまうことが多々あります。
しかし、実際はバイヤー側が十分な輸出入要件を説明していなかったケースや、現地通関事情をリサーチせずに安易に指示を出したケースも珍しくありません。
海外調達の現実:現場任せの「丸投げ調達」
急速にグローバル展開を進めてきた企業の中には、海外調達そのもののプロセス構築が追い付いていない会社もあります。
現地サプライヤーに「とにかく調達」「現地工場に直接入庫」を要請し、細かな通関や現地法令対応は現地に丸投げしてしまうのです。
この「丸投げ調達」は、問題が起きたとき、「サプライヤー任せだった」「こっちもわからないことばかり」の言い訳で、責任転嫁の温床となります。
現場で起こる責任転嫁の実例
実例① 東南アジアからの部品調達
ある自動車部品メーカーは、東南アジアから新規部品を調達しました。
サプライヤーは現地の習慣でパレットを自作し、材質証明はありませんでした。
しかし日本の税関ではISPMに適合しないパレットは通関不可――そのルールを認識していなかったバイヤーは、現場での持ち込みNGに狼狽。
現場調達担当が「なぜパレット材の証明がないのか!」とサプライヤーに強く責任追及した経験があります。
実際はバイヤー側も輸送仕様を明示しておらず、「ISPMに準拠すべし」と明文化されていませんでした。
実例② 電子部品における原産地証明トラブル
中国から電子部品を大量輸入した際、インボイスや原産地証明書に曖昧な記載があったことから、日本到着時に税関で止められました。
調達担当者は、「サプライヤーがちゃんと書かないからだ!」と猛抗議。
しかし、証明書発行基準は国ごとに大きく異なり、適切なフォームや内容は日本サイドで明確に伝えるべきものでした。
サプライヤー側も「指示がなかった」「中国ではこれが一般的」と困惑。
お互いの「思い込み」と「定義のすり合わせ不足」が、現場トラブルの原因だったのです。
真の原因はどこにあるのか?ラテラルシンキングから見た課題
一般的な原因追及では、「サプライヤーの書類不備」がクローズアップされやすいですが、ラテラルシンキング的に掘り下げれば、課題の根本は以下に集約されます。
– 「バイヤー側のグローバル調達ナレッジ不足」
– 「通関や国際法規への無理解」
– 「標準化されていない現場ルールと、安易な“前例踏襲”」
– 「成果主義の名の下の“責任の押し付け合い”」
– 「現場と管理部門(法務・調達・ロジスティクス)の連携不足」
これらは構造的なものであり、サプライヤーだけが努力しても解決できるものではありません。
どうすれば「正しい責任分担」ができるのか?改善アクション
1. 調達仕様書・契約書の標準化と明文化
通関や輸送関連の必要書類、仕様、証明の要件を仕様書や契約書で明文化することが不可欠です。
「なんとなく分かっているだろう」ではなく、「誰が見ても必要要件が分かるレベル」に標準化することが重要です。
また、バイヤーとサプライヤーが合同で事前の勉強会や手順確認を行うことで、齟齬を減らすことができます。
2. 現場間の「ナレッジ共有」とフィードバックの習慣化
実際に発生した通関トラブルや失敗事例を、現場(調達部、ロジ部、品質部など)がオープンに議論することで、責任分担のあいまいさや業界トラップを「組織知」として蓄積できます。
また、サプライヤー側も「どこまでが自分の責任範囲か」明確に認識できるため、不安や不信の解消につながります。
3. サプライヤーとのパートナーシップ実現
調達先に「全部お任せ」ではなく、重要フェーズではバイヤーも現場に足を運び、実際の輸送・書類作成の現場を一緒に確認しましょう。
「現場を知る」姿勢が、パートナー意識の醸成につながります。
また、問題発生時は「なぜそのミスが起きたか?」をサプライヤー目線でもきちんと分析し、「再発防止策を一緒に策定する」ことが信頼構築の鍵です。
4. 主体性と柔軟性を両立した人材育成
調達・購買担当者は、国内流通一辺倒の発想から脱却し、「グローバル水準の知見」と「ローカル現場の柔軟な対応力」の両方を身に付けることが求められます。
「前例通りではうまくいかない」「相手国の常識を学ぶ」姿勢が重要です。
まとめ:製造業の未来に向けて、バイヤー・サプライヤー双方で進化を
海外調達案件での通関不備をめぐる責任転嫁問題は、表面的な「誰のせいか」論争に終始していては一向に解消しません。
本来、グローバル時代のものづくりはバイヤー/サプライヤーのどちらかではなく、「両者でパートナーシップを築くこと」が最大の競争力となります。
昭和的な“責任の押し付け合い”から一歩踏み出し、トラブルを「組織成長の資源」として活用する姿勢が求められます。
海外調達や通関トラブルも、適切なナレッジ共有や現場主義の浸透によって、必ず乗り越えることができます。
これからメーカーの調達を担う人、既に現場最前線で奮闘されている方、それぞれが「課題は他人ごとではない、現場の知恵で変えていこう」という意識で、製造業の未来をともにつくっていきましょう。
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