支給材不良が原因でもサプライヤーに責任転嫁される課題

はじめに：支給材不良とサプライヤー責任の現場課題

製造業の現場では、「支給材不良」が原因でトラブルが発生した際に、なぜかサプライヤー側に責任転嫁されるという課題が根強く存在します。

新たな業務改革やデジタル化の波が押し寄せるなか、依然として昭和から続くアナログ的な商習慣や心理的な壁が、現場改善を阻んでいます。

この記事では、20年以上にわたる調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化など、さまざまな現場経験から得た知見を活かし、支給材不良に関するリアルな課題と、それを乗り越えるためのラテラルシンキング的なアプローチを共有します。

バイヤーはもちろん、これからバイヤーを目指す方や、サプライヤー側でバイヤーの本音や業界動向を知りたい方にも実践的なヒントをお届けします。

支給材不良が起きる現場と責任分解点の曖昧さ

「支給材料」の特殊性と業界構造

支給材とは、バイヤー（発注側）が自ら手配し、サプライヤー（供給者）に無償または支給価格で渡す部材や原材料のことです。

自動車業界や電機業界をはじめ、多品種少量生産や特殊な加工を伴う業界で多く見られる仕組みです。

支給材は「所有権がバイヤーにある」「サプライヤーは加工のみ」の思想が浸透しているのですが、実際の現場では責任の分界点が非常に曖昧です。

典型的な責任転嫁のパターン

支給材自体に不良があった場合、サプライヤー側は「もともと不良材を支給された」と主張します。

一方、バイヤー側は「サプライヤー工程で不良が発生したのでは？」と反論するケースも多く見受けられます。

このような「押し付け合い」は、納期遅延や品質トラブル、コストの膨張といった二次的な問題を誘発します。

昭和の時代から培われてきた忖度や上下関係、責任逃れの文化が根底にあるため、冷静な現場検証やデータ分析による原因究明が後回しになりがちです。

なぜ責任転嫁が横行するのか：現場心理と業界慣習

バイヤーとサプライヤーのパワーバランス

製造業の調達現場では、バイヤーが圧倒的に優位なパワーを持つ場合が多いです。

受注単価や数量に大きな影響を受けるサプライヤーは、バイヤーとの関係悪化を恐れ、時に自分のせいでない不良も「うちの責任として対応」することがあります。

これが「忖度」の正体であり、場当たり的な品質対策や余分なコストを生む温床にもなっています。

帳尻あわせ的現場処理と「なあなあ文化」

実際の現場では、不良発生時に品質管理部門や担当者レベルで「今回は〇分だけサービスで直します」「次回のロットで調整します」といった、場当たり的な対応が多発します。

この背景には、日本独特のなあなあ文化や、現場同士の顔を立て合う風土が色濃く反映されています。

データに基づく事実確認や、適切な記録を取る習慣が根付いていないことも、責任転嫁の常態化に拍車をかけています。

支給材管理の現実：デジタル化の遅れと人間依存

アナログ業務からの脱却の難しさ

支給材の管理プロセスは、「受け入れ検査」「棚入れ」「加工受け渡し」「残材・廃棄処理」など多岐にわたります。

しかし多くの現場では、伝票処理や手書き台帳、担当者の目視確認といったアナログなやり方がいまだ根強いです。

部分的にデジタル管理を導入しているものの、肝心な現場オペレーションとの連携が不十分な場合が多く、システムの有効活用には至っていません。

トレーサビリティの乏しさと「言った・言わない」問題

支給材のトレーサビリティ（履歴追跡）は、製品全体の品質保証や法的な保証責任にも直結する重要要素です。

しかし「いつ・誰が・どの段階で」不良が顕在化したかの情報を、確実かつリアルタイムで記録できている工場は多くありません。

その結果、いざトラブルが発生した際に「言った・言わない」「ウチでこんな不良は見てない」など、証拠不十分で議論が空中戦になってしまうケースが後を絶ちません。

ラテラルシンキングで切り拓く現場変革のアプローチ

「共通のゴール」に立ち返る思考転換

現場で不良やトラブルが顕在化したとき、多くの当事者は「自部門の保身」が最優先となりがちです。

しかし、ラテラルシンキング（水平思考）を用いることで、「良品を安定して顧客へ納入する」という共通目標に立ち返ることができます。

その上で、「どうしたら未来の不良を減らせるか」「どうしたら協力して工程改善できるか」といった建設的な議論へのシフトチェンジが求められます。

サプライチェーン全体での品質保証体制づくり

支給材不良問題を根本から解決するには、「モノの流れ」だけでなく「情報の流れ」をいかにシームレスにするかがカギです。

次のような抜本的アプローチが有効です。

• 材料メーカーのロット番号や検査記録をサプライヤー・バイヤー間で共有する
• 出荷時・受入時の写真・動画記録や電子署名システムを導入し、段階ごとに「責任の証跡」を明確化
• IoTやバーコードによるリアルタイム履歴管理で、不良追跡の「見える化」を実現
• 月次での振り返り会議を設け、単なる「責任追及」ではなく、工場横断での再発防止策を討議する文化の醸成

これにより、「モノが渡された瞬間から、現場との信頼関係・協働姿勢をいかに築くか」が進化していきます。

サプライヤー側から見た「責任転嫁」の本音と苦しみ

立場の弱さと「泣き寝入り」リスク

サプライヤーの立場からすれば、バイヤーからの支給材に「本来は自社に責任のない不良」が混じっていても、立場上なかなか強く言い返せない現実があります。

特に、取引比率が高い大口顧客の場合、強硬姿勢をとれば次回発注を減らされるリスクもあり、泣く泣く自社コストで改修や不良処分を受け入れるケースが散見されます。

結果として、サプライヤー内部で「どうせ何をやっても言いくるめられる」「本当の意味で信頼されていない」といった無力感や諦めが蔓延し、現場改善のインセンティブも失われていきます。

「共感」と「客観データ」の重要性

サプライヤー側にとっても、問題を感情的にエスカレートさせるのではなく、客観的・定量的なデータによる再現性ある説明力が今後ますます重要です。

バイヤーと対等なパートナーシップを築くためには、「いつ・どこで・どうやって」品質管理を行っているか、その現場プロセスを分かりやすく図解・可視化し、誠意あるコミュニケーションを心がけましょう。

今後の業界動向：昭和的慣習からの脱却と新しい信頼構築

デジタル時代の品質管理と責任明確化の進展

2024年以降、DX（デジタルトランスフォーメーション）の潮流は製造現場にも着実に波及し始めています。

とくにサプライチェーン上のトレーサビリティ強化や、不良発生時のデジタル証跡記録といった取り組みが本格化しています。

これまでの「馴れ合い」や「曖昧な責任分担」ではなく、データに基づく透明・公正な現場運営が今後の業界スタンダードとなっていくでしょう。

バイヤー・サプライヤーの「共進化」が現場を強くする

支給材不良問題をきっかけに、お互いの立場や目線を理解し合い、現場同士で「共進化」していくことが、結果的に競争力を高めます。

これまでの上意下達型の発注・受注関係から、協業による工程改革やDX人材育成など、「価値共創を軸にしたパートナー関係」への転換こそが、昭和から令和への進化を象徴します。

まとめ：支給材不良問題に悩むすべての現場へ

支給材不良をめぐる責任転嫁の課題は、単なる「誰のせいか」論争に収まるものではありません。

現場の実態を直視し、多様な立場の声を拾い上げることで、初めて本当の意味での品質向上、コスト低減、納期短縮へとつながります。

これからバイヤーを目指す方、現場を預かる工場長、そしてサプライヤーで悩みを抱えている現場責任者のみなさま、それぞれの視点から課題を「自分ごと」として捉え、変化・挑戦のきっかけとなれば幸いです。

令和の新しいものづくり現場を、ともに築いていきましょう。