投稿日:2025年8月31日

不良発生原因を顧客側に転嫁する仕入先の対応問題

はじめに:日本製造業の「責任転嫁」課題を問う

日本の製造業は、世界に名だたる高品質と信頼性を誇りながらも、現場では今なお昭和的な体質が根強く残っています。

その一つが「不良発生時の責任転嫁」です。

特に、仕入先(サプライヤー)が不良品や不具合の発生原因を顧客側(バイヤー、工場など)に転嫁するという問題は、バイヤー・サプライヤー双方の信頼性維持、ひいてはサプライチェーン全体の健全性を揺るがす大きな課題です。

本記事では、20年以上の製造業現場経験をもとに、責任転嫁の実態、その背景にある構造、そして抜け出すための実践的な打開策を、現場目線と最新の業界動向の両方から深堀りします。

サプライヤー企業でバイヤーの本音を知りたい方、製造現場や購買・調達で悩みを感じている方、そしてバイヤー志望の方々にとって気付きとヒントとなる内容をお届けします。

なぜサプライヤーは不良発生を顧客のせいにするのか?

「お宅の図面・仕様の問題では?」という典型的な転嫁パターン

不良や不具合の発生時、サプライヤーからこんな言葉をかけられた経験はありませんか。

「御社の仕様が分かりにくい」
「図面が不完全じゃないですか?」
「周囲温度が高すぎる使い方は想定外です」
こうしたコメントにうんざりしたことのある現場担当者やバイヤーは、決して少なくないはずです。

中には、初期流動管理(PPAPや検査成績書等)が不足していたり、QMS(品質マネジメントシステム)の運用があやふやな企業ほど、責任の所在が曖昧になりやすい傾向があります。

「不良品は納入先の使い方次第」という思考停止

もう一つ見過ごせないのが、「我々の出荷検査では問題なかった」「貴社での工程に何か問題があるのでは」といった責任回避の姿勢です。

これでは根本的な原因追求が行われず、再発リスクを放置することにつながります。

安易な転嫁が招くものは、単なる“その場しのぎ”でしかありません。

私は工場長時代、本質的な是正処置が取られず、同じ不良クレームがループし続ける負のスパイラルに何度も直面しました。

なぜ責任転嫁が日本の製造業に蔓延するのか

昭和型“上下関係”の名残

日本のものづくり現場では、長きにわたって「上意下達」「親分・子分」的な取引文化が根付いてきました。

大手メーカー発注側の“絶対優位”に対する反発心や、下請としての自己防衛本能から、サプライヤーは「自分たちの責任を最小化する」意識が本能的に働きがちです。

これは、上下関係ベースのコミュニケーション構造に根本要因があります。

“言われた通りつくる”という受動的姿勢

バイヤー・発注元からの指示に100%従う ― これ自体は重要ですが、「自らも品質・設計に主体的に踏み込む」という意識が希薄なままだと、“責任範囲はここまで”と定義しがちです。

設計不備や工程リスクについても「自分たちは関与せず、言われた通りやっている」スタンスが見られます。

こうした「受動的モノづくり」は、日本の“成功体験”の副作用とも言えるでしょう。

現場と経営層の“温度差”

もう一つ、現場レベルでは正直に「不良は認めたくない」「クレームは減点評価だ」と考える心理も働き、問題の“報告遅延”や“矮小化”が発生します。

経営層が「真のパートナーシップ」に本気で舵を切らず、旧来的な管理体制に安堵しているのも、責任転嫁体質を温存させる大きな要因です。

“責任のなすり合い”がもたらす悪影響

サプライチェーン全体の信頼低下

真因追及よりも“都合の良い理由探し”が横行すれば、いつまで経っても問題は再発します。

「この会社は何度言っても直らない」
「指摘が通じにくい」
こうしたイメージは取引停止や発注減、競争力の低下につながっていきます。

サプライヤー業界にとって最大のリスクは、顧客の信頼喪失と市場からの“静かな脱落”です。

現場・バイヤーのモチベーション低下

「自分たちが無理なく動作検証できる・使いやすい製品」を望むのがバイヤーとして当然です。

それにもかかわらず不良発生時に“上から目線”“無責任な転嫁”を受け続ければ、現場の士気は下がり、優れた技術や情報の共有も遠ざかります。

こうした「負の感情の蓄積」は想像以上の影響力を持ちます。

どうすれば抜け出せるか―実践的処方箋

1. 納入仕様書・検査基準・図面の合意形成を徹底する

すべてのスタートは、見積・契約・発注段階で「納入仕様書」「検査成績書」など具体的な品質保証の“合意点”を明文化することです。

些細な事項でも、境界を曖昧にすれば論争の火種になります。

仕様変更や設計改定があった際には、必ず議事録を交わし、お互いに証跡を残しましょう。

2. 5Why(なぜなぜ分析)の共同実施

「なぜなぜ分析(5 Whys)」を、決して形式だけで終わらせてはなりません。

重要なのは一方的な報告書受領ではなく、発注側と仕入先が同じテーブルで議論し、「本質的な原因」を深掘りして共有認識を得る仕組みを作ることです。

この対話が、“戦犯探し”から“共創型問題解決”に転換する鍵となります。

3. 製造現場の“現物・現場・現実”主義を徹底

机上のやり取りやメール文面だけで納得・納得させようとせず、現場に足を運び、現物を確認し、現実を検証する「3ゲン主義」が日本製造の原点です。

私の経験上、現場をともに歩くだけで“転嫁”よりも“協働”の空気がグッと強まります。

現場同士(技術者・検査員)の「なぜ?」を引き出し、モノを手にとって見つめ合うことで、見落としていた真因や改善のタネが浮かび上がります。

4. オープンなコミュニケーションの場づくり

サプライヤー会議、品質報告会、クレームのフィードバックセッションなど、定期的なコミュニケーションの場を形骸化させない工夫が大切です。

ヒエラルキーや立場を超えて、本音で話せる「じっくり語る場」をデザインしましょう。

特に「どうすれば次回以降、同じ転嫁が起きないか」に対するコミットメント(再発防止策の言語化・数値化)が重要です。

5. KPI・インセンティブで意識改革を促す

“責任転嫁ゼロ”は理想論に過ぎません。

しかし、「自己申告の是正報告」「バイヤー側視点での評価ポイント」などをKPIとして明示し、仕入先・社内現場の両サイドから評価・改善サイクルを回していくことで、行動変容につながります。

さらに、品質改善率や連絡スピードなどを客観的なインセンティブと連動させれば、「転嫁がデメリットになる」構造を現場レベルでつくることができます。

バイヤー・サプライヤーの双方で“進化”が求められる

「責任を押し付けあう戦い」に勝者はいません。

サプライヤーも、一次受けから多重下請けへと裾野が広がるなかで、“やらされ感”や“指示待ち”から脱皮し、「どうすれば顧客が本当に満足するか」本質追求型の仕事へシフトチェンジする必要があります。

バイヤーは、規格・仕様・検査基準の明確化にもっと主体的に関わり、「自社のしくじり」も率直に認め、仕入先と腹を割って語る姿勢が問われています。

現場でも管理職でも、もう「アナログな責任のなすり合い」は時代遅れなのです。

まとめ:次世代のものづくりへ―対話と再発防止の文化シフトを

昭和の成功体験を引きずったままでは、グローバル競争の時代を生き抜くことはできません。

不良発生時の責任転嫁は、製造業そのものの進化を阻む“宿痾(しゅくあ)”です。

サプライヤー・バイヤー双方が「透明性」「現場主義」「オープン対話」を武器に、もう一段高い協働の地平線へとシフトすべき時です。

この記事が、ものづくりに携わるすべての方にとって“新たな気付き”と“現場改善への第一歩”となることを願っています。

あなたの工場、現場、部署ではどんな責任転嫁が起きていますか?

気付いたその瞬間が、変化のスタートラインです。

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